原発性無月経とは?18歳になっても生理が来ない原因・治療・受診目安

原発性無月経:思春期を過ぎても月経が始まらない原因、診断、治療、そして将来

原発性無月経とは、思春期を過ぎても月経が始まらない状態を指します。「月経が来ない」ということは、女性の体にとって何らかのサインである可能性があります。特に、本来月経が始まる時期に初経が見られない場合は、体の発達やホルモンバランスに何らかの問題が隠れているかもしれません。

この記事では、原発性無月経の定義から、考えられる様々な原因、診断方法、そして治療法について詳しく解説します。また、将来的な妊娠の可能性や、いつ医療機関を受診すべきかについても触れています。ご自身の状況と照らし合わせながら、ぜひ最後までお読みください。

原発性無月経とは?定義と年齢の目安

原発性無月経は、一般的に以下のいずれかに該当する場合に診断されます。

  • 18歳になっても一度も月経(初経)がない場合
  • 15歳になっても月経がなく、かつ第二次性徴(乳房の発育など)が全く見られない場合

月経が始まる年齢には個人差がありますが、多くの場合は10歳から14歳頃に初経を迎えます。18歳は、医学的に見て月経が始まる可能性が極めて低いと考えられる年齢の目安です。また、第二次性徴は月経に先行して始まる体の変化であり、これが全く見られない場合は、月経を起こすためのホルモン分泌や体の発達に遅れがある可能性が考えられます。

原発性無月経の頻度

原発性無月経は、思春期を迎える女性全体の中では比較的まれな状態です。具体的な頻度は原因によって異なりますが、生殖年齢の女性の約0.3%〜0.5%程度にみられるという報告があります。しかし、思春期外来や婦人科を受診する「月経がない」という相談の中では、一定数の方が原発性無月経と診断されます。決して珍しい症状ではないため、一人で悩まず専門医に相談することが大切です。

正常な第二次性徴と原発性無月経

第二次性徴は、女性ホルモン(主にエストロゲン)の分泌が増加することによって起こる体の変化です。通常、以下のような順序で進みます。

  • 乳房の発育(バストアップ): 思春期の最初のサインとして現れることが多いです。
  • 陰毛・腋毛の発育: 乳房の発育に続いて現れます。
  • 体の丸みを帯びる、骨盤が広がる: 女性らしい体つきになります。
  • 月経(初経): これらの変化がある程度進んだ後に始まります。

一般的に、乳房の発育が始まってから月経が始まるまでには、平均で約2年半かかると言われています。

原発性無月経の場合、第二次性徴がどのように現れているかが重要な診断の手がかりになります。

  • 第二次性徴が全く見られない場合(15歳以降): ホルモン分泌の開始自体に問題がある可能性(脳・下垂体の問題、あるいは卵巣の発育・機能不全)が考えられます。
  • 第二次性徴は進んでいるが月経がない場合(18歳以降): ホルモン分泌は正常に行われているものの、子宮や腟の形態に問題がある、あるいはその他の原因が考えられます。

このように、第二次性徴の進み具合と月経の有無を合わせて評価することが、原因を探る上で非常に重要になります。

原発性無月経の主な原因

原発性無月経の原因は多岐にわたりますが、大きく分けて以下の4つに分類されます。それぞれの原因によって、体の状態や治療法が大きく異なります。

中枢性無月経(脳・下垂体)

月経周期は、脳の視床下部、脳下垂体、そして卵巣が連携してコントロールしています。この司令塔である脳(視床下部)や脳下垂体に問題がある場合に起こるのが中枢性無月経です。視床下部から放出されるGnRH(ゴナドトロピン放出ホルモン)によって脳下垂体からFSH(卵胞刺激ホルモン)とLH(黄体形成ホルモン)が分泌され、これらのホルモンが卵巣に作用して卵胞の発育や排卵、女性ホルモンの分泌を促します。この一連の流れのどこかに異常があると月経が来なくなります。

視床下部性無月経

視床下部からのGnRH分泌がうまくいかないために起こります。これは、様々な要因によって視床下部の機能が抑制されることで生じます。

  • 精神的ストレス: 過度なストレスは視床下部の機能を低下させることがあります。
  • 体重減少・低栄養: 極端なダイエットや摂食障害などによる急激な体重減少、体脂肪率の低下は、ホルモンバランスを崩し視床下部からの信号を弱めます。
  • 過度な運動: 長時間・高強度のトレーニングを日常的に行っているアスリートなどに見られることがあります。エネルギー不足やホルモンバランスの変化が影響します。
  • 腫瘍などによる圧迫: 視床下部周辺に発生した腫瘍などが圧迫することで機能が障害される場合があります。
  • カルマン症候群: 遺伝性の疾患で、GnRH産生ニューロンの移動異常により、嗅覚障害と視床下部性性腺機能低下を伴います。

これらの原因によって視床下部からのGnRH分泌が低下すると、結果的に脳下垂体からのFSH・LH分泌も低下し、卵巣が刺激されないため女性ホルモンの分泌も不足し、月経が起こらなくなります。第二次性徴が遅れたり、全く見られないことが多いタイプです。

下垂体性無月経

脳下垂体自体に異常がある場合に起こります。視床下部からのGnRH信号は来ているのに、脳下垂体がFSHやLHを十分に分泌できない状態です。

  • 下垂体腺腫: 特にプロラクチンを過剰に分泌するプロラクチン腺腫が原因となることがあります。高プロラクチン血症はGnRHの分泌を抑制し、月経異常を引き起こします。
  • その他の下垂体機能低下: 下垂体の炎症、出血、腫瘍、あるいは遺伝的な要因などによって、FSHやLHを含む様々な下垂体ホルモンの分泌が低下する汎下垂体機能低下症の場合もあります。

下垂体性の原因でも、ホルモンの不足により第二次性徴の遅れや停止が見られることが多いです。

卵巣性無月経

卵巣自体に問題があり、ホルモンを分泌したり卵胞を育てたりする機能が十分に働かない場合に起こります。脳や下垂体からの信号(FSH, LH)は正常に来ているにも関わらず、卵巣がそれに応えられない状態です。この場合、脳下垂体は卵巣を刺激しようとしてFSHやLHを過剰に分泌することが多く、血液中のFSHやLHが高値になることが特徴です。

染色体異常によるもの

卵巣性無月経の原因として最も代表的なものが染色体異常です。

  • ターナー症候群(Turner syndrome): 女性は通常2本のX染色体(XX)を持っていますが、ターナー症候群ではX染色体が1本しかない(X0)など、X染色体の一部または全部が欠損している場合が多いです。これにより卵巣がうまく形成されず(索状腺)、女性ホルモンの分泌が著しく不足します。低身長や特有の身体的特徴を伴うこともあります。
  • その他の染色体異常: X染色体の構造異常や、X染色体と常染色体の転座なども原因となることがあります。

染色体異常による卵巣性無月経では、第二次性徴がほとんど見られず、女性ホルモンが非常に低い値を示します。

特発性のもの

染色体異常などの明らかな原因が見当たらないにも関わらず、卵巣の機能が低下している状態です。

  • 特発性卵巣機能不全: 原因は不明ですが、卵巣にあるべき卵胞がほとんど存在しない、あるいは機能しない状態です。自己免疫疾患や、特定の遺伝子変異の関与なども研究されていますが、特定できない場合が多いです。
  • 抗がん剤や放射線治療の影響: 思春期前の治療が卵巣にダメージを与え、その後の卵巣機能不全につながることがあります。

卵巣性の原因の場合、脳下垂体は卵巣を刺激しようと働くため、血液中のFSHやLHが高値(特にFSHが著しく高値)になることが特徴的な所見です。

子宮性無月経

脳、下垂体、卵巣からのホルモン分泌は正常に行われているにも関わらず、月経が起こらない場合です。これは主に子宮や腟の形態異常によるものです。月経は子宮内膜が剥がれて出血することですが、子宮がない、あるいは腟が閉鎖しているなどで、出血の通り道がない、または子宮内膜が存在しないために起こります。

子宮・腟の先天性欠如(ロキタンスキー症候群など)

生まれつき子宮や腟の一部または全部がない、あるいは非常に小さい状態です。卵巣は正常に機能していることが多く、第二次性徴も普通に現れます。

  • MRKH症候群(Mayer-Rokitansky-Küster-Hauser syndrome): 最も代表的な原因であり、「ロキタンスキー症候群」とも呼ばれます。腟の上部や子宮が生まれつき欠損または低形成である疾患です。卵巣機能は正常なため、第二次性徴は正常に現れ、胸が膨らんだり体毛が生えたりしますが、月経が来ません。外性器は正常に見えることが多いです。
  • 腟閉鎖: 腟の一部が膜などで閉鎖している状態です。子宮は存在し、月経血は作られますが、腟から排出されないため体内に溜まってしまう(潜在性月経血貯留)ことで、周期的な下腹部痛などを伴うことがあります。

これらの場合、第二次性徴は正常に発現しているため、周りの友人たちが初経を迎える中で自分だけ月経が来ないことで、不安を感じるケースが多いです。

子宮内腔癒着症

子宮内の手術(掻爬術など)や感染症などにより、子宮の内側がくっついてしまい、子宮内膜が正常に発達しない、あるいは剥がれ落ちない状態です。これは主に月経があった後に起こる「続発性無月経」の主要な原因ですが、まれに先天的な形態異常に伴って癒着が見られる可能性も考えられます。しかし、原発性無月経の原因としては子宮・腟の先天性欠如の方が圧倒的に多いです。

その他の原因(性分化疾患など)

上記以外にも、原発性無月経の原因となる疾患があります。

  • 性分化疾患: 染色体、生殖腺(精巣または卵巣)、解剖学的性器の発達に異常がある状態の総称です。外見は女性であっても内部に精巣が存在する場合など、様々なタイプがあります。性ホルモンの分泌異常や生殖器の発達不全により月経が来ないことがあります。アンドロゲン不応症などがこれに含まれます。
  • 甲状腺機能異常: 甲状腺ホルモンは全身の代謝やホルモンバランスに影響を与えます。甲状腺機能低下症や亢進症が思春期のホルモン分泌に影響し、月経不順や無月経を引き起こすことがあります。
  • 副腎機能異常: 副腎から分泌されるホルモンも性ホルモンバランスに影響します。先天性副腎過形成症などではアンドロゲン(男性ホルモン)が過剰に分泌され、月経異常をきたすことがあります。

これらの疾患も、原発性無月経の原因として考慮されるべきであり、診断のためには専門的な検査が必要です。

原発性無月経の診断方法

原発性無月経が疑われる場合、原因を特定するために様々な検査が行われます。診断プロセスは原因によって異なりますが、一般的に以下のステップで進められます。

問診と身体診察(第二次性徴の評価)

まず、詳細な問診が行われます。

  • いつ頃から体の変化(乳房の発育、体毛など)に気づいたか
  • 家族の中で月経が始まるのが遅かった人はいるか(家族歴)
  • 現在の健康状態、既往歴、服用している薬
  • 身長、体重の変化、食生活、運動習慣
  • 精神的なストレスの有無

次に、身体診察が行われます。身長や体重を測定し、BMI(体格指数)を算出します。そして、第二次性徴の進み具合を詳しく評価します。乳房の発育段階(ターナーの分類)、陰毛・腋毛の発育段階などを医師が視診・触診によって確認します。外性器(陰唇、陰核)の様子も観察します。これらの情報から、どのタイプの原因が考えられるか、ある程度の絞り込みを行います。例えば、第二次性徴が全く見られない場合はホルモン分泌の異常や卵巣の発育不全、第二次性徴は正常なのに月経がない場合は子宮や腟の形態異常などが疑われます。

ホルモン検査

血液検査で、月経周期に関わる様々なホルモンの値を測定します。これは原因特定のために非常に重要な検査です。

主な検査項目と、原因ごとの典型的な結果は以下の表のようになります。

検査項目 正常範囲(思春期後半~成熟期) 中枢性無月経(視床下部/下垂体)の傾向 卵巣性無月経の傾向 子宮性無月経の傾向
FSH(卵胞刺激ホルモン) 低値~中値 低値 高値 中値
LH(黄体形成ホルモン) 低値~中値 低値 高値 中値
エストラジオール(E2, 主要な女性ホルモン) 低値~中値 低値 低値 中値
プロラクチン(PRL) 低値 高値(プロラクチン腺腫の場合) 低値または中値 低値または中値
甲状腺刺激ホルモン(TSH) 正常値 正常値または異常値 正常値 正常値
遊離サイロキシン(FT4) 正常値 正常値または異常値 正常値 正常値
テストステロン(男性ホルモン) 低値 低値または中値 低値または中値 中値または高値(性分化疾患など)
プロゲステロン(P4, 黄体ホルモン) 低値(卵胞期) 低値 低値 低値(月経がないため)

※これらの傾向はあくまで一般的なものであり、個々の症例によって異なります。また、年齢や第二次性徴の段階によって正常値の基準は変動します。

特にFSHとLH、エストラジオールの値は、中枢性の原因か卵巣性の原因かを区別する上で非常に重要です。FSHとLHが低値でエストラジオールも低値の場合は中枢性、FSHとLHが高値でエストラジオールが低値の場合は卵巣性が強く疑われます。

画像検査(超音波検査、MRIなど)

体の内部の状態を確認するために画像検査を行います。

  • 骨盤超音波検査(エコー): 経腹的に超音波をあてて、子宮や卵巣の大きさ、形、状態を確認します。子宮の有無や大きさ、卵巣の卵胞の数などを評価します。
  • MRI検査: 特に脳下垂体や視床下部、あるいは骨盤内の詳細な構造を確認するために行われます。下垂体の腫瘍の有無、子宮や腟の形態異常(欠損、低形成など)をより正確に診断できます。
  • CT検査: MRIと同様に、特定の部位の構造異常を確認するために行われることがあります。

これらの画像検査によって、子宮や卵巣が存在しない、あるいは小さい、脳下垂体に腫瘍がある、といった形態的な異常を客観的に把握することができます。

染色体検査

特に卵巣性の原因が疑われる場合や、身体的特徴からターナー症候群などの染色体異常が考えられる場合に行われます。血液を採取して細胞の染色体を調べ、X染色体の数や構造に異常がないかを確認します。染色体異常が原因である場合、その後の治療方針や将来の展望に大きく関わる重要な検査です。

これらの検査結果を総合的に判断し、原発性無月経の正確な原因を特定していきます。診断に至るまでにはいくつかの検査が必要となるため、時間がかかる場合もありますが、適切な診断があってこそ、その後の適切な治療につながります。

原発性無月経の治療法

原発性無月経の治療は、特定された原因によって大きく異なります。月経を起こすこと自体を治療の目標とする場合と、不足しているホルモンを補充することによって体の健康を維持することを目標とする場合があります。

原因に応じた治療の選択

  • 視床下部性無月経: 原因がストレス、体重減少、過度な運動である場合は、まず原因を取り除くことが重要です。休養、栄養指導、運動量の調整など、生活習慣の改善を行います。これらの改善によって自然に月経が回復することもあります。回復が見られない場合や、ホルモン補充が必要な場合は、ホルモン療法を行います。腫瘍が原因の場合は、その治療(手術、放射線療法など)が優先されます。
  • 下垂体性無月経: プロラクチン腺腫が原因の場合は、プロラクチンの分泌を抑える薬物療法(カベルゴリンなど)が第一選択となります。腫瘍が大きく視力に影響するなど、薬物療法で効果が不十分な場合は手術を検討することもあります。その他の下垂体機能低下の場合は、不足しているホルモン(甲状腺ホルモン、副腎皮質ホルモン、成長ホルモンなど)の補充も同時に必要となる場合があります。
  • 卵巣性無月経(染色体異常を含む): 卵巣自体が機能していないため、自然に月経を起こすことは困難です。治療の主体はホルモン補充療法となります。これにより、思春期の発育を促し、女性としての体の特徴を形成・維持し、将来的な健康リスク(特に骨粗しょう症)を予防します。
  • 子宮性無月経(子宮・腟の先天性欠如): 卵巣機能は正常なため、ホルモン分泌は行われています。月経が来ないのは子宮がないためです。この場合、月経を起こさせる治療は存在しません。腟が閉鎖している場合は、月経血が体内に溜まってしまうことがあるため、腟の形成術(腟を広げる手術や人工腟の作成)が必要となる場合があります。子宮がない場合でも、将来的に妊娠を希望する場合は、第三者の子宮を借りる「代理懐胎」(日本では認められていない)や、ごく限られた施設での子宮移植などが研究段階にあります。
  • その他の原因(性分化疾患など): 原因疾患によります。生殖腺が存在しない場合や、機能が著しく障害されている場合は、自然妊娠は困難となります。

このように、原発性無月経の治療は、その根底にある原因を正確に診断した上で、個々の患者さんの年齢、体の発達段階、将来の希望(妊娠の可能性など)を考慮して、最適な方法が選択されます。

ホルモン補充療法(カウフマン療法など)

中枢性無月経(生活習慣の改善で回復しない場合)や卵巣性無月経(染色体異常を含む)など、女性ホルモンが不足している場合に広く行われる治療法です。不足している女性ホルモン(エストロゲンとプロゲステロン)を薬で補うことで、第二次性徴の発育を促し、人工的に月経のような出血を起こさせます。このホルモン療法のうち、特に思春期の発育を促す目的で行われるものをカウフマン療法と呼ぶことがあります。

カウフマン療法とは:
エストロゲン製剤をまず一定期間投与し、乳房や子宮の発育を促します。その後、エストロゲン製剤にプロゲステロン製剤を加えて投与し、一定期間後に両方の薬を中止することで、子宮内膜が剥がれて出血を起こさせます。このサイクルを繰り返すことで、人工的に月経周期を作り出します。

カウフマン療法の目的:

  • 第二次性徴の促進: 乳房や子宮の発育、体つきの変化など、女性としての体の特徴を形成します。
  • 子宮内膜の発達: 月経様出血を起こすために子宮内膜を厚くします。
  • 骨密度の維持: エストロゲンは骨の形成を助けるため、不足を補うことで将来の骨粗しょう症を予防します。
  • 心血管系の健康維持: エストロゲンは心血管系を保護する作用もあるとされています。
  • 心理的な安定: 月経が来ないことや体の発達の遅れに対する不安やコンプレックスを軽減し、女性としての自信を持つことを助けます。

ホルモン補充療法は、注射薬、内服薬、貼り薬、塗り薬など、様々な剤形があります。どのホルモンを、どの量で、どの期間投与するかは、原因や患者さんの状態、年齢に応じて医師が決定します。治療は年単位で継続されることが多く、特に卵巣機能が回復しない場合は、自然閉経を迎える年齢まで継続することが推奨されます。

手術療法

子宮や腟の形態異常に対する手術が行われることがあります。

  • 腟閉鎖に対する手術: 腟が膜などで閉鎖している場合、切開や拡張によって腟を開通させ、月経血の排出を可能にします。
  • 腟形成術: ロキタンスキー症候群などで腟が短い、あるいは欠損している場合、人工的に腟を作成する手術が行われることがあります。これにより性交渉が可能になることが主な目的ですが、潜在性月経血貯留のリスクを減らす目的で行われることもあります。
  • 子宮の形成術: 子宮の形に軽微な異常がある場合、手術で修復することもありますが、原発性無月経の原因となるような重度の形態異常に対して有効な手術は限られます。

手術は、形態異常によって生じる問題を解決するために行われ、月経が始まるわけではありません(子宮がない場合)。

対症療法

原発性無月経は、身体的な問題だけでなく、患者さんの精神面にも大きな影響を与えます。周りの友人との比較、体の発達への不安、将来への心配など、様々な悩みを抱えることがあります。そのため、心理的なサポートも非常に重要です。

  • 心理カウンセリング: 不安や悩みを専門家と共有し、気持ちの整理や対処法を見つけるサポートを受けられます。
  • 患者会や情報提供: 同じような悩みを持つ方との交流や、正確な情報を得ることで、孤立感を軽減し、前向きな気持ちになることができます。
  • 家族の理解とサポート: ご家族が病気について理解し、患者さんの気持ちに寄り添うことも、精神的な支えとなります。

治療はホルモン補充や手術といった医学的なアプローチだけでなく、患者さん自身の心身の健康をトータルでサポートする視点が不可欠です。

原発性無月経と将来への影響、妊娠の可能性

原発性無月経と診断された場合、患者さんやご家族は将来のこと、特に妊娠できるかどうかについて大きな不安を感じることが多いでしょう。原因によって将来への影響や妊娠の可能性は大きく異なります。

骨密度への影響(骨粗しょう症リスク)

女性ホルモン、特にエストロゲンは、思春期以降の骨の成長と維持に非常に重要な役割を果たしています。エストロゲンが不足すると、骨の形成が滞り、骨量が減少しやすくなります。思春期は骨量が大きく増加し、生涯のピーク骨量を形成する時期です。この時期にエストロゲンが不足している状態が長く続くと、十分に骨量が増えないまま成人期を迎え、将来的に骨粗しょう症になるリスクが高まります。

骨粗しょう症は、骨がもろくなり骨折しやすくなる病気です。特に閉経後の女性に多い病気ですが、思春期からの女性ホルモン不足によって若年期からリスクが高まることがあります。ホルモン補充療法は、この骨量減少を防ぎ、将来の骨粗しょう症リスクを低減する上で非常に有効な治療法です。医師の指示に従い、適切な期間ホルモン補充を続けることが大切ですし、必要に応じて骨密度検査も行われます。

不妊の可能性と妊娠に向けた治療

妊娠には、正常な卵巣機能(排卵)、子宮、卵管、そして男性側の生殖機能が必要です。原発性無月経の原因によっては、これらの機能の一部または全部に問題があるため、自然妊娠が難しい場合があります。

  • 中枢性無月経(視床下部/下垂体性): 原因がストレスや体重減少などで、視床下部-下垂体系の機能が回復すれば、自然に月経が始まり、排卵も起こって妊娠が可能になることがあります。機能回復が見られない場合でも、排卵誘発剤(ゴナドトロピン製剤など)による治療で排卵を起こさせ、妊娠を目指すことが可能です。
  • 卵巣性無月経(染色体異常を含む): 卵巣自体が機能していないため、自身の卵子を使った妊娠はできません。ただし、子宮は存在し、ホルモン補充療法によって子宮内膜を十分に厚くできる場合は、卵子提供を受けた体外受精によって妊娠・出産できる可能性があります。ターナー症候群などで子宮の発育が不十分な場合や、心血管系の合併症などで妊娠自体にリスクがある場合は、慎重な検討が必要です。
  • 子宮性無月経(子宮・腟の先天性欠如): 卵巣機能は正常なため卵子は作られますが、子宮がないため妊娠することはできません。自身の卵子を用いて体外受精を行い、第三者の子宮を借りる「代理懐胎」(日本では法律で認められていない)や、研究段階の子宮移植などの選択肢が考えられますが、いずれも非常に限定的です。
  • その他の原因(性分化疾患など): 原因疾患によります。生殖腺が存在しない場合や、機能が著しく障害されている場合は、自然妊娠は困難となります。

このように、妊娠の可能性は原因によって大きく異なり、諦めなければならないケースもあれば、治療によって十分に可能性が開けるケースもあります。大切なのは、ご自身の原因を正確に把握し、不妊治療専門医とよく相談することです。不妊治療は高度な医療を伴うことが多く、時間や費用、精神的な負担も大きくなる可能性があります。将来の家族計画について、パートナーとよく話し合い、医師から十分な説明を受け、納得した上で治療を選択することが重要です。

心理的ケアの重要性

原発性無月経という診断は、患者さんにとって大きなショックや不安を与える可能性があります。「自分は周りと違う」「女性として不完全なのではないか」「将来子どもを持てないかもしれない」といった悩みを抱え、自尊心が低下したり、社会的な孤立を感じたりすることもあります。

特に思春期という心身ともに大きく変化する時期に、月経が来ないことや体の発達の遅れを経験することは、心理的な負担が大きくなりがちです。

  • 専門医とのコミュニケーション: 医師は病気や治療法だけでなく、患者さんの気持ちにも寄り添い、不安や疑問に対して丁寧に答える必要があります。信頼できる医師を見つけることが大切です。
  • 家族や学校の理解: 周囲の人が病気について理解し、偏見なく接することで、患者さんの安心につながります。必要に応じて学校の先生などにも相談し、サポート体制を整えることも重要です。
  • カウンセリング: 臨床心理士やカウンセラーとの面談は、自分の気持ちを整理し、病気と向き合うための助けになります。
  • 同じ経験を持つ人との交流: 患者会やオンラインコミュニティなどを通じて、同じ悩みを抱える方と情報交換したり、気持ちを共有したりすることで、孤独感を軽減できます。

ホルモン補充療法などで体の発達が進み、月経様出血が見られるようになること自体が、心理的な安心につながることも多いです。しかし、治療中も、そして治療が終わった後も、心のケアは継続的に行うことが望ましいでしょう。

原発性無月経に関するよくある疑問

原発性無月経でもおりものはある?

はい、原因によっては原発性無月経でもおりものはあります。

おりもの(帯下)は、腟や子宮頸管から分泌される粘液です。これらの分泌腺は女性ホルモンの影響を受けますが、おりもの自体は月経のように子宮内膜が剥がれることによる出血ではありません。

例えば、卵巣機能が正常で女性ホルモンが分泌されている場合(子宮や腟の形態異常が原因の場合など)、通常通りのおりものが見られます。また、ホルモン補充療法を行っている場合も、女性ホルモンの作用によっておりものが出ます。

一方、視床下部性や卵巣性で女性ホルモンが著しく不足している場合は、おりものがほとんど見られないことがあります。

15歳で月経がない場合、受診が必要?

15歳になっても月経がなく、かつ第二次性徴(乳房の発育など)が全く見られない場合は、専門医(婦人科医や小児科内分泌医など)を受診することを強く推奨します。

第二次性徴が見られない場合は、ホルモン分泌の開始自体に問題がある可能性が高く、早期に原因を調べて適切な治療を開始することが、将来の体の発達や健康にとって非常に重要だからです。

もし15歳で第二次性徴は始まっているのに月経がない場合でも、心配であれば一度専門医に相談してみるのが良いでしょう。正常な範囲内の遅れである可能性もあれば、ホルモンバランスの軽い乱れなど、早めに介入した方が良い場合もあります。

体重減少は原発性無月経の原因になる?

はい、極端な体重減少や低栄養は、原発性無月経の重要な原因の一つとなり得ます(視床下部性無月経)。

脳の視床下部は、体のエネルギー状態を感知して月経周期をコントロールしています。体脂肪率が極端に低くなったり、急激に体重が減少したりすると、体が「妊娠・出産できるようなエネルギーがない」と判断し、月経周期を停止させてしまうことがあります。これは、体が生命維持のためにエネルギーを温存しようとする反応です。

ダイエットや摂食障害などによる体重減少が原因の場合は、適切な栄養摂取と健康的な体重に戻すことで、視床下部からのホルモン分泌が回復し、自然に月経が戻ってくる可能性があります。しかし、回復には時間がかかることや、長期にわたる体重減少によって体の機能が回復しにくくなることもあるため、注意が必要です。

原発性無月経を放置するとどうなる?

原発性無月経の原因にもよりますが、特に女性ホルモンが不足している状態を放置すると、以下のような様々な影響が出る可能性があります。

  • 体の発達の遅れ/停止: 第二次性徴が十分に完了せず、女性としての体の特徴(乳房の発育など)が十分に発達しない可能性があります。
  • 骨量の減少: エストロゲン不足により骨密度が低下し、若年期から骨粗しょう症のリスクが高まります。将来、骨折しやすくなる可能性があります。
  • 心血管系への影響: 長期的な女性ホルモン不足が心血管系の健康に影響を与える可能性も指摘されています。
  • 心理的な影響: 月経がないことや体の発達に対する不安、コンプレックス、女性としてのアイデンティティ形成への影響など、精神的な負担が大きくなります。
  • 妊娠の可能性: 原因によっては自然妊娠が極めて困難である状態を放置することになります。

原因によっては、早期に診断・治療を開始することで、これらの影響を最小限に抑えたり、将来の妊娠の可能性を開いたりすることができます。そのため、原発性無月経が疑われる場合は、放置せずに必ず専門医を受診することが非常に大切です。

いつ専門医を受診すべきか

以下のいずれかに該当する場合は、原発性無月経の可能性が考えられますので、婦人科や思春期外来、あるいは小児科内分泌医などの専門医を受診してください。

  • 15歳になっても月経がなく、かつ乳房の発育など第二次性徴が全く見られない
  • 18歳になっても一度も月経がない

これらの年齢の目安に達していなくても、以下のような場合は早めに相談することをおすすめします。

  • 周りの同級生と比べて、第二次性徴の始まりが著しく遅いと感じる(例えば13~14歳になっても乳房が全く膨らんでこないなど)。
  • 成長期に他の病気(慢性疾患など)にかかったことがある、あるいは極端な体重減少や摂食障害の既往がある。
  • 家族に月経の開始が非常に遅かった人がいる、あるいは遺伝性の疾患が疑われる場合。

専門医を受診することで、現状の体の状態を詳しく調べ、なぜ月経が始まらないのか、その原因を特定することができます。原因が特定されれば、それに応じた適切な治療やアドバイスを受けることができます。

専門医への受診は、決して怖いことや恥ずかしいことではありません。体の悩みについて、専門家と一緒に解決策を見つけるための大切な第一歩です。一人で悩まず、勇気を出して相談してみましょう。

まとめ

原発性無月経は、18歳までに初経がない状態、または15歳で第二次性徴が見られないまま月経がない状態を指します。その原因は、脳・下垂体、卵巣、子宮といった生殖に関わる様々な器官の異常や、全身的な疾患、遺伝的要因など、多岐にわたります。

診断のためには、問診、身体診察による第二次性徴の評価、ホルモン検査、画像検査、染色体検査などを組み合わせて、正確な原因を特定することが重要です。

治療法は原因によって異なり、ホルモン補充療法(カウフマン療法)、手術療法、原因疾患の治療などが行われます。特に女性ホルモンが不足している場合には、体の発達を促し、将来的な骨粗しょう症などのリスクを減らすためにホルモン補充療法が非常に大切になります。

原発性無月経と診断された場合、将来の妊娠について不安を感じる方も多いですが、原因によっては不妊治療によって妊娠できる可能性もあります。専門医とよく相談し、ご自身の状況に合わせた将来計画を立てることが重要です。

また、身体的な治療だけでなく、月経がないことや体の発達に対する不安など、精神的なケアも同様に大切です。専門医やカウンセラー、あるいはご家族のサポートを受けながら、病気と向き合っていくことが望ましいでしょう。

もし、ご自身や周りの方がこの記事で述べた原発性無月経の目安に当てはまる場合は、放置せずに早めに婦人科などの専門医を受診してください。早期の受診と適切な対応が、将来の健康やQOL(生活の質)を守るために非常に重要です。一人で抱え込まず、専門家の力を借りて、未来への希望を持って進んでいきましょう。


免責事項: この記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の疾患の診断や治療法を推奨するものではありません。個々の症状については、必ず医療機関で専門医の診断を受けてください。この記事の情報に基づいた自己判断による行動については、一切の責任を負いかねます。

サイトのリンクに関する補足

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