【医師監修】原発性不妊とは?原因・検査・治療法を徹底解説

「原発性不妊」という言葉を聞いたことはありますか?
これは、これまで一度も妊娠したことがない方が、避妊をしていないにもかかわらず、一定期間妊娠しない状態を指します。
不妊に悩むご夫婦にとって、その原因や治療法を知ることは、前に進むための大切な一歩となります。
この記事では、原発性不妊の定義から、男女それぞれの主な原因、診断方法、そして現在行われている様々な治療法について、専門的な視点から分かりやすく解説します。
不妊症の種類やリスク要因、治療の流れや費用についても触れていますので、現在不妊でお悩みの方、特に「もしかして原発性不妊かも?」と不安を感じている方は、ぜひ最後までお読みください。
この記事が、皆さまの不妊治療への理解を深め、適切な医療機関への相談につながることを願っています。

原発性不妊とは?定義と分類

不妊症とは、妊娠を望む健康な男女が避妊をしないで性交しているにもかかわらず、一定期間妊娠しない状態を指します。
日本産科婦人科学会では、この「一定期間」を原則として「1年間」としています。
これは、世界保健機構(WHO)などの海外機関が1年間と定義していることに合わせ、2015年(平成27年)に従来の2年間から変更されたものです[1] [2]
ただし、女性の年齢が35歳以上の場合は、より早く検査や治療を検討することが推奨されています。
これは、加齢とともに妊娠率が低下し、流産率が上昇するためです。

不妊症は、過去の妊娠経験の有無によって大きく二つに分けられます。
一つが「原発性不妊」であり、もう一つが「続発性不妊」です。

原発性不妊と続発性不妊の違い

原発性不妊とは、一度も妊娠したことのない方が妊娠に至らない状態を指します。
つまり、第一子を妊娠できないケースがこれに該当します。

一方、続発性不妊とは、過去に一度でも妊娠した経験がある方が、その後再び妊娠を望んでいるにもかかわらず、妊娠に至らない状態を指します。
出産に至らなかった流産や子宮外妊娠などの経験がある場合も、その後に妊娠できない場合は続発性不妊となります。

両者の違いは、あくまで過去に妊娠したことがあるかどうかという点です。
原因や治療法においては共通する部分も多いですが、過去の妊娠や分娩、あるいは流産や子宮外妊娠などの経験が、その後の不妊の原因(例えば、炎症による卵管の閉塞など)となっている場合があるため、問診や検査において重要な情報となります。

不妊症の分類(女性・男性、器質性・機能性)

不妊症は、原因が女性側にあるか男性側にあるか、あるいはその両方にあるかで分類されます。
また、原因の性質によっても分類が可能です。

原因による分類:

  • 女性不妊: 不妊の原因が主に女性側にあるケース。
  • 男性不妊: 不妊の原因が主に男性側にあるケース。
  • 複合性不妊: 女性側と男性側の両方に原因があるケース。
  • 原因不明不妊: 現在の医学的な検査では、明らかな原因が見つからないケース。機能性不妊とも呼ばれる場合があります。

原因の性質による分類:

  • 器質性不妊: 生殖器の形態的な異常や炎症など、身体の構造や組織に問題があることによる不妊。例えば、卵管の閉塞や子宮筋腫、子宮内膜症、精子の通り道(精路)の閉塞などが該当します。
  • 機能性不妊: ホルモン分泌の異常や自律神経の乱れなど、身体の機能に問題があることによる不妊。例えば、排卵障害や黄体機能不全などが該当します。原因不明不妊の中には、現在の検査では捉えきれない機能的な問題が含まれていると考えられています。

原発性不妊は、これらの原因分類のいずれかに当てはまる可能性があります。
つまり、「初めての妊娠を試みているが妊娠しない」という状況であり、その原因が女性の排卵や卵管、子宮の問題かもしれないし、男性の精子の問題かもしれないし、両方の問題かもしれないし、あるいは現在の検査では分からない問題かもしれません。

原発性女性不妊症とは

原発性不妊のうち、特に女性側に主な原因があると考えられる場合を「原発性女性不妊症」と呼ぶことがあります。
女性の生殖機能に関する問題は多岐にわたるため、その原因特定には様々な検査が必要となります。

原発性不妊に悩む多くのご夫婦は、まず女性側の検査から進めることが多いですが、男性側の原因も不妊全体の約半分に関わっていると言われているため、ご夫婦同時に検査を受けることが重要です。

原発性不妊の主な原因

原発性不妊の原因は多岐にわたります。
女性側、男性側、そして男女ともに原因が見つからないケース(原因不明不妊)に分けられます。
ここでは、それぞれの主な原因について詳しく解説します。

女性側の原因(排卵障害、卵管因子など)

女性が妊娠するためには、主に以下の機能が正常に働く必要があります。

  • 排卵: 卵巣から成熟した卵子が放出される。
  • ピックアップ: 卵管采が卵子をキャッチする。
  • 受精: 卵管の中で卵子と精子が出会い、受精する。
  • 卵管輸送: 受精卵が卵管を通って子宮へ移動する。
  • 着床: 子宮内膜に受精卵が根付く。

これらの過程のどこかに異常があると、妊娠は成立しません。
女性不妊の主な原因としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 排卵障害:
    • 定義: 卵巣から卵子が正常に放出されない、または質の良い卵子が育たない状態。
    • 種類: 無月経、稀発月経(月経周期が長い)、頻発月経(月経周期が短い)、無排卵周期症(月経はあるが排卵がない)、黄体機能不全(排卵後に黄体ホルモンが十分に分泌されず、子宮内膜が厚くならない、または維持できない)。
    • 原因: 多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)、高プロラクチン血症、視床下部・下垂体の機能異常、甲状腺機能異常、早期卵巣機能不全(POF、早発閉経)、ストレス、急激な体重変化など。
    • 影響: 排卵が不規則になったり、全くなくなったりすることで、受精の機会が失われます。
  • 卵管因子:
    • 定義: 卵管の通過性が悪かったり、卵管の機能(卵子や受精卵を運ぶ繊毛の動きなど)が障害されている状態。
    • 原因: 過去の骨盤内炎症性疾患(クラミジアなどの性感染症や虫垂炎などによる腹膜炎が原因となることが多い)、子宮内膜症、過去の手術(開腹手術、子宮外妊娠の手術など)による癒着。
    • 影響: 精子が卵子に到達できなかったり、受精卵が子宮へ運ばれなかったりすることで不妊となります。両側の卵管が完全に閉塞している場合は、自然妊娠は極めて困難です。
  • 子宮因子:
    • 定義: 子宮の形態的な異常や子宮内膜の状態に問題がある状態。
    • 種類: 先天的な子宮の形態異常(単角子宮、中隔子宮など)、子宮筋腫(特に粘膜下筋腫や、子宮腔を変形させるもの)、子宮腺筋症、子宮内膜ポリープ、アッシャーマン症候群(子宮内膜の癒着)、慢性子宮内膜炎。
    • 原因: 先天的なもの、後天的なもの(炎症、手術など)。
    • 影響: 受精卵が着床しにくくなったり、着床しても維持できなかったりすることで不妊や不育症の原因となります。
  • 子宮頸管因子:
    • 定義: 子宮頸管に問題があり、精子が子宮内へ進入しにくい状態。
    • 種類: 子宮頸管粘液の異常(量が少ない、粘稠度が高い、精子を動かす力が弱いなど)、抗精子抗体(女性の体内で精子を異物とみなして攻撃する抗体ができる)。
    • 原因: 慢性的な子宮頸管炎、子宮頸管の手術(円錐切除術など)、原因不明。
    • 影響: 精子の運動性が低下したり、精子が子宮腔内に入り込めなかったりします。
  • 免疫因子:
    • 定義: 免疫系の異常が不妊の原因となるケース。
    • 種類: 抗精子抗体、抗リン脂質抗体(不育症の原因にもなる)、その他自己免疫疾患。
    • 影響: 精子の受精能力を妨げたり、受精卵や胎児を攻撃したりする可能性があります。
  • その他:
    • 性交障害: 性交痛や膣痙攣などにより、性交が困難な状態。
    • 全身性疾患: 甲状腺疾患、糖尿病、慢性腎臓病など、全身の病気が生殖機能に影響を与えることがあります。

不妊の原因で多いもの

不妊の原因は一つとは限らず、複数の要因が組み合わさっていることも珍しくありません。
統計的には、不妊の原因の割合は概ね以下のようになっています。

原因の所在 割合(目安)
女性側のみ 40%
男性側のみ 40%
男女両方 10%
原因不明(機能性) 10%

上記はあくまで一般的な目安であり、医療機関や調査によって数値は変動します。

この表からも分かるように、男性側に原因があるケースも女性側と同程度存在します。
そのため、不妊検査は必ずご夫婦お二人で受けることが重要です。

女性側の原因で比較的多いのは、排卵障害や卵管因子です。
特に卵管因子は、クラミジア感染症の既往など、自覚症状がないまま進行しているケースもあるため注意が必要です。

男性側の原因(精子異常など)

男性が妊娠に関わる機能は、主に以下の3つです。

  • 精子形成: 精巣で健康な精子が作られる。
  • 精子輸送: 作られた精子が精路を通って運ばれる。
  • 射精: 性交時に精子が適切に射出される。

これらのいずれかに異常があると、男性不妊の原因となります。
男性不妊の主な原因としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 造精機能障害:
    • 定義: 精巣で健康な精子が十分に作られない、または全く作られない状態。
    • 種類: 精索静脈瘤、染色体異常(Klinefelter症候群など)、遺伝子異常、停留精巣、精巣炎、抗がん剤治療や放射線治療の影響、特定の薬剤の影響、原因不明。
    • 影響: 精子の数(濃度)、運動率、形態(形)のいずれか、あるいは複数の項目に異常が見られます。精子が全く作られない無精子症の場合もあります。
  • 精路通過障害:
    • 定義: 精子が精巣から体外へ射出されるまでの通り道(精路)が詰まっている状態。
    • 原因: 過去の炎症(クラミジアなどの性感染症が原因となることが多い)、鼠径ヘルニア手術などの術後、先天的な精路の欠損。
    • 影響: 精液中に精子が見られない(閉塞性無精子症)または精子の数が極端に少ないといった状態になります。
  • 性機能障害:
    • 定義: 性交を妨げる機能的な問題。
    • 種類: 勃起障害(ED)、射精障害(膣内射精困難、逆行性射精、早漏、遅漏、全く射精できないなど)。
    • 原因: 精神的な問題、神経系の問題、血管系の問題、ホルモン異常、特定の薬剤の影響など。
    • 影響: 精子が女性生殖器内に適切に届けられないため、妊娠の機会が失われます。
  • その他:
    • ホルモン異常: 男性ホルモン(テストステロン)や脳下垂体ホルモン(FSH, LH)の異常が精子形成に影響することがあります。
    • 免疫因子: 抗精子抗体(男性自身の体内で自身の精子に対する抗体ができる)。

男性不妊の原因で最も多いのは、造精機能障害、中でも精子の数や運動率、形態に異常があるケースです。
多くの場合、自覚症状がないため、精液検査を受けなければ分からないことがほとんどです。

原因不明不妊(機能性不妊)

様々な検査を行っても、女性側・男性側のいずれにも明らかな異常が見つからない不妊を、原因不明不妊または機能性不妊と呼びます。
不妊症全体の約10%を占めると言われています。

原因不明不妊の原因としては、現在の医学では特定できない微細な機能異常や、複数の軽微な要因が組み合わさっている可能性が考えられています。
例えば、卵子の質の低下(年齢によるもの)、精子の機能異常(数や運動率が正常でも受精能力が低い)、受精卵の発生異常、受精卵の輸送障害、子宮内膜の微細な着床障害、免疫的な要因などが挙げられます。

原因不明不妊の場合も、タイミング療法から始め、人工授精、体外受精へとステップアップしていくのが一般的な治療の流れとなります。
特に体外受精は、受精から胚発生の初期段階までを体外で行うため、原因不明不妊の一部(例えば受精障害など)が明らかになることもあります。

原発性不妊と機能性不妊の違い

原発性不妊は、「これまでに妊娠経験がない」という状態を指す言葉です。
一方、機能性不妊は、「検査で明らかな原因が見つからない」という不妊の原因の種類を指す言葉です。

したがって、原発性不妊の方が、検査の結果「機能性不妊」と診断されることはあり得ます。
初めての妊娠を試みているが原因が特定できない場合、「原発性機能性不妊」という状態になります。

原発性不妊のリスク要因・特徴(子供ができにくい女性の特徴)

原発性不妊のリスクを高める要因や、子供ができにくいと考えられる女性の特徴には、以下のようなものがあります。
ただし、これらに当てはまるからといって必ずしも妊娠できないわけではありませんし、当てはまらなくても不妊になる可能性はあります。
あくまでも一般的な傾向として理解してください。

  • 加齢: 特に女性の場合、35歳を過ぎると卵子の質や数が減少し始め、妊娠率が低下し、流産率が上昇します。
    男性も加齢によって精子の質が低下する傾向がありますが、女性ほど急激ではありません。
  • 月経不順: 排卵障害が隠れている可能性があります。
    月経周期が極端に短い・長い、あるいは不規則な場合は、排卵が正常に行われていない可能性があります。
  • 過去の骨盤内感染症: クラミジアなどの性感染症は、自覚症状がないまま卵管に炎症を起こし、卵管の通過性を悪化させる可能性があります。
  • 子宮内膜症: 子宮内膜組織が子宮以外の場所(卵巣、卵管、腹膜など)で増殖する病気です。
    卵管や卵巣の機能障害、骨盤内の癒着、ホルモン環境の変化などを引き起こし、不妊の原因となります。
  • 子宮筋腫: 子宮の筋肉にできる良性の腫瘍ですが、できる場所や大きさによっては子宮腔を変形させたり、着床を妨げたりする可能性があります。
  • 痩せすぎ・肥満: 極端な体重はホルモンバランスを崩し、排卵障害の原因となることがあります。
    BMI(体格指数)が18.5未満または25以上の場合は注意が必要です。
  • 過度な運動: 特に競技レベルの過度な運動は、ホルモンバランスを崩し、排卵を停止させることがあります。
  • 喫煙: 喫煙は、卵巣機能の低下、卵管の機能障害、子宮内膜への血流悪化などを引き起こし、妊娠率を低下させます。
    男性の場合も精子の質を低下させます。
  • 過度の飲酒: 過度の飲酒は、男女ともに生殖機能に悪影響を及ぼす可能性があります。
  • ストレス: 過度なストレスはホルモンバランスや自律神経に影響し、排卵障害や性機能障害を引き起こすことがあります。
  • 環境因子: 有害物質への暴露などが生殖機能に影響を与える可能性が指摘されています。

これらのリスク要因に心当たりがある場合は、早めに専門医に相談することが推奨されます。

原発性不妊の診断と検査

原発性不妊の診断は、問診、身体診察、そして様々な検査によって行われます。
原因を特定するためには、ご夫婦お二人で検査を受けることが基本です。
検査は段階的に進められることが多く、必須の基本検査と、必要に応じて行われる追加検査があります。

女性に行われる検査

女性の不妊検査は、主に以下の目的で行われます。

  • 排卵が正常に行われているか
  • 卵管の通過性は良好か
  • 子宮や卵巣に妊娠を妨げるような異常はないか
  • ホルモンバランスは正常か

具体的な検査項目は以下の通りです。

検査項目 目的 検査方法 実施時期(目安)
基礎体温測定 排卵の有無、黄体機能の状態を推定 毎朝起床時に舌下で体温を測定し記録 毎日
ホルモン検査 排卵に関わるホルモン(FSH, LH, E2, PRLなど)、甲状腺ホルモン、男性ホルモンなどの値を測定し、排卵障害や内分泌疾患がないか確認 採血 月経周期の特定の時期
経腟超音波検査 子宮や卵巣の形態、卵胞の発育、子宮内膜の厚さ、筋腫や嚢腫の有無などを確認 腟内に超音波プローブを挿入 月経周期の様々な時期
卵管造影検査(HSG) 卵管の通過性や子宮腔の形態を確認 子宮の入り口から造影剤を注入し、X線撮影
(※痛みを伴う場合がある)
月経終了後~排卵まで
子宮鏡検査 子宮腔内の異常(ポリープ、筋腫、癒着など)を直接観察 細いカメラを子宮の入り口から挿入 月経終了直後
フーナーテスト 性交後の子宮頸管粘液中の精子の状態や運動性を確認 性交後一定時間内に子宮頸管粘液を採取 排卵期
抗精子抗体検査 女性の体内に精子に対する抗体がないか確認 採血または子宮頸管粘液を用いた検査 月経周期の特定の時期
クラミジア検査 クラミジア感染がないか確認(卵管炎の原因となるため) 子宮頸管の粘液採取、尿検査、採血など いつでも可
AMH(抗ミュラー管ホルモン)検査 卵巣に残っている卵子の目安量(卵巣予備能)を推定 採血 いつでも可(通常)
腹腔鏡検査 腹腔内の状況(子宮内膜症、癒着、卵管の状態など)を直接観察、治療も可能 腹部に数カ所小さな穴を開け、カメラや器具を挿入
(※全身麻酔による手術)
必要に応じて

これらの検査を組み合わせて行い、不妊の原因を探ります。
すべての検査が必要なわけではなく、問診や基本検査の結果に基づいて、医師が必要と判断した検査が追加されます。

男性に行われる検査

男性の不妊検査は比較的シンプルで、主に以下の目的で行われます。

  • 精子が十分に作られているか(数、運動率、形態)
  • 精子が正常に運ばれているか
  • 性機能に問題はないか
  • ホルモンバランスは正常か

最も基本的な検査は精液検査です。

検査項目 目的 検査方法 実施時期(目安)
精液検査 精液量、精子の数(濃度)、運動率、正常形態率、pHなどを測定し、造精機能や精路通過性に異常がないか確認 禁欲期間(2~7日間程度)を設けて採取した精液を検査 いつでも可
ホルモン検査 男性ホルモン(テストステロン)や脳下垂体ホルモン(FSH, LH)などの値を測定し、造精機能や内分泌疾患がないか確認 採血 いつでも可
超音波検査 精巣や精索静脈瘤の有無、精路の異常などを確認 精巣や陰嚢、下腹部などに超音波プローブを当てる いつでも可
触診 精巣の大きさや硬さ、精路の触知、精索静脈瘤の有無などを確認 医師が精巣や陰嚢などを触診 いつでも可
染色体・遺伝子検査 染色体異常や特定の遺伝子異常がないか確認(特に無精子症や重度の造精機能障害の場合) 採血 いつでも可
精巣生検 精巣内で精子が作られているか、造精機能障害の原因を調べる(特に無精子症の場合) 局所麻酔または全身麻酔下で精巣組織を採取
(※手術)
必要に応じて
射精障害の検査 射精に関わる神経や筋肉、ホルモンなどの異常がないか調べる 問診、神経学的検査、ホルモン検査など 必要に応じて

精液検査は、体調などによって結果が変動することがあるため、複数回行う場合があります。
異常が見つかった場合は、泌尿器科医とも連携してさらに詳しい検査や治療を進めることになります。

原発性不妊の治療法

原発性不妊と診断された場合、原因やご夫婦の年齢、不妊期間、治療に対する考え方などを考慮して、最適な治療法が選択されます。
治療は、一般的にステップアップ方式で進められることが多いですが、年齢や原因によっては最初から高度な治療法を選択することもあります。

タイミング療法

  • 概要: 自然妊娠を目指す最も基本的な治療法です。
    基礎体温や超音波検査、排卵検査薬などを用いて排卵日を予測し、そのタイミングに合わせて性交を行うよう指導します。
  • 対象: 排卵がほぼ正常にあり、卵管通過性も良好、男性の精液検査も比較的正常なケース。
    原因不明不妊の初期治療としても行われます。
  • 利点: 体への負担が少なく、費用も比較的安価です。
  • 限界: 排卵日を正確に特定しても、1周期あたりの妊娠率は数%程度と低く、原因によっては効果が期待できません。

人工授精(AIH:Artificial Insemination by Husband)

  • 概要: 排卵日に合わせて、洗浄・濃縮した運動性の高い精子を、カテーテルを使って直接子宮腔内に注入する方法です。
  • 対象: タイミング療法で妊娠に至らないケース、軽度の排卵障害(排卵誘発剤と併用)、軽度の男性不妊(精子の運動率がやや低い、数がやや少ないなど)、子宮頸管粘液の異常、抗精子抗体陽性などのケース。
  • 利点: 体外受精に比べて体への負担が少なく、費用も安価です。
  • 限界: 受精や着床は体内で行われるため、卵管閉塞や重度の男性不妊などには効果が期待できません。
    1周期あたりの妊娠率は5~10%程度と言われています。
    通常、数回(5~6回程度)行っても妊娠しない場合は、次のステップ(体外受精など)を検討します。

体外受精(IVF:In Vitro Fertilization)・顕微授精(ICSI:Intra-Cytoplasmic Sperm Injection)

  • 概要:
    • 体外受精(IVF): 卵巣から採取した卵子と、洗浄・調整した精子を体外(培養皿)で一緒に培養し、自然に受精させる方法です。
    • 顕微授精(ICSI): 細い針(ピペット)を使って、精子を1個選んで卵子の細胞質内に直接注入し、強制的に受精させる方法です。
  • 対象:
    • 体外受精: 卵管性不妊(卵管閉塞など)、重度の排卵障害、軽度~中等度の男性不妊、原因不明不妊など。
    • 顕微授精: 重度の男性不妊(精子の数が極端に少ない、運動率が極端に低い、形態異常が多いなど)、体外受精で受精障害があったケース、泌尿器科的手術で採取した精子を用いるケースなど。
  • 流れ(一般的なIVFの場合):
    • 卵巣刺激: 排卵誘発剤を用いて複数の卵胞を育てます。
    • 採卵: 超音波ガイド下に細い針を卵巣に刺し、卵胞内の卵子を吸引して採取します。
    • 採精: 同日に男性から精子を採取します。
    • 受精: 採取した卵子と精子を体外で一緒に培養(IVF)または精子を卵子に注入(ICSI)して受精させます。
    • 胚培養: 受精卵を数日間(通常3~5日、場合によっては6~7日)培養し、胚盤胞まで育てます。
    • 胚移植: 育った胚の中から良好なものを選んで、子宮腔内に戻します。
    • 黄体補充: 着床を助けるために黄体ホルモン剤などを使用します。
    • 妊娠判定: 胚移植から約2週間後に妊娠しているか判定します。
  • 利点: 卵管の状態に関わらず妊娠が目指せる、男性不妊のほとんどに対応できる、不妊原因が明らかになる場合があるなど、最も成功率の高い治療法です。
  • 限界: 体への負担が大きく(特に採卵)、費用も高額です。
    多胎妊娠のリスク、卵巣過剰刺激症候群(OHSS)などの合併症のリスクもあります。

その他治療法(手術など)

不妊の原因によっては、手術が有効な場合があります。

  • 卵管形成術・卵管鏡下卵管形成術(FTカテーテル法): 卵管の閉塞や狭窄がある場合に、卵管を開通させる手術。
    ただし、手術によって完全に機能が回復しない場合や、再び閉塞する可能性もあります。
    FTカテーテル法は、子宮鏡や卵管鏡を用いて行う比較的低侵襲な手術です。
  • 子宮筋腫・子宮内膜ポリープ除去術: 子宮腔を変形させたり、着床を妨げたりする筋腫やポリープを摘出します。
    子宮鏡を用いて行うことが多いです。
  • 子宮内膜症の治療: 子宮内膜症による癒着を剥離したり、病巣を焼灼・切除したりする手術(腹腔鏡手術が一般的)や、薬物療法が行われます。
  • 精索静脈瘤手術: 男性不妊の原因となる精索静脈瘤がある場合に、手術によって静脈瘤を治療し、精子の質改善を図ります。
  • 精路再建術: 精路が閉塞している場合に、通り道を作り直す手術。
  • ED治療薬、射精障害の治療: 必要に応じて薬物療法やカウンセリングなどが行われます。

手術によって不妊原因を取り除くことで、自然妊娠や人工授精、体外受精の成功率を高めることが期待できます。

原発性不妊症の治療について

原発性不妊症の治療は、先述の通り、原因、ご夫婦の年齢、不妊期間、治療に対する考え方によって大きく異なります。

例えば、

  • 排卵障害が主な原因であれば、排卵誘発剤を用いたタイミング療法や人工授精が第一選択肢となることがあります。
  • 卵管閉塞が原因であれば、自然妊娠や人工授精は難しいため、体外受精が推奨されます。
  • 重度の男性不妊であれば、顕微授精が必須となる場合が多いです。
  • 女性の年齢が高い場合や、不妊期間が長い場合、原因不明不妊でタイミング療法や人工授精を数回行っても妊娠しない場合は、早めに体外受精・顕微授精へのステップアップを検討することが一般的です。

どの治療法を選択するか、どのタイミングでステップアップするかは、ご夫婦でよく話し合い、医師と相談しながら決めていくことが非常に重要です。
焦りや不安もあるかと思いますが、ご自身に合ったペースで治療を進めていくことが大切です。

不妊治療の流れと費用

不妊治療は、一般的に以下のような流れで進みます。
ただし、原因や選択する治療法によって、この流れは前後したり、一部省略されたりします。

  • 問診・カウンセリング: 医療機関を受診し、妊娠歴、月経歴、性交状況、既往歴、家族歴、生活習慣などを詳しく聞き取ります。
    不妊治療に関する疑問や不安を相談します。
  • 不妊検査: 女性・男性それぞれに必要な検査を行います。
    原因を特定し、最適な治療法を決定するための重要なステップです。
  • 診断・治療方針の決定: 検査結果に基づいて、不妊の原因、妊娠の可能性、最適な治療法について医師から説明を受けます。
    ご夫婦で話し合い、治療方針を決定します。
  • 治療開始: 決定した治療方針に基づき、タイミング療法、人工授精、体外受精などの治療を開始します。
    治療中は定期的に通院し、経過観察や必要な処置(排卵誘発、採卵、胚移植など)を行います。
  • 妊娠判定: 治療周期の最後に妊娠しているか判定します。
  • 継続または次のステップへ: 妊娠していれば、その後の妊婦健診へ進みます。
    妊娠に至らなかった場合は、治療方針を見直したり、次の治療へステップアップしたりします。

不妊治療の費用

不妊治療の費用は、選択する治療法、行う検査、使用する薬剤、医療機関などによって大きく異なります。

治療法 費用目安(1周期あたり) 保険適用
タイミング療法 数千円~1万円程度 一部適用
人工授精(AIH) 1~3万円程度 一部適用
体外受精(IVF/ICSI) 30~100万円以上 一部適用
その他検査・手術 数千円~数十万円以上 一部適用

上記はあくまで目安であり、個人差や医療機関によって大きく変動します。

2022年4月から、不妊治療の多くの検査や治療(体外受精・顕微授精を含む)に保険が適用されるようになりました。
これにより、経済的な負担は軽減されましたが、治療内容によっては保険適用外となる場合や、高額な費用がかかる場合もあります。

保険適用には年齢や回数に制限があります。

  • 年齢制限: 治療開始時点で女性の年齢が43歳未満であること。
  • 回数制限:
    • 40歳未満:1子ごとに通算6回まで
    • 40歳以上43歳未満:1子ごとに通算3回まで

これらの制限を踏まえ、治療計画を立てる必要があります。
また、高額療養費制度や自治体独自の助成制度がある場合もあるため、事前に情報収集することが重要です。

費用は高額になりがちですが、希望や状況に応じて様々な選択肢があります。
費用についても、遠慮せずに医療機関で相談しましょう。

原発性不妊でお悩みの方は専門医へご相談ください

原発性不妊は、ご夫婦にとって大きな悩みとなり得ます。
原因が分からず不安を感じることもあるでしょう。
しかし、不妊症は病気の一つであり、適切な検査と治療によって妊娠が十分に期待できるものです。

一人で、あるいはご夫婦だけで悩みを抱え込まず、まずは不妊治療を専門とする医療機関を受診されることを強くお勧めします。
専門医であれば、お二人の状況を詳しく把握し、科学的根拠に基づいた正確な情報を提供し、最適な検査や治療法を提案してくれます。

早めに相談することで、原因の早期発見につながったり、年齢的なタイムリミットを考慮した治療計画を立てられたりするなど、治療の選択肢が広がる可能性があります。

医療機関では、医師だけでなく、看護師、培養士、心理士など、様々な専門家がチームとなってサポートしてくれます。
治療の内容や費用について分からないこと、不安なことなども、気軽に相談できる体制が整っています。

原発性不妊かもしれないと感じている方、これまで一度も妊娠経験がないまま不妊期間が1年以上経過している方、女性の年齢が35歳以上の方は、早めに専門医の診察を受けることを検討しましょう。
勇気を出して一歩踏み出すことが、未来につながる第一歩となるはずです。

[免責事項]
この記事の情報は、一般的な知識を提供するためのものであり、個々の状況に対する医学的なアドバイス、診断、治療を意図するものではありません。
不妊に関する診断や治療方針については、必ず医療機関を受診し、医師の指示に従ってください。
この記事の情報に基づいて行った行動によって生じたいかなる結果に関しても、当サイトは責任を負いかねます。


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