注意!ひどい生理痛は「器質性月経困難症」かも|原因と病院に行く目安

月経困難症は、月経期間中に起こるさまざまな不快な症状の総称です。その中でも特に知っておきたいのが、「器質性月経困難症」です。これは、子宮や卵巣などの骨盤臓器に何らかの病気(器質的な異常)が存在することが原因で起こる月経痛やその他の症状を指します。単なる生理痛として我慢してしまいがちですが、背景に病気が隠れている可能性があるため、注意が必要です。この記事では、器質性月経困難症の原因となる主な疾患、症状の特徴、診断方法、そして適切な治療法について詳しく解説します。つらい月経痛にお悩みの方、もしかしたら病気が原因かもしれないとご心配な方は、ぜひ参考にしてください。気になる症状があれば、一人で抱え込まず、まずは婦人科へ相談することが大切です。

機能性月経困難症とは

機能性月経困難症は、子宮や卵巣などの骨盤臓器に明らかな病気(器質的な異常)がないにも関わらず起こる月経困難症です。主に、月経時に子宮を収縮させる働きのある「プロスタグランジン」という物質が過剰に分泌されることが原因と考えられています。このプロスタグランジンが子宮の収縮を強めることで、痛みが引き起こされます。

機能性月経困難症は、主に思春期から20代の比較的若い女性に多く見られます。月経開始直後から痛みが始まり、月経期間の1~2日目をピークに軽快していくのが典型的なパターンです。痛み以外の症状として、吐き気、頭痛、疲労感、腰痛、下痢なども伴うことがあります。これらの症状は、月経が終わると自然に消失することがほとんどです。

治療としては、主にプロスタグランジンの生成を抑える鎮痛剤の使用や、子宮内膜の増殖を抑えてプロスタグランジンの量を減らす低用量ピル(LEP製剤)によるホルモン療法が行われます。多くの場合、これらの対症療法やホルモン療法で症状の改善が期待できます。

器質性月経困難症の定義と特徴

一方、器質性月経困難症は、子宮や卵巣、または骨盤内のその他の臓器に存在する何らかの病気(器質的な異常)が原因となって引き起こされる月経困難症です。機能性月経困難症のようにプロスタグランジンが関与している場合もありますが、それ以上に、病気自体が炎症や癒着、臓器の圧迫、血行障害などを引き起こし、それが強い痛みの主な原因となります。

器質性月経困難症の原因となる病気としては、後述する子宮内膜症、子宮腺筋症、子宮筋腫、骨盤内炎症性疾患などが挙げられます。これらの病気は、加齢とともに進行したり、発生頻度が増加する傾向があるため、器質性月経困難症は、特に20代後半から40代にかけての成人女性に多く見られる傾向があります。もちろん、若い世代でもこれらの病気が原因となる可能性はあります。

器質性月経困難症の痛みの特徴は、機能性月経困難症と比べて、以下のような点が挙げられます。

  • 痛みの出現時期: 月経開始の数日前から痛みが始まる、または月経が終わっても痛みが続くことがあります。
  • 痛みの性質と強さ: 機能性よりも痛みが強い傾向があり、日常生活(学業、仕事、家事など)に著しい支障をきたすことが多いです。ずっしりとした重い痛み、鋭い痛み、お腹全体や腰、お尻に響くような痛みなど、多様な痛みの表現が見られます。
  • 鎮痛剤の効果: 市販薬を含む一般的な鎮痛剤が効きにくかったり、効果が持続しなかったりする場合があります。
  • 月経時以外の症状: 月経痛だけでなく、過多月経(出血量が多い)、不正出血、月経時以外の腹痛や腰痛、性交痛、排便痛、不妊などの症状を伴うことが多いです。これらの症状は、原因となっている病気によって異なります。

器質性月経困難症の治療では、単に痛みを抑えるだけでなく、原因となっている病気自体に対して治療を行う必要があります。薬物療法(ホルモン療法など)や、場合によっては手術療法が選択されます。早期に診断を受け、原因に応じた適切な治療を開始することが、症状の改善や病気の進行抑制、さらには不妊といった合併症の予防につながります。

ご自身の月経痛がどちらのタイプに当てはまるのかを自己判断することは難しいため、つらい月経痛がある場合は、一度婦人科を受診して相談することをお勧めします。医師による診察や検査によって、痛みの原因が機能性なのか器質性なのかを正確に診断してもらうことが大切です。

器質性月経困難症の主な原因となる疾患

子宮内膜症

子宮内膜症は、通常は子宮の内側にだけ存在するはずの子宮内膜に似た組織が、子宮の外(卵巣、卵管、骨盤内の腹膜など)で増殖、剥離を繰り返す病気です。月経周期に合わせてこれらの場所でも出血が起こり、周囲の組織との炎症や癒着を引き起こします。

子宮内膜症は器質性月経困難症の最も一般的な原因の一つです。月経痛は典型的には月経が始まる数日前から始まり、月経期間中を通して強く、月経終了後も痛みが続くことがあります。痛みの部位は下腹部だけでなく、腰痛や排便痛、性交痛を伴うことも多いです。また、病巣が卵巣にできると「卵巣チョコレート嚢胞」となり、これは不妊の原因の一つにもなります。病状が進行すると骨盤内に強い癒着が生じ、常に痛みを伴う慢性骨盤痛につながることもあります。

子宮内膜症の診断には、内診、超音波検査、MRI検査などが用いられます。治療法は、症状の程度、病巣の広がり、年齢、妊娠希望の有無などを考慮して選択されます。薬物療法としては、ホルモン療法(低用量ピル/LEP、黄体ホルモン製剤、GnRHアゴニスト/アンタゴニストなど)が中心となり、病巣の進行を抑え、痛みを和らげる効果があります。薬物療法で効果が不十分な場合や、嚢胞が大きい場合、強い癒着がある場合、妊娠希望がある場合は、手術療法(病巣摘出術など)が検討されます。

子宮腺筋症

子宮腺筋症は、子宮内膜に似た組織が子宮の筋肉層(子宮筋層)に入り込んで増殖する病気です。これにより子宮の壁が厚くなり、子宮全体が大きく硬くなります。月経時には、筋肉層に入り込んだ子宮内膜組織も出血するため、子宮の収縮が強くなり、激しい痛みを引き起こします。また、筋肉層全体が厚くなることで、子宮の収縮が効果的に行われず、出血量が増加する「過多月経」も伴うことが多いです。

子宮腺筋症による月経痛は、月経期間全体を通して痛みが持続しやすく、機能性月経困難症や子宮内膜症と比較して、痛みの強さがより激しいと感じる方も少なくありません。子宮が大きくなることで、下腹部の張りや重圧感を感じることもあります。

診断は、内診で子宮が硬く大きくなっていることを確認し、超音波検査や特にMRI検査で子宮筋層内の病巣を確認することによって行われます。治療法は、症状の程度や年齢、妊娠希望の有無によります。薬物療法としては、ホルモン療法(低用量ピル/LEP、黄体ホルモン製剤、GnRHアゴニスト/アンタゴニスト、ミレーナなど)が痛みの緩和や病巣の進行抑制に有効です。過多月経に対しては、止血剤が用いられることもあります。薬物療法で改善が見られない場合や、症状が重い場合、妊娠希望がない場合は、子宮全摘術が根治的な治療法として検討されることがあります。

子宮筋腫

子宮筋腫は、子宮の筋肉にできる良性の腫瘍です。大きさ、数、発生する場所(子宮の内側、筋肉層の中、子宮の外側)によって症状の出方が異なります。全ての筋腫が月経困難症を引き起こすわけではありませんが、特に子宮の内側(子宮内腔)に突き出すようにできる筋腫(粘膜下筋腫)や、子宮の筋肉層内にできる筋腫(筋層内筋腫)が大きい場合や多発している場合に、強い月経痛や過多月経の原因となります。

筋腫が原因の月経痛は、筋腫が子宮内膜を圧迫したり、子宮の収縮を妨げたり、出血量を増やすことによって起こると考えられています。過多月経は子宮筋腫による最も典型的な症状の一つであり、生理期間が長引いたり、レバーのような大きな血の塊が出たりすることで、貧血(鉄欠乏性貧血)を引き起こすことがあります。その他、筋腫が大きい場合は、膀胱や直腸を圧迫して頻尿や便秘、腰痛を引き起こすこともあります。

子宮筋腫の診断は、内診と超音波検査で比較的容易に行えます。筋腫の位置や大きさによってはMRI検査でより詳しく評価することもあります。治療法は、症状の程度、筋腫の大きさ・位置、年齢、妊娠希望の有無によります。症状がない場合は経過観察で良いこともあります。薬物療法としては、対症療法として鎮痛剤や止血剤が用いられます。筋腫を小さくしたり、症状を緩和したりするためにホルモン療法(GnRHアゴニスト/アンタゴニスト、黄体ホルモン製剤など)が用いられることもありますが、薬で筋腫を完全に消滅させることはできません。症状が強い場合や筋腫が大きい場合、不妊の原因となっている場合、急速に大きくなる場合などは、手術療法(筋腫核摘出術や子宮全摘術)が検討されます。最近では、開腹手術だけでなく、腹腔鏡手術や子宮鏡手術、また超音波やラジオ波を利用して筋腫を焼灼する治療法(FUS、UAEなど)もあります。

骨盤内炎症性疾患

骨盤内炎症性疾患(PID)は、子宮、卵管、卵巣、骨盤内の腹膜などに細菌感染が起こり、炎症が広がる病気です。クラミジアや淋菌などの性感染症が原因となることが多いですが、膣内の常在菌が原因となることもあります。炎症が起こると、骨盤内に痛みや癒着を引き起こし、それが月経困難症の原因となることがあります。

骨盤内炎症性疾患による痛みは、月経時だけでなく、月経周期に関係なく常に下腹部痛や腰痛を伴うこともあります。発熱、悪寒、吐き気、おりものの増加や異常、性交痛、不正出血などの症状が見られることもあります。炎症が慢性化すると骨盤内に強い癒着が形成され、慢性的な骨盤痛や不妊の原因となる可能性があります。

診断は、問診、内診、おりもの検査(細菌培養検査)、血液検査(炎症反応の確認)、超音波検査などによって行われます。治療は、原因となっている細菌に対する抗生物質の投与が中心となります。炎症が重度の場合や膿瘍を形成している場合は、入院して点滴による抗生物質治療が必要となることもあります。適切な抗生物質治療により炎症自体は治まりますが、すでに形成された癒着が原因で痛みが残存する場合もあります。

その他の原因

上記以外にも、器質性月経困難症の原因となる可能性のある疾患がいくつかあります。

  • 卵巣嚢腫(らんそうのうしゅ): 卵巣にできる袋状の腫瘍で、内部に液体などが溜まります。多くは良性ですが、茎捻転(嚢腫がねじれること)を起こすと激痛を伴います。また、大きな嚢腫が周囲臓器を圧迫したり、炎症を引き起こしたりすることで月経痛や腰痛の原因となることがあります。
  • 子宮の形の異常: 生まれつき子宮の形に異常がある場合(例:双角子宮、単角子宮など)や、過去の手術や炎症などによって子宮内に癒着や狭窄がある場合にも、月経血の排出が妨げられて月経痛が起こることがあります。
  • 骨盤うっ血症候群: 骨盤内の静脈がうっ滞(血流が滞る)することで、慢性的な骨盤痛や月経困難症を引き起こすことがあります。特に立ち仕事が多い方や、多産の方に見られることがあります。

これらの疾患も、超音波検査やMRI検査などで診断されることがあります。治療法はそれぞれの病気の種類や症状の程度に応じて異なります。

器質性月経困難症は、このように様々な病気が原因となり得るため、つらい月経痛がある場合は、自己判断せずに必ず婦人科を受診し、専門医による診断を受けることが重要です。

器質性月経困難症の症状

痛みの特徴(いつから、強さ、部位)

器質性月経困難症における月経痛は、機能性月経困難症の典型的なパターン(月経開始直後から始まり、1~2日目をピークに軽快)とは異なることが多いです。

  • 痛みの出現時期: 月経が始まる数日前、場合によっては1週間以上前から痛みが始まることがあります。これは、原因疾患(特に子宮内膜症や子宮腺筋症)が月経周期と連動して炎症や病巣の増大を引き起こすためと考えられます。月経が終了した後も痛みが続くこともあります。
  • 痛みの強さ: 機能性月経困難症よりも痛みが強い傾向があります。市販の鎮痛剤では痛みが十分に抑えられなかったり、頻繁に服用する必要があったりします。痛みのために学校や仕事を休む、寝込んでしまうなど、日常生活に著しい支障をきたすレベルになることも珍しくありません。
  • 痛みの部位: 下腹部全体が痛むだけでなく、腰、お尻、太ももの裏などに痛みが放散したり、響いたりすることがあります。特に子宮腺筋症では腰痛を強く感じることが多いです。子宮内膜症では、病巣の場所によって、例えば直腸近くに病巣があると排便痛、膀胱近くに病巣があると頻尿や排尿時痛、性器に病巣があると性交痛、といった局所的な痛みを伴うことがあります。

痛みの性質も、「ずっしり重い」「締め付けられるような」「突き刺すような」「焼けるような」など、人によって、また原因疾患によって多様な表現がされます。

月経時以外の症状(過多月経、性交痛、排便痛など)

器質性月経困難症は、月経時以外にも様々な症状を伴うことが多いのが特徴です。これらの症状は、原因となっている疾患の存在を示す重要なサインとなります。

  • 過多月経: 月経の出血量が異常に多い、または月経期間が長い(通常7日以内)症状です。ナプキンを頻繁に交換する必要がある、夜間もナプキンが間に合わない、レバーのような大きな血の塊が多く出る、といった状態は過多月経の可能性があります。子宮筋腫(特に粘膜下筋腫や筋層内筋腫)や子宮腺筋症の代表的な症状です。過多月経が続くと、体内の鉄分が失われ、貧血(鉄欠乏性貧血)を引き起こし、めまい、立ちくらみ、倦怠感、息切れなどの全身症状が現れることがあります。
  • 不正出血: 月経期間以外に出血が見られる症状です。原因疾患によって様々なパターンがあります。子宮筋腫(特に粘膜下筋腫)や子宮内膜症、子宮腺筋症、または子宮頸部や体部の病変などでも起こり得ます。
  • 性交痛: 性行為の際に性器や骨盤の奥に痛みを感じる症状です。子宮内膜症による骨盤内の炎症や癒着、子宮腺筋症による子宮の硬化、子宮筋腫の位置などによって引き起こされることがあります。痛みのために性生活が困難になることもあります。
  • 排便痛: 月経時やそれ以外の時に、排便の際に下腹部や直腸に痛みを感じる症状です。子宮内膜症が直腸やS状結腸の周囲に発生した場合に起こりやすい症状です。
  • 慢性骨盤痛: 月経周期に関係なく、常に下腹部や骨盤周辺に痛みが持続する状態です。子宮内膜症による強い癒着や、骨盤内炎症性疾患の後遺症、骨盤うっ血症候群などが原因となることがあります。
  • 不妊: 器質性月経困難症の原因となる疾患(特に子宮内膜症、子宮筋腫、骨盤内炎症性疾患による卵管の損傷など)自体が、妊娠しにくい状態を引き起こすことがあります。
  • その他の症状: 原因疾患によっては、頻尿や排尿困難(大きな筋腫による膀胱圧迫)、便秘や排便困難(筋腫や内膜症による直腸圧迫)、腰痛、下肢のしびれやむくみ(大きな筋腫による神経や血管の圧迫)などを伴うことがあります。また、月経前症候群(PMS)のような精神的・身体的な不調が強く現れる場合もあります。

これらの症状は、単なる「つらい生理痛」として見過ごされがちですが、器質性月経困難症の重要なサインである可能性が高いです。特に、月経時以外の症状がある場合や、月経痛が年々ひどくなっている場合は、早めに婦人科を受診して相談することをお勧めします。

器質性月経困難症の年齢との関連

器質性月経困難症は、特定の年代に集中して発生するというよりは、原因となる疾患の発生頻度と関連があります。

  • 成人以降に多い傾向: 機能性月経困難症が思春期から20代に多いのに対し、器質性月経困難症の原因となる子宮内膜症や子宮腺筋症、子宮筋腫などは、20代後半から40代にかけて発生頻度が増加する傾向があります。これは、これらの病気が月経を繰り返すことと関連しているためと考えられます。したがって、器質性月経困難症もこの年代に多く見られる傾向があります。
  • 閉経による変化: 子宮内膜症や子宮腺筋症は、女性ホルモンの影響を受けて進行する病気のため、閉経すると女性ホルモンが低下し、病状が落ち着いたり改善したりすることが多いです。子宮筋腫も閉経後に小さくなる傾向があります。しかし、閉経後もホルモン補充療法を行っている場合や、まれに悪性化する可能性もゼロではないため、定期的な経過観察は必要です。
  • 若い世代での可能性: 10代や20代前半の比較的若い世代でも、子宮内膜症や子宮の形の異常などが原因で器質性月経困難症を発症する可能性はあります。機能性月経困難症と思っていても、痛みが非常に強い、鎮痛剤が効かない、月経時以外の症状がある場合は、器質的な異常がないか確認するために婦人科を受診することが大切です。

このように、器質性月経困難症は年齢に関わらず起こり得ますが、特に成人以降に月経痛がひどくなった、あるいは月経時以外の症状が出てきた場合は、器質的な病気の可能性を強く疑って、早めに医療機関を受診することが推奨されます。

器質性月経困難症の診断・チェック

問診・内診

婦人科を受診すると、まず詳細な問診が行われます。以下のような項目について、できるだけ具体的に医師に伝えることが診断の手がかりとなります。

  • 月経に関する情報: 初経年齢、月経周期、月経期間、月経血量(ナプキンの交換頻度、血の塊の有無など)、月経痛が始まった時期、痛みの強さ(日常生活への影響度)、痛みの場所、痛みの性質、鎮痛剤の使用状況(種類、量、効果の程度)。
  • 月経時以外の症状: 過多月経、不正出血、排便痛、性交痛、月経時以外の腹痛や腰痛、頻尿、便秘、吐き気、頭痛、倦怠感など、気になる全ての症状。
  • 既往歴・家族歴: 過去にかかった病気、手術の経験(特に婦人科系)、アレルギー、現在服用中の薬、妊娠・出産歴、子宮内膜症や子宮筋腫などの家族歴。
  • ライフスタイル: ストレスの状況、喫煙、飲酒、食生活、運動習慣など。

問診の後、通常は内診が行われます。内診では、腟から指を入れて子宮や卵巣の大きさ、形、硬さ、位置、動きやすさ、圧痛の有無などを確認します。子宮が硬く大きくなっている場合は子宮腺筋症、子宮にこぶのようなものがあれば子宮筋腫、子宮や卵巣の動きが悪く周囲と癒着している場合は子宮内膜症や骨盤内炎症性疾患などが疑われます。内診は病気の存在や位置を知るための重要な検査ですが、内診だけでは確定診断できない場合も多く、画像検査などと組み合わせて総合的に判断します。

画像検査(超音波検査、MRIなど)

画像検査は、子宮や卵巣、骨盤内の状態を視覚的に確認するための重要な検査です。

  • 超音波検査(エコー検査): 最も一般的で簡便な画像検査です。腟から細い超音波プローブを入れて行う経腟超音波検査は、子宮や卵巣を間近で観察できるため、非常に有用です。子宮の大きさや形、子宮筋腫の有無や位置、子宮腺筋症による子宮壁の厚さ、卵巣の大きさや卵巣嚢腫の有無などを確認できます。腹部の表面から行う経腹超音波検査は、筋腫が大きい場合などに用いられます。超音波検査はリアルタイムで臓器の動きや血流なども確認でき、放射線を使用しないため妊婦さんでも安心して受けられます。
  • MRI(磁気共鳴画像)検査: 超音波検査よりもさらに詳細な画像が得られる検査です。特に子宮腺筋症の広がりや、子宮内膜症の病巣、子宮筋腫の位置や性質などを詳しく評価するのに優れています。骨盤内の他の臓器(直腸や膀胱など)との位置関係や癒着の程度なども確認できます。ただし、検査に時間がかかる、費用が比較的高い、閉所恐怖症の方には向かないなどの特徴があります。
  • その他の画像検査: 必要に応じて、CT検査やX線検査(造影剤を用いた子宮卵管造影検査など)が行われることもありますが、月経困難症の診断においては超音波検査やMRI検査が主流です。

これらの画像検査によって、子宮筋腫、子宮腺筋症、卵巣嚢腫などの器質的な異常の有無、大きさ、位置、病状の広がりなどを確認し、器質性月経困難症の原因となっている疾患を特定します。

その他の検査

画像検査以外にも、必要に応じて以下のような検査が行われることがあります。

  • 血液検査: 過多月経による貧血(ヘモグロビン値、フェリチン値など)の有無や程度、炎症反応(白血球数、CRPなど)、腫瘍マーカー(CA125など、特に子宮内膜症や卵巣腫瘍に関連して上昇することがある)などを調べることがあります。ただし、腫瘍マーカーだけで病気の診断はできません。
  • おりもの検査: 骨盤内炎症性疾患が疑われる場合に、子宮頸管や腟からおりものを採取し、細菌やクラミジアなどの感染の有無を調べます。
  • 組織検査: 非常に稀ですが、病変の一部を採取して顕微鏡で詳しく調べる病理組織検査が必要となる場合もあります。
  • 腹腔鏡検査: 診断のため、または診断と同時に治療を行う目的で行われることがあります。お腹に小さな穴をいくつか開け、カメラや鉗子などを挿入して骨盤内の臓器を直接観察したり、病巣を摘出したり、癒着を剥離したりします。特に超音波検査などでは診断が難しい初期の子宮内膜症や、骨盤内の癒着の程度を正確に評価するのに有用です。ただし、手術となるため入院が必要となります。

これらの検査結果を総合的に判断することで、月経困難症の原因が器質的な病気によるものなのか、その病気の種類、病状の程度などを正確に診断し、その後の治療方針を決定します。

セルフチェックリストと受診目安

つらい月経痛がある場合、一人で悩まずに婦人科を受診することが大切です。特に、以下のような症状に当てはまる場合は、器質性月経困難症の可能性があるため、早めに婦人科を受診して相談することをお勧めします。

器質性月経困難症のセルフチェックリスト

  • 月経痛が年々ひどくなっている
  • 市販の鎮痛剤が効かなくなってきた、または量を増やさないと効かない
  • 鎮痛剤を飲んでも痛みが十分に和らがない
  • 痛みのために学校や仕事を休んだり、寝込んでしまったりすることがある(日常生活に支障がある)
  • 月経が始まる数日前から痛みを感じる
  • 月経が終わっても痛みが続くことがある
  • 月経時以外にも下腹部や腰に痛みを感じることがある
  • 月経の出血量が異常に多い(ナプキンを頻繁に変える、夜間も漏れるなど)
  • 月経期間が長い(8日以上続く)
  • レバーのような大きな血の塊が多く出る
  • 月経時やそれ以外の時に性交痛がある
  • 月経時やそれ以外の時に排便痛がある
  • 原因不明の貧血がある(めまい、立ちくらみ、倦怠感など)
  • 過去に骨盤内の手術や炎症の経験がある

これらの項目のうち、一つでも当てはまる場合は、自己判断せずに婦人科を受診して相談しましょう。「このくらいの痛みは普通」「みんな我慢しているもの」と思わずに、ご自身の体の声に耳を傾けてください。早期発見・早期治療が、症状の改善や病気の進行予防につながります。

受診目安

  • 日常生活に支障をきたすほどの月経痛がある
  • 鎮痛剤の効果が不十分である
  • 月経時以外の腹痛や腰痛がある
  • 過多月経や不正出血がある
  • 性交痛や排便痛がある
  • 不妊の悩みがある
  • 月経痛が年齢とともに強くなってきた

これらの症状がある場合は、迷わず婦人科を受診してください。医師に相談することで、痛みの原因を特定し、適切な治療法が見つかるはずです。

器質性月経困難症の治療法

薬物療法(鎮痛剤、ホルモン療法)

薬物療法は、器質性月経困難症の治療の中心の一つです。痛みを和らげる対症療法と、病気の進行を抑える根治療法があります。

  • 鎮痛剤: 月経痛の痛みを和らげるために使用されます。非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が一般的で、プロスタグランジンの生成を抑えることで痛みを軽減します。痛みが始まる前に服用するとより効果的とされています。ただし、鎮痛剤はあくまで対症療法であり、原因疾患自体を治すわけではありません。痛みが強い場合や鎮痛剤の量が増える場合は、別の治療法を検討する必要があります。
  • ホルモン療法: 女性ホルモンの分泌や働きを調整することで、月経量を減らしたり、排卵を抑制したり、子宮内膜の増殖を抑えたりして、痛みの原因となる病気の進行を抑え、症状を改善する治療法です。器質性月経困難症の原因となる子宮内膜症、子宮腺筋症、子宮筋腫の治療に広く用いられます。
    • 低用量ピル/LEP製剤: エストロゲンと黄体ホルモンの合剤で、排卵を抑制し、子宮内膜の増殖を抑えることで月経量を減らし、月経痛を和らげます。月経困難症や子宮内膜症の治療薬として保険適用されているもの(LEP製剤)が多くあります。避妊効果もありますが、主な目的は月経困難症や子宮内膜症の治療です。継続して服用することで高い効果が期待できます。
    • 黄体ホルモン製剤: 黄体ホルモンを主体とした製剤で、子宮内膜の増殖を強力に抑え、月経を止めることで子宮内膜症や子宮腺筋症による痛みを和らげます。ジェノゲスト(ディナゲスト)などが代表的です。閉経まで長期的に服用することが可能な場合もあります。
    • GnRHアゴニスト/アンタゴニスト: 女性ホルモンの分泌を強力に抑制し、一時的に閉経に近い状態(偽閉経療法)にします。これにより子宮内膜症や子宮筋腫、子宮腺筋症を縮小させ、痛みを劇的に改善する効果があります。注射薬や点鼻薬、内服薬があります。ただし、骨密度の低下などの更年期のような副作用が現れるため、通常は使用期間に制限があります。
    • ミレーナ: 黄体ホルモンを子宮内に持続的に放出する子宮内システム(IUD)です。子宮内膜の増殖を抑え、月経量を減らしたり月経痛を和らげたりする効果があります。特に過多月経を伴う子宮筋腫や子宮腺筋症、月経困難症の治療に用いられます。一度装着すると最長5年間効果が持続します。
    • エストロゲン・プロゲスチン配合剤(月経困難症治療薬): 低用量ピルと同様に、月経困難症や子宮内膜症の治療薬として開発された製剤です。ヤーズ、ルナベル、ジェミーナなどがあります。

どのホルモン療法を選択するかは、原因疾患の種類、症状、年齢、妊娠希望の有無、副作用のリスクなどを考慮して医師が判断します。ホルモン療法により、多くの器質性月経困難症の症状は改善が期待できますが、効果が出るまでにある程度の期間が必要な場合もあります。

手術療法

薬物療法で効果が十分に得られない場合や、病気が進行している場合、病変が大きい場合、妊娠希望がある場合などに手術療法が検討されます。手術の方法は、原因疾患の種類や病状によって異なります。

  • 子宮筋腫: 筋腫だけを摘出する「筋腫核摘出術」と、子宮全体を摘出する「子宮全摘術」があります。妊娠を希望する場合は筋腫核摘出術が選択されます。筋腫の大きさや位置によっては、お腹を大きく切開する開腹手術、小さな穴を開けて行う腹腔鏡手術、または子宮鏡(子宮の入り口から内視鏡を入れる)を用いる子宮鏡手術があります。
  • 子宮内膜症: 病巣を切除したり焼灼したりする手術(内膜症病巣摘出術、卵巣チョコレート嚢胞摘出術、癒着剥離術など)が行われます。通常は腹腔鏡手術が選択されます。妊娠を希望する場合や、痛みが強い場合に検討されます。
  • 子宮腺筋症: 子宮全体が病変となっているため、根治的な治療は子宮全摘術となります。妊娠を希望しない場合で症状が重い場合に検討されます。妊娠を希望する場合は、腺筋症の病巣だけを切除する手術(腺筋症核摘出術)が行われることもありますが、再発率が高い、手術が難しいなどの課題もあります。
  • 骨盤内炎症性疾患: 炎症が広がり膿瘍を形成している場合など、抗生物質による治療だけでは不十分な場合に、膿瘍を排泄させたり、病巣を摘出したりする手術が必要となることがあります。

手術療法は病変を取り除くことで症状の改善が期待できますが、体に負担がかかること、再発の可能性があること(特に子宮内膜症や子宮腺筋症)、妊娠への影響などを考慮して、慎重に検討する必要があります。

漢方などの代替療法

漢方薬や鍼灸、アロマセラピーなどの代替療法が、器質性月経困難症の症状緩和や体質改善のために併用されることがあります。

  • 漢方薬: 月経困難症に対しては、血行を改善したり、ホルモンバランスを整えたり、痛みを和らげたりする効果のある漢方薬が処方されることがあります。当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)、桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)、加味逍遙散(かみしょうようさん)、桃核承気湯(とうかくじょうきとう)などがよく用いられます。漢方薬は体質や症状に合わせて選ばれるため、専門の医師や薬剤師に相談して処方してもらうことが重要です。即効性は低いですが、体質を改善することで長期的な効果が期待できる場合があります。
  • その他: 鍼灸やアロマセラピー、ヨガや軽い運動なども、血行促進やリラクゼーション効果によって痛みの緩和に役立つ可能性があります。これらの代替療法は、標準治療の補助として行われることが一般的です。

代替療法は、症状の緩和やQOL(生活の質)向上に役立つ可能性がありますが、医学的な根拠が確立されていないものもあります。標準的な治療法と組み合わせて行う場合でも、必ず担当医に相談してから行うようにしましょう。

治療ガイドラインと診療計画書

日本産科婦人科学会などから、月経困難症や子宮内膜症、子宮筋腫などの疾患に関する治療ガイドラインが示されています。これらのガイドラインは、これまでの研究や臨床経験に基づいた、標準的かつ科学的な根拠のある治療法を示すものです。

医療機関では、これらのガイドラインを参考にしながら、患者さん一人ひとりの病状、症状、年齢、妊娠希望の有無、ライフスタイルなどを総合的に評価し、最適な治療計画を立てます。医師は、考えられる治療法の選択肢、それぞれのメリット・デメリット、効果、副作用、費用などについて十分に説明し、患者さんが納得した上で治療法を選択できるようサポートします。

治療を開始した後も、症状の変化や副作用の有無などを確認しながら、必要に応じて治療法を見直したり、投薬量などを調整したりします。医師と患者さんとの信頼関係を築き、疑問や不安があれば遠慮なく質問し、納得のいく治療を進めていくことが重要です。

治療計画書などを作成している医療機関もあります。これは、患者さんが自身の病状と治療計画を理解し、治療に主体的に取り組めるようにするためのものです。

器質性月経困難症は、原因となっている病気をきちんと診断し、適切な治療を継続することで、症状の改善や病気の進行抑制が期待できます。つらい症状を我慢せず、専門医に相談し、ご自身に合った治療法を見つけることが大切です。

器質性月経困難症は特定疾患?

「特定疾患」とは、日本では厚生労働大臣が指定する、治療方法が確立しておらず、長期の療養を必要とする疾患群(いわゆる難病)のことを指します。これらの疾患に罹患した患者さんに対しては、医療費助成などの支援制度が設けられています。

では、器質性月経困難症は特定疾患に該当するのでしょうか?

結論から言うと、器質性月経困難症そのものは特定疾患(難病)には指定されていません。

器質性月経困難症の原因となる疾患(子宮内膜症、子宮腺筋症、子宮筋腫など)は、比較的多くの女性が罹患する一般的な婦人科疾患であり、治療法も確立されています。したがって、これらの疾患は特定疾患の対象とはなりません。

ただし、ごくまれなケースとして、特定疾患に指定されている全身性の疾患(例:ベーチェット病、クローン病など)の合併症として骨盤内に炎症や病変が生じ、それが器質性月経困難症の原因となる可能性は理論上ゼロではありません。しかし、その場合でも、問題となるのはあくまで基礎疾患である特定疾患であり、器質性月経困難症という症状自体が特定疾患となるわけではありません。

器質性月経困難症の治療は、原因となっている疾患に対して行われ、多くは健康保険が適用される一般的な診療となります。医療費助成制度の対象とはなりませんが、適切な診断と治療を受けることで、症状の改善や病気の進行抑制が期待できます。

「特定疾患ではない=たいした病気ではない」ということではありません。器質性月経困難症は、その原因となる病気によって、激しい痛みや過多月経、不妊など、患者さんのQOL(生活の質)を著しく低下させる可能性のある、放置できない状態です。したがって、特定疾患に指定されていないからといって軽視せず、つらい症状がある場合は必ず婦人科を受診して、適切な診断と治療を受けることが重要です。

器質性月経困難症と妊娠・出産について

妊娠への影響

器質性月経困難症の主な原因疾患は、以下のように妊娠に影響を与える可能性があります。

  • 子宮内膜症: 子宮内膜症は、不妊の大きな原因の一つとして知られています。卵巣や卵管周囲に病巣ができると、排卵された卵子を卵管がうまくキャッチできなかったり、受精卵が子宮に運ばれる経路が妨げられたりすることがあります。また、骨盤内の炎症や免疫系の異常などが、受精や着床を妨げる可能性も指摘されています。卵巣チョコレート嚢胞が大きい場合や手術によって卵巣の機能が低下した場合も、卵子の質や数に影響が出ることがあります。
  • 子宮腺筋症: 子宮全体の筋肉層が厚く硬くなるため、受精卵の着床を妨げたり、妊娠しても流産しやすくなったりする可能性があります。
  • 子宮筋腫: 子宮筋腫があること自体が必ずしも不妊の原因となるわけではありません。しかし、子宮内腔に突き出すような粘膜下筋腫や、着床部位の近くにある大きな筋層内筋腫は、受精卵の着床を妨げたり、流産や早産の原因となったりすることがあります。筋腫が大きい場合は、卵管を圧迫して卵子の通過を妨げる可能性も考えられます。
  • 骨盤内炎症性疾患: 卵管に炎症が起こると、卵管の内側が癒着して狭くなったり、閉塞したりすることがあります。これにより、卵子と精子が出会えなくなったり、受精卵が子宮に運ばれなくなったりして、不妊の原因となります。卵管の通りが悪くなると、子宮外妊娠のリスクも高まります。

妊娠を希望する場合の治療

器質性月経困難症があり、かつ妊娠を希望している場合は、治療方針を慎重に検討する必要があります。

  • 原因疾患の治療: 妊娠を妨げている可能性のある原因疾患(子宮内膜症、子宮筋腫、卵管の異常など)に対して、適切な治療を行うことが、妊娠への近道となる場合があります。
  • 薬物療法と妊娠希望: ホルモン療法(低用量ピル/LEP、GnRHアゴニスト/アンタゴニスト、黄体ホルモン製剤など)は、月経困難症や原因疾患の症状を改善する効果がありますが、これらの治療中は排卵が抑制されたり、月経が止まったりするため、妊娠することはできません。妊娠を希望するタイミングに合わせて、治療を一時中断したり、治療法を変更したりする必要があります。医師とよく相談し、妊娠希望の時期を伝えた上で、最適な治療計画を立てることが重要です。
  • 手術療法と妊娠希望: 妊娠希望がある場合、子宮や卵巣を温存する手術(筋腫核摘出術、子宮内膜症病巣摘出術、卵管形成術など)が選択されます。手術によって原因を取り除くことで、自然妊娠が可能になる場合もあれば、体外受精などの生殖補助医療が必要となる場合もあります。手術によっては、術後の妊娠や分娩に影響(例:子宮破裂のリスク増加による帝王切開など)が出る可能性もあるため、手術方法や術後の管理についても医師から十分な説明を受けることが大切です。
  • 生殖補助医療: 原因疾患によって卵管の通りが悪かったり、病巣が広範囲に及んでいたりする場合、あるいは原因疾患の治療後も妊娠に至らない場合などは、体外受精などの生殖補助医療が選択肢となります。

器質性月経困難症と不妊の悩みがある場合は、月経困難症の治療経験が豊富で、不妊治療にも詳しい婦人科医または不妊治療専門医に相談することをお勧めします。ご自身の状況や希望を伝え、将来の妊娠・出産を見据えた最善の治療計画を一緒に考えてもらいましょう。

器質性月経困難症でも性行為は可能?

器質性月経困難症がある場合、「性行為をしても大丈夫か」「痛みが伴うのではないか」といった不安を感じる方もいるかもしれません。

基本的には、器質性月経困難症があっても性行為を行うことは可能です。

しかし、原因となっている疾患によっては、性交痛(性行為の際に痛みを感じる症状)を伴う場合があります。特に子宮内膜症による骨盤内の炎症や癒着、子宮腺筋症による子宮の硬化、子宮筋腫の位置などによっては、性交時に痛みを感じることがあります。痛みの場所は、腟の入り口付近、腟の奥、下腹部など、原因によって異なります。

性交痛がある場合は、無理に性行為を続ける必要はありません。パートナーに正直に気持ちや痛みを伝え、理解と協力を得ることも大切です。痛みが強い場合は控える、体位を工夫する(痛みが少ない体位を探す)などの方法で痛みを軽減できることもあります。

性交痛は、器質性月経困難症の原因疾患を示す重要な症状の一つでもあります。痛みを我慢せず、性交痛がある場合は、月経困難症の診察を受ける際に必ず医師に伝えるようにしましょう。医師は、性交痛の原因を特定するための診察や検査を行い、原因に応じた治療(薬物療法や手術療法など)を提案してくれます。原因疾患の治療が進めば、性交痛も改善することが期待できます。

性生活は、パートナーとの関係性やQOL(生活の質)に大きく関わるものです。痛みや不安を感じる場合は、一人で悩まず、婦人科医に相談して適切なアドバイスや治療を受けてください。

放置することのリスク

器質性月経困難症は、単なる「つらい生理痛」として軽視されがちですが、その背景には進行性の病気が隠れている可能性があります。症状を放置し、適切な診断や治療を受けないことには、いくつかのリスクが伴います。

  • 痛みの悪化: 原因となっている病気(子宮内膜症、子宮腺筋症、子宮筋腫など)が進行すると、病巣が拡大したり、炎症や癒着が強まったりして、月経痛やその他の症状がさらに悪化する可能性があります。痛みが慢性化し、月経時以外も常に痛みを抱える「慢性骨盤痛」に移行することもあります。
  • 原因疾患の進行: 放置することで、子宮内膜症の病巣が広がり、骨盤内に強い癒着が生じたり、卵巣チョコレート嚢胞が大きくなったりすることがあります。子宮腺筋症では子宮全体がさらに肥大化する可能性があり、子宮筋腫も大きくなったり数が増えたりすることがあります。病気の進行は、その後の治療をより複雑にしたり、体への負担が大きい手術が必要になったりする可能性があります。
  • 不妊のリスク増加: 特に子宮内膜症や骨盤内炎症性疾患は、進行すると卵管の機能障害や骨盤内の癒着を招き、不妊の原因となるリスクが高まります。子宮筋腫や子宮腺筋症も、病状によっては妊娠に影響を与えることがあります。妊娠を希望する場合、病気が進行する前に適切な治療を受けることが重要です。
  • 貧血の進行: 過多月経を伴う場合、放置すると慢性的な出血により鉄欠乏性貧血が進行し、めまい、立ちくらみ、倦怠感、息切れ、動悸などの全身症状が顕著になります。重度の貧血は日常生活に大きな支障をきたします。
  • QOL(生活の質)の著しい低下: 激しい月経痛や月経時以外の症状(過多月経、貧血による倦怠感、排便痛、性交痛など)によって、学業や仕事に集中できなくなったり、欠席・欠勤を余儀なくされたりすることがあります。また、友人との予定をキャンセルしたり、趣味や旅行を楽しめなくなったりするなど、日常生活や社会生活、精神的な健康にも大きな影響を及ぼします。
  • 診断の遅れ: つらい症状を「いつもの生理痛」として我慢していると、器質性月経困難症の原因となっている病気の発見が遅れてしまいます。早期に発見し、原因に応じた適切な治療を開始することが、症状の改善や病気の進行抑制、合併症の予防につながります。
  • まれな悪性化のリスク: 子宮内膜症性嚢胞(卵巣チョコレート嚢胞)からは、非常にまれですが卵巣がんが発生する可能性が指摘されています。特に閉経前後の急な増大などが見られる場合は注意が必要です。また、子宮筋腫もまれに悪性腫瘍(子宮肉腫)であることがあります。これらのリスクを早期に発見するためにも、定期的な婦人科受診と適切な検査が重要です。

このように、器質性月経困難症の症状を放置することは、原因疾患の進行、症状の悪化、不妊リスクの増加、貧血、QOLの著しい低下など、様々なリスクを伴います。つらい月経痛や気になる症状がある場合は、一人で抱え込まず、必ず婦人科を受診して相談し、適切な診断と治療を受けることが大切です。

まとめ:器質性月経困難症の不安は婦人科で相談を

器質性月経困難症は、子宮や卵巣などの骨盤臓器に存在する病気が原因で起こる月経困難症です。単なる生理痛として我慢されがちですが、その背景には子宮内膜症、子宮腺筋症、子宮筋腫、骨盤内炎症性疾患など、放置すると病状が進行したり、不妊や貧血などの合併症を引き起こしたりする可能性のある病気が隠されています。

機能性月経困難症と比べて、痛みが強い、月経が始まる前から痛む、月経が終わっても痛みが続く、月経時以外の症状(過多月経、不正出血、性交痛、排便痛など)を伴うことが多いといった特徴があります。これらの症状に心当たりがある場合は、器質性月経困難症の可能性があります。

正確な診断のためには、婦人科での問診、内診、超音波検査やMRI検査などの画像検査が必要です。これらの検査によって、痛みの原因となっている病気の種類や病状を特定します。

治療法は、原因疾患の種類や症状の程度、年齢、妊娠希望の有無などを考慮して、薬物療法(鎮痛剤、ホルモン療法)や手術療法が選択されます。適切な診断に基づいた治療を継続することで、症状の改善や病気の進行抑制が期待できます。

器質性月経困難症を放置することは、痛みの悪化、病気の進行、不妊リスクの増加、貧血、QOLの著しい低下など、様々なリスクを伴います。つらい症状を我慢せずに、早めに婦人科を受診して相談することが何よりも大切です。「このくらいの痛みは普通」「みんなも同じだろう」と思い込まず、ご自身の体のサインに耳を傾けてください。

月経に関する悩みや不安は、なかなか人に相談しにくいと感じるかもしれませんが、婦人科医は月経トラブルや女性特有の病気の専門家です。安心して相談できる環境が整っています。つらい月経痛や気になる症状がある場合は、勇気を出して一歩踏み出し、婦人科のドアを叩いてみましょう。適切な診断と治療を受けることで、痛みが軽減され、生活の質が向上する可能性があります。

※本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の診断や治療法を推奨するものではありません。個々の症状や状態については、必ず医療機関で医師の診断を受け、適切な指導に従ってください。

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