知っておきたいクラミジア感染症|症状・感染経路・検査・治療

クラミジア感染症は、性感染症(STD)の中で最も多くみられる疾患の一つです。
クラミジア・トラコマティスという細菌によって引き起こされ、主に性器やのど、直腸などに感染します。
特に若い世代での感染が増加傾向にあり、その蔓延が問題となっています。

この病気の特徴として、感染しても自覚症状が出にくい、あるいは症状が出ても非常に軽いため、気づかないうちに進行してしまうケースが多いことが挙げられます。
しかし、放置すると不妊症やその他の重篤な合併症を引き起こす可能性があるため、正しい知識を持ち、早期に検査・治療を受けることが非常に重要です。
この記事では、クラミジア感染症の症状、感染経路、検査、治療法などについて詳しく解説します。

クラミジア感染症とは

クラミジア感染症は、細菌の一種であるクラミジア・トラコマティス(Chlamydia trachomatis)によって引き起こされる感染症です。
この細菌は、人間の細胞の中でしか増殖できないという特徴を持ちます。
主に性的な接触を通じて感染しますが、母子感染のリスクもあります。

クラミジア・トラコマティスには複数の型があり、感染する部位によって症状や引き起こされる疾患が異なります。
性器に感染した場合、尿道炎、子宮頸管炎、精巣上体炎などを引き起こします。
また、オーラルセックスによってのど(咽頭)に感染したり、アナルセックスによって直腸に感染したりすることもあります。

日本国内では、年間数十万人がクラミジア感染症にかかっていると推計されており、性感染症の中で最も頻繁に診断される疾患の一つです。
特に10代後半から20代の若い世代での感染率が高い傾向にあります。
しかし、どの年代でも感染する可能性があり、性経験がある人であれば誰でも感染リスクがあります。

多くの感染者が無症状、あるいは症状が非常に軽いため、自分が感染していることに気づかず、パートナーに感染させてしまう「無症候性キャリア」が多いことも、この病気が広がる要因となっています。
無症状であっても、放置すると将来的に不妊症などの深刻な合併症につながるリスクがあるため、感染の可能性が少しでもある場合は、検査を受けることが強く推奨されます。

クラミジア感染症の症状

クラミジア感染症は「サイレント・インフェクション(静かなる感染)」と呼ばれるほど、症状が出にくい病気です。
感染者の多くは無症状か、症状が出ても非常に軽いため、気づかれずに放置されてしまうことが少なくありません。
しかし、一部の人には不快な症状が現れることもあります。
症状は感染部位や性別によって異なります。

男性のクラミジア症状

男性の場合、最も一般的なのは尿道への感染による尿道炎です。
症状が現れる場合、以下のようなものがみられます。

  • 尿道からの分泌物(膿): 透明からやや白っぽい、または黄色っぽい少量の分泌物が出ることがあります。
    淋病のような、より粘り気のある大量の膿とは異なります。
    下着に付着して初めて気づくこともあります。
  • 排尿時の軽い痛みや不快感: おしっこをする際に、軽いヒリヒリ感やムズムズ感、違和感を感じることがあります。
    強い痛みを伴うことは少ないです。
  • 尿道のムズムズ感、かゆみ: 常に尿道に軽いかゆみや不快感があると感じる人もいます。

これらの症状は、感染後1週間から3週間程度で現れることが多いですが、全く症状が出ないことも珍しくありません。

尿道炎を放置すると、感染が広がり精巣上体炎(副睾丸炎)を引き起こすことがあります。
精巣上体炎になると、陰嚢(玉袋)が腫れて赤くなり、強い痛みを伴います。
発熱を伴うこともあり、早期に治療が必要です。

女性のクラミジア症状(性器クラミジア感染症 女性 症状)

女性の場合、クラミジアは主に子宮頸管に感染します。
女性のクラミジア感染症は、男性以上に無症状の割合が高いとされており、感染者の約8割が無症状とも言われています。
症状が出ても、生理不順や疲れなど、他の原因と間違えやすい曖昧な症状であることが多いです。

女性で症状が現れる場合、以下のようなものがみられます。

おりものの変化

通常とは異なる、量が増えた、色やにおいが変わった(黄色っぽい、膿っぽいなど)といったおりものの変化に気づくことがあります。

不正出血

生理期間ではないのに、性行為の後や、特に誘因なく少量の出血(不正出血)が見られることがあります。

下腹部痛

子宮頸管からさらに上部(子宮内膜、卵管、骨盤内)に感染が広がると、下腹部や骨盤内に鈍い痛みを感じることがあります。
これは骨盤内炎症性疾患(PID)の兆候である可能性があります。

性交痛

性行為の際に、子宮の奥や下腹部に痛みを感じることがあります。
これも炎症が広がっている可能性を示唆します。

頻尿・排尿時の痛み

尿道に感染が及んだ場合、男性と同様に、頻尿になったり排尿時に軽い痛みを感じたりすることがあります。
膀胱炎と間違われることもありますが、クラミジア性尿道炎の場合は一般的な膀胱炎の症状(強い排尿痛、血尿など)とは少し異なります。

これらの症状は、感染後1週間から数週間で現れることもあれば、数ヶ月経ってから現れることもあります。
多くの場合は自然に症状が消えることもあり、治ったと勘違いしてしまう人もいますが、これは病気が治ったわけではなく、細菌が体内に留まり続けている状態であり、より深刻な合併症に進展するリスクが高まります。

咽頭クラミジアの症状

オーラルセックスによって、のど(咽頭)にクラミジアが感染することもあります。
これを咽頭クラミジア感染症と呼びます。
咽頭クラミジアも無症状のことが非常に多い感染です。

症状が出たとしても、風邪や扁桃腺炎と区別がつきにくい軽い症状であることがほとんどです。

  • のどの軽い痛み
  • のどの違和感やイガイガ感
  • 扁桃腺の腫れや赤み
  • 首のリンパ節の腫れ

これらの症状は自然に軽快することが多いですが、感染は持続しているため、キスやオーラルセックスを通じてパートナーに感染させてしまう可能性があります。
咽頭クラミジアも放置すると、まれに肺炎などの合併症につながる可能性も指摘されています。

無症状の場合について

前述の通り、クラミジア感染症は男性でも女性でも無症状のことが最も多いです。
特に女性では無症状の割合が非常に高く、感染に全く気づかないまま数ヶ月、数年と経過してしまうことがあります。

無症状だからといって、体に影響がないわけではありません。
体内で静かに炎症が進行し、気付かないうちに卵管が癒着するなどして、将来の不妊症の原因となることがあります。
男性の場合も、精子の通り道に影響が出たり、精巣上体炎を繰り返したりすることで不妊症のリスクが高まることがあります。

自分が無症状であっても、パートナーがクラミジアに感染していることが判明して、初めて自分も感染しているかもしれないと気づくケースが非常に多いです。
また、ブライダルチェックや妊婦健診などの機会に偶然発見されることもあります。

無症状であることの危険性は、自分自身だけでなく、知らないうちに複数のパートナーに感染を広げてしまう可能性がある点にもあります。
そのため、性的な接触があった場合は、症状の有無にかかわらず、定期的な検査を受けることが重要です。
特に、新たなパートナーとの関係が始まった際や、複数のパートナーがいる場合は、定期的な検査を習慣にすることをお勧めします。

クラミジア感染症の感染経路

クラミジア感染症は、主に性的な接触によって感染する病気です。
クラミジア・トラコマティスという細菌が、性器の粘膜、のどの粘膜、直腸の粘膜などを介して伝播します。

性行為による感染

最も一般的な感染経路は、性器と性器の接触(膣性交)です。
感染者の膣や尿道、子宮頸管にいるクラミジアが、性行為によってパートナーの性器に感染します。

また、性器と口の接触(オーラルセックス)や、性器と肛門の接触(アナルセックス)によっても感染します。

  • オーラルセックス: 感染者の性器にいたクラミジアが、オーラルセックスによってパートナーののどに感染したり、パートナーののどにいたクラミジアが性器に感染したりします。
  • アナルセックス: 感染者の性器や直腸にいたクラミジアが、アナルセックスによってパートナーの直腸に感染したり、直腸から性器に感染したりします。

つまり、キスだけでは感染リスクは低いですが、体液(精液、膣分泌液など)が直接触れる、または粘膜同士が接触する性的な行為全般によって感染する可能性があるということです。

性行為以外での感染可能性(えっち以外)

「性行為(えっち)以外でクラミジアに感染することはあるのか?」という疑問を持つ方は少なくありません。
結論から言うと、性行為以外の日常生活の中でクラミジアに感染する可能性は極めて低いです。

クラミジア・トラコマティスは、人間の細胞の中でしか生きられない細菌であり、乾燥や温度変化に弱いです。
そのため、空気中や水中で長時間生存することはできません。

  • タオルや衣類からの感染: 感染者の使用したタオルや下着を介して感染することは、ほぼ考えられません。
    細菌が乾燥したり、量が少なすぎたりするため、感染が成立する可能性はゼロに近いです。
  • 温泉やプールからの感染: 浴槽のお湯やプールの水から感染することも、まずありません。
    水中でクラミジアが生存・増殖することはなく、仮に細菌が存在しても量が非常に少なく、感染につながる濃度にはなりません。
  • トイレの便座からの感染: トイレの便座に触れて感染することもありません。
  • 食器やコップからの感染: 唾液を介して咽頭クラミジアがうつる可能性は理論上考えられますが、通常のキスや食器の共有で感染が成立するほどの細菌量がある可能性は低く、稀なケースと考えられています。
    ディープキスであればリスクは高まります。

これらのことから、「えっち以外」で感染する可能性は、医療行為に伴う例外的なケースなどを除き、日常生活の中では考えなくて良いほど低いと言えます。

誰ともしていないのに感染?(旦那としかしてないのに感染)

特に女性の場合、「夫(旦那)としか性行為をしていないのに、クラミジアに感染していると言われた」という状況で、パートナーに対して強い不信感を抱いたり、混乱したりすることがあります。

このケースで考えられる可能性はいくつかあります。

  1. 現在のパートナーからの感染: パートナーが過去に感染していた、または他の相手と性交渉があり感染したクラミジアが、性行為を通じて本人に感染した。
    男性も女性も無症状の場合があるため、パートナー自身も感染に気づいていない可能性があります。
  2. 過去のパートナーからの感染: 本人が過去の性行為で感染し、その後何年も無症状のまま経過し、現在のパートナーとの関係中に検査を受けて初めて感染が判明した。
    女性は特に無症状で経過することが多いため、この可能性も十分に考えられます。
    「誰ともしていないのに」と感じていても、実は過去の感染であったというケースは珍しくありません。
  3. パートナーが過去の性行為で感染し、無症状のまま経過していたクラミジアが、現在の性行為によって本人に感染した。

「旦那としかしてないのに感染」という状況は、必ずしもパートナーの最近の浮気を意味するわけではありません。
無症状の期間が長いことや、過去の感染が原因である可能性も十分にあります。
重要なのは、パートナーと一緒に検査を受け、陽性であれば一緒に治療を行うことです。
お互いが治療せずにいると、治っても再び相手から感染してしまう「ピンポン感染」を繰り返してしまいます。

母子感染

クラミジア感染症は、妊娠中の母親から赤ちゃんへ感染する可能性があります。
これを母子感染と呼びます。

感染している妊婦が分娩時に、産道を通る際に赤ちゃんにクラミジアが感染します。
これにより、生まれたばかりの赤ちゃん(新生児)が肺炎や結膜炎を発症することがあります。

  • 新生児クラミジア結膜炎: 生後数日から2週間頃に、目の充血や目やにが増える症状が見られます。
  • 新生児クラミジア肺炎: 生後数週間から数ヶ月頃に、咳や呼吸困難などの症状が見られます。

母子感染を防ぐために、妊婦健診でクラミジアの検査が行われます。
もし感染が見つかれば、妊娠中でも安全な抗生物質を使って治療を行います。
適切な時期に治療すれば、赤ちゃんへの感染リスクを大幅に減らすことができます。

クラミジア感染症の潜伏期間

クラミジア感染症の潜伏期間は、感染してから症状が現れるまでの期間のことです。

一般的に、クラミジア感染症の潜伏期間は1週間から3週間程度とされています。
この期間はあくまで目安であり、個人差が大きいです。

  • 感染後、数日という比較的短い期間で症状が現れる人もいます。
  • 一方で、数週間、あるいは数ヶ月経ってから症状が現れる人もいます。
  • そして、前述のように、全く症状が現れないまま、数ヶ月、数年と経過する人も多くいます。

潜伏期間中であっても、他人に感染させる可能性はあります。
また、潜伏期間が過ぎて症状が現れず無症状の状態であっても、体内に細菌は存在し、他人に感染させるリスクは持続します。

そのため、感染の可能性がある性行為があった場合は、潜伏期間を考慮して適切なタイミングで検査を受けることが重要になります。(検査を受けるタイミングについては後述します)

クラミジア感染症の検査

クラミジア感染症は自覚症状がないことが多いため、感染の疑いがある場合は積極的に検査を受けることが、早期発見と治療、そして感染拡大の防止につながります。

検査方法の種類

クラミジア感染症の検査は、主に病原体であるクラミジア・トラコマティスの遺伝子を検出する方法(核酸増幅法)が用いられます。
この方法は感度が高く、比較的早期の感染も検出可能です。

検査方法としては、感染が疑われる部位から検体を採取して行います。

  • 男性の場合:
    • 尿検査: 最も一般的で体への負担が少ない方法です。
      排尿開始時の初尿(出始めの尿)を採取します。
      尿道クラミジアの検出に適しています。
    • 尿道ぬぐい液検査: 尿道に細い綿棒を入れて分泌物などを採取する方法です。
      尿検査で難しい場合や、より確実な診断が必要な場合に行われることがあります。
    • うがい液検査: 咽頭クラミジアの検査で行われます。
      特定のうがい液でガラガラうがいをして、その液を提出します。
    • 直腸ぬぐい液検査: アナルセックスによる感染が疑われる場合に行われます。
      直腸に綿棒を入れて検体を採取します。
  • 女性の場合:
    • 子宮頸管ぬぐい液検査: 最も一般的な方法です。
      婦人科の内診台で、子宮の入り口(子宮頸管)から分泌物などを採取します。
    • 膣ぬぐい液検査: 子宮頸管まで届かない場合や、患者さん自身で採取キットを使って行う場合などに選択されることがあります。
    • 尿検査: 症状が出ている場合などに行われることがありますが、子宮頸管への感染の検出感度は子宮頸管ぬぐい液検査よりも劣るとされています。
    • うがい液検査: 咽頭クラミジアの検査で行われます。
      男性と同様にうがい液を提出します。
    • 直腸ぬぐい液検査: アナルセックスによる感染が疑われる場合に行われます。

通常、検査結果は数日(2~5日程度)で判明することが多いです。

検査を受けるタイミング

クラミジアの検査は、感染機会があった日から一定期間経過してから受ける必要があります。
感染直後はまだ細菌が増殖しておらず、検査で検出できない可能性があるためです。

一般的に、感染の可能性がある性行為から24時間以上、可能であれば数日〜1週間程度経過してから検査を受けることが推奨されています。

ただし、最も確実な結果を得るためには、感染機会から2週間程度経ってから検査を受けるのが良いとする医療機関もあります。
これは、クラミジアが体内で一定量に増殖するのに時間がかかるためです。

  • 「もしかして感染したかも?」と心配になったら、まずは医療機関(泌尿器科、産婦人科、性病科など)に相談しましょう。
  • 具体的な感染機会や最後の性行為について医師に伝え、最適な検査方法とタイミングについてアドバイスを受けてください。
  • 無症状でも定期的に検査を受けたいという場合は、パートナーが変わったタイミングや、最後に検査を受けてから半年~1年程度を目安に検査を検討すると良いでしょう。

なお、市販の郵送検査キットも存在しますが、信頼できる業者を選び、陽性だった場合は必ず医療機関を受診して正式な診断と治療を受けるようにしましょう。
また、正しい検体採取ができない場合、偽陰性(感染しているのに陰性と出る)となる可能性もあるため、医療機関での検査が最も推奨されます。

クラミジア感染症の治療

クラミジア感染症は、適切な治療を受ければ完治する病気です。
治療の中心は、クラミジア・トラコマティスに有効な抗生物質の内服です。

治療薬(抗生物質)について

クラミジア感染症の治療には、主に以下の種類の抗生物質が使用されます。

薬剤の種類 代表的な薬剤 服用方法 特徴
マクロライド系 アジスロマイシン (例: ジスロマック) 1回服用 (1日分をまとめて服用) 最もよく使われる薬剤の一つ。
1回の服用で治療が完了するため、飲み忘れのリスクが少なく、治療しやすい。
ただし、稀に耐性を示す菌も存在する。
テトラサイクリン系 ドキシサイクリン (例: ビブラマイシン) 1日1~2回、7日間服用 古くから使われている薬剤で、クラミジアに高い効果を示す。
複数日服用する必要があるため、飲み忘れに注意が必要。
ニューキノロン系 レボフロキサシン (例: クラビット) 1日1回、7日間服用 (アジスロマイシンやドキシサイクリンが使えない場合など) 幅広い細菌に有効な薬剤。
クラミジア治療にも用いられるが、他の薬剤が優先されることが多い。

どの薬剤を選択するかは、感染部位、患者さんのアレルギー歴、他の疾患や内服薬、妊娠の可能性などを考慮して医師が判断します。
指示された用量と期間を守って、正しく服用することが重要です。

自然治癒はするのか?(クラミジア 男性 自然治癒)

「クラミジアは自然に治るのか?」という疑問を持つ方は多いですが、クラミジア感染症が自然に完治することは、まず期待できません。

特に男性の場合、「症状が軽かったから」「しばらくしたら症状が消えたから」といって放置してしまう人がいますが、これは治ったわけではなく、無症状のまま細菌が体内に潜んでいる状態です。

自然治癒を期待して放置した場合、以下のようなリスクが高まります。

  • 症状の悪化や再発: 一時的に症状が消えても、体の抵抗力が落ちた時などに再び症状が現れることがあります。
  • 合併症の発症: 尿道炎から精巣上体炎へ、子宮頸管炎から骨盤内炎症性疾患へと、感染が拡大し重篤な状態になるリスクが高まります。
  • 不妊症のリスク: 炎症が長期間続くと、卵管や精子の通り道がダメージを受け、将来不妊の原因となる可能性が非常に高まります。
  • パートナーへの感染: 無症状であっても感染力はあるため、知らないうちにパートナーに感染を広げてしまいます。
  • ピンポン感染: 治療を受けずにパートナーと性行為を続けると、お互いの間で感染を繰り返してしまい、いつまでも治らない状況に陥ります。

特に「クラミジア 男性 自然治癒」は期待できないと考えてください。
症状が軽い、あるいは無症状であっても、検査で陽性であれば必ず治療が必要です。
自己判断で放置せず、必ず医療機関で適切な診断と治療を受けましょう。

治療期間と注意点

クラミジア感染症の治療期間は、使用する抗生物質の種類によって異なります。

  • アジスロマイシン(1回服用タイプ): 1回の服用で治療が完了します。
    薬の効果が体内で数日間持続するため、これで十分な治療効果が得られます。
  • ドキシサイクリンやレボフロキサシン(複数日服用タイプ): 通常、7日間連続して服用します。
    医師から指示された期間、毎日忘れずに服用することが重要です。
    症状が改善しても、自己判断で服用を中止しないでください。

治療期間中の注意点としては、以下の点が非常に重要です。

  • 性行為を控える: 治療期間中は性行為を控えるようにしてください。
    これは、治療中のパートナーに感染させることや、治療が不十分な状態での再感染を防ぐためです。
    特に、1回服用タイプのアジスロマイシンを服用した場合でも、薬の効果が体内で安定するまで数日(目安として1週間程度)は性行為を控えることが推奨されます。
  • パートナーも一緒に治療する: これが最も重要です。
    自分が治療しても、感染しているパートナーが治療を受けないと、性行為によって再び感染してしまいます(ピンポン感染)。
    必ずパートナーにも検査を受けてもらい、陽性であれば一緒に治療を開始してください。
    パートナーが陰性であったとしても、念のため治療を推奨される場合もあります。
  • 指示通りに薬を服用する: 複数日飲むタイプの薬の場合、飲み忘れがないように注意しましょう。
    飲み忘れた場合は、気づいた時点で服用し、その後は通常のスケジュールに戻してください。
    ただし、次の服用時間が近い場合は、医師や薬剤師に相談してください。
  • 治療後の検査(治癒確認検査): 抗生物質の服用終了から一定期間(目安として2週間~1ヶ月程度)経ってから、治癒しているかを確認するための再検査(完治確認検査、Test of Cure: TOC)を受けることが推奨されます。
    特に女性の場合、薬の効果が十分か確認するためにも重要です。
    医師の指示に従って、必ず再検査を受けましょう。

適切に治療すればクラミジア感染症は治癒しますが、一度治っても免疫ができるわけではないため、再び感染機会があれば何度でも再感染する可能性があります。
予防策を講じることが大切です。

クラミジア感染症の合併症

クラミジア感染症を放置したり、適切な治療を受けなかったりすると、感染が体の他の部位に広がり、様々な合併症を引き起こす可能性があります。
これらの合併症は、不妊症など将来にわたって深刻な影響を及ぼすことがあります。

男性の合併症

男性の場合、尿道から感染が上行性に広がることがあります。

  • 精巣上体炎(副睾丸炎): 最も一般的な合併症です。
    陰嚢(玉袋)の腫れ、痛み、発熱などを伴います。
    炎症が強い場合や繰り返す場合、精子の通り道である精巣上体にダメージを与え、精子の通過障害による不妊症の原因となることがあります。
  • 前立腺炎: 前立腺に炎症が起き、排尿時の痛み、頻尿、会陰部(股間)の不快感などが起こることがあります。
  • ライター症候群(反応性関節炎): 非常に稀ですが、クラミジア感染をきっかけに、関節炎、尿道炎、結膜炎が同時に起こることがあります。
  • 直腸炎: アナルセックスによる感染で起こり、直腸からの出血、痛み、分泌物などの症状が出ることがあります。
  • 咽頭炎: オーラルセックスによる感染で起こり、のどの痛みなどが出ることがありますが、無症状のことも多いです。

女性の合併症

女性の場合、子宮頸管から子宮、卵管、骨盤内へと感染が広がりやすく、男性よりも重篤な合併症を引き起こすリスクが高い傾向にあります。
特に無症状で経過することが多いため、気づかないうちに進行してしまう点が危険です。

  • 骨盤内炎症性疾患(PID: Pelvic Inflammatory Disease): 子宮、卵管、卵巣など、骨盤内の生殖器に炎症が起こる病気の総称です。
    下腹部痛、発熱、不正出血、おりものの増加などが症状として現れます。
    重症化すると、入院が必要になったり、腹膜炎を併発したりすることもあります。
    PIDは、将来の不妊症、異所性妊娠(子宮外妊娠)、慢性的な骨盤痛の大きな原因となります。
  • 卵管炎: 卵管に炎症が起きると、卵管が腫れたり、詰まったり、周囲と癒着したりします。
    これにより、卵子や受精卵が子宮へ移動できなくなり、不妊症や異所性妊娠の原因となります。
    卵管のダメージは回復が難しく、クラミジア感染による不妊は、女性不妊の原因の大きな割合を占めています。
  • 腹膜炎: 骨盤内の炎症が腹腔全体に広がると、腹膜炎を起こし、強い腹痛や発熱などを伴います。
    緊急手術が必要になることもあります。
  • 肝周囲炎(Fitz-Hugh-Curtis症候群): クラミジアによる骨盤内炎症が肝臓の表面にまで広がり、肝臓の周囲に炎症や癒着を起こすことがあります。
    右上腹部の痛みを伴うことがあります。
  • 直腸炎: アナルセックスによる感染で起こります。
  • 咽頭炎: オーラルセックスによる感染で起こります。

女性のクラミジア感染症が恐ろしいのは、自覚症状がないままこれらの合併症に進展するリスクが高いことです。
症状がないからといって放置せず、定期的な検査を受けることが、将来の深刻な健康問題を防ぐために極めて重要です。

妊婦が感染した場合のリスク

妊娠中にクラミジアに感染していると、本人だけでなく赤ちゃんにもリスクがあります。

  • 流早産: クラミジア感染が原因で、流産や早産のリスクが高まることが知られています。
  • 低出生体重児: 赤ちゃんの出生体重が少なくなるリスクも指摘されています。
  • 母子感染: 分娩時に産道を通る際に、赤ちゃんにクラミジアが感染し、新生児結膜炎や新生児肺炎を引き起こす可能性があります。
    特に肺炎は重症化することもあり、注意が必要です。

これらのリスクを避けるために、多くの妊婦健診では初期にクラミジアの検査が行われます。
もし陽性であれば、妊娠中でも安全性の確認されている抗生物質を用いて治療が行われます。
これにより、母子感染のリスクを大幅に減らすことができます。

妊娠を希望する方や、妊娠中の方は、クラミジアを含む性感染症の検査を必ず受けましょう。
パートナーも一緒に検査・治療を受けることが大切です。

クラミジア感染症の予防

クラミジア感染症は、性的な接触によって広がるため、性行為における予防策が最も重要です。

  • コンドームの正しい使用: コンドームを性行為の最初から最後まで正しく使用することは、クラミジアを含む性感染症の予防に最も効果的です。
    ただし、コンドームが覆わない部分からの感染(例えば、オーラルセックスによる咽頭感染や、肛門周辺への感染)を完全に防ぐことはできません。
  • 不特定多数との性行為を避ける: 性行為のパートナーが多いほど、感染リスクは高まります。
    特定のパートナーとの関係を維持し、お互いの健康状態を把握することがリスクを減らすことにつながります。
  • 新たなパートナーとの性行為の前に検査を受ける: 新しいパートナーとの性的な関係が始まる前に、お互いが性感染症の検査を受けることは、安心して関係を続けるために推奨される予防策です。
    「ブライダルチェック」として知られていますが、結婚を控えていない場合でも行う価値はあります。
  • 定期的な検査: 性的な経験がある方、特にパートナーが変わった方や複数のパートナーがいる方は、症状がなくても定期的にクラミジアを含む性感染症の検査を受けることが重要です。
    これにより、早期に感染を発見し、自分自身の健康を守り、パートナーへの感染を防ぐことができます。
    年に1回や、パートナーが変わるたびなど、自身のリスクに応じて定期的な検査を検討しましょう。
  • 口腔内の衛生にも注意: オーラルセックスを行う場合は、口腔内の衛生も重要ですが、うがい薬などによる予防効果は限定的です。
    オーラルセックスにおいても感染リスクがあることを認識しておくことが大切です。
  • パートナーの検査と治療: 自分がクラミジアに感染していた場合、必ずパートナーにも検査を受けてもらい、陽性であれば一緒に治療することが、再感染を防ぐ上で極めて重要です。

クラミジア感染症は一度治っても再感染する可能性がある病気です。
予防策を継続的に行うことが、自分自身とパートナーの健康を守る上で最も大切です。

クラミジア感染症に関するよくある質問

クラミジア感染症に関して、多くの方が疑問に思う点についてQ&A形式で解説します。

質問 回答
Q1. クラミジアの検査費用はどれくらい? 検査費用は、保険適用となるか(症状がある場合や、パートナーの感染が判明した場合など)、自費診療となるか(症状がない場合の自主的な検査やブライダルチェックなど)で大きく異なります。
保険適用の場合、自己負担額は数千円程度になることが多いです。
自費診療の場合、医療機関によって異なりますが、5,000円~15,000円程度が目安となることが多いです。
郵送検査キットも同様の価格帯が多いです。
Q2. どこで検査や治療を受けられるの? 泌尿器科(男性)、産婦人科または婦人科(女性)、性病科、皮膚科などで検査や治療を受けることができます。
最近では、オンライン診療で検査キットを郵送してもらい、結果に応じてオンラインで診察・処方まで対応しているクリニックもあります。
どこを受診すれば良いか迷う場合は、お住まいの地域の保健所や性感染症に関する相談窓口に問い合わせてみるのも良いでしょう。
Q3. 市販薬でクラミジアは治せる? 市販薬でクラミジアを治すことはできません。
クラミジア感染症の治療には、医師の処方箋が必要な特定の抗生物質が必要です。
自己判断で市販の抗菌薬や風邪薬などを服用しても効果はなく、かえって診断や治療を遅らせ、合併症のリスクを高めるだけです。
必ず医療機関を受診してください。
Q4. 一度治ってもまた感染する? はい、再感染します。
クラミジア感染症は、一度かかっても免疫ができる病気ではありません。
治療して完治しても、再び感染機会があれば何度でも感染する可能性があります。
そのため、再感染を防ぐための予防策(コンドームの使用や定期的な検査など)が重要です。
特に、パートナーが治療を受けていないと、完治してもすぐに再感染してしまう「ピンポン感染」が起こりやすいので注意が必要です。
Q5. 妊娠希望ですが、クラミジアが心配です。 妊娠を希望される方は、クラミジアを含む性感染症の検査を受けておくことを強くお勧めします。
もし感染が見つかった場合、妊娠前に治療を完了しておくことで、妊娠中のリスク(流早産、母子感染など)を避けることができます。
ブライダルチェックの一環として行う医療機関も多いです。
Q6. パートナーが陽性でした。症状がないのですが、私も検査すべき? はい、必ず検査を受けてください。
クラミジアは無症状のことが非常に多いため、症状がないからといって感染していないとは限りません。
パートナーが陽性であれば、本人も感染している可能性が非常に高いです。
無症状でも放置すると将来不妊などのリスクがあるため、一緒に検査・治療を受けることが重要です。
Q7. 完治の確認は必要? はい、治療後の再検査(治癒確認検査)を受けることが推奨されます。
特に女性の場合、薬の効果が十分か確認するためにも重要です。
医師の指示に従い、治療終了から一定期間(目安として2週間~1ヶ月程度)経ってから検査を受けましょう。
再感染との区別のため、期間を守ることが大切です。

クラミジア感染症の検査・治療は医療機関へ

クラミジア感染症は、性感染症の中で最も一般的でありながら、無症状であることが多いため、感染に気づかないまま放置されやすい病気です。
しかし、放置すると不妊症やその他の重篤な合併症につながるリスクが高まります。

もし、クラミジア感染の可能性がある性行為があった、パートナーが感染した、あるいは少しでも気になる症状があるという場合は、迷わず医療機関を受診してください。
早期に発見し、適切な治療を受ければ、クラミジア感染症は完治させることが可能です。

自己判断や市販薬での対応は症状を悪化させたり、治療を遅らせたりする危険があります。
正確な診断と適切な治療法は、医師の診察によってのみ得られます。
また、自分だけでなくパートナーも一緒に検査・治療を受けることが、病気を完全に克服し、再感染を防ぐために不可欠です。

クラミジア感染症に関して不安なこと、疑問なことがある場合は、恥ずかしがらずに医療機関の専門家にご相談ください。
プライバシーに配慮した体制を整えている医療機関も多いです。
自身の健康、そして大切なパートナーの健康を守るために、一歩踏み出す勇気を持ちましょう。

【免責事項】
本記事の情報は、一般的な知識を提供するものであり、個別の診断や治療を保証するものではありません。
クラミジア感染症に関する診断、検査、治療については、必ず医師や専門家にご相談ください。
本記事の情報に基づいて行われたいかなる行為についても、当方は一切の責任を負いません。

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