外陰がんは、女性の生殖器の外側、外陰部に発生するがんです。
比較的まれながんですが、初期にはかゆみやしこり、ただれなど、他の疾患と間違えやすい症状が現れることがあります。
この記事では、外陰がんの基本的な情報から、見過ごされがちな初期症状、原因やリスク要因、診断方法、そして最新の治療法や予後について詳しく解説します。
ご自身の体への理解を深め、気になる症状がある場合には、早期に専門医へ相談することの重要性をお伝えします。
外陰がんとは
外陰がんは、女性の外陰部に発生する悪性腫瘍の総称です。外陰部とは、大陰唇、小陰唇、陰核(クリトリス)、会陰(えいん:膣と肛門の間)などを含む、女性の生殖器の外側の部分を指します。このがんは、女性器のがんの中では子宮頸がんや子宮体がんなどに比べて発生頻度は低いものの、特に高齢の女性に多く見られる傾向があります。
外陰がんは、発生した部位やがんの種類によって性質や進行のスピードが異なります。早期に発見し適切な治療を行うことで、比較的良好な予後が期待できるがんです。しかし、初期症状が他の病気と似ていたり、症状がない場合もあるため、見過ごされてしまうことも少なくありません。
外陰がんの初期症状
外陰がんは、初期にはあまりはっきりとした症状が出ないこともありますが、見過ごされがちなサインが現れることがあります。これらの症状に気づき、早期に医療機関を受診することが非常に重要です。
見られる主な症状
外陰がんの初期症状として最も多く見られるのは、かゆみです。外陰部のかゆみは、カンジダ膣炎や皮膚炎など、がん以外の原因でもよく起こる症状のため、軽視されがちです。しかし、長期間続くかゆみや、市販薬を使っても改善しないかゆみは注意が必要です。
その他に現れる可能性のある症状には、以下のようなものがあります。
- しこりやできもの: 痛みがない硬いしこりや、徐々に大きくなるできもの。いぼや吹き出物と間違えやすいことがあります。
- ただれや潰瘍: なかなか治らないただれや、表面が崩れてくぼんだ潰瘍。見た目が湿疹やヘルペスと似ていることがあります。
- 皮膚の色や質感の変化: 皮膚が厚く硬くなったり、白っぽく(白斑)あるいは赤っぽく変化したりすることがあります。
- 痛みやヒリヒリ感: 病変がある部分に痛みを伴うことがあります。
- 出血: 性交後や、こすれた後に不正出血が見られることがあります。進行すると、おりものに血が混じることもあります。
これらの症状は、外陰がん以外の良性の疾患でも見られるものがほとんどです。しかし、「いつものことだから」と放置せず、いつもと違う、あるいは気になる症状が続く場合は、一度専門医に相談することが大切です。
早期では自覚症状がない場合も
外陰がんは、初期の段階では自覚症状が全くないことも珍しくありません。特に小さながんや、皮膚の表面に広がるタイプのがん(パジェット病など)では、見た目の変化もわずかで、患者さん自身が気づきにくい場合があります。
症状がないまま進行してしまうケースもあるため、日頃からご自身の外陰部の状態に関心を持ち、入浴時などに鏡を使ってセルフチェックを行うことが推奨されます。少しでも気になる変化があれば、婦人科を受診しましょう。
外陰がんの原因とリスク要因
外陰がんが発生する正確なメカニズムは完全には解明されていませんが、いくつかの重要な原因やリスク要因が特定されています。
主な原因(HPV感染)
外陰がんの最も主要な原因として知られているのは、ヒトパピローマウイルス(HPV)の感染です。特に、子宮頸がんの原因ともなる高リスク型のHPV(主に16型、18型など)が、外陰がんの一部(特に扁平上皮癌)の発生に深く関与していることが分かっています。
HPVは性的な接触によって感染するウイルスで、多くの人が一生に一度は感染するといわれています。感染しても多くの場合、自然に排除されますが、一部の人で持続的に感染が続くと、前がん病変を経てがんへと進行する可能性があります。外陰部以外にも、子宮頸部、膣、肛門、口腔、中咽頭など、様々な部位のがんの原因となります。
外陰がんのうち、HPV感染に関連するタイプは比較的若年層にも見られることがあります。
その他リスク要因
HPV感染以外にも、以下のような様々な要因が外陰がんのリスクを高める可能性があります。
- 年齢: 外陰がんは高齢の女性に多く見られます。閉経後の女性、特に60歳以上の女性の発生率が高い傾向があります。
- 喫煙: 喫煙は、HPV感染によるがん化を促進するなど、様々ながんのリスクを高めることが知られており、外陰がんも例外ではありません。
- 外陰部の慢性的な皮膚疾患: 外陰硬化性苔癬(がいんこうかせいたいせん)や扁平苔癬(へんぺいたいせん)など、外陰部に慢性的な炎症や組織の変化を引き起こす皮膚疾患がある場合、がん化のリスクが高まると言われています。
- 免疫機能の低下: HIV感染や臓器移植後の免疫抑制療法などにより、免疫機能が低下している状態では、HPVの排除が困難になり、がんが発生しやすくなる可能性があります。
- 子宮頸がんや膣がんの既往歴: 過去にHPV関連の子宮頸がんや膣がんを経験したことのある女性は、外陰がんを発症するリスクが高いとされています。
これらのリスク要因を持っているからといって必ず外陰がんになるわけではありませんが、リスクを理解し、定期的なチェックや医療機関への相談を怠らないことが重要です。
外陰がんの発生部位と組織型
外陰がんは外陰部の様々な場所に発生し、また、がん細胞の種類(組織型)によっても特徴が異なります。
好発部位
外陰がんは、外陰部のどの部分にも発生する可能性がありますが、比較的多く見られる場所があります。
- 大陰唇: 最も頻繁にがんが発生する部位の一つです。
- 小陰唇: 大陰唇に次いで多く見られます。
- 陰核(クリトリス): 発生頻度は低いですが、重要な構造であるため、がんと診断された場合の治療に影響を与えることがあります。
- 会陰(えいん): 膣と肛門の間に位置する部分で、ここに発生することもあります。
- その他: 外陰前庭部(膣の入り口周囲)などに発生することもあります。
複数の場所に同時にがんが発生する、あるいは周辺の皮膚に広がることもあります。
主な組織型
外陰がんは、がん細胞がどのような細胞から発生したかによって、いくつかの組織型に分類されます。最も一般的な組織型は以下の通りです。
組織型 | 特徴 | 発生頻度 | 主な原因 |
---|---|---|---|
扁平上皮癌 | 外陰部の皮膚や粘膜を覆う扁平上皮から発生する。 | 最も多い | HPV感染に関連する場合と、HPV感染とは関連しない慢性皮膚疾患(外陰硬化性苔癬など)に関連する場合がある。 |
腺癌 | 外陰部の腺組織(バルトリン腺、アポクリン腺など)から発生する。 | 比較的まれ | バルトリン腺に発生するものが多い。 |
悪性黒色腫 | メラニン色素を作る細胞(メラノサイト)から発生する皮膚がんの一種。 | まれ | 外陰部の皮膚にも発生することがある。進行が早い場合がある。 |
パジェット病 | 乳房のパジェット病と同様に、表皮内の腺細胞から発生する。表皮内癌のことが多いが、浸潤を伴うこともある。 | まれ | 外陰部の皮膚に湿疹のような見た目で広がる。 |
このうち、扁平上皮癌が外陰がん全体の約90%を占めると言われています。腺癌や悪性黒色腫、パジェット病などは比較的まれですが、それぞれ特徴が異なります。組織型は、がんの診断や治療方針を決定する上で重要な情報となります。
外陰がんの検査と診断
外陰がんが疑われた場合や、初期症状が見られる場合には、専門医による検査と診断が必要になります。正確な診断のために、様々な検査が行われます。
どのような検査を行うか
医療機関を受診すると、まず問診が行われ、症状が現れた時期、具体的な症状の内容、既往歴、家族歴などが詳しく聞かれます。次に、内診台での視診(目で見て確認)と触診(手で触って確認)が行われます。医師が外陰部の皮膚の状態やしこりの有無、リンパ節の腫れなどを確認します。
視診や触診で異常が見つかった場合、さらに詳しい検査が行われます。
- コルポスコピー(腟拡大鏡診): 外陰部の皮膚や粘膜を、特殊な顕微鏡(コルポスコープ)で拡大して観察する検査です。病変の範囲や血管の変化などを詳細に確認できます。酢酸を塗布して変化を見ることもあります。
- 生検(組織検査): 外陰がんの診断を確定するために最も重要な検査です。コルポスコピーで観察しながら、異常が見られる部分の組織を少量採取し、顕微鏡で詳しく調べます。この病理検査によって、がんであるかどうかの確定診断、がんの種類(組織型)、がんの悪性度などが判明します。生検は局所麻酔をして行われるのが一般的です。
- 画像検査: がんの広がり(浸潤の深さ)や、リンパ節への転移、他の臓器への転移の有無を調べるために、以下のような画像検査が行われることがあります。
- 超音波(エコー)検査: 鼠径部(そけいぶ:足の付け根)のリンパ節の腫れや、下腹部の状態を確認するために行われることがあります。
- CT検査: 骨盤内や腹部、胸部などのリンパ節転移や遠隔転移の有無を調べます。
- MRI検査: 病変の深さや広がり、骨盤内のリンパ節の状態などをより詳細に評価するために行われることがあります。
- PET-CT検査: がん細胞に集まる特殊な薬剤を使って全身を撮影し、転移の有無などを調べることがあります。主に進行がんの場合に検討されます。
確定診断のための病理検査
外陰がんの診断は、採取したがん組織を顕微鏡で詳しく調べる病理検査によって確定されます。病理医が組織標本を観察し、細胞の形や並び方、増殖の仕方などを評価します。
病理検査では、以下の情報が得られます。
- 悪性か良性か: 採取した組織が悪性(がん)なのか、それとも良性の病変なのかを確定します。
- 組織型: 扁平上皮癌、腺癌、悪性黒色腫など、がんの種類を特定します。
- 浸潤の有無と深さ: がん細胞が周囲の組織にどれくらい深く入り込んでいるか(浸潤しているか)を確認します。浸潤の深さは、病期(ステージ)や治療法を決める上で非常に重要な情報です。
- 悪性度: がん細胞の顔つきから、がんの増殖の速さや悪性度を評価します。
病理検査の結果が出るまでには数日から1週間程度かかるのが一般的です。この結果をもって、がんの診断が確定し、その後の治療方針が検討されます。
外陰がんの病期(ステージ)
外陰がんの治療方針を決定するためには、がんの進行度を示す「病期(ステージ)」を正確に把握することが不可欠です。病期は、がんが外陰部のどこまで広がっているか、近くのリンパ節に転移しているか、遠くの臓器に転移しているかなどによって分類されます。
外陰がんの病期は、国際産科婦人科連合(FIGO)によって定められた分類が世界的に用いられています。2024年現在、FIGO分類(2021年改訂版)が最新の分類です。大まかには、ステージIからステージIVまでの4段階に分けられます。
- ステージI: がんが外陰部に限局しており、大きさは4cm以下で、浸潤の深さが1mm未満(IA期)または1mm以上(IB期)。リンパ節や遠隔臓器への転移はない。
- ステージII: がんが外陰部に限局しているが、大きさが4cmを超える。浸潤の深さは問わない。リンパ節や遠隔臓器への転移はない。
- ステージIII: 鼠径部のリンパ節に転移がある。がんの大きさや浸潤の深さ、外陰部での広がりによっては、さらにIA期、IB期、IC期に細分化される。遠隔臓器への転移はない。
- ステージIV: がんが骨盤内の他の臓器(下部尿路、直腸など)に浸潤している、または遠隔臓器(肺、肝臓、骨など)に転移がある。IVA期(骨盤内臓器への浸潤や、骨盤内または両側の鼠径部リンパ節への転移がある場合)、IVB期(遠隔転移がある場合)に細分化される。
病期の分類には、臨床的な診察、画像検査(CT、MRI、PET-CTなど)、そして手術で摘出したがん組織やリンパ節の病理検査の結果が総合的に用いられます。正確な病期診断は、最適な治療法を選択し、予後を予測するために非常に重要です。
外陰がんの治療法
外陰がんの治療は、がんの病期(ステージ)、組織型、患者さんの全身状態、年齢、合併症の有無、そして患者さんの希望などを総合的に考慮して決定されます。主に、手術療法、放射線療法、化学療法(薬物療法)が単独または組み合わせて行われます。
治療法の選択肢
外陰がんの主な治療法は以下の通りです。
- 手術療法: がんを取り除く治療法の中心となります。病変の範囲や進行度によって、様々な術式があります。
- 放射線療法: 高エネルギーのX線などをがんに照射し、がん細胞を死滅させる治療法です。手術が難しい場合や、手術後の補助療法、進行がんに対する治療などとして用いられます。
- 化学療法(薬物療法): 抗がん剤を使用して、がん細胞の増殖を抑えたり死滅させたりする治療法です。進行がんや再発がんに対して、あるいは放射線療法と組み合わせて行われることがあります。
これらの治療法は、がんの進行度に応じて組み合わせられることが一般的です。
手術療法
外陰がんに対する手術は、病変の範囲と深さに基づいて行われます。がんの周りの正常な組織を含めて切除する範囲を決定します。
- 広汎局所切除術(WLE: Wide Local Excision): 早期のがんで浸潤が浅い場合に行われます。がんからある程度の距離(マージン)を設けて切除します。再建術が必要になることもあります。
- 広汎外陰切除術(Radical Vulvectomy): がんが比較的大きい場合や、深くまで浸潤している場合に行われます。外陰部の広い範囲を切除するため、外陰部の機能や整容性に大きく影響することがあります。
- リンパ節郭清術: 外陰がん、特に扁平上皮癌は鼠径部のリンパ節に転移しやすいため、病期によっては鼠径部のリンパ節を切除する手術(鼠径リンパ節郭清術)が行われます。最近では、センチネルリンパ節生検(がんに最も近いリンパ節を特定して検査し、転移がなければ他のリンパ節の郭清を省略する手技)が行われることもあります。これは、リンパ浮腫などの合併症を減らす目的で行われますが、適応となるのは早期がんの一部に限られます。
手術の範囲は、がんのステージによって異なります。早期であれば比較的小範囲の手術で済むことが多いですが、進行がんでは外陰部全体を切除したり、近くの臓器(尿道、膣、肛門など)の一部も一緒に切除する必要が生じる場合もあります。
放射線療法
放射線療法は、外陰がんに対して単独で行われることも、手術や化学療法と組み合わせて行われることもあります。
- 単独での照射: 手術が困難な場合(高齢や全身状態が悪い場合など)、あるいは手術を望まない場合に行われます。また、がんが広範囲に広がっている進行がんに対して行われることもあります。
- 術後照射: 手術でがんを完全に切除できたように見えても、再発のリスクが高い場合(切除した断端にごくわずかでもがん細胞が残っている可能性がある場合、リンパ節転移がある場合など)に、再発予防を目的に行われます。
- 術前照射: 手術で切除する範囲を小さくするため、あるいは手術が可能にするために、手術の前に行われることがあります。
- 化学療法との同時併用(化学放射線療法): 進行がんや、鼠径部リンパ節に明らかな転移がある場合などに行われます。放射線療法と化学療法を同時に行うことで、それぞれの治療効果を高めることが期待できます。
放射線療法は、外陰部や鼠径部に照射されます。副作用として、皮膚の炎症、ただれ、痛み、排尿時の痛み、下痢、倦怠感などが起こることがあります。長期的な合併症として、皮膚の硬化、リンパ浮腫などが起こる可能性もあります。
化学療法(薬物療法)
化学療法は、主に進行した外陰がんや、手術や放射線療法では治療が難しい場合、遠隔転移がある場合、あるいは再発した場合に用いられます。また、放射線療法と組み合わせて行われることもあります。
使用される抗がん剤は、シスプラチン、5-FU(フルオロウラシル)、パクリタキセルなど、様々な種類があります。これらを単独で使用したり、複数組み合わせて使用したりします。
化学療法の目的は、がん細胞の増殖を抑え、がんを小さくすること、症状を和らげることなどです。全身に作用するため、様々な副作用が現れる可能性があります。副作用の種類や程度は使用する薬剤によって異なりますが、吐き気、食欲不振、脱毛、だるさ、骨髄抑制(白血球や血小板が減少する)、しびれなどがあります。
最近では、がん細胞の増殖に関わる特定の分子を標的とする分子標的薬や、患者さん自身の免疫の力を利用してがん細胞を攻撃する免疫チェックポイント阻害薬なども、進行した外陰がんや再発がんに対して検討されることがあります。これらの新しい治療法は、従来の化学療法とは異なるメカニズムで作用するため、副作用の種類も異なります。
進行度別の治療
外陰がんの治療は、病期(ステージ)によって標準的な方針が異なります。以下に一般的な治療方針の例を示しますが、個々の状況によって最適な治療は異なります。
病期(ステージ) | 主な治療方針(一般的傾向) |
---|---|
ステージIA | がんの浸潤が非常に浅いため、広汎局所切除術(WLE)による切除のみで根治が期待できることが多い。リンパ節郭清は基本的に不要。 |
ステージIB | 広汎局所切除術(WLE)による切除が中心。鼠径部リンパ節への転移リスクがあるため、センチネルリンパ節生検や鼠径リンパ節郭清術が検討される。 |
ステージII | 広汎外陰切除術や、病変部位に応じた部分的な広汎切除術が中心。鼠径部リンパ節郭清術も行われることが多い。 |
ステージIII | 鼠径部リンパ節への転移がある状態。手術(広汎切除術+リンパ節郭清)が行われることもあるが、病変の広がりやリンパ節転移の状態によっては化学放射線療法が推奨されることも多い。 |
ステージIVA | がんが骨盤内の臓器に浸潤している状態、または骨盤内のリンパ節や両側の鼠径部リンパ節に転移がある状態。手術で切除が難しいことが多く、化学放射線療法が中心となる。 |
ステージIVB | 遠隔転移がある状態。根治は難しい場合が多く、化学療法や免疫チェックポイント阻害薬などによる薬物療法が中心となる。症状緩和のための緩和ケアも重要になる。 |
治療法を選択する際には、がんの根治を目指すだけでなく、治療後のQOL(生活の質)も考慮されます。外陰部は性機能や排尿・排便機能に関わる部位であるため、できるだけ機能を温存する手術方法が検討されたり、放射線療法や化学療法を組み合わせることで手術範囲を縮小することが試みられたりします。
治療方針は専門医チーム(腫瘍内科医、放射線治療医、形成外科医など)によって検討され、患者さんやご家族と十分に話し合った上で決定されます。
外陰がんの予後と生存率
外陰がんの治療後の経過(予後)や生存率は、様々な因子によって異なります。最も重要な因子は、がんと診断された時点での病期(ステージ)です。一般的に、早期に発見され治療が開始された場合ほど予後は良好です。
5年生存率について
がんの予後を示す指標として、一般的に「5年生存率」が用いられます。これは、がんと診断されてから5年後に生存している患者さんの割合を示す数値です。外陰がん全体の5年生存率は、他のがんと比較して中間程度と言えます。
ただし、この数値はあくまで統計的な平均値であり、個々の患者さんの状況によって大きく異なります。特に、病期(ステージ)によって5年生存率は大きく変わります。
国立がん研究センターがん情報サービスによると、2016-2017年診断症例に基づく外陰がんの病期別の5年相対生存率は以下の通りです(最新のデータでは変動する可能性があります)。
病期(ステージ) | 5年相対生存率(%) |
---|---|
ステージI | 80%台後半~90%台前半 |
ステージII | 70%台後半~80%台前半 |
ステージIII | 50%台~60%台 |
ステージIV | 20%台~40%台 |
全体 | 70%台前半 |
この表からもわかるように、ステージが早期であるほど生存率が高くなります。ステージIやIIのような早期がんであれば、適切な治療によって多くの患者さんが治癒します。一方、ステージIIIやIVのような進行がんでは、生存率は低下します。
予後に影響する因子
病期(ステージ)以外にも、外陰がんの予後に影響を与える可能性のある因子がいくつかあります。
- がんの組織型: 扁平上皮癌が最も多いですが、悪性黒色腫や特定のタイプの腺癌は、扁平上皮癌と比較して予後が悪い傾向がある場合があります。
- がんの大きさや浸潤の深さ: 病期分類にも含まれますが、がんが大きいほど、また深く浸潤しているほど、リンパ節転移や再発のリスクが高まり、予後が悪くなる傾向があります。
- リンパ節転移の数や場所: 鼠径部リンパ節への転移がある場合、予後は低下します。転移しているリンパ節の数が多いほど、あるいは骨盤内リンパ節に転移がある場合は、さらに予後が悪くなります。
- 治療への反応性: 選択された治療法(手術、放射線、化学療法など)に対するがんの反応性も予後に影響します。
- 患者さんの全身状態: 高齢や他の重篤な病気を持っている場合、治療の選択肢が限られたり、治療による合併症のリスクが高まったりして、予後に影響する可能性があります。
- 治療後の経過観察: 治療後も定期的な経過観察をしっかりと行うことで、再発を早期に発見し、適切な対応をとることが予後の改善につながります。
外陰がんは治療後も再発することがあります。特に治療後最初の数年間は再発のリスクが比較的高いため、定期的な診察や検査による経過観察が非常に重要となります。
外陰がんの予防
外陰がんは完全に予防することが難しいがんですが、リスクを減らすための対策や、早期発見のための取り組みを行うことは可能です。
HPVワクチンの接種
外陰がんの最も重要な原因の一つであるHPV感染を予防するために、HPVワクチンの接種が非常に有効です。HPVワクチンは、子宮頸がんだけでなく、外陰がん、膣がん、肛門がん、尖圭コンジローマなど、HPVが原因となる様々な疾患を予防することが期待されています。
日本では、小学校6年生から高校1年生相当の女子を対象に、子宮頸がん予防を主な目的としたHPVワクチンの定期接種が行われています。現在、2価、4価、9価のワクチンが利用可能であり、特に9価ワクチンは、より多くの高リスク型HPVの感染を予防できるため、外陰がんの原因となるHPV感染の予防効果も高いと考えられています。
定期接種の対象年齢外の女性や、男性も、希望すれば任意接種としてHPVワクチンを受けることができます。性交渉の経験がない、あるいは少ない若いうちに接種することが最も効果的ですが、すでに性交渉の経験がある場合でも、まだ感染していない種類のHPVに対して予防効果が期待できます。
HPVワクチンは、がんそのものを治療するものではなく、あくまで感染を予防するものです。ワクチンを接種したからといって、外陰がん検診や他の予防策が不要になるわけではありません。
定期的なセルフチェックと受診
外陰がんは、初期には症状がないこともありますが、日頃からご自身の外陰部の状態に関心を持ち、変化に早く気づくことが早期発見につながります。
- 定期的なセルフチェック: 入浴時など、リラックスできる時に、鏡を使ってご自身の外陰部を観察する習慣をつけましょう。皮膚の色、しこりやできものの有無、ただれ、かゆみなどの変化がないかを確認します。左右を比較してみるのも良いでしょう。
- 気になる症状があれば専門医へ相談: 長く続くかゆみ、治らないただれ、硬いしこりなど、気になる症状があれば、「こんなことで受診してもいいのかな?」などと迷わず、婦人科や皮膚科などの専門医を受診しましょう。早期であればあるほど、治療の負担も少なく、予後も良好である可能性が高まります。
外陰がん検診として確立された定期的なスクリーニング検査は、子宮頸がん検診のように広く行われてはいません。しかし、子宮頸がん検診の際に、医師に外陰部も一緒に診てもらうように相談することも有効です。
喫煙している場合は禁煙する、外陰部の慢性的な皮膚疾患がある場合は適切な治療を継続するなど、他のリスク要因を管理することも大切です。
こんな症状があれば専門医へ相談を
この記事を通して、外陰がんの様々な症状や特徴について解説してきました。外陰がんの初期症状は、他の良性疾患と似ていることが多いため、見過ごされてしまうことがあります。しかし、早期発見と適切な治療が、外陰がんの予後を大きく左右します。
以下のような症状が持続する、あるいは以前からあった症状と変化が見られる場合には、自己判断せずに、必ず婦人科や皮膚科などの専門医に相談してください。
- 長期間続く、あるいは悪化する外陰部のかゆみ
- 外陰部にできた、硬い、あるいは大きくなるしこりやできもの
- なかなか治らない外陰部のただれや潰瘍
- 外陰部の皮膚の色や質感の変化(白斑、赤み、硬化など)
- 外陰部の痛みやヒリヒリ感
- 不正出血や、血の混じったおりもの
これらの症状が全て外陰がんであるわけではありません。多くの場合、良性の疾患が原因です。しかし、万が一がんだった場合、早期に発見できれば体に負担の少ない治療で済む可能性が高まります。恥ずかしいと感じるかもしれませんが、専門医は多くの患者さんを診てきており、何ら特別なことではありません。安心して相談してください。
特に、高齢の女性、喫煙習慣のある方、外陰部の慢性皮膚疾患の既往がある方、過去にHPV関連疾患にかかったことがある方などは、リスクが高い可能性もあるため、気になる症状があればより一層注意が必要です。
ご自身の体を守るためにも、「おかしいな」「いつもと違うな」と感じたら、迷わず医療機関のドアを叩いてみましょう。
免責事項: 本記事は一般的な情報提供を目的としており、医学的な診断や治療法のアドバイスを代替するものではありません。
ご自身の症状に関する具体的な診断や治療については、必ず医療機関を受診し、医師の指示に従ってください。
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