要注意!急性卵管炎のサイン|見逃せない症状と不妊への影響

急性卵管炎は、女性の生殖器である卵管に細菌などが感染して炎症が起きる病気です。卵管は、卵巣から排卵された卵子を子宮へと運び、多くの場合はこの卵管で精子と出会い受精が起こる、妊娠にとって非常に重要な器官です。ここに炎症が起きると、強い下腹部痛や発熱などのつらい症状を引き起こすだけでなく、将来の妊娠に影響を与える可能性もあります。早期に適切な診断を受け、治療を開始することが、症状の改善と合併症の予防のために非常に重要です。もし下腹部の痛みや発熱、おりものの変化など、気になる症状がある場合は、一人で悩まずに医療機関を受診することを強くお勧めします。

急性卵管炎とは?

急性卵管炎とは、子宮の左右に位置する管状の臓器である卵管に、細菌やその他の病原体が感染し、急激な炎症を引き起こす病気です。卵管は卵巣と子宮をつなぐ約10cmほどの細い管で、その機能は受精卵が子宮へ移動するための通路となること、そして精子と卵子が出会う受精の場となることです。

卵管に炎症が起きると、卵管が腫れたり、内部に膿がたまったりすることがあります。また、卵管だけでなく、隣接する卵巣にも炎症が及ぶことが多く、これらをまとめて付属器炎(ふぞくきえん)と呼びます。特に急性に発症したものが急性付属器炎と呼ばれ、その中心となるのが急性卵管炎です。

急性卵管炎は、放置すると炎症が骨盤内の腹膜や他の臓器にも広がり、骨盤腹膜炎や骨盤内膿瘍(骨盤内に膿のかたまりができること)といったより重篤な状態に進行する可能性があります。また、炎症によって卵管の壁が厚くなったり、内腔が狭くなったり、周囲の臓器と癒着したりすることで、卵管の機能が障害され、不妊症や異所性妊娠(子宮外妊娠)のリスクを高めることが知られています。

この病気は、主に細菌感染によって引き起こされ、特に性行為を介して感染する性感染症(STI)が原因となることが少なくありません。しかし、性行為の経験がない場合でも、体の常在菌などが原因で発症することもあります。

急性卵管炎の主な原因

急性卵管炎の主な原因は、細菌感染です。これらの細菌が何らかの経路で卵管に到達し、炎症を引き起こします。原因となる細菌の種類や感染経路、そして個人の体の状態によって、炎症の程度や症状は異なります。

感染経路について

急性卵管炎の原因菌が卵管に到達する主な経路は以下の通りです。

  • **上行性感染(最も多い)**: 膣や子宮頸部に存在する細菌が、子宮腔を通り、卵管へとさかのぼって感染する経路です。これは最も一般的な感染経路であり、特に性行為を介して感染する性感染症の病原菌が原因となる場合に多く見られます。月経中や月経直後は、子宮頸管がわずかに開いていることや、経血を栄養源として細菌が増殖しやすい環境になることから、感染のリスクが高まると考えられています。
  • **医療行為に伴う感染**: 子宮内避妊器具(IUD)の挿入、人工妊娠中絶、流産手術、分娩、子宮鏡検査など、子宮腔や卵管に触れる医療処置の際に、細菌が侵入して感染を引き起こすことがあります。特にIUD挿入後の数週間はリスクがやや高まるとされていますが、IUD自体が直接の原因というよりは、挿入時の処置や挿入前に存在していた感染が顕在化することが考えられます。
  • **血行性・リンパ行性感染**: 体の他の部位で起きた感染症の病原菌が、血液やリンパの流れに乗って卵管に運ばれて感染を引き起こすことがあります。ただし、この経路での感染は上行性感染に比べて稀です。
  • **腹腔からの感染**: 虫垂炎や大腸炎など、骨盤内の他の臓器で起きた炎症が、腹腔内を通じて卵管に波及して感染を引き起こすこともあります。これも比較的稀なケースです。

主な病原菌

急性卵管炎の主な原因となる病原菌には、以下のようなものがあります。多くの場合、単一の菌だけでなく、複数の菌による混合感染が起こっています。

病原菌 特徴・関連疾患 感染経路
淋菌 (Neisseria gonorrhoeae) 性感染症の代表的な原因菌。急速に炎症が広がり、症状が強く出やすい傾向があります。 主に性行為による上行性感染
クラミジア・トラコマチス (Chlamydia trachomatis) 性感染症の代表的な原因菌。自覚症状が出にくく、気付かないうちに慢性化しやすい特徴があります。 主に性行為による上行性感染
大腸菌 (Escherichia coli) 腸内常在菌。腹腔からの感染や、膣・子宮頸部から上行性に感染する場合もあります。 上行性感染、腹腔からの波及
連鎖球菌 (Streptococcus) 常在菌または外部からの感染。産婦人科領域で感染を引き起こすことがあります。 上行性感染、分娩後・流産後など
ブドウ球菌 (Staphylococcus) 常在菌または外部からの感染。医療処置後などに感染を引き起こすことがあります。 医療行為に伴う感染、上行性感染
嫌気性菌 (Anaerobic bacteria) 酸素を嫌う細菌。他の菌との混合感染として見られることが多いです。 上行性感染(特に月経血が貯留しやすい場合)

特に、淋菌とクラミジアは性感染症の病原体であり、パートナー間での感染が起こります。パートナーが無症状の場合でも、感染を広げている可能性があるため、性感染症が疑われる場合にはパートナーも一緒に検査・治療を行うことが非常に重要です。

リスク要因

急性卵管炎を発症するリスクを高める要因には、以下のようなものがあります。これらの要因がある場合は、特に注意が必要です。

  • 複数の性的パートナーがいる: 性感染症に罹患するリスクが高まるため、結果として急性卵管炎のリスクも高まります。
  • 性感染症の既往または現在の感染: 過去に性感染症にかかったことがある、あるいは現在かかっている場合は、卵管炎を起こしやすい状態にあると言えます。特に淋菌やクラミジア感染は、不妊症の原因ともなるため注意が必要です。
  • 若年での性行為開始: 生殖器が未成熟であることや、性行動の経験が少ないことなどが関連する可能性があります。
  • 子宮内避妊器具(IUD)の使用: 特に挿入後最初の数週間は、挿入処置に伴う一時的なリスクの上昇が考えられます。ただし、清潔な環境での挿入と適切な管理が行われていれば、長期的なリスクはそれほど高くありません。
  • 過去の骨盤内炎症性疾患の既往: 一度卵管炎などの骨盤内炎症を起こすと、卵管などが傷つきやすく、再発のリスクが高まります。
  • 分娩、流産、人工妊娠中絶、子宮頸部手術などの婦人科的処置後: これらの処置後、子宮や卵管が感染しやすい状態になることがあります。
  • 免疫力の低下: ストレス、疲労、病気などで体の免疫力が低下していると、細菌に感染しやすくなります。
  • 膣洗浄のしすぎ: 膣の自浄作用を妨げ、細菌叢のバランスを崩す可能性があります。

これらのリスク要因に心当たりがある場合は、症状がなくても定期的に婦人科検診を受けることや、性感染症予防に努めることが大切です。

急性卵管炎の症状

急性卵管炎の症状は、炎症の程度や原因菌、個人の体質などによって異なりますが、特徴的な症状がいくつかあります。症状の出方には個人差があり、軽症で自覚症状がほとんどない場合から、重症で緊急治療が必要な場合まで様々です。

急性期の典型的な症状

急性卵管炎の最も典型的な症状は以下の通りです。これらの症状が突然、あるいは数日かけて現れることが多いです。

  • **下腹部痛**: 最も頻繁に見られる症状です。通常は下腹部の両側に痛みが現れますが、片側だけの場合もあります。痛みの程度は軽度な鈍痛から、歩くこともままならないほどの激痛まで様々です。体を動かしたり、性交をしたり、内診を受けたりすると痛みが強くなる傾向があります。
    特に、子宮頸部を動かすと痛みが響く「子宮頸管移動時痛」は、骨盤内炎症性疾患の重要な所見の一つです。
  • **発熱**: 多くの症例で発熱が見られます。38℃以上の高熱が出ることが多く、熱の高さは炎症の重症度と関連することがあります。発熱に伴って、寒気や悪寒を感じることもあります。
  • **不正出血や帯下(おりもの)の異常**: 月経期間ではないのに出血が見られたり(不正出血)、おりものの量が増えたり、色や性状が変化したりすることがあります。卵管炎の場合、膿のような黄色や緑色のおりものや、強い悪臭を伴うおりものが見られることがあります。これは、感染が子宮頸部や膣にも及んでいる、あるいは卵管からの排出物が混ざっていることによります。

その他の随伴症状

上記の典型的な症状に加えて、以下のような症状が伴うことがあります。

  • 悪心・嘔吐: 炎症が強い場合や、腹膜に炎症が及んでいる場合に、吐き気や実際に吐いてしまうことがあります。
  • 排尿時痛、頻尿: 炎症が膀胱や尿道に波及した場合や、炎症による刺激で排尿に関する症状が出ることがあります。ただし、尿路感染症との鑑別が必要です。
  • 性交痛: 性行為の際に、下腹部や骨盤の奥に痛みを感じることがあります。これは、炎症を起こしている卵管やその周囲に刺激が加わるために起こります。
  • 全身の倦怠感: 発熱や炎症に伴って、体がだるく感じたり、疲労感が強くなったりすることがあります。
  • 食欲不振: 体の不調や悪心に伴って、食欲がなくなることがあります。

これらの症状は、急性卵管炎以外の病気でも見られることがあるため、自己判断は危険です。複数の症状が組み合わさって現れた場合は、特に注意が必要です。

慢性化した場合の症状(慢性付属器炎)

急性卵管炎が適切に治療されないまま経過したり、炎症が完全に治まらなかったりすると、炎症が慢性化して慢性付属器炎に移行することがあります。慢性付属器炎の場合、急性期のような激しい症状は少なくなる代わりに、以下のような症状が持続的あるいは断続的に現れます。

  • 鈍い下腹部痛や腰痛: 激しい痛みではなく、鈍い痛みや不快感が持続的にまたは反復的に現れます。特に疲れたり、ストレスを感じた時、月経前後に症状が悪化する傾向があります。
  • 疲労感、全身倦怠感: 全身的な不調やだるさが続きます。
  • 月経困難症の悪化: 生理痛がひどくなることがあります。
  • 不妊: 慢性的な炎症によって卵管が損傷し、卵管の通過障害やピックアップ障害(卵巣から排卵された卵子を卵管采がうまく取り込めなくなること)が起こり、妊娠しにくくなることがあります。
  • 性交痛: 慢性的な骨盤内の癒着などが原因で、性交時に痛みを伴うことがあります。

慢性付属器炎は、症状がはっきりしないことも多く、診断が難しい場合があります。しかし、放置すると不妊症などにつながる可能性があるため、慢性的な下腹部痛がある場合は、一度婦人科を受診して相談することが大切です。

診断方法

急性卵管炎の診断は、患者さんの症状、既往歴、婦人科診察、そしていくつかの検査結果を総合して行われます。典型的な症状と診察所見があれば比較的容易に診断できますが、症状が非典型的であったり、他の病気との区別が難しかったりする場合には、複数の検査が必要になります。

問診と婦人科診察

診断の第一歩は、詳細な問診と婦人科診察です。

  • 問診:
    • 現在の症状(痛みのある場所、痛みの種類や強さ、いつから始まったか、何で悪化・軽減するか)。
    • 発熱の有無、体温。
    • おりものの状態(量、色、性状、臭い)、不正出血の有無。
    • 性行為の経験、性的パートナーの人数、パートナーの性感染症の有無。
    • 避妊方法(特にIUDの使用の有無)。
    • 月経周期、最終月経日。
    • 過去の性感染症や骨盤内炎症性疾患の既往歴。
    • 妊娠・出産の経験、人工妊娠中絶や流産手術の既往。
    • その他、内科的な病気や現在服用している薬の有無。
      これらの情報から、急性卵管炎のリスク要因や原因菌の手がかりを得ることができます。
  • 婦人科診察(内診):
    • 外陰部、膣、子宮頸部の視診・触診。
    • 子宮頸部を鉗子で軽く把持して動かしたときの痛みの有無(子宮頸管移動時痛)。
    • 子宮の大きさ、形、可動性、圧痛の有無。
    • 付属器領域(卵管と卵巣のある骨盤の両脇)の腫れや圧痛、しこりの有無、可動性の低下。
      急性卵管炎の場合、子宮頸管移動時痛が強く、付属器領域にしこりや強い圧痛を触れることが多いです。

必要な検査

問診と診察で急性卵管炎が疑われた場合、確定診断や重症度の評価、原因菌の特定のために以下のような検査が行われます。

検査項目 目的・わかること
血液検査 白血球数、CRP(C反応性タンパク)などの炎症マーカーの測定。炎症の存在や程度、全身状態を評価します。貧血の有無も確認。
尿検査 尿路感染症との鑑別。妊娠反応の確認(異所性妊娠の可能性も考慮)。
子宮頸管・膣分泌物検査 感染の原因菌(特に淋菌、クラミジア)を特定するための検査です。綿棒で検体を採取し、培養検査やPCR検査が行われます。
超音波(エコー)検査 子宮や卵巣、卵管の形状、大きさ、内部の状態を確認します。卵管の腫れや液体の貯留、膿瘍形成の有無、骨盤内の腹水の有無を確認できます。経腟超音波がより詳細な情報を提供できます。
CTまたはMRI検査 超音波検査では診断が難しい場合や、骨盤内膿瘍の広がり、他の臓器との関係などを詳しく評価する必要がある場合に行われます。
腹腔鏡検査 診断が非常に困難な場合や、膿瘍のドレナージ(膿を出す処置)など治療を兼ねて行われることがあります。直接、卵管や骨盤内の状態を観察できます。侵襲的な検査であるため、通常は他の検査で診断がつかない場合に考慮されます。

これらの検査結果を総合的に判断し、急性卵管炎の診断を確定し、適切な治療法を決定します。特に性感染症の検査は、パートナーの治療のためにも重要です。

鑑別すべき疾患

急性卵管炎の症状は、骨盤内の他の様々な疾患と似ていることがあります。正確な診断のために、以下の疾患との鑑別が必要です。

  • 急性虫垂炎: 右下腹部痛が典型的ですが、卵管炎も右側に強い痛みが出ることがあります。発熱や吐き気などの症状も共通します。
  • 尿路感染症(膀胱炎、腎盂腎炎): 排尿時痛や頻尿、発熱などの症状が似ています。尿検査で区別できます。
  • 異所性妊娠(子宮外妊娠): 特に卵管妊娠の場合、下腹部痛や不正出血が見られます。破裂すると激しい腹痛と出血性ショックを起こし、緊急手術が必要となる場合があります。妊娠反応検査や超音波検査で区別します。
  • 卵巣出血、卵巣嚢腫茎捻転: 突然の強い下腹部痛が特徴です。超音波検査で卵巣の状態を確認します。
  • 子宮内膜症: 慢性的な骨盤痛や性交痛、月経困難症を来しますが、急性に悪化して卵管炎と似た症状を示すことがあります。
  • 消化器疾患: 憩室炎、腸炎なども下腹部痛の原因となります。
  • 骨盤内腫瘍: 腫瘍が原因で痛みを引き起こしたり、炎症を伴ったりすることがあります。

これらの疾患との鑑別は、問診、診察、そして前述の各種検査を組み合わせて慎重に行われます。

急性卵管炎の治療法

急性卵管炎の治療は、主に抗生物質を用いた薬物療法が中心となります。早期に適切な治療を開始することで、症状の改善だけでなく、不妊症や異所性妊娠などの合併症のリスクを減らすことができます。治療法は、炎症の重症度や原因菌の種類、患者さんの全身状態などによって異なります。

抗生物質による薬物療法

抗生物質は、急性卵管炎の治療において最も重要です。原因菌を死滅させることで炎症を鎮めます。

  • 抗生物質の選択: 検査で原因菌が特定される前に治療を開始する場合が多いため、淋菌、クラミジア、大腸菌、連鎖球菌、嫌気性菌など、卵管炎の原因となりうる複数の細菌に効果のある広範囲の抗生物質が選択されます。検査結果で原因菌が特定された場合は、その菌に最も効果的な抗生物質に変更されることもあります。
  • 投与経路:
    • 点滴静注: 症状が重い場合、発熱が高い場合、吐き気などで内服が難しい場合、骨盤内膿瘍が疑われる場合など、入院して点滴で抗生物質を投与することが一般的です。点滴によって、薬の成分が速やかに体内に吸収され、高い濃度で病巣に到達させることができます。症状が改善してきたら、内服薬に切り替える場合が多いです。
    • 内服: 症状が比較的軽い場合や、点滴治療後に症状が改善した場合に、自宅で内服薬による治療を行います。
  • 治療期間: 通常、抗生物質による治療は10日から14日程度行われます。症状が改善しても、医師の指示通りに最後まで抗生物質を飲み切ることが非常に重要です。途中で自己判断で服用を中止すると、菌が完全に死滅せず、再発したり慢性化したりするリスクが高まります。
  • パートナーの治療: 性感染症(特に淋菌、クラミジア)が原因の場合、パートナーも感染している可能性が高いです。パートナーが無症状であっても、必ず一緒に検査を受け、感染が確認されれば同時に治療を行う必要があります。これにより、ピンポン感染(お互いに感染させ合うこと)を防ぎ、再発を予防することができます。

その他の治療選択肢

抗生物質治療と並行して、症状を和らげるための治療が行われます。

  • 鎮痛剤: 痛みが強い場合には、炎症を抑えたり痛みを和らげたりするために、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)などの鎮痛剤が処方されます。
  • 安静: 炎症が強い急性期には、安静にすることが推奨されます。無理に動くと痛みが悪化したり、炎症が広がる可能性があります。
  • 輸液: 発熱や吐き気などで十分に水分や食事が摂れない場合には、点滴で水分や電解質、栄養を補給します。

手術が必要なケース

ほとんどの急性卵管炎は抗生物質による治療で改善しますが、以下のような場合には手術が必要となることがあります。

  • 卵管卵巣膿瘍の破裂または大きい場合: 卵管や卵巣にできた膿瘍が破裂すると、腹腔内に膿が散らばり、汎発性腹膜炎という生命にかかわる重篤な状態になります。この場合は緊急手術が必要です。また、膿瘍が大きい場合も、抗生物質だけでは改善が難しいため、手術による膿瘍の切開・ドレナージ(膿を排出する処置)や摘出が必要になることがあります。
  • 抗生物質治療に反応しない場合: 十分な期間、適切な抗生物質治療を行っても症状が改善しない場合や、かえって悪化する場合には、抗生物質が効きにくい菌による感染や、他の原因が隠れている可能性も考えられます。このような場合も、手術によって診断を確定したり、治療を行ったりすることがあります。
  • 診断が不確かな場合: 症状や検査結果から急性卵管炎が強く疑われるものの、他の病気との区別が難しい場合や、内視鏡による詳細な評価が必要な場合には、腹腔鏡検査が行われることがあります。腹腔鏡検査は、小さな傷口からカメラを入れて骨盤内を直接観察できるため、正確な診断や重症度評価、さらに簡単な治療(癒着剥離など)を行うことも可能です。

手術は、開腹手術または腹腔鏡下手術で行われます。最近は腹腔鏡下手術が低侵襲であるため、可能な限り選択される傾向にあります。

合併症と予後

急性卵管炎は、早期に適切な治療を行えば多くの場合改善し、良好な経過をたどります。しかし、治療が遅れたり、炎症が重症であったり、繰り返し炎症を起こしたりすると、卵管が損傷し、様々な合併症を引き起こす可能性があります。これらの合併症は、将来の妊娠や長期的な健康に影響を与えることがあります。

不妊症との関連

急性卵管炎の最も重要な合併症の一つが不妊症です。炎症によって卵管の壁が厚くなったり、内腔が狭くなったり、完全に閉塞したりすることがあります。また、卵巣の近くにある卵管采(卵子をキャッチする部分)の機能が障害されたり、卵管の周囲の臓器と癒着したりすることもあります。

卵管は、排卵された卵子を取り込み、精子と出会って受精し、受精卵を子宮まで運ぶという、妊娠成立に不可欠な役割を担っています。卵管が損傷すると、これらの機能が損なわれ、自然な妊娠が難しくなります。特に、両側の卵管が閉塞してしまった場合は、自然妊娠は非常に困難になり、体外受精などの生殖補助医療が必要になることがあります。

卵管炎の炎症が強かったり、繰り返したりするほど、卵管の損傷が進行し、不妊症になるリスクが高まります。特に原因が淋菌やクラミジアによる場合、卵管へのダメージが大きい傾向があります。過去に急性卵管炎にかかったことがある女性の約10~20%が不妊症になると言われています。

異所性妊娠のリスク

異所性妊娠(子宮外妊娠)とは、受精卵が正常な子宮内腔以外の場所に着床してしまう妊娠です。最も多いのが卵管に着床する卵管妊娠です。

急性卵管炎によって卵管が損傷を受けると、卵管の内腔が狭くなったり、卵管の動きが悪くなったりすることがあります。これにより、受精卵が卵管をスムーズに通過して子宮まで到達できず、途中の卵管内で着床してしまうリスクが高まります。

異所性妊娠は、進行すると卵管が破裂して腹腔内に出血し、母体の生命にかかわる状態となる危険な病態です。下腹部痛、不正出血などの症状が見られ、急性卵管炎の症状と紛らわしいこともあります。過去に卵管炎の既往がある女性は、異所性妊娠のリスクが有意に高いことが知られています。もし、卵管炎の既往がある方が妊娠した可能性がある場合、早期に医療機関を受診し、子宮内に正常に妊娠しているか確認することが非常に重要です。

慢性骨盤痛

急性卵管炎の炎症が治まった後も、骨盤内に癒着(臓器同士がくっついてしまうこと)が残ることがあります。この癒着が原因で、慢性的な下腹部痛や腰痛が続くことがあります。これを慢性骨盤痛と呼びます。痛みの程度は様々ですが、日常生活に支障をきたすこともあります。

また、卵管炎が肝臓の周囲に炎症を引き起こす「フィッツ・ヒュー・カーティス症候群」という合併症もあります。これは特にクラミジア感染との関連が深く、右季肋部(みぎきろくぶ:右あばら骨の下あたり)の痛みを引き起こします。

これらの合併症は、急性卵管炎の発症から数週間後、数ヶ月後、あるいは数年後に明らかになることもあります。したがって、急性卵管炎と診断された場合は、症状が改善した後も、定期的な婦人科検診を受け、卵管の状態などを確認することが望ましいです。

急性卵管炎の予防

急性卵管炎は、主に細菌感染によって引き起こされるため、感染を防ぐことが最も効果的な予防策となります。特に性行為を介した感染が多いため、性感染症の予防が非常に重要です。

  • 性感染症の予防:
    • コンドームの使用: 性行為時にコンドームを正しく使用することは、淋菌やクラミジアなどの性感染症の感染リスクを減らすために最も効果的な方法の一つです。
    • パートナーとのコミュニケーション: パートナーの性感染症の有無や、複数のパートナーがいるかどうかなどを話し合うことも重要です。
    • 不特定多数との性行為を避ける: 性的なパートナーの数が多ければ多いほど、性感染症に罹患するリスクは高まります。
  • 早期発見・早期治療: 性感染症にかかった場合や、急性卵管炎の初期症状(下腹部痛、おりもの異常など)に気付いた場合は、できるだけ早く医療機関を受診し、検査・治療を受けることが大切です。早期に適切な治療を開始することで、卵管炎への進行や重症化を防ぐことができます。
  • 定期的な婦人科検診: 性行為の経験がある方は、定期的に婦人科検診を受け、性感染症の検査も行うことを検討しましょう。特に症状がなくても、クラミジア感染などは無症状で進行することが多いため、定期的な検査が早期発見につながります。
  • 医療処置時の注意: 子宮内避妊器具(IUD)の挿入や人工妊娠中絶などの医療処置を受ける際は、信頼できる医療機関で、清潔な環境で行われることを確認しましょう。処置後に体調の変化があった場合は、すぐに医療機関に相談してください。
  • 過度な膣洗浄を避ける: 膣には自浄作用があり、健康な状態では細菌バランスが保たれています。過度な膣洗浄は、このバランスを崩し、感染しやすい状態を作ることがあります。医師の指示がない限り、頻繁な膣洗浄は避けるべきです。
  • 体の免疫力を保つ: 十分な睡眠、バランスの取れた食事、適度な運動など、規則正しい生活を送ることで体の免疫力を維持することも、感染症全般の予防につながります。

急性卵管炎は、適切な予防策を講じることでそのリスクを減らすことが可能です。また、万が一症状が現れた場合でも、早期に医療機関を受診することが、重症化や合併症を防ぐために最も重要です。自分の体の変化に注意を払い、気になる症状があれば迷わずに婦人科医に相談するようにしましょう。

免責事項:本記事は急性卵管炎に関する一般的な情報提供を目的としており、医学的な診断や治療の代替となるものではありません。ご自身の症状については、必ず医療機関を受診し、医師の診断と指導を受けてください。

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