子宮内腔癒着とは、子宮の内側にある子宮内腔の壁と壁がくっついてしまう状態を指します。これはアッシャーマン症候群とも呼ばれており、月経異常や不妊、習慣流産などの原因となることがあります。子宮内腔の癒着は、過去の子宮に対する手術や処置などが引き金となって起こることが多いとされています。もし、生理の量が変わった、妊娠しにくいといったお悩みを抱えている場合、子宮内腔癒着が原因である可能性も考えられます。この記事では、子宮内腔癒着の原因や症状、診断方法、そして最新の治療法について詳しく解説します。ご自身の状態を理解し、適切な医療へ繋がるための情報としてお役立てください。
子宮内腔癒着(アッシャーマン症候群)とは
子宮内腔癒着(しきゅうないくうゆちゃく)は、子宮の内壁である子宮内膜が傷つき、修復される過程で子宮内腔が線維性の組織によって部分的に、あるいは全体的にふさがれてしまう状態です。この状態は、1948年にイスラエルの産婦人科医Joseph Ashermanによって詳細に報告されたことから、「アッシャーマン症候群(Asherman’s syndrome)」とも呼ばれています。
子宮内腔は、本来は毎月の月経で剥がれ落ちる子宮内膜で覆われた空間です。妊娠時には受精卵がここに定着(着床)し、成長していく場所です。しかし、何らかの原因で子宮内膜の基底層(子宮内膜の再生に関わる部分)が損傷を受けると、正常な内膜の再生が妨げられ、子宮内腔が異常な線維組織によって結合してしまいます。これが癒着です。
癒着の程度は様々で、子宮内腔の一部が軽くくっつくだけの場合から、子宮内腔全体が完全に閉鎖されてしまう重度なケースまであります。また、子宮頸部(子宮の入口部分)に癒着が起こることもあります。癒着の場所や範囲、程度によって、現れる症状や治療の難易度も変わってきます。
特に、子宮内膜が正常に増殖・剥離できなくなるため、月経周期に影響が出たり、受精卵の着床が妨げられたりといった問題が生じやすくなります。
子宮内腔癒着の主な原因
子宮内腔癒着の最も一般的な原因は、子宮内膜に損傷を与えるような過去の出来事です。特に、妊娠に関連した処置や手術が大きな割合を占めますが、それ以外の原因によっても起こり得ます。
原因となる手術や処置
子宮内膜は非常にデリケートな組織であり、特に基底層が損傷を受けると癒着を引き起こしやすくなります。子宮内腔癒着の主な原因となる手術や処置には、以下のようなものがあります。
- 流産や人工妊娠中絶後の子宮内容除去術(D&C:Dilatation and Curettage)
流産や中絶の後、子宮内に残った組織を取り除くために行われる掻爬(そうは)術は、子宮内膜を傷つける可能性があり、癒着の原因として最も多いとされています。特に、繰り返しの処置や、子宮内膜炎などの感染を伴う場合、癒着のリスクが高まります。 - 分娩後の胎盤遺残に対する処置
出産後、胎盤の一部が子宮内に残ってしまった場合に、それを取り除くために行われる掻爬術や用手剥離も、子宮内膜を損傷し、癒着の原因となることがあります。 - 帝王切開後の処置
帝王切開の際に子宮内膜が傷ついたり、術後の感染などにより癒着が生じることがあります。 - 子宮筋腫やポリープ切除術
子宮内腔にできた筋腫(粘膜下筋腫)や子宮内膜ポリープを切除する手術(特に子宮鏡下手術)の際に、周囲の子宮内膜が損傷を受け、癒着が生じることがあります。 - その他、子宮内膜を傷つける可能性のある処置
子宮内膜生検(組織検査)や、かつて行われていた子宮内膜焼灼術など、子宮内腔に直接的な操作を加える医療処置も原因となる可能性があります。
これらの処置や手術は、必要があって行われるものですが、その後の子宮内膜の回復過程で癒着が起こり得ることになります。
その他の原因(感染症など)
手術や処置以外にも、子宮内腔癒着の原因となるものがあります。
- 骨盤内感染症(特に子宮内膜炎)
性感染症などが原因で子宮内膜に炎症が起こり、それが慢性化したり重症化したりすると、内膜が損傷し、癒着を引き起こすことがあります。 - 結核
結核が肺だけでなく、子宮などの他の臓器に感染することがあります。子宮結核は非常に稀ですが、子宮内膜の広範な損傷と重度の癒着を引き起こす可能性があります。 - 先天的な原因
非常にまれですが、生まれつき子宮の形成に異常があり、癒着しやすい体質である場合も考えられます。
これらの原因が単独で、あるいは複合的に作用することで、子宮内腔に癒着が生じると考えられています。特に、原因となりうる処置や手術を受けた後に、月経異常や不妊などの症状が現れた場合は、子宮内腔癒着の可能性を疑う必要があります。
子宮内腔癒着の症状
子宮内腔癒着の症状は、癒着の場所や範囲、程度によって大きく異なります。軽い癒着であれば無症状のこともありますが、癒着が進むにつれて様々な症状が現れるようになります。主な症状としては、月経異常、不妊症・習慣流産、月経困難症などが挙げられます。
月経異常(生理量減少、無月経など)
子宮内腔癒着で最もよく見られる症状は、月経周期や月経量の変化です。
- 生理量の減少(過少月経)
子宮内膜の一部が癒着によって機能しなくなると、月経時に剥がれ落ちる内膜の量が減るため、生理の量が少なくなります。以前と比べて生理が軽くなった、期間が短くなったと感じる場合は注意が必要です。 - 無月経
癒着が広範囲に及んだり、子宮頸部が閉鎖してしまったりすると、月経時に剥がれ落ちる内膜が子宮の外へ排出されず、生理が来なくなる(無月経)状態になります。これは、子宮内膜の再生能力が著しく低下しているか、経血の通り道が完全に塞がれていることを示唆します。 - 生理期間の短縮
剥がれ落ちる内膜の量が少ないため、生理期間が通常より短くなることがあります。
これらの月経異常は、子宮内腔が癒着によって狭くなったり、子宮内膜が十分に厚くならなくなったりするために起こります。
不妊症・習慣流産
子宮内腔癒着は、妊娠を希望する女性にとって大きな問題となります。
- 不妊症
癒着によって子宮内腔が狭くなったり、子宮内膜の状態が悪くなったりすると、受精卵が子宮内膜に着床しにくくなります。また、癒着が卵管の開口部(子宮側)を塞いでしまうと、卵子や精子が子宮内腔へ到達しにくくなり、受精自体が妨げられる可能性もあります。 - 習慣流産
妊娠が成立しても、癒着のある子宮内膜は血流が悪く、栄養供給が不十分になりやすいため、胎児が十分に成長できず、流産を繰り返してしまうことがあります。これは「着床障害」や「反復流産」の原因の一つと考えられています。
子宮内腔癒着による不妊症や習慣流産は、癒着の程度に比例することが多いですが、軽い癒着でも妊娠に影響を与えることがあります。
月経困難症や骨盤痛
癒着が子宮内腔や子宮頸部を部分的に閉鎖してしまうと、月経時に子宮から経血がスムーズに排出されず、子宮内に溜まってしまうことがあります(血腫)。この経血が子宮を圧迫したり、逆流したりすることで、以下のような症状が現れることがあります。
- 月経困難症(重い生理痛)
経血が溜まることで子宮が収縮しようとするため、強い生理痛を引き起こすことがあります。癒着によって経血の通り道が狭まっている場合、特に痛みが強くなる傾向があります。 - 骨盤痛や下腹部痛
子宮内に溜まった経血や、癒着そのものが周囲の組織を刺激することで、生理中以外にも慢性的な下腹部痛や骨盤痛を感じることがあります。
これらの症状は、月経異常や不妊と同時に現れることもあれば、単独で現れることもあります。特に、過去に子宮への処置や手術を受けた後に、このような症状が現れた場合は、子宮内腔癒着の可能性を考慮し、婦人科医に相談することが大切です。
子宮内腔癒着の診断・検査
子宮内腔癒着を正確に診断するためには、複数の検査を組み合わせることが一般的です。問診で月経の状態や既往歴(特に子宮関連の手術・処置歴)を詳しく聞き取った上で、以下のような検査が行われます。
内診・エコー検査
婦人科の診察で最初に行われることが多い検査です。
- 内診
医師が指で子宮や卵巣の大きさ、形、位置、動きなどを確認します。子宮の動きが悪くなっている場合など、癒着の可能性を示唆する所見が得られることもありますが、内診だけで子宮内腔の癒着を直接診断することはできません。 - 経腟超音波検査(エコー検査)
腟から細い超音波プローブを挿入し、子宮や卵巣の内部を画像で観察します。子宮のサイズや形、子宮内膜の厚さや状態、子宮内腔に液体が溜まっていないかなどを確認できます。子宮内膜が異常に薄い、子宮内腔の形状がいびつ、子宮内に液体貯留が見られるといった所見は、子宮内腔癒着の可能性を示唆しますが、癒着の有無や程度を確定的に診断することは難しい場合があります。月経直後など、子宮内膜が薄い時期に見えやすいこともあります。
これらの検査は簡便で身体への負担も少ないため、初期のスクリーニングとして行われます。
子宮鏡検査
子宮内腔癒着の診断において、最も重要な確定診断のための検査です。
- 子宮鏡検査
子宮鏡とは、先端に小型カメラが付いた細い内視鏡です。この子宮鏡を腟から子宮頸部を通って子宮内腔に挿入し、子宮内腔を直接観察する検査です。生理が終わって間もない時期など、子宮内膜が薄い時期に行うと、癒着の状態がより分かりやすいとされています。
子宮内腔の癒着の有無、癒着の場所、範囲、程度、組織の性質(線維性か筋肉性かなど)を詳細に評価することができます。この検査によって、癒着の診断を確定し、その後の治療方針を立てる上で非常に重要な情報が得られます。外来で行える場合と、軽い麻酔下で行う場合があります。
子宮卵管造影検査
主に不妊の原因を調べる検査として行われますが、子宮内腔の形態異常や癒着を発見する手がかりにもなります。
- 子宮卵管造影検査(HSG:Hysterosalpingography)
子宮頸部から造影剤を子宮内腔に注入し、X線撮影を行います。造影剤が子宮内腔や卵管の中を流れていく様子を画像で確認することで、子宮内腔の形や大きさ、卵管が詰まっていないかなどを調べます。
子宮内腔に癒着がある場合、造影剤がきれいに広がらず、子宮内腔の形がいびつに見えたり、欠損部(造影剤が入らない部分)があったりすることで、癒着の存在が示唆されます。ただし、子宮鏡検査ほど詳細に癒着の状態を把握することは難しい場合があります。
これらの検査結果を総合的に評価し、子宮内腔癒着の診断が確定されます。特に、過去の子宮内操作の既往があり、月経異常や不妊の症状がある場合は、積極的に子宮鏡検査を検討することが推奨されます。
子宮内腔癒着の治療法
子宮内腔癒着の治療の主な目的は、癒着を剥離して子宮内腔を本来の形に戻し、子宮内膜の機能回復を促すことです。これにより、月経異常の改善、月経痛の軽減、そして妊娠・出産が可能になることを目指します。治療法は、癒着の程度や症状、患者さんの妊娠希望の有無などによって選択されます。
手術療法(子宮鏡下癒着剥離術)
現在、子宮内腔癒着の最も標準的な治療法は、子宮鏡を用いた手術による癒着の剥離術です。
- 子宮鏡下癒着剥離術(TCRS:Transcervical Resection of Synechiae)
診断に用いる子宮鏡とは別に、手術用の電気メスなどが取り付けられた細い手術用子宮鏡を子宮内腔に挿入し、モニターで内部を見ながら癒着している線維組織を剥離していく手術です。子宮内膜の基底層をできるだけ傷つけないように慎重に行うことが重要です。
手術の対象・流れ
子宮鏡下癒着剥離術は、以下のような場合に検討されます。
- 子宮内腔癒着によって月経異常(特に過少月経や無月経)がある場合
- 子宮内腔癒着によって強い月経困難症や骨盤痛がある場合
- 子宮内腔癒着が不妊症や習慣流産の原因と考えられ、妊娠を強く希望する場合
手術は通常、全身麻酔または硬膜外麻酔下で行われます。生理が終わって子宮内膜が薄い時期に行うと、癒着が見えやすく、より安全に剥離できるとされています。手術時間は癒着の程度によって異なりますが、比較的短時間で終わることが多いです。
手術の流れの例:
1. 麻酔をかける
2. 腟から手術用子宮鏡を子宮頸部を通して子宮内腔に挿入する
3. 子宮内腔の癒着部をモニターで確認しながら、電気メスなどで慎重に剥離していく
4. 出血がないことを確認し、手術を終了する
5. 必要に応じて、術後の再癒着予防処置(後述)を行う
癒着の程度によっては、一度の手術で完全に剥離するのが難しい場合や、再手術が必要となる場合もあります。
手術の入院期間
子宮鏡下癒着剥離術の入院期間は、手術の規模や施設の方針によって異なります。
- 日帰り手術
癒着が比較的軽度な場合や、外来で可能な設備が整っている施設では、日帰りでの手術が可能です。 - 1泊2日~数日程度の入院
癒着が広範囲に及ぶ場合や、全身麻酔が必要な場合、術後の経過観察が必要な場合などは、1泊2日から数日程度の入院が必要となることがあります。
入院期間については、手術前に担当医とよく相談し、確認しておくことが重要です。
薬物療法
手術療法と並行して、または術後の補助療法として薬物療法が行われることがあります。
- ホルモン療法
癒着を剥離した後の子宮内膜の再生を促進し、新たな癒着ができるのを防ぐ目的で、エストロゲン製剤やプロゲステロン製剤が使用されます。手術後、一定期間ホルモン剤を服用することで、子宮内膜を十分に厚く育て、月経として剥がれ落ちやすくすることで、再癒着を防ぐ効果が期待されます。 - 抗生物質
癒着の原因として感染が疑われる場合や、手術後の感染予防のために抗生物質が処方されることがあります。
これらの薬物療法は、手術の効果を高め、子宮内腔の状態をより良く整えるために重要な役割を果たします。
術後の再癒着予防
子宮鏡下癒着剥離術の課題の一つは、手術後に再び癒着ができてしまう「再癒着」のリスクがあることです。特に、癒着が重度だった場合や、子宮内膜の損傷が大きかった場合に再癒着しやすい傾向があります。そのため、手術後には再癒着を予防するための様々な工夫が行われます。
- ホルモン療法
前述の通り、ホルモン剤(主にエストロゲンとプロゲステロン)を服用することで、子宮内膜の再生を促し、癒着面の治癒を促進します。十分に厚くなった子宮内膜が剥がれ落ちることで、物理的に癒着を防ぐ効果も期待されます。 - バルーン留置
手術で癒着を剥離した後、子宮内腔にシリコン製の小さなバルーン(風船)を一定期間(通常は数日〜2週間程度)留置することがあります。バルーンが子宮内腔を物理的に広げておくことで、剥離した面同士がくっつくのを防ぎます。 - バリア材の使用
手術で剥離した面に、ヒアルロン酸ゲルなどの吸収性のバリア材を注入することがあります。このバリア材が剥離面を覆い、一時的に壁と壁が直接触れ合って癒着するのを防ぐ効果が期待されます。 - 定期的な子宮鏡検査
手術後の子宮内腔の状態を確認し、もし軽度の再癒着が見られた場合に早期に発見・処置するために、術後に定期的に子宮鏡検査が行われることがあります。
これらの再癒着予防策は、患者さんの状態や手術内容に応じて適切に組み合わせて行われます。術後のケアも、治療の成功において非常に重要です。
子宮内腔癒着と妊娠・出産への影響
子宮内腔癒着は、妊娠・出産に様々な影響を及ぼす可能性があります。しかし、適切な診断と治療を受けることで、妊娠の可能性を高めることができます。
妊娠への影響と可能性
子宮内腔癒着が妊娠に影響を与える主な理由は、以下の通りです。
- 着床障害
癒着によって子宮内腔の面積が狭くなったり、子宮内膜が薄くなったり、血流が悪くなったりすると、受精卵が子宮内膜にしっかりと着床することが難しくなります。 - 受精卵の移動阻害
癒着が卵管の子宮側の開口部を塞いでしまうと、受精卵が卵管から子宮内腔へ移動するのを妨げ、子宮外妊娠のリスクを高める可能性があります。 - 流産リスクの増加
たとえ着床しても、癒着によって子宮内膜の環境が悪くなっていると、胎児の成長に必要な栄養や酸素が十分に供給されず、流産を繰り返してしまう(習慣流産)ことがあります。 - 妊娠中の合併症リスク
癒着の程度によっては、妊娠中に胎盤の付着異常(前置胎盤、癒着胎盤など)や、子宮破裂などのリスクが高まる可能性も指摘されています。
このように、子宮内腔癒着は妊娠の成立や継続を妨げる大きな要因となります。しかし、これは決して妊娠が不可能ということではありません。
治療後の妊娠率
子宮内腔癒着に対する子宮鏡下癒着剥離術などの治療によって、子宮内腔が改善され、妊娠が可能になるケースは多くあります。治療後の妊娠率は、癒着の程度、患者さんの年齢、その他の不妊原因の有無、そして手術や術後ケアの質など、様々な要因によって異なります。
- 軽度な癒着の場合
比較的高い確率で月経が正常に戻り、自然妊娠または不妊治療によって妊娠に至ることが期待できます。 - 中等度~重度な癒着の場合
手術による剥離が難航したり、再癒着のリスクが高かったりするため、治療後も妊娠率が比較的低い傾向にあります。しかし、高度な技術を持つ医師による手術と適切な術後ケアによって、妊娠に至るケースも報告されています。
一般的に、治療によって月経が回復した場合の妊娠率は比較的高いとされていますが、月経が回復しない場合の妊娠率は低い傾向にあります。また、治療後の妊娠においては、流産のリスクが完全にゼロになるわけではありません。
重要なのは、癒着の程度やご自身の状況を正確に把握し、専門医とよく相談しながら、最適な治療法を選択し、希望を諦めずに治療に取り組むことです。癒着が重度であっても、体外受精など他の不妊治療と組み合わせることで妊娠の可能性を高められる場合もあります。
子宮内腔癒着は完治する?治る可能性について
「完治」という言葉の定義は難しいですが、子宮内腔癒着における「治る」とは、一般的に「癒着が完全に剥離され、子宮内腔が本来の形に戻り、月経が正常化し、妊娠・出産が可能になること」を指すと考えられます。
子宮内腔癒着は、手術療法によって癒着を物理的に剥がすことで改善を目指す病気です。手術によって癒着を剥離し、子宮内腔の形態が回復すれば、多くの場合は月経が正常に戻り、症状が改善します。また、妊娠を希望される方の場合、癒着の程度にもよりますが、妊娠の可能性が高まります。
- 軽度な癒着の場合
子宮鏡下手術によって比較的容易に剥離でき、再癒着のリスクも低いため、「治る」可能性は高いと言えます。月経が正常に戻り、その後自然妊娠に至るケースも多くあります。 - 中等度~重度な癒着の場合
広範囲に及ぶ癒着や、線維性が強く硬い癒着、子宮内膜の基底層まで損傷しているような重度の癒着の場合、手術による剥離が難しく、完全に癒着を取り除くことが困難な場合があります。また、前述のように術後の再癒着のリスクも高くなります。再癒着を防ぐための術後ケアが非常に重要になりますが、それでも再び癒着が生じてしまい、複数回の再手術が必要となるケースや、癒着が完全に解消せず、月経が回復しない、あるいは妊娠が難しいといったケースも残念ながら存在します。
したがって、子宮内腔癒着が「完全に元通りになり、二度と癒着しない」という意味での「完治」は、癒着の程度によっては難しい場合もあります。しかし、適切な手術と術後ケアによって、症状が改善し、妊娠・出産に至る可能性は十分にあります。
重要なのは、自身の癒着の程度を正確に診断してもらい、経験豊富な専門医のもとで最善の治療を受け、術後の再癒着予防にも真剣に取り組むことです。たとえ完全に癒着が解消されなくても、状態が改善することで症状が楽になったり、妊娠の可能性が開けたりすることは多々あります。諦めずに治療を続けることが大切です。
子宮内腔癒着の予防方法
子宮内腔癒着の主な原因が子宮内膜への損傷であることを考えると、そのリスクを最小限に抑えることが予防につながります。特に、子宮内腔への医療処置や手術を受ける際には注意が必要です。
- 子宮内操作を最小限にする
流産や中絶後の処置、分娩後の処置などで子宮内容を除去する必要がある場合、可能な限り子宮内膜への損傷を少なくするような方法を選択することが望ましいとされています。例えば、鋭匙(鋭いスプーン状の器具)を用いた掻爬術よりも、吸引器を用いた吸引法の方が子宮内膜への負担が少ないと考えられています。ただし、胎盤遺残など内容物によっては掻爬術が必要な場合もあります。 - 手術手技の選択
子宮筋腫やポリープを切除する手術では、子宮鏡下手術が低侵襲で標準的ですが、熟練した技術が求められます。手術の際には、正常な子宮内膜をできるだけ傷つけないように慎重に行うことが重要です。 - 感染予防
子宮内膜炎などの感染症は癒着のリスクを高めます。手術や処置の前後で適切な抗生物質を使用するなど、感染を予防・治療することが重要です。 - 適切な術後管理
手術後の子宮内膜の回復を促進し、再癒着を防ぐための術後ケア(ホルモン療法やバルーン留置など)を適切に行うことが、予防につながります。
ただし、病気や状態によっては、子宮内腔への処置や手術が避けられない場合もあります。全ての子宮内腔癒着を完全に予防することは現状では難しいかもしれません。しかし、子宮内操作を行う際には、癒着のリスクがあることを認識し、適切な手技を選択したり、術後のケアをしっかり行ったりすることで、そのリスクを減らす努力が重要です。
もし、過去に子宮への処置や手術を受けた経験があり、月経異常などの症状が現れた場合は、早めに婦人科を受診し、相談することが早期発見と早期治療につながります。
子宮内腔癒着に関するよくある質問
子宮内腔癒着について、よくある疑問とその回答をまとめました。
子宮内腔が癒着するとどうなりますか?
子宮内腔が癒着すると、主に以下のような影響が出ることがあります。
- 月経異常: 癒着によって子宮内膜が正常に増殖・剥離できなくなるため、生理の量が減る(過少月経)あるいは生理が来なくなる(無月経)といった症状が現れやすいです。生理期間が短くなることもあります。
- 不妊症: 受精卵が子宮内膜に着床しにくくなったり、着床しても維持しにくくなったりするため、妊娠が難しくなることがあります。
- 習慣流産: 妊娠しても流産を繰り返してしまうリスクが高まります。
- 月経困難症・骨盤痛: 癒着によって経血の通り道が狭まったり閉鎖したりすると、経血が子宮内に溜まり、強い生理痛や慢性的な下腹部痛を引き起こすことがあります。
これらの症状は、癒着の程度や場所によって異なり、無症状の場合もあります。
子宮内膜の癒着はどのように診断しますか?
子宮内腔の癒着(子宮内膜の癒着)を診断するには、いくつかの方法があります。
- 問診: 月経の状態(周期、量、期間、痛み)や、過去の妊娠・出産歴、子宮への手術や処置の既往などを詳しく聞き取ります。
- 内診・エコー検査: 子宮の大きさや形、子宮内膜の厚さなどを確認しますが、これだけでは確定診断は難しいです。子宮内膜が薄い、子宮内腔の形がいびつといった所見は参考になります。
- 子宮卵管造影検査: 造影剤を子宮に入れてX線撮影することで、子宮内腔の形や癒着の有無がわかることがあります。不妊原因の検査としても行われます。
- 子宮鏡検査: 診断に最も有効な検査です。子宮内に細いカメラを入れて、子宮内腔を直接観察し、癒着の場所、範囲、程度を正確に評価します。この検査で診断が確定することが多いです。
これらの検査結果を総合的に判断し、診断に至ります。
子宮内膜症の癒着を剥がす治療は子宮内腔癒着にも有効ですか?
子宮内膜症による癒着と、子宮内腔癒着は、異なる疾患であり、治療法も異なります。
- 子宮内膜症による癒着: 子宮内膜に似た組織が、子宮以外の場所(卵巣、腹膜、腸など)にできて炎症を起こし、周囲の臓器と癒着を起こす病気です。この癒着は、痛みの原因となったり、卵管の通り道を塞いで不妊の原因となったりします。治療としては、ホルモン療法で病巣の進行を抑えたり、腹腔鏡手術などで癒着を剥離したりすることがあります。
- 子宮内腔癒着(アッシャーマン症候群): 子宮の内壁である子宮内腔そのものが癒着する病気です。これは主に子宮内膜の基底層の損傷によって起こります。治療は、前述のように子宮鏡下手術で癒着を剥離することが中心となります。
したがって、子宮内膜症の治療で行われる癒着剥離術(腹腔鏡など)は、子宮内腔癒着には直接有効ではありません。子宮内腔癒着の治療には、子宮鏡を用いた専門的な手術が必要です。ご自身の状態がどちらの癒着なのか、医師にしっかり確認することが大切です。
子宮内腔癒着で悩んだら専門医へ相談を
子宮内腔癒着は、月経異常や不妊、習慣流産といった女性にとって深刻な悩みにつながる可能性のある病気です。もし、過去に子宮への手術や処置を受けたことがあり、これらの症状が現れた場合は、子宮内腔癒着の可能性も視野に入れ、早めに婦人科医に相談することをお勧めします。
特に、不妊治療を行っているにも関わらず妊娠に至らない場合や、流産を繰り返す場合は、子宮内腔癒着が原因となっている可能性も十分に考えられます。不妊治療を専門とする医療機関では、子宮鏡検査など、子宮内腔の状態を詳しく調べるための検査体制が整っていることが多く、より正確な診断と適切な治療を受けることが期待できます。
子宮内腔癒着は、適切な診断と治療によって症状が改善し、妊娠・出産が可能になるケースも多くあります。一人で悩まず、まずは専門医に相談し、ご自身の状態を正確に把握することから始めましょう。医師としっかりとコミュニケーションを取り、納得のいく治療法を選択することが、前向きに病気と向き合う第一歩となります。
【免責事項】
この記事は子宮内腔癒着(アッシャーマン症候群)に関する一般的な情報提供を目的としており、個々の病状の診断や治療を保証するものではありません。実際の診断や治療方針については、必ず医師と相談し、その指示に従ってください。この記事の情報によって生じたいかなる結果についても、当方は一切の責任を負いかねます。
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