高プロラクチン血症とは?不妊・生理不順の原因と治療法

生理が不順になったり、無月経の状態が続いたり。原因がはっきりしないまま、もしかして妊娠?と期待したり、ホルモンバランスの乱れかなと漠然とした不安を感じている方もいらっしゃるかもしれません。特に、妊娠を希望している方にとっては、生理周期の乱れは大きな悩みとなります。こうした症状の背景に、「高プロラクチン血症」という病気が隠れていることがあります。この病気は、女性だけでなく男性にも影響を及ぼす可能性があり、早期に適切な診断と治療を受けることが大切です。
この記事では、高プロラクチン血症について、その症状、原因、診断、治療法、そして気になる妊娠への影響まで、詳しく解説します。ご自身の症状と照らし合わせながら、理解を深めていきましょう。

高プロラクチン血症とは?

高プロラクチン血症とは、脳の下垂体から分泌されるホルモンである「プロラクチン」が、正常値よりも高い状態が続く病気です。プロラクチンは本来、妊娠中や授乳期に母乳を作るために重要な働きを担いますが、妊娠・授乳期ではない時期にプロラクチン値が高くなると、様々な体調不良や生殖機能の障害を引き起こすことがあります。

プロラクチンとは

プロラクチンは、脳の視床下部からの刺激を受けて、下垂体という小さな内分泌器官から分泌されるホルモンです。主な働きは以下の通りです。

  • 乳汁の生成: 妊娠中や出産後に乳腺を発達させ、母乳を作る働きを促します。
  • 排卵の抑制: 授乳期にはプロラクチンが高くなることで、排卵を抑制し、次の妊娠がすぐに起こらないようにする働きがあります(自然な避妊効果)。
  • 性機能への影響: 性欲や性機能にも影響を与えると考えられています。

通常、妊娠や授乳をしていない時期には、プロラクチンの値は低いレベルに保たれています。しかし、何らかの原因でこのプロラクチン値が持続的に高くなってしまうのが、高プロラクチン血症です。

正常値と高値の基準

プロラクチン値の正常値は、医療機関や検査方法、測定するタイミングによって多少異なりますが、一般的に非妊娠・非授乳期の女性では、15 ng/mL以下(または 20 ng/mL以下) が正常範囲とされています。男性の場合は、女性よりも少し低い基準値が設定されています。

プロラクチン値がこの正常範囲を超えて持続的に高い状態にあると、「高プロラクチン血症」と診断されます。特に、20 ng/mLを超える場合や、さらに高い値(例えば50 ng/mL以上)が検出される場合には、原因精査が必要となります。非常に高値の場合(100 ng/mL以上など)は、下垂体の病気が原因である可能性が高まります。

ただし、プロラクチン値は日内変動があり、睡眠中やストレスによっても一時的に上昇することが知られています。そのため、診断を確定するためには、安静にした状態で早朝に採血を行うなど、適切な条件下での再検査が必要になる場合があります。

高プロラクチン血症の主な症状

高プロラクチン血症は、特に女性において、月経周期の異常や不妊に深く関わる病気です。しかし、症状の現れ方には個人差があり、全く自覚症状がない場合もあります。

月経異常(生理不順、無月経)

高プロラクチン血症の最も一般的な症状の一つが、月経周期の乱れです。プロラクチンが高い状態が続くと、卵胞刺激ホルモン(FSH)や黄体形成ホルモン(LH)といった排卵に関わるホルモンの分泌が抑制されます。これにより、卵巣からのエストロゲンやプロゲステロンといった女性ホルモンの分泌も低下し、以下のような月経異常を引き起こします。

  • 生理不順: 月経周期が不規則になる、遅れる、または短くなる。
  • 稀発月経: 月経周期が39日以上と長くなる。
  • 無月経: 3ヶ月以上月経が来ない状態(続発性無月経)。特に6ヶ月以上月経がない場合は注意が必要です。

これらの月経異常は、排卵がうまくいかない、あるいは全く起こらない「排卵障害」が原因で生じます。月経周期が安定しない、または月経が来なくなると、妊娠の可能性も低下します。

乳汁漏出

妊娠も授乳もしていないのに、乳頭から母乳のような分泌物が出ることがあります。これも高プロラクチン血症に特徴的な症状の一つです。乳頭を圧迫すると出る場合もあれば、自然に下着に染みるほど出る場合もあります。色は白っぽいミルク状のことが多いですが、黄色っぽい分泌物が出ることもあります。片方の乳房からだけ出ることもありますが、両方から出ることも少なくありません。

この症状は、プロラクチンの本来の働きである乳汁生成作用が、妊娠・授乳期以外に現れてしまうために起こります。必ずしも高プロラクチン血症の全ての患者さんにみられる症状ではありませんが、生理不順と併せてみられる場合は、高プロラクチン血症を強く疑うきっかけとなります。

不妊との関係

高プロラクチン血症による月経異常は、多くの場合、排卵障害を伴います。プロラクチンが高いと、卵巣からの女性ホルモンの分泌が抑制され、卵子が成熟して排卵されるプロセスが妨げられます。排卵が起こらなければ当然妊娠は成立しません。

そのため、生理不順や無月経、乳汁漏出といった症状がある女性が不妊で悩んでいる場合、高プロラクチン血症が原因である可能性は非常に高いと言えます。不妊の原因としては、高プロラクチン血症は比較的よくみられる疾患の一つです。適切な治療によってプロラクチン値を正常化できれば、排卵が回復し、妊娠が可能になるケースも多くあります。

男性の場合の症状(性欲低下、勃起不全など)

高プロラクチン血症は女性に多い病気ですが、男性にも起こり得ます。男性の場合、女性のような月経周期がないため、症状が現れにくいこともありますが、以下のような症状が見られることがあります。

  • 性欲低下: 性的な関心が薄れる。
  • 勃起不全: 十分な勃起が得られない、維持できない。
  • 精子減少: 精液中の精子の数が減少したり、運動率が低下したりする。
  • 女性化乳房: 男性なのに乳腺が発達し、乳房が膨らむ。
  • 頭痛: 特にプロラクチノーマ(下垂体の腫瘍)が大きい場合に、周囲の組織を圧迫して起こることがあります。
  • 視野障害: 同様にプロラクチノーマが大きい場合、視神経を圧迫して視野が狭くなることがあります。

これらの症状は、プロラクチンが高いことによって、男性ホルモンであるテストステロンの分泌が抑制されることなどが原因で起こると考えられています。男性不妊の原因の一つとしても、高プロラクチン血症は考慮されるべき疾患です。

高プロラクチン血症の原因

プロラクチン値が高くなる原因は一つではなく、様々な要因が考えられます。大きく分けて、生理的なもの、薬剤によるもの、病的なものに分類されます。原因を特定することは、適切な治療方針を立てる上で非常に重要です。

生理的な原因(妊娠・授乳期、睡眠、ストレスなど)

病気ではない、体の自然な反応としてプロラクチン値が一時的あるいは持続的に高くなることがあります。

  • 妊娠・授乳期: プロラクチンの本来の役割であり、最も一般的な生理的高プロラクチン状態です。
  • 睡眠: 深夜帯など、睡眠中はプロラクチンの分泌が亢進します。特に早朝の目覚め前に高くなる傾向があります。
  • ストレス: 精神的なストレスや身体的なストレス(手術、外傷など)は、プロラクチンの分泌を刺激することが知られています。緊張や不安を感じている状態での採血でも高値を示すことがあります。
  • 乳頭刺激: 乳頭への直接的な刺激(衣服との摩擦、自己触診、性行為など)によってプロラクチンが上昇することがあります。
  • 食事: 高タンパク質食や高脂肪食を摂取した後、一時的にプロラクチンが上昇することが報告されていますが、影響は小さいとされています。
  • 運動: 激しい運動の後にも一時的にプロラクチンが上昇することがあります。

これらの生理的な原因によるプロラクチン上昇は、一過性であったり、原因が取り除かれれば正常値に戻ることがほとんどです。しかし、慢性的なストレスや不規則な生活などが続くと、持続的な高値に繋がる可能性もあります。

薬剤性の原因

特定の薬剤を服用していることによって、プロラクチン値が上昇することがあります。これは、多くの薬剤がプロラクチンの分泌を抑制するドーパミンという物質の働きを妨げたり、逆にプロラクチン分泌を促進する物質の働きを強めたりするためです。薬剤性の高プロラクチン血症は、高プロラクチン血症の原因として比較的多く見られます。

プロラクチンを上昇させる可能性のある主な薬剤の例を以下に示します。

薬剤の種類 具体例 メカニズム(概要)
抗精神病薬 ハロペリドール、リスペリドン、オランザピンなど ドーパミンD2受容体遮断作用によるプロラクチン分泌促進
抗うつ薬 三環系抗うつ薬、SSRI、SNRIの一部など ドーパミン再取り込み阻害などによる間接的な影響
消化器系薬剤 ドンペリドン、メトクロプラミドなど ドーパミンD2受容体遮断作用によるプロラクチン分泌促進
降圧薬の一部 ベラパミルなど(カルシウム拮抗薬の一部) 機序不明瞭な場合も
オピオイド系鎮痛薬 モルヒネ、オキシコドンなど ドーパミン分泌抑制など
女性ホルモン製剤(高用量) 一部の経口避妊薬、エストロゲン製剤など エストロゲンのプロラクチン分泌促進作用

これらの薬剤を服用中に高プロラクチン血症の症状が現れた場合は、自己判断で中止せず、必ず処方した医師や専門医に相談してください。薬剤の変更や減量によってプロラクチン値が正常化し、症状が改善することが期待できます。

下垂体腺腫(プロラクチノーマ)

下垂体にできる良性の腫瘍で、プロラクチンを過剰に産生・分泌するものをプロラクチノーマと呼びます。**難病情報センターの解説によると、「プロラクチノーマは、乳汁分泌作用のあるホルモンであるプロラクチンが過剰に産生される下垂体腫瘍です。高プロラクチン血症により月経異常や不妊症となり…」とされています([出典](https://www.nanbyou.or.jp/entry/4045))。** 高プロラクチン血症の原因として、生理的なものや薬剤性を除くと、最も頻繁にみられる原因です。

プロラクチノーマは、その大きさによって「マイクロアデノーマ」(直径10mm未満)と「マクロアデノーマ」(直径10mm以上)に分類されます。

  • マイクロアデノーマ: 小さな腫瘍で、プロラクチン値の上昇も比較的軽度から中等度の場合が多いですが、それでも生理不順や不妊などの症状を引き起こすことがあります。多くは女性に見られます。
  • マクロアデノーマ: 大きな腫瘍で、プロラクチン値も非常に高値(100 ng/mL以上、時に数千 ng/mL)になることが多いです。腫瘍が大きいため、下垂体の周囲にある視神経やその他の組織を圧迫し、頭痛や視野障害(特に両耳側半盲)といった症状を引き起こすこともあります。男性に多く見られる傾向があります。

プロラクチノーマは良性腫瘍であり、癌のように全身に転移することはありません。しかし、放置すると腫瘍が大きくなり、周囲の神経や血管を圧迫して重篤な症状を引き起こす可能性があります。早期に発見し、適切な治療を行うことが重要です。

その他の原因(甲状腺機能低下症など)

プロラクチンの分泌は、甲状腺ホルモンやその他の内分泌ホルモンの状態にも影響を受けます。

  • 甲状腺機能低下症: 甲状腺ホルモンの分泌が低下すると、脳の視床下部から甲状リンパ刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)というホルモンが多く分泌されます。TRHは甲状腺刺激ホルモン(TSH)だけでなく、プロラクチンの分泌も促進する作用があるため、甲状腺機能低下症でもプロラクチン値が上昇することがあります。甲状腺機能低下症に伴う高プロラクチン血症は、甲状腺ホルモン補充療法によって甲状腺機能が正常化すれば、プロラクチン値も改善します。
  • 多嚢胞性卵巣症候群(PCOS): PCOSの女性の一部でプロラクチン値がやや高くなることがありますが、重度の高プロラクチン血症を引き起こすことは稀です。
  • 慢性腎不全: 腎臓の機能が低下すると、プロラクチンを体外に排泄する能力が低下するため、血中濃度が高くなることがあります。
  • 胸壁刺激: 帯状疱疹、手術、やけどなどによる胸部の刺激や神経の圧迫によって、プロラクチンが反射的に上昇することがあります。

このように、高プロラクチン血症の原因は多岐にわたるため、正確な診断のためには、問診、血液検査、画像検査などを組み合わせて総合的に判断する必要があります。

高プロラクチン血症の診断方法

高プロラクチン血症が疑われる場合、診断は主に血液検査によって行われます。必要に応じて画像検査が追加されます。

血液検査

プロラクチン値の測定は、高プロラクチン血症診断の基本です。採血によって血中のプロラクチン濃度を測定します。ただし、前述のようにプロラクチン値は様々な要因で変動するため、正確な診断のためにはいくつかの注意点があります。

  • 測定のタイミング: ストレスや睡眠、乳頭刺激などがプロラクチン値に影響を与えるため、通常は早朝に、安静にした状態で採血することが推奨されます。採血前に激しい運動や乳頭刺激は避けるべきです。
  • 複数回の測定: 一時的な上昇を除外するため、時間や日を変えて複数回プロラクチン値を測定することがあります。
  • 他のホルモンの測定: 高プロラクチン血症の原因を特定するために、甲状腺刺激ホルモン(TSH)や性腺刺激ホルモン(FSH, LH)、女性ホルモン(エストラジオール)、男性ホルモン(テストステロン)などの他のホルモン値も同時に測定することがよくあります。これにより、甲状腺機能低下症やその他のホルモン異常の有無を確認します。

血液検査の結果、プロラクチン値が持続的に高値であると確認された場合、高プロラクチン血症と診断されます。その値の程度や他の症状、ホルモン値などを考慮して、原因の特定に進みます。

画像検査(MRIなど)

血液検査でプロラクチン値が特に高値である場合(例えば50 ng/mL以上や100 ng/mL以上)、あるいは他のホルモン異常が認められる場合、下垂体にプロラクチノーマなどの病変がないかを確認するために画像検査が行われます。最も一般的に行われるのは、下垂体のMRI検査です。

MRI検査では、下垂体の大きさや形、腫瘍の有無、腫瘍がある場合の大きさや周囲の組織との関係を詳細に調べることができます。プロラクチノーマの診断だけでなく、腫瘍がある場合の治療方針決定にも不可欠な検査です。

その他、必要に応じて視野検査(マクロアデノーマが疑われる場合)や、薬剤服用歴、既往歴、家族歴などの詳細な問診も診断の重要な要素となります。これらの情報を総合して、高プロラクチン血症の原因を特定し、最適な治療法を選択します。

高プロラクチン血症の治療法

高プロラクチン血症の治療は、その原因や症状、患者さんの妊娠希望の有無などによって異なります。主な治療法は薬物療法ですが、原因によっては他の治療が必要となる場合もあります。

薬物療法(カベルゴリン、テルリドなど)

プロラクチン値が高い原因が生理的なものや一時的なストレスによるものであれば、特別な治療をせず経過観察となることもあります。しかし、薬剤性でない場合や、プロラクチノーマによるもの、あるいは原因不明であっても症状(生理不順、不妊、乳汁漏出など)がある場合には、薬物療法が中心となります。

高プロラクチン血症の治療に最もよく用いられる薬は、ドーパミン作動薬と呼ばれる種類の薬です。プロラクチンの分泌は、脳内のドーパミンという神経伝達物質によって抑制されています。ドーパミン作動薬は、このドーパミンと同じように下垂体に作用し、プロラクチンの分泌を強力に抑える働きがあります。

主なドーパミン作動薬には、以下のようなものがあります。

薬剤名 主な特徴 服用方法(一般的) 副作用(一般的)
カベルゴリン(カバサール®) 効果が長く続き、週1~2回の服用で済むことが多い。プロラクチンを下げる効果が強い。 週1~2回内服 吐き気、頭痛、めまい、便秘、鼻づまり、起立性低血圧
テルリド(テルロン®) 比較的歴史の長い薬。効果の持続時間はカベルゴリンより短い。 1日1~2回内服 吐き気、頭痛、めまい、便秘、精神症状など
ブロモクリプチン(パーロデル®) テルリドと同様に歴史が長い薬。副作用が出やすい傾向がある。 1日1~数回内服 吐き気、頭痛、めまい、便秘、精神症状など

(注:薬剤の服用方法や副作用の現れ方には個人差があり、必ず医師の指示に従ってください。)

現在、高プロラクチン血症の治療薬としては、カベルゴリンが第一選択薬として用いられることが多いです。効果が高く、週に1~2回の服用で済むため、患者さんの負担が少なく、継続しやすいというメリットがあります。テルリドやブロモクリプチンは、副作用が出やすいなどカベルゴリンが合わない場合に検討されることがあります。

これらの薬物療法によって、多くの場合、数週間から数ヶ月以内にプロラクチン値は正常化します。プロラクチン値が正常に戻ると、抑制されていた女性ホルモンの分泌が回復し、生理周期が安定し、排卵が起こるようになります。これにより、不妊で悩んでいた方も妊娠が可能になることが多いです。

プロラクチノーマがある場合、ドーパミン作動薬はプロラクチン値を下げるだけでなく、腫瘍を縮小させる効果も期待できます。特にマイクロアデノーマの場合、薬物療法だけで腫瘍が消失したり、著しく縮小したりすることも珍しくありません。マクロアデノーマの場合でも、まずは薬物療法で腫瘍を小さくし、症状を改善させるのが一般的です。

薬物療法は、プロラクチン値が正常に保たれ、症状が改善するまで継続するのが一般的です。妊娠を希望する場合は、プロラクチン値が正常化し、排卵が回復したら、妊娠の可能性が出てきます。妊娠が確認されたら、原則として薬物療法は中止されることが多いですが、プロラクチノーマの大きさや状態によっては継続が必要な場合もあります。この判断は、必ず担当医と相談して行う必要があります。

原因疾患の治療

高プロラクチン血症の原因が薬剤性である場合は、可能であれば原因となっている薬剤を中止したり、他の薬剤に変更したりすることでプロラクチン値が正常化することが期待できます。ただし、自己判断での中止は危険な場合もあるため、必ず処方医と相談しながら慎重に進める必要があります。

原因が甲状腺機能低下症など、他の病気である場合は、その病気の治療が優先されます。甲状腺ホルモンの補充療法などで甲状腺機能が正常化すれば、それに伴って高くなっていたプロラクチン値も自然に下がることがほとんどです。

プロラクチノーマが原因で、特にマクロアデノーマが薬物療法で十分に縮小しない場合や、視力・視野障害が進行するなど緊急性の高い場合、あるいは薬物療法が全く効かない稀なケースでは、外科的な手術によって腫瘍を摘出することが検討されることがあります。手術は、鼻から内視鏡を入れて下垂体まで到達し、腫瘍を摘出する方法(経蝶形骨洞手術)が一般的です。ただし、手術は再発のリスクや、下垂体の他のホルモン分泌に影響を与える可能性もあるため、慎重に判断されます。

このように、高プロラクチン血症の治療法は原因によって異なりますが、多くの場合、薬物療法によって良好な効果が得られます。

高プロラクチン血症を放置するリスク

高プロラクチン血症は、すぐに命に関わるような病気ではありませんが、放置すると様々なリスクを伴う可能性があります。特に、女性にとっては生殖機能への影響が大きく、注意が必要です。

生殖機能への影響(不妊、無月経の長期化)

高プロラクチン血症の主な症状である生理不順や無月経は、排卵が起こらない、あるいは不規則であることによって生じます。この状態を放置すると、長期にわたって妊娠が難しくなります。妊娠を希望している方にとって、これは深刻な問題です。

また、長期間無月経の状態が続くと、卵巣機能がさらに低下したり、子宮内膜が薄くなったりするなど、将来的にホルモンバランスを整えても月経や排卵が戻りにくくなる可能性も否定できません。若年での閉経(早発卵巣不全)のリスクを高めるという報告もあります。

男性の場合も、性欲低下、勃起不全、精子減少などが持続すると、性機能や生殖能力に長期的な影響を及ぼす可能性があります。

骨密度への影響(骨粗鬆症)

高プロラクチン血症によって女性ホルモン(エストロゲン)の分泌が低下した状態が続くと、骨からカルシウムが溶け出しやすくなり、骨密度が低下します。特に若い女性が長期間無月経の状態を放置すると、本来であれば骨密度が増加する時期にそれが妨げられ、将来的に骨粗鬆症になるリスクが高まります。骨粗鬆症になると、骨がもろくなり、軽い衝撃でも骨折しやすくなります。

高プロラクチン血症による骨密度低下は、自覚症状がないまま進行することが多いので、早期の診断と治療による女性ホルモンバランスの回復が重要です。

その他合併症のリスク

原因がプロラクチノーマ、特にマクロアデノーマの場合、腫瘍が大きくなると以下のような合併症を引き起こすリスクがあります。

  • 視神経圧迫による視力・視野障害: 下垂体のすぐ上には視神経が通っているため、大きな腫瘍は視神経を圧迫し、視野が狭くなったり(多くは両耳側)、視力が低下したりします。これは放置すると永続的な視覚障害につながる可能性があります。
  • 頭痛: 腫瘍が周囲を圧迫することで、慢性的な頭痛を引き起こすことがあります。
  • 下垂体機能低下症: 腫瘍が下垂体本体を圧迫・破壊することで、プロラクチン以外の他の下垂体ホルモン(成長ホルモン、甲状腺刺激ホルモン、副腎皮質刺激ホルモン、性腺刺激ホルモンなど)の分泌も低下し、様々な症状を引き起こすことがあります。
  • 脳脊髄液漏出: 稀ですが、大きな腫瘍の手術後などに起こるリスクがあります。

これらのリスクを避けるためにも、高プロラクチン血症と診断されたら、原因を特定し、適切な治療を継続することが非常に大切です。特にプロラクチノーマがある場合は、定期的な経過観察が必要です。

高プロラクチン血症と妊娠について

高プロラクチン血症は不妊の原因となることが多いため、妊娠を希望する方にとっては大きな関心事でしょう。しかし、適切な治療を受ければ、多くの方が妊娠を達成することができます。

治療による妊娠可能性

高プロラクチン血症による不妊の原因は、主にプロラクチン高値による排卵障害です。ドーパミン作動薬による薬物療法でプロラクチン値を正常化すると、抑制されていた性腺刺激ホルモン(FSH, LH)の分泌が回復し、卵胞の発育が促され、排卵が起こるようになります。

プロラクチン値が正常範囲に戻り、排卵が規則的に起こるようになれば、自然妊娠の可能性が出てきます。多くの研究で、高プロラクチン血症による不妊症患者がドーパミン作動薬による治療を受けることで、高い確率で排卵が回復し、妊娠に至ることが報告されています。治療開始から妊娠までの期間は個人差がありますが、数ヶ月以内に妊娠する方も少なくありません。

プロラクチノーマ(特にマイクロアデノーマ)がある場合でも、薬物療法によって腫瘍が縮小し、プロラクチン値が正常化することで妊娠が可能になります。

妊娠中の注意点

ドーパミン作動薬による治療で妊娠が確認されたら、速やかに担当医に報告することが重要です。妊娠が判明した場合、多くの場合はドーパミン作動薬の服用は中止されます。これは、薬が胎児に与える影響を最小限にするためです。ドーパミン作動薬は妊娠初期に服用しても胎児への影響は少ないと考えられていますが、念のため中止するのが一般的です。

ただし、マクロアデノーマ(大きなプロラクチノーマ)がある場合、妊娠中はプロラクチン値が自然に上昇するため、腫瘍が大きくなるリスクがあります。腫瘍が大きくなると、妊娠中に頭痛や視野障害が現れる可能性があります。そのため、マクロアデノーマがある場合は、妊娠中もドーパミン作動薬を少量継続したり、定期的に視野検査やMRI検査を行ったりすることがあります。この判断は、腫瘍の大きさや妊娠前のプロラクチン値、症状などを考慮して、担当医が慎重に行います。

マイクロアデノーマの場合は、妊娠中に腫瘍が大きくなるリスクは低いと考えられており、ほとんどの場合、妊娠中の薬物療法は中止されます。

治療せずに自然妊娠は可能か

高プロラクチン血症による不妊の場合、プロラクチン値が高いために排卵が抑制されている状態です。このような状態では、治療を受けずに自然妊娠することは非常に難しいと言えます。生理が不規則、あるいは全く来ないということは、排卵がほとんど、あるいは全く起こっていない可能性が高いためです。

ごく軽度のプロラクチン上昇で、周期的な排卵が完全に抑制されているわけではない場合は、可能性はゼロではありませんが、確率はかなり低いと考えられます。妊娠を強く希望するのであれば、専門医の診断を受け、適切な治療によってプロラクチン値を正常化させ、排卵を回復させることが妊娠への近道となります。

高プロラクチン血症でも妊娠できたケース

高プロラクチン血症と診断され、不妊で悩んでいた多くの方が、適切な治療によって無事妊娠・出産を経験しています。

例えば、30代女性のAさんは、生理不順と乳汁漏出を自覚し、病院を受診したところ高プロラクチン血症と診断されました。プロラクチン値は基準値の数倍と高く、MRI検査で小さなプロラクチノーマが見つかりました。担当医の指導のもと、カベルゴリンによる薬物療法を開始したところ、約2ヶ月でプロラクチン値が正常化し、生理周期も安定しました。その後、治療開始から半年後に自然妊娠が成立。妊娠中は薬を中止し、特に問題なく経過し、無事元気な赤ちゃんを出産されました。

このように、高プロラクチン血症による不妊は、決して諦めるべきものではありません。適切な診断と治療によって、多くの患者さんが妊娠という願いを叶えています。重要なのは、症状に気づいたら早めに専門医に相談することです。

日常生活での注意点・セルフケア

高プロラクチン血症の診断や治療は専門医に任せる必要がありますが、日常生活での過ごし方やセルフケアも、プロラクチン値を安定させる上で一定の役割を果たす可能性があります。

ストレスとの向き合い方

前述の通り、ストレスはプロラクチン値を上昇させる生理的な原因の一つです。慢性的なストレスは、高プロラクチン血症の症状を悪化させたり、治療効果を妨げたりする可能性も考えられます。

ストレスを完全にゼロにすることは難しいですが、ストレスとうまく付き合う工夫をすることが大切ですす。

  • リラクゼーション: ゆっくりお風呂に入る、好きな音楽を聴く、アロマテラピーを楽しむ、瞑想や深呼吸をするなど、自分なりのリラックス方法を見つけましょう。
  • 適度な運動: ウォーキングやヨガ、ストレッチなど、無理のない範囲での運動は、心身のリフレッシュに繋がります。
  • 十分な睡眠: 不規則な生活や睡眠不足もストレスとなります。質の良い睡眠を十分にとるように心がけましょう。
  • 趣味や楽しみ: 仕事や育児などから離れて、自分が楽しめる時間を持つことは、ストレス解消に有効です。
  • 相談: 一人で抱え込まず、家族や友人、信頼できる人に悩みを話したり、専門家(カウンセラーなど)に相談したりすることも有効です。

食生活(プロラクチンを下げる可能性のある食べ物)

特定の食べ物だけで劇的にプロラクチン値が下がるという科学的な根拠は乏しいですが、バランスの取れた健康的な食生活は、全身のホルモンバランスを整える上で重要です。

プロラクチン分泌に関与する可能性が指摘される成分としては、ドーパミンの前駆体であるチロシンを含む食品(肉類、魚、卵、大豆製品、乳製品など)や、ビタミンB6などが挙げられることがあります。しかし、これらの食品を積極的に摂ることで高プロラクチン血症が改善するという確証はありません。

逆に、過度なカフェイン摂取やアルコール摂取はホルモンバランスに影響を与える可能性が示唆されています。過剰な摂取は避けた方が良いでしょう。

また、特定のハーブ(例:チェストベリー)にプロラクチンを下げる効果があるという報告もありますが、効果には個人差があり、医療的な治療の代わりになるものではありません。ハーブやサプリメントを試したい場合は、必ず医師や薬剤師に相談してからにしましょう。

最も大切なのは、特定の食品に頼るのではなく、栄養バランスの取れた規則正しい食事を心がけることです。

喫煙・飲酒の影響

喫煙は、女性ホルモンをはじめとする様々なホルモンバランスに悪影響を与えることが知られています。直接的にプロラクチン値を著しく上昇させるという報告は少ないですが、全身の血管や内分泌系に負担をかけるため、高プロラクチン血症の改善を妨げる可能性があります。禁煙は、高プロラクチン血症だけでなく、全体的な健康のために推奨されます。

過度なアルコール摂取も、ホルモンバランスを乱す可能性があります。適量であれば問題ないことが多いですが、飲みすぎは控えめにしましょう。

これらの日常生活での注意点やセルフケアは、医療的な治療を補完するものであり、決して治療の代わりになるものではありません。基本的には、医師の指示に従って薬物療法などを適切に行うことが最も重要です。

高プロラクチン血症が気になる方は専門医へ相談を

もし、あなたが以下のような症状に心当たりがある場合、高プロラクチン血症の可能性があるかもしれません。

  • 生理周期が乱れている、遅れている、不規則になった
  • 数ヶ月以上生理が来ない(無月経)
  • 妊娠も授乳もしていないのに、乳頭から白い分泌物が出る(乳汁漏出)
  • 妊娠を希望しているが、なかなか授からない(不妊)
  • 男性の場合、性欲が低下した、勃起がしにくくなった、乳房が張ってきた

これらの症状は、高プロラクチン血症以外の原因でも起こり得ますが、特に複数当てはまる場合や、症状が続く場合は、一度専門医に相談することをお勧めします。

何科を受診すればいい?

女性の場合、まずはかかりつけの婦人科を受診するのが一般的です。婦人科で、生理不順や不妊の原因として高プロラクチン血症が疑われた場合、プロラクチン値の測定や必要に応じて他のホルモン検査が行われます。プロラクチノーマが疑われる場合や、内分泌系の専門的な診断・治療が必要な場合は、内分泌内科を紹介されることもあります。不妊治療専門のクリニックでも対応可能です。

男性の場合は、泌尿器科内分泌内科を受診するのが良いでしょう。

早期相談のメリット

高プロラクチン血症は、適切な治療によってプロラクチン値を正常化すれば、症状が改善し、特に不妊で悩んでいた方は妊娠の可能性が高まります。また、プロラクチノーマがある場合も、早期に発見・治療することで、腫瘍が大きくなることによる視力・視野障害などの重篤な合併症を防ぐことができます。骨密度低下のリスクも、早期に治療を開始し、女性ホルモンバランスを整えることで最小限に抑えられます。

悩んでいるよりも、まずは専門医に相談し、正確な診断を受けることが、不安を解消し、適切な対策を講じるための第一歩です。

【まとめ】高プロラクチン血症について

高プロラクチン血症は、脳の下垂体から分泌されるプロラクチンというホルモンが過剰になる病気です。女性では生理不順や無月経、乳汁漏出、不妊の主な原因の一つとなり、男性では性欲低下や勃起不全などを引き起こすことがあります。

原因は様々で、生理的なもの(ストレス、睡眠など)、薬剤性のもの、病的なもの(プロラクチノーマ、甲状腺機能低下症など)があります。診断は主に血液検査で行い、原因精査のためにMRIなどの画像検査が用いられることもあります。

治療は、原因に応じますが、多くの場合、ドーパミン作動薬(カベルゴリンなど)による薬物療法が有効です。この治療によってプロラクチン値が正常化すれば、症状は改善し、不妊で悩んでいた方も妊娠が可能になります。

高プロラクチン血症を放置すると、長期的な不妊や骨密度の低下、プロラクチノーマによる合併症(視力・視野障害など)のリスクがあります。

生理不順や乳汁漏出、不妊などで気になる症状がある方は、一人で悩まず、早めに婦人科や内分泌内科などの専門医に相談することをお勧めします。適切な診断と治療を受けることで、多くの症状は改善し、健康な生活や妊娠への希望を取り戻すことができます。


免責事項: 本記事は、高プロラクチン血症に関する一般的な情報提供を目的としており、医学的な診断や治療を推奨するものではありません。個々の症状や状態については個人差がありますので、ご自身の健康状態に関してご心配な点がある場合は、必ず医療機関を受診し、医師の診断や指導を受けてください。本記事の情報に基づいて行われたいかなる行為についても、当社は責任を負いかねます。

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