子宮体がんとは?気になる症状・検査・治療について解説

子宮体がんの症状、検査、治療、予後について不安を感じていませんか?
子宮体がんは子宮の奥、内膜という部分にできるがんです。特に閉経後の女性に多く見られますが、若い世代でも発症することがあります。この記事では、子宮体がんの主な症状、発見のきっかけ、診断のための検査、進行度に応じた治療法、そして予後や予防について詳しく解説します。不正出血など気になる症状がある方は、ぜひ参考にしてください。専門家にご相談いただくことの重要性もお伝えします。

子宮体がん

子宮体がんとは

子宮体がんとは、子宮の奥にある子宮内膜という組織から発生する悪性の腫瘍です。子宮は女性特有の臓器で、西洋梨のような形をしています。その子宮の体部と呼ばれる部分の内側を覆っているのが子宮内膜です。子宮内膜は女性ホルモンの影響を受けて周期的に厚くなり、妊娠しなかった場合には剥がれ落ちて生理(月経)として体の外に排出されます。このサイクルの中で、細胞が異常な増殖を繰り返し、がん化したものが子宮体がんです。

子宮体がんの多くは、子宮内膜の上皮細胞から発生する「子宮内膜腺がん」と呼ばれる組織型です。その他にも、より悪性度が高いとされる組織型(漿液性腺がん、明細胞腺がんなど)が存在します。

近年、日本では子宮体がんの患者数が増加傾向にあります。これは、食生活やライフスタイルの変化、高齢化などが影響していると考えられています。特に閉経後の女性に多く診断されますが、肥満や糖尿病など、特定の要因を持つ若い世代でもリスクが高まることが知られています。

子宮頸がんとの違い

子宮体がんと同じく子宮にできるがんに、子宮頸がんがあります。これらは同じ子宮に発生するがんですが、発生する場所、原因、かかる年齢層、そして検診方法などが異なります。

項目 子宮体がん(子宮内膜がん) 子宮頸がん
発生部位 子宮体部の内側を覆う子宮内膜 子宮の入り口部分(子宮頸部)
主な原因 女性ホルモン(エストロゲン)の長期的な刺激など ヒトパピローマウイルス(HPV)感染
かかる年齢 閉経後の50代~60代に多いが、若年層もリスクあり 30代~40代に多いが、20代からの発症も増加傾向
主な症状 不正出血(特に閉経後) 初期は無症状、進行すると不正出血など
検診方法 子宮体部細胞診(希望者、リスクの高い方など) 子宮頸部細胞診(市区町村の多くが実施)
予防 リスク要因の管理、不正出血時の早期受診 HPVワクチン、定期的な子宮頸がん検診

子宮体がんは子宮内膜から発生するため、がんが子宮の奥深くに発生した場合、初期の細胞診では異常が見つかりにくいことがあります。一方、子宮頸がんは子宮の入り口付近にできるため、比較的に検診で見つけやすいとされています。子宮体がん検診は、不正出血などの症状がある方やリスクの高い方に対して行われることが多く、広く一般的に推奨されている子宮頸がん検診とは対象や位置づけが異なります。しかし、どちらのがんも早期発見が非常に重要です。

子宮体がんの主な症状

子宮体がんの最も特徴的で頻度の高い症状は不正出血です。しかし、不正出血以外にもいくつかの症状が現れることがあります。これらの症状は他の病気でも見られるものですが、子宮体がんの可能性も考慮し、特に閉経後の不正出血は放置せずに必ず医療機関を受診することが大切です。

不正出血の特徴

子宮体がんにおける不正出血は、以下のような特徴を持つことがあります。

  • 閉経後の出血: 閉経して生理が完全に止まったはずなのに、再び出血が見られる場合、これは子宮体がんの最も重要なサインの一つです。量の多少にかかわらず、どのような出血でも専門医の診察が必要です。
  • 閉経前の不正出血: 生理期間以外の出血(月経不順、中間期出血など)が見られる場合も注意が必要です。ただし、閉経前の不正出血はホルモンバランスの乱れなど、子宮体がん以外の原因であることも多いため、自己判断せず医療機関で相談しましょう。生理の量が多くなったり、生理期間が長引いたりする場合も、不正出血の一種として注意が必要です。
  • 出血の性状: 初期の子宮体がんでは、少量で茶色っぽいおりもののような出血や、ピンク色や赤色の鮮血など、様々な性状の出血が見られます。進行すると、出血量が増えたり、血の塊が混ざることもあります。

不正出血は子宮体がんの約9割で見られるとされる最も頻繁な症状ですが、出血がない場合や、他の症状が先に出る場合もあります。

おりものの異常

子宮体がんでは、おりものの量や性状に変化が見られることがあります。

  • 量や臭いの増加: がん組織が壊死したり、感染を伴ったりすることで、通常よりも量が多くなり、悪臭を伴うこともあります。
  • 色や性状の変化: 茶色やピンク色がかったもの、膿のような黄色っぽいもの、水っぽいもの、粘液状のものなど、様々です。血が混ざることで、おりものに血がにじんだような色になることもあります。

不正出血がない場合でも、以前と比べておりものの状態が明らかに異なる場合は、子宮体がんを含めた婦人科疾患の可能性を考慮し、受診が必要です。

下腹部や腰の痛み

がんが進行して子宮の外に広がったり、周囲の臓器(膀胱や直腸など)を圧迫したり、神経を刺激したりするようになると、下腹部や腰に痛みを感じることがあります。初期の子宮体がんでは痛みを感じることは稀ですが、不正出血やおりものの異常に加えて痛みが現れた場合は、がんが進行している可能性も考えられます。持続する痛みや、徐々に強くなる痛みには注意が必要です。

その他(進行した場合の症状など)

子宮体がんがさらに進行し、骨盤内の臓器やリンパ節、あるいは遠隔臓器に転移した場合、以下のような全身症状や転移した部位に応じた症状が現れることがあります。

  • 排尿困難、頻尿、血尿: 膀胱への浸潤や圧迫による
  • 排便困難、便秘、血便: 直腸への浸潤や圧迫による
  • 下肢のむくみ: 骨盤内のリンパ節への転移や圧迫により、リンパ液の流れが悪くなるため
  • 体重減少、食欲不振: 全身状態の悪化や進行による
  • 疲労感、倦怠感: がんによる消耗
  • 腹部膨満感: 腹水が貯留した場合
  • 転移巣による症状: 肺転移による咳や呼吸困難、骨転移による痛みなど

これらの症状が現れた場合、がんがかなり進行していることが多いため、早期に発見するためには不正出血などの初期症状を見逃さないことが何よりも重要です。

子宮体がんの症状チェックリスト

以下の項目に当てはまる症状がある場合は、子宮体がんの可能性も考慮し、婦人科を受診しましょう。

  • 閉経後に出血があった
  • 閉経前だが、生理期間以外の不正出血がある
  • 生理の量が増えた、生理期間が長くなった
  • おりものの量が増えた、色や性状が変わった(茶色っぽい、ピンクっぽい、膿っぽい、水っぽいなど)
  • おりものに嫌な臭いがある
  • 下腹部や腰に原因不明の痛みがある
  • 排尿や排便に異常がある(困難、頻尿、血尿、便秘、血便など)
  • 足がむくむようになった

これらの症状は子宮体がん以外の原因で起こることも多いですが、原因を特定し、適切な診断と治療を受けるために、放置せずに医療機関を受診することが重要です。特に閉経後の不正出血は、子宮体がんの可能性が高いサインとして、迅速な対応が求められます。

子宮体がんの原因とリスク要因

子宮体がんの正確な原因はまだ完全には解明されていませんが、女性ホルモンであるエストロゲンへの曝露が長期間にわたることが、子宮体がんの発生に大きく関わっていると考えられています。子宮内膜はエストロゲンの作用によって増殖し、プロゲステロンという別の女性ホルモンによってその増殖が抑えられ、分泌期を経て剥がれ落ちる(生理)という周期を繰り返しています。エストロゲンだけが過剰に分泌されたり、プロゲステロンが不足したりすると、子宮内膜が異常に増殖しやすくなり、がん化のリスクが高まります。

この考えに基づき、子宮体がんのリスク要因として以下のようなものが挙げられます。

  • 出産経験がない(未産婦): 妊娠・出産を経験すると、妊娠期間中は生理が止まり、プロゲステロンの影響を受ける期間が長くなります。出産経験がない女性は、生涯で生理を経験する回数が多くなり、相対的にエストロゲンへの曝露期間が長くなる傾向があると考えられています。
  • 閉経が遅い: 閉経が遅いほど、エストロゲンが分泌される期間が長くなります。
  • 初経が早い: 初潮が早いほど、エストロゲンが分泌される期間が長くなります。
  • 肥満: 脂肪組織では、アンドロゲンという男性ホルモンがエストロゲンに変換されます。そのため、肥満の女性は体内のエストロゲン濃度が高くなりやすく、子宮体がんのリスクが上昇します。
  • 糖尿病: 糖尿病を持つ女性は、血糖値のコントロールに関わるホルモン(インスリンなど)の異常により、エストロゲン代謝に影響が生じ、子宮体がんのリスクが上昇すると考えられています。
  • 高血圧: 高血圧と子宮体がんの関連性も報告されており、生活習慣病との複合的な影響が示唆されています。
  • ホルモン補充療法(エストロゲン単独療法): 閉経後の症状緩和のために、プロゲステロンを併用しないエストロゲン単独でのホルモン補充療法を長期間行うと、子宮内膜がんのリスクが高まります。プロゲステロンを併用することでこのリスクは軽減されます。
  • タモキシフェン投与: 乳がんの治療や再発予防に使われるタモキシフェンは、乳腺組織には抗エストロゲン作用を示す一方、子宮内膜には弱いエストロゲン作用を示すため、子宮体がんのリスクをわずかに高めることが知られています。
  • 遺伝性症候群: 一部の遺伝性の病気を持つ人は、子宮体がんを含む特定のがんになりやすいことが知られています。代表的なものにリンチ症候群(遺伝性非ポリポーシス大腸がん)があり、これは子宮体がんのリスクを著しく高めることがわかっています。リンチ症候群の家系では、若年で子宮体がんを発症したり、子宮体がん以外にも大腸がんや卵巣がんなどを発症したりする可能性があります。

上記のリスク要因の多くは、子宮内膜細胞が過剰なエストロゲン刺激を受けることに関連しています。しかし、子宮体がんの中には、エストロゲンとは関連なく発生するタイプ(主に悪性度の高い組織型)もあります。これは遺伝子の異常などによって発生すると考えられています。

これらのリスク要因を知ることは重要ですが、リスク要因があるからといって必ず子宮体がんになるわけではありません。また、リスク要因がなくても発症する可能性はあります。最も重要なのは、リスク要因にかかわらず、不正出血などの症状が見られたら速やかに医療機関を受診することです。

子宮体がんの発見のきっかけ

子宮体がんが発見されるきっかけとして最も多いのは、不正出血などの症状が出現し、医療機関を受診した際です。特に閉経後の不正出血は、子宮体がんを強く疑うべき症状であり、多くの患者さんがこの症状をきっかけに受診し、診断に至ります。

  • 症状による受診: 上記で解説したような不正出血、おりものの異常、下腹部痛などがきっかけとなります。症状がある場合は、一般的な検診を待たずに、早めに婦人科を受診することが重要です。
  • 子宮体がん検診: 不正出血などの症状がない場合でも、子宮体がんのリスクが高い方(高血圧、糖尿病、肥満、未産、ホルモン補充療法を受けている方、乳がんの既往がある方など)は、医師と相談の上、子宮体がん検診(子宮体部細胞診)を受けることがあります。ただし、子宮体がん検診は子宮頸がん検診のように広く一般に推奨されているわけではなく、無症状の方に対する有効性については議論もあります。
  • 他の婦人科疾患の検査: 子宮筋腫や卵巣嚢腫など、他の婦人科系の病気の検査や治療中に、偶然子宮体がんが発見されることもあります。
  • 人間ドックや健康診断: 一部の人間ドックや健康診断のオプション検査として、子宮体がん検診が含まれている場合があります。

このように、子宮体がんの発見のきっかけは様々ですが、症状が出てから発見されるケースが多いため、症状を見逃さないことが早期発見には不可欠です。特に閉経後の女性や、閉経前でも上記のリスク要因を複数お持ちの方は、自身の体の変化に注意を払い、気になる症状があれば迷わず医療機関を受診しましょう。

子宮体がんの検査と診断

子宮体がんの診断は、様々な検査を組み合わせて総合的に行われます。主な検査には以下のようなものがあります。

婦人科診察

まず、医師による問診が行われます。いつからどのような症状があるのか、月経や妊娠・出産の経験、既往歴、服用中の薬、家族の病歴などが詳しく聞かれます。次に、内診台で子宮や卵巣の状態を指で触って確認する内診、腟や子宮頸部を肉眼や腟鏡(クスコ)で観察する視診が行われます。これにより、子宮の大きさや硬さ、痛みの有無、出血やおりものの状態などを把握します。

子宮体がん検診

子宮体がん検診として一般的に行われるのは、子宮内膜細胞診です。細いブラシのような器具を子宮の奥(体部)に挿入し、子宮内膜の細胞を採取して顕微鏡で調べる検査です。この検査は、細胞の異常の有無をスクリーニングするために行われます。子宮頸部細胞診とは異なり、多くの場合、不正出血などの症状がある方や、子宮体がんのリスクが高い方(前述のリスク要因を持つ方)に対して医師が必要と判断した場合に行われます。検査時には、子宮の奥を刺激するため、多少の痛みや出血を伴うことがあります。細胞診で「異常あり」と判定された場合は、精密検査である組織診に進みます。

組織診(子宮内膜掻爬術、子宮鏡検査など)

組織診は、子宮体がんの確定診断に最も重要な検査です。子宮内膜の一部を採取し、病理医が顕微鏡で組織の状態を詳しく調べます。組織診にはいくつか方法があります。

  • 子宮内膜掻爬術(キュレット法、ソウハ法): 子宮頸部を広げ(頸管拡張)、スプーン状の器具(キュレット)を使って子宮内膜をかき取る方法です。より広範囲の組織を採取できますが、痛みを伴うことがあり、麻酔(局所麻酔や静脈麻酔)が必要となる場合もあります。日帰りまたは1泊程度の入院で行われることがあります。
  • 子宮内膜吸引術: 細いチューブ状の器具を子宮内に挿入し、内膜組織を吸引して採取する方法です。掻爬術に比べて痛みが少なく、外来で比較的容易に行えます。ただし、採取できる組織の量が掻爬術より少ない場合があります。
  • 子宮鏡検査併用組織診: 子宮鏡という細いカメラを腟から子宮内に挿入し、子宮内膜の状態を直接観察しながら、病変が疑われる部分から正確に組織を採取する方法です。内膜のポリープや粘膜下筋腫などの他の病変との鑑別にも有効です。

組織診の結果、がん細胞の有無、がんの種類(組織型)、悪性度(Gleason分類など)が確定されます。

画像検査(エコー/超音波、MRI、CTなど)

子宮体がんの診断や病気の広がり(進行度)を調べるために、様々な画像検査が行われます。

  • 経腟超音波検査(エコー): 腟に細い超音波プローブを挿入して子宮や卵巣を調べます。子宮内膜の厚さを測定したり、子宮内の異常(内膜の不均一な肥厚、ポリープ状病変など)や卵巣の状態を確認するのに有用です。比較的手軽に行える検査で、多くの婦人科で最初に実施されます。
  • MRI検査: 強力な磁力と電波を使って体の内部の断面画像を撮影する検査です。子宮体がんの診断において、がんが子宮内膜から子宮筋層へどのくらい深く浸潤しているか(筋層浸潤の程度)や、子宮頸部への広がり、骨盤内のリンパ節への転移の有無などを調べるのに非常に重要な検査です。造影剤を使用してより詳細な情報を得る場合もあります。
  • CT検査: X線を使って体の断面画像を撮影する検査です。肺や肝臓などの腹部・骨盤臓器、リンパ節への転移の有無を調べるのに有効です。MRIよりも広範囲を短時間で撮影できますが、子宮筋層浸潤の評価など、骨盤内の詳細な病変評価にはMRIの方が優れています。
  • PET-CT検査: がん細胞がブドウ糖を多く取り込む性質を利用した検査です。特殊な薬剤(FDG)を注射し、その集まり具合をPETカメラで撮影することで、がんの病巣や転移巣を全身的に調べることができます。主に再発や転移が疑われる場合に行われることが多い検査です。

その他検査(腫瘍マーカーなど)

子宮体がんの診断や病状の把握、治療効果の判定、経過観察のために、血液検査で腫瘍マーカーを測定することがあります。

  • CA125: 卵巣がんの腫瘍マーカーとして知られていますが、子宮体がんでも値が高くなることがあります。特に漿液性腺がんなど、悪性度の高い組織型や、進行期の子宮体がん、腹膜播種がある場合などに高値を示すことがあります。ただし、子宮筋腫や子宮内膜症、生理中でも高くなることがあり、CA125だけで子宮体がんの診断はできません。主に治療効果の判定や、治療後の再発の早期発見の補助として利用されます。
  • CA19-9: 膵臓がんや大腸がんの腫瘍マーカーですが、子宮体がんでも上昇することがあります。
  • SCC抗原: 子宮頸部扁平上皮がんの腫瘍マーカーですが、一部の子宮体がん(扁平上皮への分化傾向があるものなど)で高くなることがあります。

これらの腫瘍マーカーは、がんの存在を確実に示すものではなく、あくまで補助的な情報として利用されます。診断は、組織診の結果と画像検査の結果を総合的に判断して行われます。

子宮体がんの進行度(ステージ)

子宮体がんの進行度は、がんが子宮体部内のどの範囲に留まっているか、子宮外への広がりや他の臓器への転移の有無によって、国際産婦人科連合(FIGO)によって定められた分類(FIGO分類)に基づいて決定されます。この進行度(ステージ)は、今後の治療方針を決定する上で非常に重要です。

子宮体がんの進行度は、原則として手術によって摘出した組織や臓器を病理検査することで最終的に決定されます(外科的進行期分類)。手術前の画像検査などで推定される進行度は臨床的進行度と呼ばれますが、手術の結果、より正確なステージが判明することが一般的です。

子宮体がんの進行度は、以下のI期からIV期に分類されます(FIGO 2008分類)。

  • I期: がんが子宮体部に限局している。
    • IA期: 筋層浸潤がないか、筋層浸潤が筋層の厚さの半分未満である。
    • IB期: 筋層浸潤が筋層の厚さの半分以上である。
  • II期: がんが子宮頸部に浸潤しているが、子宮外には広がっていない。
  • III期: がんが子宮外に浸潤しているが、小骨盤腔内に限局している。
    • IIIA期: 子宮の漿膜(表面を覆う膜)または付属器(卵巣、卵管)に浸潤がある。
    • IIIB期: 腟または子宮傍組織(子宮の周囲の組織)に浸潤がある。
    • IIIC期: 骨盤リンパ節または傍大動脈リンパ節に転移がある。
      • IIIC1期: 骨盤リンパ節に転移がある。
      • IIIC2期: 傍大動脈リンパ節に転移があり、骨盤リンパ節への転移の有無は問わない。
  • IV期: がんが小骨盤腔外に浸潤したり、膀胱や直腸の粘膜に浸潤したり、遠隔臓器に転移している。
    • IVA期: 膀胱または直腸の粘膜に浸潤がある。
    • IVB期: 遠隔臓器(腹腔内、鼠径リンパ節を含む)に転移がある。

ステージが若いほど病気が早期で見つかったことを意味し、治療の成功率が高くなります。ステージが進むにつれて、がんが広がっており、治療もより複雑になり、予後も厳しくなる傾向があります。

進行スピードについて

子宮体がんの進行スピードは、がんの組織型悪性度によって大きく異なります。

  • 類内膜腺がん(Grade 1, 2): 子宮体がんの中で最も多く(約8割)、エストロゲンとの関連が強いタイプです。比較的おとなしい性質を持つことが多く、進行は比較的ゆっくりしている傾向があります。特に低悪性度(Grade 1)の場合、早期に発見されれば治癒率が高いです。
  • 類内膜腺がん(Grade 3)、漿液性腺がん、明細胞腺がんなど: エストロゲンとの関連が少ないタイプや、高悪性度の組織型です。これらのタイプは進行が速く、早期から子宮筋層深部への浸潤やリンパ節・腹腔内への転移を起こしやすいという特徴があります。そのため、症状が出た時点ですでに進行していることや、再発しやすい傾向があります。

進行スピードは個人差も大きく、一概には言えませんが、組織型や悪性度によってがんの生物学的特性が異なるため、その後の病状の経過に影響します。精密検査で組織型や悪性度を正確に診断することが、適切な治療法を選択するために非常に重要になります。

子宮体がんの治療法

子宮体がんの治療法は、がんの進行度(ステージ)、組織型、悪性度、患者さんの年齢、全身状態、合併症の有無、将来の妊娠の希望などを総合的に考慮して決定されます。多くの場合、複数の治療法を組み合わせる集学的治療が行われます。

手術

子宮体がんの治療において、手術は最も基本的な治療法であり、多くの場合最初に行われます。手術によってがんの病巣を取り除き、病気の広がり(進行度)を正確に把握することが目的です。手術の内容は進行度によって異なります。

  • 単純子宮全摘術: 子宮体部と子宮頸部を全て摘出する手術です。初期の子宮体がん(IA期など、筋層浸潤が軽度で悪性度が低い場合)に行われることがあります。
  • 準広汎子宮全摘術または広汎子宮全摘術: 単純子宮全摘術に加え、子宮の周囲の組織(子宮傍組織)や腟の一部も広めに切除する手術です。がんが子宮頸部に浸潤している場合(II期)や、筋層浸潤が深い場合に行われることがあります。
  • 付属器(卵巣、卵管)切除: 子宮体がんの細胞は卵巣や卵管に転移しやすいため、多くの場合、子宮の摘出と同時に両側の卵巣と卵管も摘出します。ただし、早期で悪性度が低いタイプのがんの場合、若い患者さんで将来の妊娠を強く希望される場合は、医師とよく相談の上、卵巣の温存が可能な場合もあります(妊孕性温存療法)。
  • リンパ節郭清: がんがリンパの流れに乗って転移している可能性があるため、骨盤内のリンパ節や、進行度によっては傍大動脈リンパ節を系統的に切除(郭清)します。これにより、リンパ節転移の有無を正確に診断し、再発のリスクを減らすことが期待されます。リンパ節郭清を行う範囲は、がんの進行度や組織型、悪性度によって検討されます。リンパ節郭清を行うと、手術後に下肢のむくみ(リンパ浮腫)が起こるリスクがあります。
  • 腹腔細胞診: 手術中に腹腔内の細胞を採取し、がん細胞が腹腔内に散らばっていないか(腹膜播種)を調べる検査です。
  • 肉眼的病巣の摘出: 腹腔内にがんの広がりが見られる場合、可能な限り病巣を摘出します(腫瘍減量術)。

手術の方法としては、開腹手術、腹腔鏡手術、ロボット支援手術があります。早期の子宮体がんでは、傷口が小さく、回復が早い腹腔鏡手術やロボット支援手術が可能な場合が増えています。手術で摘出した臓器やリンパ節は、病理検査によって最終的な病期(外科的進行期)とがんの性質(組織型、悪性度、筋層浸潤の深さ、リンパ管・血管侵襲の有無など)が詳細に調べられます。この病理診断の結果に基づいて、手術後の追加治療(補助療法)が必要かどうかが検討されます。

薬物療法(化学療法、ホルモン療法、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬)

手術だけではがんを完全に除去できない場合や、再発・転移した場合、あるいは手術が難しい進行がんの場合に、薬物療法が行われます。

  • 化学療法(抗がん剤): 抗がん剤を投与して、がん細胞の増殖を抑えたり破壊したりする治療法です。多くの場合、複数の種類の抗がん剤を組み合わせて使用します。子宮体がんの治療でよく用いられる薬剤には、パクリタキセル、カルボプラチン、ドキソルビシンなどがあります。化学療法は、全身のがん細胞に作用するため、手術で取り切れなかったがんや、リンパ節・遠隔臓器に転移したがんに効果が期待できます。副作用(吐き気、脱毛、骨髄抑制、神経障害など)が生じることがあります。
  • ホルモン療法: 特にエストロゲン依存性の高い類内膜腺がん(低悪性度)に対して有効な治療法です。黄体ホルモン製剤(プロゲステロン製剤)を投与することで、子宮内膜のがん細胞の増殖を抑制します。副作用が比較的少なく、経口薬での治療も可能なため、全身状態があまり良くない方や高齢の方、早期で妊孕性温存を希望する方(一部の適応症例)にも選択肢となります。ただし、効果が出るまでに時間がかかったり、効果がないタイプの体がんもあります。
  • 分子標的薬: がん細胞の増殖や生存に関わる特定の分子だけを標的にして攻撃する薬です。正常な細胞へのダメージを抑えつつ、がん細胞を効率的に攻撃することが期待されます。子宮体がんに対しても、がんのタイプや遺伝子の特徴に応じて特定の分子標的薬が使用されることがあります。例えば、レンバチニブという分子標的薬が、化学療法後に病状が進行した進行・再発子宮体がんに対して、免疫チェックポイント阻害薬であるペムブロリズマブと併用して使用されることがあります。
  • 免疫チェックポイント阻害薬: 人間が本来持っている免疫の力を使ってがんを攻撃する治療法です。がん細胞は免疫細胞にブレーキをかける仕組みを持っていることがありますが、免疫チェックポイント阻害薬はそのブレーキを解除し、免疫細胞ががん細胞を攻撃できるように促します。子宮体がんでも、特定の遺伝子異常(ミスマッチ修復機能欠損; dMMR/マイクロサテライト不安定性高度; MSI-High)を持つタイプに対して、ペムブロリズマブなどの免疫チェックポイント阻害薬が有効であることがわかっています。

放射線療法

放射線を体の外から照射したり(外部照射)、腟の中から照射したり(腔内照射)して、がん細胞を破壊する治療法です。子宮体がんの治療における放射線療法の役割は以下の通りです。

  • 術後補助療法: 手術によってがんを取り除いた後、再発のリスクを減らす目的で放射線療法を行うことがあります。特に、筋層浸潤が深い場合、子宮頸部への浸潤がある場合、リンパ管・血管侵襲がある場合、悪性度が高い場合など、再発のリスクが高いと判断された場合に行われます。骨盤腔への外部照射や、腟断端(子宮を摘出した後の腟の切り口)への腔内照射が行われます。
  • 根治照射: 手術が難しい進行がんや、患者さんの全身状態により手術ができない場合に、放射線療法単独でがんを治療する目的で行われることがあります。
  • 緩和照射: 骨や脳などへの転移による痛みや症状を和らげるために、放射線療法が行われることがあります。

放射線療法にも副作用(皮膚炎、下痢、頻尿、直腸炎など)が生じることがありますが、近年は照射技術の進歩により、正常組織への影響を抑えつつ、がん病巣に集中して放射線を照射できるようになってきています。

治療法の選択

子宮体がんの治療法は、単一ではなく、上記の手術、薬物療法、放射線療法の中から患者さんの状態に合わせて最適なものが選択され、組み合わせて行われます。治療の選択プロセスは通常以下のようになります。

  • 診断と進行期決定: 検査によって子宮体がんの診断が確定し、手術によって病理診断に基づく正確な進行期が決定されます。
  • リスク分類: 進行期に加え、組織型、悪性度、筋層浸潤の深さ、リンパ管・血管侵襲の有無など、病理学的な特徴に基づいて、再発リスク(低リスク、中間リスク、高リスク)が評価されます。
  • 治療方針の検討: 再発リスク分類に基づいて、手術単独で十分か、あるいは術後補助療法(化学療法や放射線療法)が必要かが検討されます。進行がんや再発がんの場合は、化学療法や分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬などを含む全身療法が主体となります。
  • 患者さんとの相談: 医師は、病状、治療法の選択肢、それぞれの治療法の目的、期待される効果、副作用、予後などについて、患者さんやご家族に十分に説明し、納得いただいた上で治療方針を決定します。患者さんの年齢、全身状態、合併症、ライフスタイル、価値観、妊孕性温存の希望なども重要な考慮事項となります。

例えば、IA期の類内膜腺がん(Grade 1, 2)のような早期で低リスクの子宮体がんの場合、子宮と付属器の単純全摘術のみで治療が終了することが多いです。一方、IB期以降や高悪性度の組織型、リンパ節転移がある場合など、進行していたり再発リスクが高いと判断された場合は、手術に加えて術後化学療法や術後放射線療法が推奨されることが多くなります。手術ができない進行がんや再発がんに対しては、化学療法や分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬などを用いた全身療法が中心となります。

子宮体がんの治療は、これらの様々な因子を考慮して個別化されるため、同じステージでも治療法が異なる場合があります。

子宮体がんの予後と生存率

子宮体がんの予後(治療後の経過や回復の見込み)は、発見された時点でのがんの進行度(ステージ)に大きく左右されます。一般的に、早期で発見されて適切な治療が行われれば、治癒率が高く、予後は良好です。しかし、進行が進んでいる場合や、悪性度の高い組織型の場合は、予後が厳しくなる傾向があります。

予後を判断する上で最も一般的に用いられる指標の一つに5年相対生存率があります。これは、がんと診断された集団において、診断から5年後に生存している人の割合が、性別や年齢構成が同じ一般の日本人と比較してどのくらいの割合かを示す数値です。がん情報サービスなどの公的な機関から発表されている統計データに基づきます。

子宮体がん全体の5年相対生存率は約80%程度と報告されています(診断時期によって変動します)。しかし、ステージ別に見てみると、予後が大きく異なることがわかります。

進行度(ステージ) 5年相対生存率(目安)
I期 90%以上
II期 80%程度
III期 50%~60%程度
IV期 20%~30%程度

※これらの数値はあくまで目安であり、様々な統計データに基づいています。個々の患者さんの予後は、がんの組織型、悪性度、治療への反応性、年齢、全身状態など、多くの要因によって異なります。

予後に影響を与える主な要因としては、以下が挙げられます。

  • 進行度(ステージ): 最も重要な予後因子です。早期であるほど予後は良好です。
  • 組織型と悪性度: 類内膜腺がんの中でも低悪性度(Grade 1, 2)は比較的予後が良好ですが、高悪性度(Grade 3)や漿液性腺がん、明細胞腺がんなどの非類内膜腺がんは悪性度が高く、進行が早く、予後が厳しい傾向があります。
  • 筋層浸潤の深さ: 筋層の深い部分までがんが入り込んでいるほど、リンパ節転移や再発のリスクが高まり、予後が悪くなる傾向があります。
  • リンパ管・血管侵襲の有無: がん細胞がリンパ管や血管に入り込んでいる場合、全身への転移リスクが高まり、予後が悪くなります。
  • リンパ節転移の有無: リンパ節に転移がある場合、全身への転移リスクが高く、予後が悪くなります。
  • 腹腔内への転移(腹膜播種)の有無: 腹腔内にがんが広がっている場合、予後が厳しくなります。
  • 患者さんの年齢と全身状態: 高齢であったり、合併症が多いなど全身状態が悪い場合、積極的な治療が難しくなり、予後に影響することがあります。
  • 治療への反応性: 行われた治療(手術、化学療法、放射線療法など)に対して、がんがどの程度縮小したり制御されたかによって予後が変わります。

このように、子宮体がんの予後は様々な因子によって決定されます。上記の生存率はあくまで統計的な数値であり、個々の患者さんのケースに当てはまるとは限りません。担当医から、ご自身の病状に基づいた詳しい予後について説明を受けることが重要です。

治療後も、定期的な経過観察(診察、画像検査、腫瘍マーカーなど)が非常に重要です。これにより、万が一再発した場合でも早期に発見し、適切な治療を開始することができます。

子宮体がんの予防と検診の重要性

子宮体がんの発生リスクは、生活習慣や特定の病歴と関連があることがわかっています。そのため、完全に予防することは難しいですが、リスクを低減するための対策や、早期発見のための取り組みは可能です。

リスクを低減するための対策:

  • 適正体重の維持: 肥満は子宮体がんの最大のリスク要因の一つです。バランスの取れた食事と適度な運動を心がけ、適正体重を維持することが子宮体がんのリスク低減につながります。
  • 生活習慣病の管理: 糖尿病や高血圧などもリスク要因とされています。これらの病気がある方は、適切な治療と管理を行うことが重要です。
  • ホルモン補充療法について医師と相談: 閉経後の症状緩和のためにホルモン補充療法を検討する場合、子宮体がんのリスクについて医師とよく相談し、必要に応じてプロゲステロンの併用など、リスクを考慮した治療法を選択することが重要です。
  • 不正出血時の早期受診: 何よりも重要なのは、不正出血などの子宮体がんを疑う症状が見られたら、迷わず速やかに婦人科を受診することです。子宮体がんの多くは不正出血を伴うため、この症状を見逃さずに医療機関を受診することが、早期発見に繋がる最も有効な方法です。

検診の重要性:

子宮体がん検診(子宮内膜細胞診)は、子宮頸がん検診のように無症状のすべての方に対して広く推奨されているわけではありません。その理由としては、子宮頸がん検診に比べて検診による発見率が低いこと、検査に伴う痛みや負担があること、検診の有効性を示す十分な科学的根拠がまだ限定的であることなどが挙げられます。

しかし、以下のような方は、子宮体がんのリスクが高いと考えられるため、定期的な子宮体がん検診や婦人科でのチェックを医師と相談することが推奨されます

  • 閉経後の女性
  • 不正出血やおりもの異常がある方
  • 肥満、糖尿病、高血圧などのリスク要因を持つ方
  • 未産の方
  • 乳がんの既往があり、タモキシフェンを服用中または服用したことがある方
  • 遺伝性症候群(リンチ症候群など)の家系で子宮体がんのリスクが高い方
  • 過去に子宮内膜増殖症と診断されたことがある方

子宮体がん検診の限界と注意点:

子宮体がん検診として行われる子宮内膜細胞診は、子宮内膜全体から細胞を採取するわけではないため、小さながんや、がんが子宮の奥の方にできている場合など、病変を見落としてしまう可能性があります(偽陰性)。

したがって、子宮体がん検診で「異常なし」という結果が出たとしても、不正出血やおりものの異常など、子宮体がんを疑う症状がある場合は、必ず精密検査を受ける必要があります。症状がある場合は、検診の結果にかかわらず、速やかに婦人科を受診することが、子宮体がんの早期発見のために非常に重要です。

リスク要因を理解し、健康的な生活習慣を心がけることに加え、何よりも体の異常を示すサインである不正出血などを見逃さず、早期に専門医の診察を受けることが、子宮体がんから自身を守るために最も大切です。

子宮体がんについて専門家にご相談ください

子宮体がんという言葉を聞くと、多くの方が不安を感じられるかと思います。特に不正出血などの症状がある場合、インターネットで情報を検索して、さらに大きな不安を抱えてしまうこともあるかもしれません。

しかし、これらの症状は子宮体がん以外の病気でも起こり得ます。重要なのは、自己判断で不安を抱え込まず、速やかに婦人科の専門医に相談することです。医師はあなたの症状、年齢、既往歴などを詳しく聞き、適切な検査(内診、超音波検査、細胞診、組織診など)を行って、症状の原因を正確に診断してくれます。

もし、子宮体がんであると診断された場合でも、早期に発見されていれば、治療の選択肢が多く、治癒する可能性も高くなります。医師はがんの進行度、組織型、悪性度などを詳しく調べ、あなたにとって最適な治療計画を提案してくれます。治療法、予後、副作用、治療に伴う生活への影響など、様々な疑問や不安について丁寧に説明してくれるはずです。

がんの診断や治療は、患者さんの心身に大きな負担をかけることがあります。不安や疑問を感じたときは、遠慮せずに医師や看護師、病院の相談員などに相談しましょう。セカンドオピニオンを求めて、他の医師の意見を聞くことも可能です。

子宮体がんに関する正確な情報を得るためには、インターネット上の情報だけでなく、信頼できる医療機関で専門医に直接相談することが最も重要です。

【監修者情報】

本記事は、〇〇病院 婦人科医 〇〇医師にご監修いただきました。(※これは例です。実際には監修者の情報が入ります。)

【出典情報】


免責事項: 本記事で提供する情報は、子宮体がんに関する一般的な知識を提供するものであり、個別の診断、治療、医学的なアドバイスを目的とするものではありません。ご自身の健康状態について懸念がある場合は、必ず医療機関を受診し、専門家の診断と指導を受けてください。本記事の情報に基づいて行った行動の結果について、当方は一切の責任を負いかねます。

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