子宮後屈とは、女性の骨盤内にある子宮が、通常よりも後ろ側、つまりお腹側ではなく背中側に傾いている状態を指します。
多くの場合、特に症状を伴わない生理的な状態であり、病気ではありません。
しかし、場合によっては特定の症状を引き起こしたり、他の婦人科疾患と関連していることもあります。
この記事では、子宮後屈の基本的な情報から、考えられる原因、具体的な症状、不妊や妊娠への影響、そして診断や治療、日常生活でできる対策まで、子宮後屈について詳しく解説します。
ご自身の状態を知り、気になる点があれば専門家である婦人科医に相談するための参考にしてください。
子宮は、女性の骨盤の中央に位置する洋梨のような形をした臓器です。
通常、子宮は膀胱の上にあり、やや前方に傾いています。
この前方に傾いた状態を「子宮前屈」と呼び、大多数の女性の子宮は前屈しています。
子宮後屈は、この子宮が後ろ側、つまり仙骨(骨盤の背中側にある骨)の方向へ傾いている状態です。
子宮後屈自体は、病気ではなく、あくまで子宮の位置関係を示す言葉です。
人口の約20〜25%の女性が子宮後屈であると言われており、比較的よく見られる状態です。
子宮後屈とは?子宮前屈との違い
子宮前屈と子宮後屈は、子宮の傾き方によって区別されます。
子宮は、腟から見て上方に伸びていますが、その向きには個人差があります。
- 子宮前屈: 子宮が腟から見て、お腹側(前方)にやや傾いている状態。
子宮体部が子宮頸部に対して前方に折れ曲がっていることが多い(前屈前傾)。
これが一般的な子宮の位置です。 - 子宮後屈: 子宮が腟から見て、背中側(後方)にやや傾いている状態。
子宮体部が子宮頸部に対して後方に折れ曲がっている場合(後屈後傾)と、全体が後方に傾いているだけの場合があります。
これらの違いは、子宮が骨盤内でどのように配置されているかを示しており、特に生理的な子宮後屈の場合は、機能的な問題はほとんどありません。
イメージとしては、子宮という風船が、お腹側に倒れているか、背中側に倒れているかの違いに近いです。
この傾きは、年齢、妊娠・出産経験、あるいは後述する原因によって変化することもあります。
子宮後屈は病気?治療は必要?
結論から言うと、子宮後屈そのものは病気ではありません。
多くの女性にとって、子宮が後ろに傾いているだけで、特別な症状もなく、日常生活や妊娠・出産に支障をきたすことはありません。
この場合、特に治療の必要はありません。
しかし、子宮後屈が他の病気、特に骨盤内の炎症や子宮内膜症などによって引き起こされる「癒着性子宮後屈」である場合、それが原因で月経痛や腰痛、性交痛などの症状が現れることがあります。
このような、子宮後屈が何らかの病的な状態と関連して症状を引き起こしている場合には、原因となっている病気の治療が必要になります。
つまり、子宮後屈自体を「治す」のではなく、もし症状がある場合に、その症状の原因が子宮後屈やそれに伴う別の疾患であるかを診断し、必要に応じて原因疾患や症状に対する治療を行う、というのが一般的なアプローチです。
症状がない生理的な子宮後屈に対しては、経過観察のみで十分です。
子宮後屈の主な原因
子宮後屈の原因は、大きく分けて先天的なものと後天的なものがあります。
先天的な原因
先天的な子宮後屈は、生まれつき子宮が後ろに傾いた状態にある場合を指します。
これは、子宮を支える靭帯や骨盤の構造など、生まれつきの体質や骨格によるものです。
思春期を経て子宮が発達するにつれて、自然に子宮後屈となる人もいます。
先天的な子宮後屈は、特に他の問題がなければ、ほとんどの場合症状を引き起こしません。
これは子宮が自由に動ける状態にあるため、周囲の臓器を圧迫したり、動きを阻害したりすることが少ないからです。
このようなタイプの生理的な子宮後屈は、病気として扱う必要はなく、特に治療の対象とはなりません。
後天的な原因(癒着性子宮後屈など)
後天的な子宮後屈は、生まれた後になんらかの原因で子宮が後ろに傾き、その位置で固定されてしまう状態を指します。
特に重要なのは「癒着性子宮後屈」です。
癒着性子宮後屈は、子宮や卵巣、卵管などが周囲の臓器(腸や骨盤壁など)と炎症などによってくっついてしまい(癒着)、その結果、子宮が後ろに引っ張られたり、その位置で固定されてしまうことで起こります。
主な原因としては以下のようなものが挙げられます。
- 骨盤腹膜炎: 骨盤内の臓器(子宮、卵巣、卵管、膀胱、腸など)を覆う腹膜に炎症が起こることです。
性感染症(クラミジアや淋菌など)や、出産後・流産後の感染、腹部手術などが原因となることがあります。
炎症が治まった後に癒着が形成されやすいです。 - 子宮内膜症: 子宮内膜に似た組織が、子宮以外の場所(卵巣、卵管、腹膜など)にできる病気です。
子宮内膜症病巣は炎症を引き起こしやすく、周囲の組織との癒着を招くことがあります。
特にダグラス窩(子宮と直腸の間のくぼみ)に病巣ができると、子宮が直腸に癒着し、後屈の原因となることがあります。 - 腹部や骨盤の手術: 子宮や卵巣などの婦人科手術、あるいは虫垂炎などの腹部手術の後に、腹腔内で癒着が生じることがあります。
- 出産や流産: 出産後や流産後の感染や炎症が原因で、子宮周囲に癒着が生じることがあります。
- 加齢: 加齢に伴って骨盤底筋が緩んだり、靭帯が伸びたりすることで、子宮の位置が変化し、後屈傾向になることもあります。
癒着がある場合、子宮は自由に動けないため、周囲の臓器を圧迫したり、引っ張ったりすることで、月経痛、腰痛、性交痛、排便時の痛みといった症状を引き起こす可能性があります。
後天的な子宮後屈、特に癒着性子宮後屈は、症状の原因となることがあるため、診断と適切な治療が必要となる場合があります。
子宮後屈で起こりうる症状
子宮後屈自体は病気ではないため、多くの場合は無症状です。
しかし、子宮後屈が他の病気(特に癒着や子宮内膜症)と関連している場合や、子宮の動きが制限されている場合には、以下のような症状が現れることがあります。
月経痛・腰痛
子宮が後ろに傾いていることで、月経時に子宮が収縮する際に、周囲の神経や組織を圧迫したり引っ張ったりすることが考えられます。
これにより、特に月経中に強い月経痛や腰痛を感じることがあります。
子宮後屈が原因の場合、月経が始まってから痛みが強くなる傾向があると言われています。
また、癒着性子宮後屈の場合、子宮が直腸などに癒着していると、月経による子宮の腫れや収縮が癒着部分を刺激し、痛みを引き起こしやすくなります。
子宮内膜症が原因で癒着が生じている場合は、子宮内膜症自体の炎症や出血も痛みの原因となります。
その他の症状(便秘、性交痛など)
子宮後屈が原因で起こりうるその他の症状としては、以下のようなものがあります。
- 便秘や排便時の痛み: 子宮が直腸に近づいている場合、月経時などに子宮が腫れると直腸を圧迫し、便秘になったり、排便時に痛みを感じたりすることがあります。
特に癒着がある場合は、子宮の動きが制限されていることで、直腸への圧迫や引っ張りが強くなり、症状が出やすいです。 - 性交痛: 子宮が後方に傾いていると、特定の体位での性交時に子宮や卵巣が刺激されたり、骨盤内の癒着部分が引っ張られたりして、性交時に深部性交痛(腟の奥の方が痛む)を感じることがあります。
特に子宮が固定されている癒着性子宮後屈の場合に起こりやすい症状です。 - 排尿障害: まれではありますが、子宮が後屈していることで、膀胱を圧迫したり、尿道を引っ張ったりして、頻尿や排尿困難といった症状が現れることもあります。
これは特に妊娠初期に子宮が大きくなってきた際に起こることがあります(妊娠初期の子宮嵌頓)。 - 下腹部痛: 月経時以外にも、骨盤内の癒着や炎症が原因で、慢性的な下腹部痛を感じることがあります。
これらの症状は、子宮後屈自体が直接の原因というよりも、子宮後屈を引き起こしている原因(特に癒着や子宮内膜症など)や、子宮後屈によって子宮の動きが制限されていることに関連して起こることが多いです。
したがって、これらの症状がある場合は、子宮後屈だけでなく、他の婦人科疾患の可能性も考慮して、専門医の診察を受けることが重要です。
子宮後屈は不妊や妊娠に影響する?
子宮後屈は、多くの女性にとって生理的な状態であり、一般的に不妊の直接的な原因とは考えられていません。
過去には、子宮後屈だと妊娠しにくいという説もありましたが、現在の医学的見解では、子宮の傾きが妊娠の成立に直接的な悪影響を与える証拠はほとんどありません。
しかし、子宮後屈を引き起こしている原因が、不妊の原因となる可能性はあります。
妊娠しやすさとの関係(妊活)
生理的な子宮後屈の場合、子宮の傾き自体が不妊につながることはありません。
精子は腟から子宮頸部を経て子宮内、卵管へと進み、卵子と受精します。
子宮の傾きが多少異なっていても、この精子の通り道が閉ざされるわけではないからです。
ただし、先述したように、子宮後屈が骨盤内の癒着によって引き起こされている場合は、その癒着が不妊の原因となる可能性があります。
例えば、卵管が癒着によって閉塞したり、卵巣が癒着によって本来の位置からずれて排卵した卵子を卵管がうまくキャッチできなかったりすることがあります。
また、癒着の原因となっている子宮内膜症自体も、卵管の機能障害や卵子の質の低下などを引き起こし、不妊の原因となります。
したがって、子宮後屈であること自体を過度に心配する必要はありませんが、もし不妊で悩んでいて子宮後屈と診断された場合は、子宮後屈の原因が何か、特に骨盤内の癒着や子宮内膜症の有無を詳しく調べることが大切です。
不妊治療専門医は、子宮後屈だけでなく、骨盤内の総合的な状態を評価し、不妊の原因を特定します。
【子宮後屈と不妊に関する比較表】
状態 | 子宮の傾き | 不妊への影響 | 関連する原因 |
---|---|---|---|
生理的な子宮後屈 | 後方に傾いている | 一般的に影響なし (精子の通過や受精に支障はない) | 生まれつきの体質、骨格など |
癒着性子宮後屈 | 後方に固定されている | 癒着の程度により不妊の原因となる可能性あり (卵管の閉塞、卵巣機能への影響など) | 骨盤腹膜炎、子宮内膜症、手術後の癒着、出産・流産後の感染など |
子宮前屈 | 前方に傾いている | 一般的に影響なし | 一般的な子宮の位置 |
この表からもわかるように、不妊と関連するのは子宮後屈という「状態」そのものではなく、それを引き起こしている「原因」である場合が多いです。
妊娠後の影響、出産との関連
子宮後屈の女性でも、多くの場合は問題なく妊娠し、出産を迎えることができます。
妊娠初期には子宮が大きくなりますが、通常は妊娠3ヶ月頃までに自然に前に傾き(前屈位に戻り)、大きくなった子宮が骨盤から出て腹腔内へと上昇していきます。
この自然な変化により、妊娠の継続や胎児の発育に影響が出ることはほとんどありません。
しかし、非常にまれですが、妊娠初期に大きくなった子宮が骨盤内で後ろに固定されたまま(後屈位のまま)になってしまい、骨盤から出られなくなることがあります。
この状態を「子宮嵌頓(かんとん)」と呼びます。
子宮嵌頓が起こると、膀胱が圧迫されて尿が出にくくなったり(排尿困難)、便秘、下腹部痛、腰痛などの症状が現れることがあります。
子宮嵌頓は進行すると流産につながる可能性もあるため、速やかに診断し、子宮を正常な位置に戻す処置(用手的に子宮を前屈に戻すなど)が必要になります。
ただし、これは非常に稀な合併症であり、多くの場合は自然に改善するか、簡単な処置で対応可能です。
出産に関しては、生理的な子宮後屈が原因で分娩の進行に悪影響を及ぼすことはほとんどありません。
子宮が収縮して赤ちゃんを押し出す力や、産道の構造は、子宮の傾きとは直接関係しないからです。
ただし、癒着性子宮後屈で骨盤内に強い癒着がある場合は、分娩時に多少の影響が出る可能性も考えられますが、これも一般的ではありません。
帝王切開が必要になるようなケースは、子宮後屈自体が原因というよりも、他の要因(胎児の状態、骨盤の大きさ、合併症など)によることが多いです。
結論として、子宮後屈であっても、妊娠や出産を過度に心配する必要はありません。
妊娠初期に下腹部痛や排尿困難などの気になる症状があれば、必ず妊婦健診の際に医師に相談しましょう。
子宮後屈の診断方法
子宮後屈は、婦人科での診察で比較的簡単に診断できます。
ご自身で確実にセルフチェックする方法はありません。
病院での診断
婦人科での子宮後屈の診断は、主に以下の方法で行われます。
- 内診: 医師が腟に指を入れ、もう一方の手でお腹の上から子宮の位置や大きさ、硬さ、動きやすさなどを触診します。
この際、子宮が後ろに傾いていること、そして子宮が周囲の組織と癒着して動きが制限されていないかなどを確認します。
内診は子宮後屈を診断するための最も基本的で重要な方法です。 - 超音波検査: 経腟超音波検査(腟から細いプローブを挿入して行う超音波検査)や経腹超音波検査(お腹の上から行う超音波検査)を行うことで、子宮の形、大きさ、傾き、子宮内膜の状態、卵巣の状態などを詳細に確認できます。
子宮後屈であるかどうかだけでなく、子宮筋腫や卵巣嚢腫、子宮内膜症などの合併症や、骨盤内の癒着の有無を画像で確認するのに役立ちます。
超音波検査は痛みもなく、比較的短時間で行える検査です。 - その他の検査: 内診や超音波検査で癒着が強く疑われる場合や、不妊の原因を詳しく調べる必要がある場合などには、MRI検査や腹腔鏡検査が行われることもあります。
MRI検査は骨盤内の臓器や癒着の状態をより詳細に画像化できます。
腹腔鏡検査は、お腹に小さな穴を開けて内視鏡を挿入し、骨盤内を直接観察する検査であり、癒着の有無や程度を正確に診断し、同時に治療を行うことも可能です。
これらの検査は、子宮後屈そのものの診断というよりは、子宮後屈に関連する病気や癒着の評価のために行われます。
これらの検査を通じて、子宮が後屈しているか、それが生理的なものか、あるいは癒着など病的な状態に関連しているかを診断します。
また、子宮後屈に伴って月経痛などの症状がある場合には、その症状が子宮後屈自体によるものか、あるいは他の原因(子宮内膜症、子宮筋腫など)によるものかを鑑別することも重要です。
子宮後屈のセルフチェックは可能?
子宮後屈をご自身で確実にセルフチェックする方法は残念ながらありません。
子宮の位置や傾きは、体の外から触ってわかるものではないからです。
ただし、ご自身の体調や症状を記録し、子宮後屈に関連しうる症状がないか確認することは、婦人科を受診する際の参考になります。
例えば、
- 月経中の腰痛や下腹部痛の程度や時期(月経前から痛むか、月経開始後に痛むか)
- 排便時の痛みや便秘の有無
- 特定の体位での性交痛の有無
- 過去の婦人科疾患や手術の既往
などをメモしておくと良いでしょう。
これらの情報と、婦人科での内診や超音波検査の結果を合わせて、医師が総合的に診断を行います。
自己判断はせず、気になる症状があれば必ず婦人科医に相談してください。
子宮後屈の治療・改善方法
子宮後屈そのものは病気ではないため、症状がなければ治療の必要はありません。
治療や改善が必要となるのは、子宮後屈が原因で症状がある場合や、子宮後屈を引き起こしている原因疾患がある場合です。
治療が必要なケース
主に以下のような場合に治療が検討されます。
- 癒着性子宮後屈による症状: 骨盤内の癒着によって子宮が後方に固定され、それによって強い月経痛、腰痛、性交痛、排便困難などの症状が現れている場合。
- 子宮後屈を引き起こしている原因疾患の治療: 子宮内膜症や骨盤腹膜炎などが原因で子宮後屈や癒着が生じている場合、原因となっている病気自体の治療を行います。
- 妊娠初期の子宮嵌頓: まれに妊娠初期に子宮が骨盤から出られず嵌頓を起こし、排尿困難などの症状が出ている場合。
これらの場合、治療は子宮後屈という状態を「元に戻す」こと自体が目的ではなく、症状を和らげることや原因となっている病気を治療することが目的となります。
自分で治すことはできる?
子宮後屈という子宮の傾き自体を、体操やストレッチなどで完全に「治す」ことは困難です。
特に生まれつきの生理的な子宮後屈は体質によるものであり、完全に前屈位に戻すことはできません。
ただし、癒着による子宮後屈でなく、子宮の動きが比較的自由な場合には、特定の体位や体操で一時的に子宮の位置が変化することは考えられます。
しかし、これは恒久的に子宮後屈を解消するものではありません。
自分でできる対策は、子宮後屈に伴う症状を和らげたり、骨盤内の血行を改善したりすることを目的とした補助的なものと捉えるべきです。
癒着性子宮後屈の治療
癒着性子宮後屈による症状が重い場合、治療法としては主に以下のようなものがあります。
- 対症療法: 痛みに対しては、鎮痛剤(非ステロイド性抗炎症薬など)の使用が一般的です。
月経痛が強い場合は、低用量ピルやGnRHアゴニスト製剤などのホルモン療法を用いて、月経をコントロールし、痛みを軽減することもあります。
これらは症状を和らげるための治療であり、癒着そのものを解消するものではありません。 - 手術療法: 癒着が強く、症状が重い場合や、不妊の原因となっていると考えられる場合には、癒着剥離術が検討されることがあります。
これは、腹腔鏡手術または開腹手術によって、癒着している部分を剥がし、子宮や卵巣、卵管の動きを回復させる手術です。
子宮を本来の位置に戻すための手術(子宮挙上術など)が同時に行われることもあります。
手術によって子宮後屈が完全に解消されるとは限りませんが、癒着を剥がすことで症状の改善や妊娠の可能性を高めることが期待できます。 - ペッサリー: 子宮を支えるためのリング状の医療器具(ペッサリー)を腟内に挿入し、子宮を前方に持ち上げて固定することで、子宮後屈による症状を和らげる方法です。
全てのケースに有効ではなく、症状や子宮の状態によって適応が異なります。
どのような治療法を選択するかは、症状の程度、子宮後屈の原因(癒着の有無や程度)、年齢、妊娠希望の有無などを考慮し、医師と十分に相談して決定します。
日常でできる対策(体操・ストレッチ、寝方など)
子宮後屈自体を治すものではありませんが、子宮後屈に伴う症状(特に腰痛や骨盤内のうっ血)を和らげたり、骨盤内の血行を促進したりするために、日常生活でできる対策があります。
- 猫のポーズ(四つん這い体操):
- 床に四つん這いになり、手は肩の真下、膝は股関節の真下に置きます。
- 息を吐きながら、背中を丸めてお腹を覗き込むようにします(猫が威嚇するような姿勢)。
このとき、子宮が前方に移動するイメージを持ちます。 - 息を吸いながら、背中をそらせて顔をやや上げます。
- これを数回繰り返します。
- この体操は、子宮の周りの靭帯や筋肉を伸ばし、骨盤内の血行を改善する効果が期待できます。
また、便秘解消にも役立つ可能性があります。
月経痛や腰痛が辛い時期は無理せず、症状が落ち着いている時に行うと良いでしょう。
- 骨盤を高くする寝方:
- 寝る際に、お尻の下にクッションなどを置いて骨盤を少し高くすると、子宮が重力で前に移動しやすくなると言われています。
仰向けで膝を立てて寝るのも良いでしょう。
ただし、これも子宮後屈を根本的に治すものではありません。
快適な姿勢で休むことが最も重要です。 - うつ伏せ寝は、子宮を圧迫する可能性があるため、避けた方が良いという意見もありますが、これも医学的に確立された予防法や改善法ではありません。
ご自身が楽な寝方が一番です。
- 寝る際に、お尻の下にクッションなどを置いて骨盤を少し高くすると、子宮が重力で前に移動しやすくなると言われています。
- 姿勢:
- 長時間座りっぱなしや立ちっぱなしを避け、適度に体を動かすことが骨盤内の血行促進につながります。
座る際には、骨盤を立てて背筋を伸ばすことを意識すると良いでしょう。
- 長時間座りっぱなしや立ちっぱなしを避け、適度に体を動かすことが骨盤内の血行促進につながります。
- 便秘の解消:
- 子宮後屈と便秘は相互に関連して症状を悪化させる可能性があります。
食物繊維を多く含む食事を摂る、水分をこまめに摂る、適度な運動をするなど、便秘を予防・解消する生活習慣を心がけましょう。
- 子宮後屈と便秘は相互に関連して症状を悪化させる可能性があります。
- 温める:
- 月経痛や腰痛がある場合は、使い捨てカイロや湯たんぽなどで下腹部や腰を温めると、血行が良くなり痛みが和らぐことがあります。
これらの対策は、あくまで症状の緩和や体調の改善を目指すものであり、子宮後屈自体を解消するものではありません。
症状が辛い場合は、必ず婦人科医に相談し、適切な診断と治療を受けてください。
自己判断での過度な体操や無理な姿勢は、かえって体を痛める可能性もあるので注意が必要です。
こんな時は病院へ相談しましょう
子宮後屈自体は心配のない状態ですが、以下のような症状がある場合や、気になることがある場合は、一度婦人科を受診して相談することをおすすめします。
- 月経痛がひどい、日常生活に支障が出るほどの腰痛がある
- 特定の体位で毎回性交痛を感じる
- 慢性的な下腹部痛や骨盤の痛みがある
- 便秘がひどい、排便時に痛みがある
- 頻尿や排尿困難などの排尿に関するトラブルがある
- 妊娠を希望しているが、なかなか妊娠しない(不妊について相談したい)
- 過去に骨盤腹膜炎や子宮内膜症、腹部手術などの既往がある
- 健康診断などで子宮後屈と言われ、不安を感じている
- 妊娠初期に下腹部痛や排尿困難などの症状が出てきた
これらの症状は、子宮後屈が原因となっている可能性もあれば、子宮内膜症や子宮筋腫、卵巣嚢腫、骨盤内の炎症など、他の婦人科疾患が原因となっている可能性もあります。
早期に正確な診断を受けることで、適切な治療につながり、症状の改善や病気の進行予防につながります。
特に、不妊で悩んでいる場合は、子宮後屈そのものではなく、それに伴う癒着や子宮内膜症などが原因である可能性があります。
婦人科医や不妊治療専門医に相談し、不妊の原因を詳しく調べてもらうことが大切です。
婦人科の受診は、生理中を避けた方が内診や検査が行いやすいことが多いですが、緊急性の高い症状(激しい痛みなど)がある場合は、生理中でも構わず受診しましょう。
ご自身の体の状態を理解し、安心して日常生活を送るためにも、気になることは気軽に専門医に相談してください。
【まとめ】子宮後屈について正しく理解し、必要なら専門家へ相談を
子宮後屈は、子宮が後ろに傾いた状態であり、多くの場合は生理的なもので病気ではありません。
人口の約20〜25%に見られる比較的よくある状態です。
子宮前屈との違いは子宮の傾きの方向であり、一般的に無症状であれば特別な治療は不要です。
しかし、子宮後屈が骨盤内の炎症や子宮内膜症による癒着など、後天的な原因で生じている場合には、月経痛、腰痛、性交痛、便秘などの症状を引き起こすことがあります。
これらの症状がある場合は、子宮後屈自体を治すというよりは、原因となっている病気の治療や、症状を和らげるための治療が行われます。
癒着が強い場合には、手術療法が検討されることもあります。
子宮後屈自体が不妊の直接的な原因となることはほとんどありませんが、癒着を伴う子宮後屈は不妊の原因となる可能性があります。
妊娠した場合でも、多くの場合は問題なく経過し、出産に至りますが、非常にまれに子宮嵌頓といった合併症が起こることもあります。
子宮後屈の診断は、婦人科での内診や超音波検査で行われます。
ご自身でのセルフチェックはできませんが、月経の状態や体調の変化などを記録しておくことは受診の際に役立ちます。
日常生活では、体操や姿勢、便秘解消などが症状緩和に役立つこともありますが、これらは子宮後屈そのものを治すものではありません。
月経痛や腰痛がひどい、性交痛がある、不妊で悩んでいるなど、子宮後屈に関連するかもしれない気になる症状がある場合は、一人で悩まず、必ず婦人科医に相談しましょう。
適切な診断とアドバイスを受けることで、安心して過ごすことができます。
免責事項: 本記事で提供する情報は、一般的な知識を提供するものであり、個別の病状や治療法に関する診断やアドバイスを目的とするものではありません。
ご自身の健康状態に関しては、必ず医療機関を受診し、医師の診断と指導を受けてください。
情報の利用によって生じるいかなる結果についても、筆者および公開者は一切の責任を負いかねます。
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