その生理痛、月経困難症かも?つらい症状の原因と対処法

月経期間中に起こる、我慢できないほどのつらい痛みや不調は、単なる「生理痛」として片付けられがちな症状です。
しかし、それは日常生活に大きな支障をきたす「月経困難症」という病気かもしれません。
月経困難症は、特定の病気が原因である場合と、そうでない場合がありますが、いずれも適切な対処や治療によって症状を和らげることが可能です。
この記事では、月経困難症の症状、原因、診断方法、そして様々な治療法について詳しく解説します。
つらい症状に悩んでいる方が、ご自身の状態を理解し、改善への一歩を踏み出すための情報を提供します。

月経困難症とはどんな病気?

月経困難症(Dysmenorrhea)とは、月経期間中に発生する、日常生活に支障をきたすほどの強い痛みや、それに伴う様々な不快な症状を指します。
多くの女性が生理期間中に多少の腹痛や腰痛を経験しますが、その痛みが学業や仕事、家事などの普段通りの生活を送ることを困難にするレベルである場合、それは月経困難症と考えられます。
単なる生理痛とは区別される「病気」として捉えられており、その背景には原因となる特定の疾患が存在する場合と、そうでない場合があります。

月経困難症は、大きく分けて「機能性月経困難症(原発性月経困難症)」と「器質性月経困難症(続発性月経困難症)」の二つに分類されます。
機能性月経困難症は、子宮や卵巣に明らかな病変が見られないにも関わらず起こるもので、思春期から20代前半の若い世代に多く見られます。
一方、器質性月経困難症は、子宮内膜症や子宮筋腫といった、子宮や卵巣などの生殖器に特定の病気が存在することによって引き起こされるもので、20代後半以降に増える傾向があります。
どちらのタイプであるかを正確に診断し、原因に応じた適切な治療を行うことが重要です。

月経困難症の主な症状

月経困難症の症状は、痛みだけでなく、全身にわたる様々な不調を伴うことがあります。
最も一般的で主要な症状は痛みですが、その程度や種類、痛む場所は人によって大きく異なります。

痛みの症状:

  • 下腹部痛: 月経期間中に最も多く見られる痛みです。子宮が収縮する際に生じる痛みで、ズキズキ、キリキリ、締め付けられるような痛みなど、様々な表現がされます。痛みの程度も、軽いものから寝込んでしまうほどの激しいものまで幅広く、痛みのピークは月経が始まってすぐから1~2日目にかけて見られることが多いです。
  • 腰痛: 下腹部痛と同時に、あるいは単独で腰や下腹部に響くような痛みを伴うことも少なくありません。これも子宮の収縮や骨盤内のうっ血などに関連していると考えられます。
  • その他の痛む場所: 太ももの内側や、肛門の奥、性器周辺に痛みを感じる方もいます。特に器質性月経困難症の場合は、原因となる病変の部位によって痛む場所が変わることもあります。

痛み以外の症状:

月経困難症は、痛みに加えて以下のような全身の不調を伴うことがしばしばあります。

  • 消化器系の症状:
    • 吐き気、嘔吐
    • 下痢、便秘
    • 食欲不振
  • 精神神経系の症状:
    • 頭痛
    • めまい、立ちくらみ
    • 疲労感、倦怠感
    • イライラ、情緒不安定
    • 集中力の低下
  • その他の症状:
    • むくみ
    • 冷え
    • お腹の張り
    • 乳房の張りや痛み

これらの痛み以外の症状も、月経期間中に繰り返し現れ、日常生活や精神面に影響を及ぼすことがあります。
特に機能性月経困難症では、痛み以外の全身症状が強く出る傾向が見られることもあります。
症状の出方や程度は個人差が大きく、月によって変動することもあります。
ご自身の症状を正確に把握し、必要であれば医療機関に相談することが大切です。

月経困難症の種類と原因

月経困難症は、その原因によって大きく二つのタイプに分けられます。
原因を特定することは、適切な治療法を選択するために非常に重要です。

機能性月経困難症(原発性)

機能性月経困難症は、子宮や卵巣などの生殖器に明らかな病変が見られないにも関わらず生じる月経困難症です。
多くの場合、月経が始まった比較的若い年齢(思春期から20代前半)で発症し、出産を経験すると軽減することがあると言われています。

機能性月経困難症の主な原因

機能性月経困難症の正確な原因は完全に解明されていませんが、いくつかの要因が複合的に関与していると考えられています。
主な原因として以下の点が挙げられます。

  • プロスタグランジンの過剰分泌: 月経期間中、子宮内膜からは「プロスタグランジン」という生理活性物質が分泌されます。
    プロスタグランジンには、子宮を収縮させて経血を体外に排出させる働きがありますが、この物質が過剰に分泌されると、子宮が強く収縮しすぎてしまい、痛みを引き起こすと考えられています。
    また、プロスタグランジンは血管を収縮させる作用もあり、これが腰痛や吐き気、頭痛などの全身症状を引き起こす要因ともなります。
  • 子宮頸管が狭い: 思春期の女性など、まだ子宮頸管が十分に開いていない場合、経血をスムーズに排出するために子宮がより強く収縮する必要が生じ、痛みが強くなることがあります。
    出産経験がない女性に比較的多く見られる要因です。
  • 子宮の発育不全や形態異常: まれに、子宮の形態に軽微な異常があったり、発育が十分でない場合などに、経血の排出が妨げられたり、子宮の収縮が不均一になったりして痛みを引き起こすことがあります。
  • 身体の冷え: 身体が冷えると血行が悪くなり、骨盤内のうっ血を引き起こしたり、子宮の収縮を強めたりすることがあります。
    冷えは痛みを増悪させる要因と考えられています。
  • 精神的・肉体的ストレス: ストレスはホルモンバランスや自律神経に影響を与え、痛みの感じ方を強めたり、子宮の収縮異常を招いたりすることがあります。
    疲労や睡眠不足なども同様に影響することがあります。
  • 生活習慣の乱れ: 不規則な生活、偏った食事、運動不足なども、体全体のバランスを崩し、月経困難症の症状を悪化させる可能性があります。

これらの要因が単独であるいは複合的に作用し、機能性月経困難症を引き起こしていると考えられています。

器質性月経困難症(続発性)

器質性月経困難症は、子宮や卵巣、その他の骨盤内臓器に明らかな病変が存在することによって引き起こされる月経困難症です。
機能性月経困難症とは異なり、もともと生理痛があまりひどくなかった人が、20代後半以降になってから生理痛がひどくなったり、痛みの性質が変わってきたりする場合に疑われます。
月経期間中以外の時期にも症状(生理期間外の腹痛、性交痛、不正出血など)が見られることもあります。
器質性月経困難症の場合、原因となっている病気の治療が不可欠です。

器質性月経困難症の原因となる病気

器質性月経困難症の主な原因となる病気は、以下のようなものが挙げられます。
これらの病気は、痛みを引き起こすだけでなく、不妊の原因となる可能性もあるため、早期の発見と治療が重要です。

  • 子宮内膜症: 子宮内膜に似た組織が、子宮腔以外の場所(卵巣、腹膜、腸、膀胱など)で増殖する病気です。
    月経期には子宮内膜と同様に出血を伴いますが、その血液が体外に排出されにくいため、周囲の組織に炎症や癒着を引き起こし、強い痛みの原因となります。
    進行すると不妊の原因にもなります。
    月経困難症の中でも、特に強い痛みや、性交痛、排便痛などを伴う場合に疑われます。
  • 子宮腺筋症: 子宮内膜の組織が子宮の筋肉の壁の中に入り込み、そこで増殖する病気です。
    子宮全体が厚く硬くなり、月経期には筋肉内で出血が起こるため、強い痛みを伴います。
    子宮全体が大きくなるため、経血量が増える過多月経を伴うことも多いです。
    子宮内膜症と合併することもよくあります。
  • 子宮筋腫: 子宮の筋肉の壁にできる良性の腫瘍です。
    筋腫ができる場所や大きさによっては、子宮の収縮を妨げたり、子宮を圧迫したり、血流を悪化させたりして痛みを引き起こすことがあります。
    特に子宮の内側にできる粘膜下筋腫は、小さくても過多月経や月経困難症の原因となりやすいです。
  • 骨盤内炎症性疾患(PID): 子宮、卵管、卵巣、骨盤内の腹膜などに細菌感染が起こり、炎症を起こす病気です。
    クラミジアなどの性感染症が原因となることもあります。
    炎症が慢性化すると、骨盤内に癒着が生じ、これが月経困難症や慢性的な骨盤痛の原因となることがあります。
  • 卵巣嚢腫(特にチョコレート嚢胞): 卵巣にできる袋状の腫瘍で、中に液体や脂肪などが溜まります。
    特に子宮内膜症が卵巣にできた「チョコレート嚢胞」は、月経周期に合わせて嚢胞内で出血が起こり、痛みを伴うことがあります。

これらの病気は、それぞれ特徴的な症状を伴いますが、月経困難症として現れることも多いです。
特に月経痛が年齢とともにひどくなった、痛みの性質が変わった、月経時以外にも痛みがあるといった場合は、これらの病気が原因である可能性を考え、婦人科を受診することが非常に重要です。

月経困難症とPMSの違い

月経困難症とよく似た症状を持つものに、PMS(月経前症候群)があります。
どちらも月経に関連して起こる不調ですが、症状が現れる時期や症状の種類に違いがあります。

特徴 月経困難症(Dysmenorrhea) PMS(Premenstrual Syndrome: 月経前症候群)
症状が現れる時期 主に月経期間中(月経開始直前~月経中) 主に月経開始前(排卵後から月経開始までの黄体期)
主な症状 痛み(下腹部痛、腰痛など)が中心 精神症状(イライラ、情緒不安定、抑うつ、不安など)や
身体症状(むくみ、乳房の張り、頭痛、腹部膨満感、肌荒れなど)
症状の持続期間 月経が終了すると症状は消失する 月経が開始すると症状は軽減または消失する
原因 機能性(プロスタグランジン過剰など)または
器質性(子宮内膜症、筋腫など)
ホルモンバランスの変動、脳内神経伝達物質(セロトニンなど)の変動、ストレス、生活習慣など、複数の要因が複合的に関与

月経困難症は、文字通り「月経期に困難を伴う症状」、特に痛みを指すことが多いのに対し、PMSは「月経前に起こる、精神的・身体的な様々な不調」を指します。
しかし、実際には月経困難症とPMSの症状が重複したり、両方を併発したりすることも少なくありません。
例えば、月経が始まる数日前から気分が落ち込み(PMS)、月経が始まると同時に強い下腹部痛や腰痛が起こり(月経困難症)、それが月経期間中続く、といったケースです。

ご自身の症状が月経が始まる前なのか、月経が始まってからなのか、そしてどのような症状が中心なのかを記録しておくと、医療機関を受診した際に診断の手助けになります。
どちらの症状も、つらい状態を我慢せずに、適切な対処や治療によって改善を目指すことが重要です。

月経困難症の診断と検査

月経困難症かどうか、またその原因が機能性なのか器質性なのかを診断するためには、婦人科での診察と検査が必要です。
問診から始まり、いくつかの検査を組み合わせて診断を行います。

  1. 問診: まず医師が、月経に関する詳細な情報を聞き取ります。
    • 月経周期、月経期間
    • 生理痛が始まった時期、痛みの程度、痛む場所、痛みの性質(ズキズキ、キリキリ、重いなど)
    • 痛みが強い時期(月経のいつ頃か)
    • 痛み以外の症状(吐き気、頭痛、めまい、下痢、精神的な不調など)の有無と程度
    • 市販薬の使用状況と効果
    • 妊娠・出産経験の有無
    • 性交渉の経験の有無
    • 過去の病歴(特に婦人科系の病気や手術歴)
    • 家族の病歴(子宮内膜症や筋腫など)
    • 現在のライフスタイル、ストレスの状況

    これらの情報は、機能性か器質性かを推測する上で非常に重要です。例えば、若い頃から痛みが強い場合は機能性、大人になってから痛みが強くなった場合は器質性を疑うきっかけになります。

  2. 内診: 婦人科の内診台で、医師が腟や子宮頸部、子宮、卵巣の状態を直接触診して確認します。子宮や卵巣の大きさ、形、硬さ、動きやすさ、圧痛の有無などを確認し、子宮筋腫や卵巣の腫れ、子宮の動きの悪さ(癒着の可能性)などを調べます。性交渉の経験がない場合は、直腸診(お尻から指を入れて診察)を行うこともあります。
  3. 経腟超音波(エコー)検査: 超音波の出る細いプローブを腟内に入れて、子宮や卵巣を映し出す検査です。子宮の大きさや形、子宮筋腫や子宮腺筋症の有無と大きさ、子宮内膜の厚さ、卵巣の大きさや腫れの有無(卵巣嚢腫など)、骨盤内の液体の貯留などを詳細に確認できます。痛みはほとんどなく、診断に非常に有用な検査です。性交渉の経験がない場合は、お腹の上から行う経腹超音波検査を行うこともあります。
  4. その他の検査: 内診や超音波検査で器質性月経困難症の原因が疑われる場合、さらに詳しい検査を行うことがあります。
    • MRI検査: 超音波検査では分かりにくい小さな病変や、子宮腺筋症の広がり、子宮内膜症による癒着の範囲などをより詳細に画像化できます。
    • 血液検査: 貧血の有無(過多月経がある場合)、炎症の程度(CA125などの腫瘍マーカーが高い場合は子宮内膜症や卵巣がんの可能性も考慮)、ホルモン値を調べる場合があります。
    • 腹腔鏡検査: 診断と同時に治療も可能な検査ですが、侵襲性が高いため、他の検査で診断が確定しない場合や治療方針を決めるために行うことがあります。

これらの検査結果を総合的に判断し、月経困難症のタイプ(機能性か器質性か)と、器質性の場合はその原因となっている病気を診断します。
正確な診断に基づいて、一人ひとりに合った最適な治療法が選択されます。

月経困難症の治療法

月経困難症の治療は、その原因が機能性か器質性かによって異なります。
機能性月経困難症の場合は症状を和らげる対症療法や、痛みを生じるメカニズムを抑制する治療が中心となります。
器質性月経困難症の場合は、原因となっている病気そのものを治療することが主体となります。
治療法には薬物療法、手術療法、そして日常生活でのセルフケアがあります。

薬物療法

薬物療法は、月経困難症の治療において最も広く用いられる方法です。
痛みを和らげる対症療法から、月経困難症の根本的な原因にアプローチする治療まで、様々な種類の薬があります。

鎮痛薬(市販薬を含む)

鎮痛薬(痛み止め)は、月経痛の症状を和らげるための対症療法として使用されます。
プロスタグランジンの生成や働きを抑える非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が一般的です。

  • 市販薬: イブプロフェン、ロキソプロフェン、アセトアミノフェンなどが含まれる市販の生理痛薬が多くあります。
    これらの薬は、プロスタグランジンの合成を阻害することで、子宮の過度な収縮を抑え、痛みを和らげます。
    胃腸障害などの副作用が出やすい人もいるため、服用量や用法・用量を守ることが重要です。
  • 処方薬: 市販薬で効果が不十分な場合や、症状が重い場合は、医師からより効果の高い鎮痛薬や、他の種類の鎮痛薬が処方されることがあります。

効果的な使い方: 鎮痛薬は、痛みが始まってから飲むよりも、「痛みが始まる少し前」や「痛みが軽いうち」に服用する方が効果的です。
これは、プロスタグランジンが分泌され始める前に薬を飲むことで、痛みの元となる物質が増えるのを抑えられるためです。
定期的に痛みがひどくなることが分かっている場合は、月経が始まったらすぐに服用を開始することを検討しましょう。

低用量ピル(LEP製剤)

低用量ピル(Low dose Estrogen-Progestin: LEP製剤)は、月経困難症に対して非常に効果的な治療薬であり、特に機能性月経困難症や子宮内膜症に伴う月経困難症の第一選択薬として推奨されることが多いです。
LEP製剤は、エストロゲンとプロゲスチンという2種類の女性ホルモンが少量配合された薬です。

LEP製剤の作用メカニズム:

  • 排卵の抑制: LEP製剤を服用すると、脳からのホルモン分泌が抑制され、排卵が起こらなくなります。
  • 子宮内膜の増殖抑制: ホルモン量が一定に保たれることで、子宮内膜が厚くなるのを抑えます。
    子宮内膜が薄くなると、月経時の経血量が減少し、プロスタグランジンの分泌量も減少するため、子宮の収縮が抑えられ、生理痛が軽減されます。
  • 生理周期の安定化: 服用期間中はほぼ決まった周期で消退出血(月経に似た出血)が起こるため、生理周期が安定します。

期待される効果:

  • 生理痛の軽減
  • 経血量の減少(過多月経の改善)
  • 生理周期の安定化
  • PMS症状の改善
  • 子宮内膜症の進行抑制や再発予防
  • 一部の癌(卵巣癌、子宮体癌)のリスク低下

LEP製剤は、毎日決まった時間に服用する必要があります。
副作用として、服用開始初期に吐き気、頭痛、不正出血などのマイナートラブルが見られることがありますが、多くは飲み続けるうちに改善します。
また、まれに血栓症のリスクが高まるため、喫煙者や特定の持病がある方には処方できない場合があります。
医師の診察と説明をしっかり受け、安全に服用することが重要です。
LEP製剤は、避妊目的で使用されるOC(Oral Contraceptives:経口避妊薬)と成分はほぼ同じですが、月経困難症や子宮内膜症などの治療目的で用いられる場合に「LEP製剤」と呼ばれ、保険適用となります。

その他の薬物療法

月経困難症やその原因疾患の治療には、LEP製剤以外にも様々な薬が使用されます。

  • GnRHアゴニスト/アンタゴニスト製剤: これらの薬は、女性ホルモンの分泌を強力に抑え、一時的に閉経に近い状態(偽閉経療法)を作り出すことで、子宮内膜症や子宮腺筋症を縮小させ、痛みを軽減します。
    効果は高いですが、更年期障害のような副作用(ほてり、肩こり、骨密度の低下など)が出やすいため、使用期間が限られることが多いです。
  • 黄体ホルモン製剤: プロゲスチン(黄体ホルモン)単独の製剤で、子宮内膜の増殖を抑えたり、萎縮させたりする作用があります。
    内服薬や、子宮内に留置するIUS(子宮内システム)などがあります。
    IUSは長期的な避妊効果と同時に、経血量減少や生理痛軽減効果が期待できます。
  • 漢方薬: 漢方薬は、体質や症状に合わせて処方され、全身の状態を整えることで生理痛やその他の不調を改善することを目指します。
    当帰芍薬散、加味逍遙散、桂枝茯苓丸などがよく用いられます。
    西洋医学の薬と併用することも可能です。

どの薬物療法が適しているかは、月経困難症の原因、症状の程度、年齢、妊娠希望の有無、基礎疾患などを考慮して医師が判断します。

手術療法

手術療法は、主に器質性月経困難症の原因となっている病気に対して行われます。
薬物療法で効果が得られない場合や、病変が大きい場合、妊娠希望がある場合などに検討されます。

  • 子宮内膜症病巣の切除: 卵巣のチョコレート嚢胞や、腹膜などにできた内膜症病巣を切除します。
    多くの場合、腹腔鏡手術で行われます。
  • 子宮筋腫の切除: 症状の原因となっている子宮筋腫を摘出します(子宮筋腫核出術)。
    筋腫の場所や大きさ、患者さんの年齢や妊娠希望の有無によって、腹腔鏡手術や開腹手術、子宮鏡手術などが選択されます。
  • 子宮全摘出術: 原因となっている病変が広範囲に及ぶ場合や、患者さんが今後妊娠を希望しない場合などには、子宮を摘出する手術が検討されることもあります。
    これは月経そのものがなくなるため、月経困難症の症状もなくなります。

手術は原因となる病変を取り除くことで痛みの根本的な改善を目指しますが、病気の種類によっては再発の可能性もあります。
手術が必要かどうか、どのような手術が適しているかは、医師と十分に話し合って決定することが重要です。

日常生活での基本的な対応・対処法

医療的な治療に加えて、日常生活の中でご自身でできる工夫も、月経困難症の症状を和らげるのに役立ちます。

食生活の見直し

バランスの取れた食事は、体全体の調子を整え、月経困難症の症状緩和につながります。

  • 体を温める食べ物: 生姜、根菜類、ネギなど、体を温める効果のある食材を積極的に取り入れましょう。
  • 冷たい飲食物を控える: 冷たい飲み物や食べ物は、体を内側から冷やし、血行を悪化させる可能性があります。
    生理期間中は特に避けるか、温かいものを選びましょう。
  • カフェインやアルコール: 過剰な摂取は、症状を悪化させる場合があります。
    控えめにしましょう。
  • 栄養バランス: ビタミンB群、ビタミンE、マグネシウム、カルシウム、オメガ3脂肪酸などは、ホルモンバランスを整えたり、痛みを和らげたりする効果があると言われています。
    これらの栄養素を含む食品(魚、ナッツ類、緑黄色野菜、乳製品など)を意識して摂りましょう。
    加工食品や脂っこい食事を避け、消化の良いものを中心にするのも良いでしょう。

身体を温める方法

身体を温めることは、血行を促進し、子宮や骨盤内の緊張を和らげるのに有効です。

  • 腹部や腰を温める: 使い捨てカイロを貼る、温かいタオルを当てる、腹巻きや厚着をするなどが効果的です。
  • 入浴: シャワーだけでなく、湯船にゆっくり浸かることで、体全体が温まり、リラックス効果も得られます。
    ただし、出血量が多い時は体調に合わせて無理のない範囲で行いましょう。
  • 適度な運動: ウォーキングやストレッチなど、軽い運動は血行を促進し、痛みの緩和につながります。
    ただし、体調の悪い時は無理せず休みましょう。
  • 服装: 月経期間中は、薄着を避け、特に足首やお腹周りを冷やさないように工夫しましょう。

リラックス法

精神的なストレスや緊張は、月経困難症の症状を悪化させることがあります。
リラックスできる時間を持つことは重要です。

  • 十分な睡眠: 質の良い睡眠を十分に取ることは、心身の疲れを取り、ホルモンバランスを整えるのに役立ちます。
  • アロマテラピー: ラベンダーやカモミールなど、リラックス効果のあるアロマオイルを使用する。
  • 軽いストレッチやヨガ: 体をゆっくり動かすことで、緊張がほぐれます。
  • 音楽鑑賞や読書: 好きなことに没頭する時間を作る。
  • 深呼吸: ゆっくりと深い呼吸をすることで、自律神経が整い、リラックスできます。
治療法 概要 メリット デメリット/注意点
鎮痛薬 痛みを和らげる対症療法(プロスタグランジン抑制) 即効性がある、市販薬もあり手軽に使える 痛みの根本原因は解決しない、胃腸障害などの副作用、頻繁な使用は内臓に負担
低用量ピル ホルモン分泌抑制による排卵抑制、子宮内膜増殖抑制 生理痛や経血量の根本的な改善、周期安定、PMS改善、一部癌予防、子宮内膜症治療/予防 血栓症リスク(まれ)、初期の副作用(吐き気など)、毎日服用が必要、費用(保険適用)
GnRH療法 ホルモン分泌を強力に抑制(偽閉経療法) 子宮内膜症・腺筋症による痛みに高い効果 更年期症状の副作用、使用期間制限(骨密度低下リスク)
黄体ホルモン 子宮内膜を抑制(内服、IUS) 経血量減少、生理痛軽減、IUSは長期効果と避妊も兼ねる 不正出血、気分の変動などの副作用、IUSは挿入・抜去が必要
漢方薬 体質改善、全身のバランスを整える 体への負担が少ない、様々な不調にアプローチ可能 効果が出るまで時間がかかる場合がある、体質に合わないと効果が出ないか副作用も
手術療法 原因疾患の病巣切除(筋腫、内膜症など)、子宮摘出 根本原因を取り除くことができる(病変による)、重症例に有効 体への負担が大きい(入院、回復期間)、再発の可能性(病気による)
セルフケア 食事、温め、リラックス、運動など 副作用がない、手軽に始められる、全体的な健康促進 即効性はない、症状の程度によっては効果が限定的

これらのセルフケアは、月経困難症の症状を完全に消し去るものではありませんが、医療的な治療と組み合わせることで、より快適な月経期間を過ごせるようにサポートする効果が期待できます。

月経困難症を放置するとどうなる?

「生理痛くらい、みんなあるものだから」と、つらい月経困難症の症状を我慢して放置している方も少なくありません。
しかし、月経困難症を放置することには、いくつかのリスクが伴います。

  1. QOL(生活の質)の低下: 月経困難症による強い痛みや不調は、毎月の月経期間中に学業や仕事に集中できない、外出や趣味を楽しめない、家事ができないなど、日常生活の様々な場面に影響を及ぼし、QOLを著しく低下させます。
    精神的にも負担となり、生理が来るのが怖い、憂鬱な気分になるなど、ネガティブな感情を引き起こすことがあります。
  2. 原因疾患の進行: 特に器質性月経困難症の場合、その原因となっている子宮内膜症や子宮筋腫などの病気が進行してしまうリスクがあります。
    例えば、子宮内膜症が進行すると、骨盤内の臓器が癒着して痛みが慢性化したり、卵巣の機能が低下したり、不妊につながる可能性が高まります。
    子宮筋腫も大きくなると、痛みに加えて過多月経による貧血が悪化したり、他の臓器を圧迫したりすることがあります。
    原因疾患を放置することは、将来の健康や妊娠に影響を与える可能性があります。
  3. 痛みの悪化: 放置することで、月経痛がさらに悪化したり、痛みの性質が変わったりすることがあります。
    また、月経時以外の期間にも痛みが現れる慢性的な骨盤痛に移行することもあります。
    痛みが長引くと、痛みを抑制する脳の機能がうまく働かなくなり、さらに痛みに敏感になってしまう「痛みの悪循環」に陥る可能性もあります。

月経困難症は、単に「つらい期間がある」というだけでなく、背景に重要な病気が隠れていたり、将来的な健康リスクにつながったりする可能性があります。
つらい症状を我慢せず、早めに医療機関を受診し、原因を特定し、適切な治療や対策を講じることが、これらのリスクを避けるために非常に重要です。
早期に適切な対処を始めることで、症状を和らげ、QOLを改善し、原因疾患の進行を防ぐことができます。

月経困難症は何歳まで続く?年齢による変化

月経困難症の症状は、年齢とともに変化することがあります。
これは、体のホルモンバランスや子宮、卵巣の状態が変化するためです。

  • 思春期~20代前半: この時期に多く見られるのは機能性月経困難症です。
    ホルモンバランスがまだ不安定であったり、子宮が成熟しきっていなかったりすることが原因と考えられます。
    プロスタグランジンの感受性が高いことも影響します。
    多くの場合、出産を経験すると子宮頸管が広がったり、ホルモンバランスが変化したりすることで、痛みが軽減されることがあります。
  • 20代後半~40代前半(成熟期): この時期になると、機能性月経困難症に加えて、器質性月経困難症、特に子宮内膜症や子宮筋腫、子宮腺筋症などが原因となるケースが増えてきます。
    痛みが年齢とともにひどくなってきた、以前とは痛みの性質が変わった、といった場合は、これらの病気を疑う必要があります。
    原因となる病気が進行すると、月経時以外の痛みや、過多月経などの他の症状も現れることがあります。
  • 40代後半~更年期: 更年期が近づき、卵巣の機能が低下してくると、女性ホルモンの分泌量が減少します。
    これにより、子宮内膜の増殖が抑えられ、月経量が減少したり、やがて月経がなくなったりします。
    月経がなくなれば、当然、月経困難症の症状も消失します。
    しかし、閉経前の一時期はホルモンバランスが大きく変動するため、逆に症状が不安定になったり、子宮筋腫などが大きくなったりすることもあります。
    器質性疾患がある場合は、閉経まで症状が続く可能性があります。

このように、月経困難症の症状は年齢によって原因や特徴が変化します。
思春期には機能性が、成熟期には器質性が増える傾向がありますが、個人差は大きいです。
どの年代であっても、つらい症状があれば放置せず、婦人科を受診して原因を調べることが大切です。

こんな症状なら婦人科へ:受診の目安

「生理痛は仕方ない」と諦めてしまう前に、以下のような症状が一つでも当てはまる場合は、一度婦人科を受診して相談することをお勧めします。
これらの症状は、単なる生理痛ではなく、月経困難症やその背景に隠れた病気のサインかもしれません。

  • 市販の鎮痛薬を飲んでも痛みが十分に和らがない、あるいは飲む頻度が増えている
  • 月経痛のために、学校や仕事に行けない、家事が手につかないなど、日常生活に支障が出ている
  • 痛みが年々ひどくなっている、あるいは痛みの性質(痛む場所、痛みの種類など)が変わってきた
  • 月経時以外にも、下腹部痛や腰痛、骨盤内の痛みを感じる
  • 月経量が増えた(過多月経)、または月経量が急に減った
  • 月経期間が長くなった、または不規則になった
  • 不正出血がある(月経期間以外の出血)
  • 性交時に痛みを感じる(性交痛)
  • 排便時や排尿時に痛みを感じる
  • 不妊で悩んでいる(特に月経困難症が強い場合、子宮内膜症などが原因の可能性も)
  • 家族に子宮内膜症や子宮筋腫などの病気にかかった人がいる

これらの症状は、器質性月経困難症や、その原因となる子宮内膜症、子宮筋腫、子宮腺筋症などの病気を示唆している可能性があります。
早期に発見し、適切な診断と治療を受けることで、症状を和らげ、病気の進行を防ぎ、将来的な妊娠の可能性を守ることにつながります。

また、特に病気が見つからなかったとしても、機能性月経困難症であっても、そのつらい症状は医療的な治療によって改善できます。
我慢し続ける必要はありません。
婦人科医に相談することで、症状の原因を知り、ご自身に合った対処法や治療法を見つけることができます。

まとめ

月経困難症は、単なる「つらい生理痛」ではなく、日常生活に支障をきたす病気であり、その背景に子宮内膜症や子宮筋腫といった特定の病気が隠れている可能性もあります。
機能性月経困難症であっても、プロスタグランジンの過剰分泌などが原因となり、強い痛みを引き起こします。

主な症状は下腹部痛や腰痛ですが、吐き気、頭痛、倦怠感、精神的な不調など、全身にわたる様々な症状を伴うことがあります。
PMSとは症状が現れる時期や症状の種類に違いがありますが、併発することもあります。

月経困難症の診断は、問診と内診、超音波検査などによって行われ、器質性が疑われる場合はさらに詳しい検査を行います。
治療法には、痛みを和らげる鎮痛薬、生理痛の根本原因にアプローチする低用量ピル(LEP製剤)、原因疾患に対する手術療法などがあります。
また、食生活や身体を温めること、リラックスするなど、日常生活でのセルフケアも有効です。

つらい症状を我慢して放置することは、QOLの低下だけでなく、原因疾患の進行や痛みの悪化につながるリスクがあります。
特に、市販薬が効かない、痛みが悪化している、日常生活に支障がある、月経時以外の痛みや不正出血があるといった場合は、早めに婦人科を受診することが非常に重要です。

月経困難症は、一人で抱え込まずに専門医に相談することで、症状を和らげ、原因となっている病気を早期に発見・治療し、より快適な毎日を送ることが可能です。
ご自身の体のサインを見逃さず、勇気を出して医療機関のドアを叩いてみてください。

免責事項:本記事は月経困難症に関する一般的な情報提供を目的としており、医学的アドバイスや診断、治療を代替するものではありません。
個々の症状や治療については、必ず医療機関で医師の診断と指導を受けてください。

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