細菌性腟症は、多くの女性が一度は経験する可能性のある腟のトラブルです。米国疾病対策予防センター(CDC)によると、細菌性腟症は米国で最も頻繁な腟疾患です。デリケートな部分の悩みのため、一人で抱え込んでしまう方も少なくありません。しかし、適切な知識を持ち、早めに対処することが大切です。
この記事では、細菌性腟症の具体的な症状、その原因、診断方法、そして病院での治療法について詳しく解説します。さらに、市販薬で対応できるのか、自然に治る可能性はあるのか、パートナーへの影響や、再発を防ぐためのポイントについてもご紹介します。もし気になる症状があれば、この記事を参考に、ぜひ医療機関への相談を検討してみてください。
細菌性腟症とは
細菌性腟症(Bacterial Vaginosis, BV)は、腟内に存在する細菌のバランスが崩れることによって起こる状態です。健康な女性の腟内は、通常「デーデルライン桿菌」と呼ばれる乳酸桿菌が優勢であり、これにより腟内は弱酸性に保たれています。この弱酸性の環境が、病原菌の増殖を抑えるバリアとして機能しています。
米国疾病対策予防センター(CDC)によると、細菌性腟症(BV)は、正常な過酸化水素および乳酸産生乳酸桿菌が、ガードネレラ菌(G. vaginalis)やPrevotella属、Mobiluncus属、A. vaginaeなどの高濃度の嫌気性菌に置き換わる腟内細菌叢の乱れであり、腟上皮細胞上のポリミクロバイアルバイオフィルムの出現が主な特徴です。
何らかの原因で乳酸桿菌が減少し、代わりにガードネレラ菌をはじめとする特定の嫌気性菌(酸素がない環境で増殖する菌)が増殖すると、腟内のpHバランスが崩れ、細菌性腟症を発症します。細菌性腟症は性感染症の一つとして扱われることもありますが、性行為の経験がない女性にも起こりうるため、必ずしも性行為によってのみ感染する病気ではありません。また、炎症反応が比較的軽微な場合が多いことから、「腟炎」ではなく「腟症」と呼ばれていますが、症状が出ている状態を広く「腟炎」と表現することもあります。これは専門家によっても若干見解が分かれることがありますが、一般的には「細菌性腟症」として理解されています。
細菌性腟症の症状
細菌性腟症の最も一般的な症状は、おりものの変化とにおいです。ただし、人によっては全く症状がない場合もあります。
細菌性腟症のおりものの特徴
細菌性腟症にかかると、おりものの量が増えることがよくあります。健康な時のおりものは、透明や乳白色で、少し粘り気があるものですが、細菌性腟症ではその色や性状が変わります。
典型的なおりものの特徴としては、灰色や黄白色のサラサラとした水っぽいおりものが挙げられます。時には泡立っているように見えることもあります。量が増えるため、下着が濡れて不快に感じたり、かぶれの原因になったりすることもあります。粘り気が少なくなるため、糸を引くような状態ではなく、流れ出るように感じることが多いかもしれません。
細菌性腟症のにおいの特徴
細菌性腟症のもう一つの顕著な症状は、独特なにおいです。このにおいは、腟内で増殖した嫌気性菌が作り出すアミンという物質が原因です。
表現としては、「魚が腐ったような生臭いにおい」と例えられることが一般的です。このにおいは、特に性行為の後や、月経時に強くなる傾向があります。これは、精液や経血が腟内の分泌物と混ざり合うことで、アミンが揮発しやすくなるためと考えられています。においが気になって日常生活に支障を感じたり、パートナーとの関係に悩んだりする方も少なくありません。
かゆみや痛みはある?
細菌性腟症では、おりものの変化やにおいが主な症状であり、かゆみや痛みを伴うことは比較的少ないとされています。カンジダ腟炎のように、強いかゆみやヒリヒリとした痛み、外陰部の赤みや腫れが目立つ病気とは異なります。
しかし、全くかゆみや痛みがないわけではありません。おりものが増えて外陰部がかぶれたり、腟内の環境が悪化することで軽度のかゆみや不快感が生じたりすることはあります。特に、他の種類の感染症(例:カンジダ、トリコモナス、クラミジアなど)を併発している場合には、かゆみや痛みが強く現れることがあります。そのため、おりものの変化だけでなく、かゆみや痛みが気になる場合も、自己判断せずに医療機関を受診することが重要です。
細菌性腟症の原因
細菌性腟症は、腟内に本来存在する細菌のバランスが崩れることによって起こります。具体的には、健康な腟内環境を維持している善玉菌である乳酸桿菌が減少し、特定の嫌気性菌が増殖することが根本的な原因です。では、なぜこのようなバランスの崩れが起こるのでしょうか。
腟内環境のバランスが崩れる要因
腟内環境のバランスが崩れる要因はいくつか考えられます。
- 腟の洗浄のしすぎ: 腟内を石鹸や消毒液などで頻繁に洗いすぎると、健康な腟内環境を保つために必要な乳酸桿菌まで洗い流してしまい、かえって細菌バランスを崩す原因となります。デリケートゾーンの外側を優しく洗うだけで十分です。
- ホルモンバランスの変化: 月経周期、妊娠、更年期など、女性ホルモンのバランスが変動する時期には、腟内環境も影響を受けやすくなります。特にエストロゲンレベルの低下は、乳酸桿菌の活動に影響を与えることがあります。
- 抗生物質の使用: 風邪などで抗生物質を服用すると、体全体の細菌に影響を与えるため、腟内の善玉菌である乳酸桿菌も減らしてしまう可能性があります。これにより、他の菌が増殖しやすい環境が生まれます。
- 避妊具(IUDなど): 子宮内避妊器具(IUD)の使用が、細菌性腟症のリスクを高める可能性があるという報告もあります。メカニズムは完全には解明されていませんが、物理的な刺激や細菌叢への影響が考えられます。
- 喫煙: 喫煙は全身の血行を悪化させるだけでなく、腟内の環境にも悪影響を与える可能性が指摘されています。喫煙者は非喫煙者よりも細菌性腟症のリスクが高いことが研究で示されています。
- 免疫力の低下: ストレス、疲労、病気などで体の免疫力が低下しているときも、細菌の増殖を抑える力が弱まり、細菌性腟症にかかりやすくなることがあります。
これらの要因が単独または複合的に作用し、腟内環境がアルカリ性に傾き、嫌気性菌が増殖しやすい状態を作り出します。
ストレスや疲労との関係
直接的な原因とは断定できませんが、ストレスや疲労も細菌性腟症の発症や悪化に関係していると考えられています。慢性的なストレスや過度の疲労は、全身の免疫機能を低下させることが知られています。免疫力が低下すると、腟内に侵入してきた悪玉菌や、普段は増殖が抑えられている常在菌が悪さをしやすい状態になります。
また、ストレスはホルモンバランスにも影響を与える可能性があります。ホルモンバランスの乱れが腟内環境に影響し、乳酸桿菌の減少を招くことも考えられます。心身の健康状態は腟の健康にもつながっているため、十分な休息やストレス管理も細菌性腟症の予防や改善のために重要と言えるでしょう。
性行為との関係
細菌性腟症は必ずしも性感染症ではありませんが、性行為が細菌性腟症のリスクを高める要因となることが知られています。特に、新しいパートナーとの性行為や、複数のパートナーがいる場合に関連性が高いとされています。
これは、性行為によって腟内に外部から細菌が持ち込まれたり、性行為中の摩擦や体液(精液はアルカリ性です)によって腟内のpHバランスが一時的に変化したりすることが、細菌バランスを崩すきっかけになりうるためと考えられています。オーラルセックスもリスク要因として指摘されています。
ただし、前述の通り、性行為の経験がない女性にも起こりうる病気であり、細菌性腟症にかかったからといって、必ずしもパートナーからの感染や、パートナーが他の人に感染させているということではありません。過度に心配せず、正確な情報を得ることが大切です。
細菌性腟症の診断方法
細菌性腟症の診断は、医療機関(主に婦人科)で行われます。医師は問診、内診、そして腟分泌物の検査などを組み合わせて診断を確定します。
- 問診: まず、症状について詳しく聞かれます。おりものの色、量、においの変化、かゆみや痛みの有無、症状が現れ始めた時期、月経周期や性行為との関連などについて伝えます。既往歴やアレルギー、服用中の薬についても情報を提供します。
- 内診と視診: 内診台に上がり、外陰部や腟の状態を医師が目で見て確認します。おりものの色や性状、量などを観察します。この際、腟の壁や子宮頸部に異常がないかも同時に確認されることがあります。
- 腟分泌物の検査: 細菌性腟症の診断において、最も重要な検査の一つです。内診時に、医師が腟の壁から少量の分泌物を採取します。この採取した分泌物を用いていくつかの検査が行われます。
- pH測定: 健康な腟内は弱酸性(pH 3.8~4.5程度)ですが、細菌性腟症ではpHが上昇し、pH 4.5以上になることが多いです。採取した分泌物にpH試験紙などをつけて測定します。
- 顕微鏡検査: 採取した分泌物をスライドガラスに乗せ、顕微鏡で観察します。細菌性腟症では、特徴的な「クリューセル(Clue Cell)」と呼ばれる細胞が見られます。これは、腟の上皮細胞の表面に多数の細菌が付着している状態です。また、乳酸桿菌が減少し、他の細菌が増加している様子も観察できます。グラム染色を行うこともあります。
- スニッフテスト(アミンテスト): 採取した分泌物に水酸化カリウム(KOH)溶液を少量加えます。細菌性腟症の場合、嫌気性菌が産生するアミンが揮発し、魚のような強いにおいが発生します。これにより、診断の補助とします。
これらの検査結果と、特徴的な臨床症状(灰色で水っぽいおりもの、魚臭いにおい)を総合的に判断して、細菌性腟症と診断されます。アムセル基準などが診断のガイドラインとして用いられます。正確な診断のためには、自己判断せず必ず医療機関を受診しましょう。
細菌性腟症の治し方・治療法
細菌性腟症の治療は、主に病院で処方される薬によって行われます。適切な治療を受ければ、比較的短期間で症状は改善します。
病院での治療(処方薬)
細菌性腟症の治療の第一選択薬は、腟内で異常増殖した嫌気性菌を抑制するための抗生物質(抗菌薬)です。米国疾病対策予防センター(CDC)のガイドラインでも、メトロニダゾール(腟剤または経口剤)が細菌性腟症の治療における第一選択薬の一つとされています。
抗生物質(抗菌薬)による治療
細菌性腟症の治療に用いられる主な抗生物質は以下の通りです。
- メトロニダゾール: 細菌性腟症の治療薬として最も広く使用されています。内服薬と腟錠(または腟用ゲル)があります。嫌気性菌に高い抗菌活性を示します。
- クリンダマイシン: メトロニダゾールが使えない場合や、効果が不十分な場合に用いられることがあります。内服薬、腟クリーム、腟用坐剤などがあります。
- チニダゾール: メトロニダゾールと同様の効果を持つ薬剤で、主に内服薬として用いられます。メトロニダゾールよりも効果が持続するとされることもあります。
これらの抗生物質によって、腟内の嫌気性菌を減らし、正常な細菌バランスを取り戻すことを目指します。どの薬剤を使用するかは、患者さんの状態やアレルギーなどを考慮して医師が判断します。
腟錠と内服薬
抗生物質には、腟内に直接挿入して使用する腟錠(または腟用ゲル/クリーム/坐剤)と、口から服用する内服薬があります。それぞれに特徴があり、どちらが適しているかは症状や患者さんの希望によって異なります。
治療薬の剤形 | 特徴 | メリット | デメリット |
---|---|---|---|
腟錠・腟用剤 | 腟内に挿入して使用する薬。有効成分が直接腟局所に作用する。 | 全身への影響が少なく、副作用が出にくい。有効成分が患部に直接届きやすい。 | 毎日挿入する必要がある(夜間など)。おりものとして薬剤が出てくることがある。生理中は使用できない場合がある。 |
内服薬 | 口から服用する薬。全身に作用する。 | 毎日決まった時間に服用するだけなので簡便。生理中でも使用できる。 | 全身に作用するため、吐き気、下痢、口の中の苦味などの消化器症状や、全身性の副作用(アレルギーなど)が出やすいことがある。アルコールとの併用が禁止されている薬剤(メトロニダゾール、チニダゾール)がある。 |
一般的には、効果や再発率に大きな差はないとされています。医師と相談し、自身のライフスタイルや症状に合った剤形を選択することが大切です。
どのくらいで治る?治療期間について
細菌性腟症は、適切な抗生物質による治療を行えば、比較的早く症状の改善が見られます。
一般的に、1週間程度の治療期間で症状は軽快することが多いです。腟錠の場合は毎日1回の使用で5~7日間、内服薬の場合も通常は5~7日間服用します。治療開始から数日でおりものの量やにおいの変化に気づくことがあります。
症状が改善しても、医師から指示された期間は最後まで薬を使用することが重要です。途中で自己判断で薬をやめてしまうと、原因菌を十分に排除できずに症状が再燃したり、治療に抵抗性を持つ菌が増えてしまったりする可能性があります。
治療終了後、症状が改善したことを確認するために再診が必要な場合もあります。完全に治癒したかどうかは、再度腟分泌物の検査を行うことで確認できます。
自然に治ることはある?
細菌性腟症は、軽症の場合や、腟内環境のバランスが一時的に崩れただけであれば、自然に治る可能性もゼロではありません。体の免疫力や、再び乳酸桿菌が増殖することで、自然と細菌バランスが整うケースも報告されています。
しかし、自然治癒に過度に期待することは推奨されません。症状がある場合は、早めに医療機関を受診し、適切な治療を受けることが重要です。その理由はいくつかあります。
- 症状の悪化: 自然治癒を待つ間に、症状が悪化したり、不快な症状が長く続いたりする可能性があります。
- 合併症のリスク: 細菌性腟症を放置すると、腟内の細菌が子宮や卵管などに上行して、骨盤内炎症性疾患(PID)を引き起こすリスクが高まります。PIDは、腹痛や発熱などの症状を引き起こし、不妊の原因になることもあります。米国疾病対策予防センター(CDC)も、細菌性腟症が妊婦における早産リスクの増加、骨盤内炎症性疾患(PID)、HIV感染リスクの上昇と関連していることを指摘しており、早期の治療の重要性を強調しています。
- 妊娠中のリスク: 妊娠中に細菌性腟症にかかると、早産や低出生体重児のリスクが高まることが知られています。妊娠を希望している方や妊娠中の方は、特に早期の診断と治療が重要です。
これらのリスクを避けるためにも、症状に気づいたらまずは医療機関に相談することをおすすめします。
細菌性腟症に市販薬は有効?
残念ながら、細菌性腟症に直接効果のある市販薬は、現在のところ国内では販売されていません。
薬局やドラッグストアで手に入る腟カンジダ症治療薬や、トリコモナス腟炎の治療薬などはありますが、これらは原因となる菌(カンジダ菌やトリコモナス原虫)が細菌性腟症とは全く異なります。細菌性腟症の原因菌である嫌気性菌に対しては効果がありません。
症状が似ているからといって、自己判断で市販のカンジダ治療薬などを使用しても、細菌性腟症は治りません。かえって症状を悪化させたり、原因の特定を遅らせたりする可能性があります。また、細菌性腟症以外のより深刻な感染症が隠れている可能性も否定できません。
したがって、おりものの変化やにおいなど、細菌性腟症が疑われる症状がある場合は、市販薬に頼らず、必ず医療機関を受診して正確な診断と適切な処方薬による治療を受けるようにしましょう。
細菌性腟症を自分で治す方法はある?
市販薬で治せないのと同様に、医学的な根拠に基づいた「自分で治す方法」というものは存在しません。しかし、医療機関での治療効果を高めたり、再発を予防したりするために、日常生活でできることはあります。これらは「治す方法」というよりは「改善・予防のためのセルフケア」と捉えるべきでしょう。
- 腟の洗いすぎを避ける: 前述の通り、腟内を石鹸などで過剰に洗うことは、細菌バランスを崩す原因となります。洗浄剤を使って腟内まで洗いすぎると、健康な乳酸桿菌を減らしてしまい、再び細菌バランスが崩れる原因となります。デリケートゾーンの外側のみを優しく洗うようにしましょう。腟洗浄器(ビデ)の使用も、頻繁に行うことは推奨されません。
- 通気性の良い下着を選ぶ: ムレやすい環境は細菌が増殖しやすいです。綿素材などの吸湿性・通気性に優れた下着を選び、締め付けのきついものは避けましょう。
- 生活習慣の見直し: 十分な睡眠、バランスの取れた食事、適度な運動、ストレス管理は、全身の免疫力を維持し、腟の健康にもつながります。
- 性行為時のコンドーム使用: 性行為は細菌性腟症のリスク要因となりうるため、特に症状がある間や再発しやすい場合は、コンドームを使用することで、腟内への外部からの細菌の持ち込みやpHバランスの急激な変化を軽減できる可能性があります。
- プロバイオティクスの摂取: 乳酸菌などのプロバイオティクスを含む食品やサプリメントの摂取が、腟内の乳酸桿菌を増やし、細菌バランスを整えるのに役立つ可能性が研究されています。ただし、効果には個人差があり、すべての細菌性腟症に有効とは限りません。医療機関での治療の代替にはならないことを理解しておきましょう。
- 禁煙: 喫煙は細菌性腟症のリスクを高めるため、禁煙も再発予防につながります。
これらのセルフケアは、医療機関での治療を補完するものとして取り入れるのが賢明です。症状が改善しない場合や悪化する場合は、必ず医療機関に相談してください。
細菌性腟症と細菌性腟炎の違い
「細菌性腟症」と「細菌性腟炎」という似た言葉があり、混乱することがあるかもしれません。医学的には、この二つの用語は原因や病態の捉え方に若干の違いがあります。
- 細菌性腟症 (Bacterial Vaginosis – BV): 本記事で解説している状態です。腟内の細菌バランスが崩れ、乳酸桿菌が減少し、特定の嫌気性菌が増殖した状態を指します。主な症状はおりものの変化とにおいで、炎症反応は比較的軽微なことが多いです。そのため、「炎症」を意味する「腟炎」ではなく、「症」という言葉が使われます。
- 細菌性腟炎 (Bacterial Vaginitis): 細菌感染によって腟に炎症が起こった状態全般を指す、より広い概念として使われることがあります。例えば、淋菌やクラミジア、大腸菌などの細菌が原因で起こる腟の炎症を指す場合に用いられます。この場合、おりものの変化に加えて、かゆみ、痛み、赤み、腫れといった炎症症状が目立つことが多いです。
しかし、現実には細菌性腟症でも軽度の炎症を伴うこともありますし、症状が出ている状態を「腟炎」と総称することも少なくありません。多くの英語文献では Bacterial Vaginosis (BV) が一般的であり、日本語では「細菌性腟症」と訳されるのが主流です。
重要なのは、原因となっている細菌の種類と、それに対する適切な治療を行うことです。おりものの変化や不快な症状がある場合は、病名にこだわりすぎず、原因を特定するために医療機関を受診することが何よりも大切です。自己判断で「これは炎症だから市販薬で…」などと決めつけず、プロの診断を仰ぎましょう。
細菌性腟症はパートナーにうつる?
細菌性腟症が性行為と関連があることは前述の通りですが、パートナーへの感染についてはどうでしょうか。
男性への影響は?
細菌性腟症は、主に女性の腟内の細菌バランスの問題であり、男性パートナーに感染して症状を引き起こすことは一般的ではありません。男性の尿道や性器には、女性の腟とは異なる細菌叢があり、細菌性腟症の原因菌が定着して問題を起こすことは稀です。
ほとんどの男性パートナーは無症状であり、細菌性腟症の女性と性行為を行っても、特別な治療が必要になることはありません。ただし、ごく稀に男性器に軽い炎症や不快感が生じる可能性も報告されていますが、これは一般的ではありません。
性行為の注意点
細菌性腟症の治療中に性行為を行うことは、絶対に禁止されているわけではありませんが、いくつか注意点があります。
- 再発リスク: 性行為によって再び腟内環境が乱され、治療中の回復を妨げたり、治癒後に再発したりするリスクがあると考えられています。特に新しいパートナーとの性行為はリスクを高める可能性があります。
- 治療薬の種類: 腟錠を使用している場合、性行為によって薬剤が押し出されてしまったり、効果が十分に発揮されなかったりする可能性があります。また、腟用クリームなどがパートナーに付着して不快感を与えることもあります。
- パートナーへの影響: 男性パートナーに症状は出にくいとはいえ、細菌性腟症の治療が完全に終了するまでは、性行為を控えるか、コンドームを使用することが推奨されます。これにより、女性側の再発リスクを減らすとともに、パートナーへの心理的な配慮にもなります。
治療中は性行為を控え、治療が完了するまで待つのが最も安全かもしれません。性行為が可能になる時期や注意点については、必ず医師に相談し、指示に従いましょう。パートナーが心配している場合は、男性泌尿器科を受診して相談することも可能です。ただし、多くの場合、男性側の治療は不要です。
細菌性腟症の再発予防
細菌性腟症は、適切な治療で一度治癒しても、残念ながら再発しやすい病気の一つです。再発を繰り返さないためには、日常生活での予防策が重要となります。
再発予防のポイントは、腟内の正常な細菌バランスを保つことです。
- 腟の過剰な洗浄を避ける: これが最も基本的な予防策です。洗浄剤を使って腟内まで洗いすぎると、健康な乳酸桿菌を減らしてしまい、再び細菌バランスが崩れる原因となります。デリケートゾーンの外側のみを優しく洗うようにしましょう。腟洗浄器(ビデ)の使用も、頻繁に行うことは推奨されません。
- 通気性の良い下着を着用する: ムレやすい環境は細菌が増殖しやすいです。綿素材などの吸湿性・通気性に優れた下着を選び、締め付けのきついものは避けましょう。
- 生理用品に注意する: 生理中は腟内のpHがアルカリ性に傾きやすいため、細菌性腟症を発症しやすい時期です。生理用品(ナプキンやタンポン)はこまめに交換し、清潔を保つことが大切です。
- 性行為時の注意: 新しいパートナーや複数のパートナーとの性行為、オーラルセックスはリスクを高める可能性があります。コンドームを使用することで、リスクを軽減できると考えられています。
- 生活習慣を整える: 十分な睡眠、バランスの取れた食事、適度な運動、ストレス管理は、全身の免疫機能を正常に保ち、腟の健康維持にもつながります。疲労やストレスが溜まると再発しやすいと感じる方は、特に意識しましょう。
- プロバイオティクスの活用: 腟内の乳酸桿菌を補う目的で、プロバイオティクスを含むヨーグルトやサプリメントなどを摂取することも、再発予防に有効である可能性が示唆されています。ただし、効果には個人差があります。
- 禁煙: 喫煙は細菌性腟症のリスクを高めるため、禁煙も再発予防につながります。
これらの予防策を日常的に意識することで、再発のリスクを減らすことが期待できます。それでも再発を繰り返す場合は、他の原因が隠れていないか、より専門的な検査や治療が必要かを医師に相談しましょう。
まとめ:細菌性腟症の疑いがあれば医療機関へ相談を
細菌性腟症は、女性の腟内の細菌バランスの乱れによって起こる病気であり、おりものの変化や独特なにおいが主な症状です。性行為の経験がなくてもかかることがあり、多くの女性が経験しうる一般的なトラブルです。米国疾病対策予防センター(CDC)も、細菌性腟症を「米国で最も頻繁な腟疾患」としています。
症状に気づいたら、一人で悩んだり、市販薬で対処しようとしたりせず、必ず医療機関(婦人科など)を受診しましょう。医師による問診、内診、腟分泌物の検査によって正確な診断が行われます。
細菌性腟症の治療は、メトロニダゾールやクリンダマイシンといった抗生物質(抗菌薬)が中心となり、内服薬や腟錠が処方されます。CDCのガイドラインでも、メトロニダゾールは第一選択薬の一つです。適切な治療を受ければ、通常1週間程度の短期間で症状は改善します。自己判断で治療を中断せず、医師の指示通りに最後まで薬を使用することが重要です。
軽症の場合は自然治癒することもありますが、放置すると骨盤内炎症性疾患などの合併症を引き起こすリスクがあります。CDCは、細菌性腟症が妊婦における早産リスクの増加、骨盤内炎症性疾患(PID)、HIV感染リスクの上昇と関連していることを指摘しており、特に妊娠中は早期の治療が推奨されます。
残念ながら細菌性腟症に有効な市販薬は現在のところありません。また、自分でできる根本的な治療法もありませんが、腟の過剰な洗浄を避ける、通気性の良い下着を選ぶ、生活習慣を整える、性行為時にコンドームを使用するといった対策は、治療効果を高めたり、再発を予防したりする上で役立ちます。
細菌性腟症は男性パートナーにうつして症状を引き起こすことはほとんどありませんが、性行為は女性の再発リスクとなりうるため、治療中や治癒後しばらくは注意が必要です。
おりものの変化やにおいなど、気になる症状があれば、恥ずかしがらずにまずは婦人科を受診してください。早期の診断と適切な治療、そして日頃からの予防を心がけることが、腟の健康を保つために非常に大切です。
免責事項: 本記事は細菌性腟症に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、医学的な診断や治療の代替となるものではありません。個々の症状については必ず医療機関を受診し、医師の診断と指導を受けてください。
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