子宮脱とは?原因と症状|知っておきたい治療法と予防

子宮脱は、骨盤内の臓器(子宮、膀胱、直腸など)を支える骨盤底筋群やそれを覆う膜や靭帯が弱くなることで、これらの臓器が本来の位置から下がってきて、膣から体外へ出てしまう状態を指します。特に子宮が下がってくるものを子宮脱と呼びますが、多くの場合、膀胱や直腸なども一緒に下がってくるため、「骨盤臓器脱」と総称されることもあります。この状態は、女性特有の疾患であり、日常生活に様々な支障をきたすことがあります。

子宮脱の定義とメカニズム

子宮脱は、骨盤底筋群が弱くなることで、子宮が膣の中に下がり、さらに進むと膣口から外に出てくる状態です。骨盤底筋群は、骨盤の底にある筋肉や組織の集まりで、ハンモックのように骨盤内の臓器(子宮、膀胱、直腸など)を下から支える重要な役割を担っています。この支持組織が、妊娠・出産、加齢、閉経、あるいは腹圧がかかる習慣など、様々な要因によってダメージを受けたり、弱くなったりすると、臓器を支えきれなくなり、徐々に下がってきてしまいます。これが子宮脱のメカニズムです。子宮だけでなく、膀胱が下がれば膀胱瘤、直腸が下がれば直腸瘤、膣の天井が下がれば膣断端脱などと呼ばれ、これらをまとめて骨盤臓器脱と呼びます。

子宮脱の主な原因

子宮脱の主な原因は、骨盤底を支える組織の弱体化にあります。複数の要因が複合的に影響し合うことが一般的です。

加齢と閉経

年齢を重ねるにつれて、全身の筋肉や組織は自然と衰えていきます。骨盤底筋群も例外ではありません。特に閉経を迎えると、女性ホルモンであるエストロゲンの分泌が大幅に減少します。エストロゲンは、骨盤底の組織(筋肉、結合組織、粘膜など)の弾力性や強度を保つために重要な役割を果たしています。エストロゲンが減少すると、これらの組織が薄く乾燥しやすくなり、弾力性を失って弱体化が進みます。これが、閉経後の女性に子宮脱が多く見られる大きな理由の一つです。

妊娠・分娩の影響

妊娠中は、増大する子宮や胎児の重みによって、骨盤底筋群に継続的な負荷がかかります。特に、経膣分娩時には、赤ちゃんが産道を通る際に骨盤底筋や周囲の組織が大きく引き伸ばされたり、時には損傷を受けたりします。難産、巨大児の分娩、鉗子分娩や吸引分娩など、分娩に時間がかかったり、医療的な介入が必要になったりした場合、骨盤底へのダメージはより大きくなる傾向があります。分娩後も、すぐに骨盤底の機能が完全に回復するわけではないため、これが将来的な子宮脱のリスクとなります。出産回数が多いほど、そのリスクは高まると言われています。

腹圧を上昇させる要因(慢性的な咳、便秘、肥満、重い荷物)

骨盤底筋は、腹圧がかかったときに臓器が下がるのを支える役割も担っています。そのため、慢性的かつ過剰に腹圧が上昇する状態が続くと、骨盤底筋への負担が増大し、弱体化を早める原因となります。
具体的な例としては、以下のようなものがあります。

  • 慢性的な咳: 喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)などにより、頻繁に強く咳き込む習慣がある場合。
  • 慢性的な便秘: 排便時に強くいきむことが常態化している場合。
  • 肥満: 過剰な体重そのものが骨盤底に常に負荷をかけるだけでなく、腹圧を上昇させやすい傾向があります。
  • 重い荷物を持つこと: 仕事などで日常的に重いものを持ち上げる機会が多い場合。

これらの要因は単独でもリスクとなりますが、複数が組み合わさることで、より子宮脱を発症しやすくなります。

子宮脱の進行度と合併症

子宮脱は、その進行度によっていくつかの段階に分けられます。進行すると、子宮だけでなく他の臓器も巻き込んで下がってくる骨盤臓器脱の状態となり、様々な合併症を引き起こす可能性があります。

子宮下垂とは?軽度の症状

子宮下垂は、子宮脱の初期段階を指すことが多いです。子宮が骨盤内の通常の位置よりも少し下がった状態ですが、まだ膣口から外には出ていないか、いきんだりすると膣口まで下がる程度です。この段階では、自覚症状がないことも多いですが、「お腹のあたりが重い」「下腹部に違和感がある」「立ち仕事が辛い」といった漠然とした不快感を感じることがあります。これらの軽微なサインは、見過ごされやすい傾向にあります。

子宮脱の段階別症状

子宮脱の進行度は、一般的に以下のように分類されます(定義は学会や施設によって若干異なる場合がありますが、ここでは一般的な分類を説明します)。

  • ステージ0: 子宮は正常な位置にある。
  • ステージI: 子宮の一部が膣の上半分に下がっている状態。
  • ステージII: 子宮の一部または全体が膣口まで下がっている状態。いきんだり、立ったりすると膣口から見えたり触れたりするが、自然に戻ることもある。
  • ステージIII: 子宮の一部または全体が常に膣口から外に出ている状態。指で押し戻すことはできる。
  • ステージIV: 子宮全体が膣口から完全に外に出ており、指で押し戻すことが難しい状態。

進行度が進むにつれて、症状はより顕著になり、日常生活への影響も大きくなります。

骨盤臓器脱の種類(膀胱瘤、直腸瘤など)

子宮脱だけでなく、骨盤底筋の弱体化は他の臓器の下垂も引き起こします。これらをまとめて骨盤臓器脱と呼びます。主な種類と特徴的な症状を以下に示します。

骨盤臓器脱の種類 下垂する臓器 特徴的な症状
子宮脱 子宮 膣からの異物感、ピンポン玉のような触れる感覚、腰痛、下腹部痛
膀胱瘤 膀胱 頻尿、尿失禁(咳やくしゃみで漏れる腹圧性尿失禁など)、残尿感、排尿困難、膀胱炎
直腸瘤 直腸 排便困難、便が残っている感じ、膣に指を入れて押さないと便が出ない(用手圧迫)
小腸瘤 小腸 膣からの異物感、腰痛、腹部膨満感(まれ)
膣断端脱 膣の天井 (子宮摘出後の女性に発生)膣からの異物感、腰痛、下腹部痛

多くの場合、これらの臓器脱は単独ではなく、複数同時に発生します。例えば、子宮脱と同時に膀胱瘤や直腸瘤も合併しているケースが非常に多く見られます。そのため、子宮脱の治療を考える際には、他の骨盤臓器の状態も合わせて評価することが重要です。

初期症状と見過ごしやすいサイン

子宮脱の初期、特に子宮下垂の段階では、以下のような漠然とした症状や見過ごしやすいサインが現れることがあります。

  • 下腹部や腰の重い感じ、不快感: 特に夕方や立ち仕事の後に強くなる傾向があります。
  • 骨盤内の違和感: 何か挟まっているような、引っ張られるような感覚。
  • 軽い圧迫感: 膣のあたりに感じる軽い圧迫感。
  • 疲れやすさ: 特に下半身の疲れやすさを感じる。

これらの症状は、単なる疲労や更年期の症状と間違われやすく、子宮脱とは気づかずに過ごしている方が少なくありません。しかし、これらのサインに気づき、早めにケアを始めることが、進行を遅らせる上で重要です。

進行した子宮脱の具体的な症状(異物感、ピンポン玉、歩行困難、排尿・排便トラブル)

子宮脱が進行し、子宮や他の臓器が膣口から外に出てくるようになると、症状はより具体的で辛いものとなります。

  • 膣からの異物感: 「何かが出てきている」「挟まっている」という強い異物感を感じます。
  • お股にピンポン玉、卵、鶏の卵: 多くの患者さんが訴える典型的な表現です。膣口から丸いものが触れる、または目で確認できる状態です。座ったり、いきんだりするとより顕著になります。
  • 歩行困難、不快感: 外に出た臓器が下着に擦れたり、痛みや不快感を生じたりするため、普通に歩くことが辛くなることがあります。
  • 排尿トラブル:
    • 頻尿: 膀胱が圧迫されたり、位置が下がったりすることで、トイレが近くなります。
    • 残尿感: 排尿してもすっきりせず、膀胱に尿が残っている感じがします。
    • 排尿困難: 尿道が圧迫されたり、膀胱の形が変わったりすることで、スムーズに排尿できなくなります。ひどくなると、お腹を押したり、外に出た部分を押し戻したりしないと尿が出ないこともあります。
    • 腹圧性尿失禁: 咳、くしゃみ、笑う、重いものを持つなど、お腹に力が入った瞬間に尿が漏れてしまいます。これは、尿道を支える機能が低下するためです。
  • 排便トラブル:
    • 排便困難: 特に直腸瘤を合併している場合に顕著です。直腸が膣側に飛び出すことで、便の通りが悪くなります。
    • 便が残っている感じ: 排便しきれずに便が直腸に残っているような感覚が続きます。
    • 用手圧迫: 膣や肛門のあたりに指を入れて押さないと便が出せない、という状態になることがあります。

これらの症状は、日常生活の質を大きく低下させ、外出をためらったり、精神的な負担になったりすることもあります。

性行為中に感じる違和感

子宮脱が進行すると、性行為中にも影響が出ることがあります。

  • 挿入時の痛みや違和感: 膣が狭くなったり、下がった臓器に当たったりすることで、性交時に痛みを感じたり、スムーズに挿入できなかったりすることがあります。
  • パートナーが触れる異物感: パートナーが下がった部分に触れてしまい、双方にとって不快感や心理的な抵抗となることがあります。

性生活への影響は、夫婦関係にも関わるデリケートな問題ですが、これも子宮脱の重要な症状の一つとして認識しておくことが大切です。

子宮脱のセルフチェック手順

子宮脱は、自分自身で症状に気づき、確認することも可能です。以下に一般的なセルフチェックの手順を示しますが、これはあくまで目安であり、自己判断せず必ず医療機関を受診してください

  1. 準備: 清潔な手で、リラックスできる場所(自宅のトイレやお風呂場など)で行います。可能であれば、鏡を用意すると確認しやすいでしょう。
  2. 姿勢: 力を抜いて立ち、少し足を広げます。または、椅子に浅く腰かけます。
  3. 確認:
    • まずは、普段の状態で膣口のあたりに何か触れるものがないか、目で確認したり、指で優しく触れてみたりします。
    • 次に、軽く咳をしたり、お腹に力を入れたり(いきんだり)してみます。このとき、膣口から何か丸いものや、皮膚のようなものが出てくるか確認します。
    • 座って、少し前かがみになったり、膝を立てたりするなど、様々な体勢で試してみると、下がり具合が確認しやすいことがあります。
  4. 観察ポイント:
    • 膣口のあたりに何か触れるものがあるか。
    • いきんだときに、何か丸いものや皮膚が出てくるか。
    • 出てきたものが、普段の体勢に戻ったときに自然に引っ込むか。
    • 出てきたものの大きさや硬さ(「ピンポン玉くらい」「柔らかい」など)。

セルフチェックで「もしかして?」と感じたら、恥ずかしがらずに婦人科や女性泌尿器科を受診しましょう。早期に発見し、適切なアドバイスを受けることが重要です。

病院での診断と治療方針

医療機関では、まず問診で症状の詳細や既往歴、妊娠・出産の経験などを詳しく聞かれます。次に、内診(膣からの診察)や直腸診、超音波検査などを行い、子宮やその他の骨盤内臓器の下垂の程度、合併している臓器脱の種類、骨盤底筋の状態などを評価します。排尿や排便に関する症状がある場合は、尿検査や排尿機能検査、直腸機能検査などを行うこともあります。
これらの検査結果に基づき、医師と患者さんで話し合いながら治療方針を決定します。軽度の場合や、全身状態から手術が難しい場合、あるいは手術を希望しない場合は保存療法が選択されます。症状が強く日常生活に支障が出ている場合や、保存療法で改善が見られない場合は手術療法が検討されます。

保存療法(体操、ペッサリーなど)

保存療法は、手術以外の方法で症状の緩和や進行の抑制を目指す治療法です。主に軽度から中等度の症例や、手術ができない・希望しない場合に選択されます。

子宮脱体操の効果と正しいやり方

子宮脱体操は、骨盤底筋体操とも呼ばれ、弱くなった骨盤底筋を強化することを目的としています。骨盤底筋を鍛えることで、臓器を支える力がつき、症状の軽減や進行の予防につながる可能性があります。ただし、進行した子宮脱を体操だけで完全に治すことは難しいため、あくまで保存療法の一つとして、あるいは手術後の再発予防として行われます。

骨盤底筋の場所を確認する:
まず、骨盤底筋がどこにあるかを感じることが重要です。排尿中に尿を途中で止めてみる、あるいは排便中におならを我慢してみる、といった時に使われる筋肉が骨盤底筋です。

正しいやり方:

  1. リラックスした姿勢をとる: 仰向けに寝て膝を立てる、椅子に座る、または立つなど、自分が最もリラックスできる姿勢を選びます。最初は仰向けが分かりやすいでしょう。
  2. 骨盤底筋を収縮させる: 膣や肛門をキュッと引き締めるように、骨盤底筋をゆっくりと締めます。お腹やお尻の筋肉に力が入らないように注意しましょう。尿を我慢するようなイメージです。
  3. 収縮を維持する: 5秒から10秒程度、骨盤底筋を締め続けます。
  4. ゆっくりと緩める: 締めた筋肉をゆっくりと緩めます。完全にリラックスさせましょう。
  5. 繰り返す: これを10回1セットとして、1日に数セット(3セット程度)行います。
  6. 慣れてきたら: 収縮時間を長くしたり、回数を増やしたり、座った姿勢や立った姿勢など、様々な姿勢で行ったりすることで、負荷を調整します。

効果を高めるためのポイント:

  • 毎日継続することが最も重要です。
  • 力を入れすぎず、骨盤底筋だけを意識して行うようにしましょう。
  • 呼吸を止めず、自然な呼吸を続けながら行います。
  • 慣れるまでは、専門家(医師、理学療法士など)から指導を受けると、より効果的です。

ペッサリーによる治療法

ペッサリーは、膣の中に挿入して子宮や他の臓器を物理的に支え、下垂を防ぐ器具です。様々な形や大きさのものがあり、患者さんの症状や膣の状態に合わせて適切なものが選ばれます。リング型、キューブ型、ドーナツ型などがあります。

ペッサリー療法のメリット:

  • 手術の必要がないため、体への負担が少ない。
  • 比較的短時間で装着できる。
  • 症状の軽減が比較的早く実感できることがある。
  • 手術が難しい方や、手術までの期間の症状緩和に適している。

ペッサリー療法のデメリット:

  • 定期的な交換や洗浄(通常1~3ヶ月に一度、医療機関で)が必要。
  • 膣の刺激や炎症、帯下(おりもの)の増加、出血などの副作用が出ることがある。
  • まれに、膣壁に潰瘍ができたり、感染を起こしたりする可能性がある。
  • 活動量の多い方や、膣のゆるみが強い方には効果が得られにくい場合がある。
  • 性行為の際には、一時的に取り外す必要がある場合がある(形状による)。

ペッサリーは症状を一時的に抑えるための対症療法であり、子宮脱そのものを治すものではありません。適切な管理が非常に重要であり、自己判断での使用や放置は危険です。必ず医師の指導のもとで使用し、定期的な診察を受けましょう。

手術療法の種類と選択肢

手術療法は、子宮脱や骨盤臓器脱を根本的に治すための方法です。症状が強い場合や、保存療法で改善が見られない場合、再発を繰り返す場合などに選択されます。手術方法は多岐にわたり、患者さんの状態や希望に合わせて最適な術式が選択されます。

主な手術方法には、以下のようなものがあります。

  • 子宮を摘出する手術:
    • 膣式子宮全摘術 + 骨盤底形成術: 膣から子宮を摘出し、同時に緩んだ骨盤底の組織を縫い縮めて補強する方法です。比較的シンプルで、古くから行われている術式です。膀胱瘤や直腸瘤も同時に治療できる場合があります。
  • 子宮を温存する手術:
    • 仙骨膣固定術(または仙骨頸部固定術): 子宮の頸部(または膣の天井)を、人工のメッシュや患者さん自身の組織を使って、仙骨(骨盤の後ろ側の骨)に吊り上げて固定する方法です。子宮を温存できること、再発率が比較的低いことが特徴です。開腹手術、腹腔鏡手術、ロボット支援手術など様々なアプローチで行われます。
    • メッシュを使用しない子宮温存手術: 子宮を周囲の靭帯などを使って本来の位置に固定し直す手術です。メッシュを使わないため、メッシュに関連した合併症のリスクはありませんが、再発率がやや高い傾向があります。
  • 合併する臓器脱に対する手術: 膀胱瘤や直腸瘤など、合併している臓器脱についても、同時に手術で治療することが一般的です。膣の壁を縫い縮めたり、人工のメッシュで補強したりする方法などがあります。

手術方法の選択にあたっては、以下の点を考慮します。

  • 患者さんの年齢と全身状態: 合併症の有無や体力などを考慮し、術式や麻酔方法を決定します。
  • 子宮温存の希望の有無: 今後妊娠を希望するかどうか、あるいは子宮を残したいという希望があるかどうかは重要な判断基準です。
  • 骨盤臓器脱の種類と程度: 子宮脱だけでなく、膀胱瘤や直腸瘤など、どの臓器がどれくらい下がっているかによって適した術式が異なります。
  • 再発のリスク: 過去に手術歴があるか、骨盤底の損傷の程度などを考慮して、再発しにくい術式を選択します。
  • 術者(医師)の経験と得意な術式: 手術の成功率や合併症のリスクは、術者の経験によって異なる場合があります。
  • 使用するメッシュの種類と安全性: 人工メッシュの使用には、メッシュ関連の合併症(痛み、感染、露出など)のリスクも伴います。近年、メッシュの使用については慎重な姿勢が取られることもあります。

手術を受けることで、膣からの異物感や排尿・排便トラブルなどの症状は大きく改善されることが期待できます。しかし、どのような手術にもリスクは伴いますし、再発の可能性がゼロになるわけではありません。手術を検討する際は、医師から十分な説明を受け、メリットとデメリットを理解した上で、納得して選択することが重要です。複数の術式について説明を聞き、比較検討することも良いでしょう。

自分で治すことの限界と注意点

インターネット上には「子宮脱を自分で治す方法」といった情報も散見されますが、進行した子宮脱を体操や特定の器具などで完全に治すことは、医学的には非常に難しいとされています。骨盤底筋体操は、あくまで軽症の場合の症状緩和や予防、あるいは手術後の再発予防に有効な手段です。

市販されている一部の器具や、医学的根拠が不明な「〇〇療法」などについては、効果が期待できないだけでなく、かえって症状を悪化させたり、膣や周囲の組織を傷つけたり、感染を引き起こしたりするリスクもあります。特に、膣口から臓器が出ているような進行した状態を放置したり、誤った自己治療を試みたりすると、症状が悪化して治療が難しくなることもあります。

「お股にピンポン玉のようなものが出てきた」「違和感が続く」「排尿・排便に問題がある」といった症状に気づいたら、まずは専門の医療機関を受診することが最も安全で確実な方法です。医師の診断を受け、ご自身の状態に合った適切な治療法やケアについてアドバイスをもらいましょう。自己判断や根拠のない情報に頼ることは避け、必ず専門家の意見を聞いてください。

日常生活での注意点と改善策

日頃の生活習慣を見直すことで、骨盤底への負担を軽減することができます。

  • 腹圧を上昇させない工夫:
    • 便秘の解消: 食物繊維を多く摂る、水分を十分に摂る、適度な運動をするなどして、便秘を予防・改善し、排便時に強くいきむことを避けましょう。
    • 慢性的な咳の治療: 咳の原因となる疾患がある場合は、適切に治療を受けましょう。
    • 重いものを持つときの注意: 可能であれば重いものを持ち上げる作業は避けましょう。やむを得ず持つ場合は、腰を落として膝を使い、お腹に力を入れすぎないように持ち上げます。
  • 適正体重の維持: 過剰な体重は常に骨盤底に負担をかけます。バランスの取れた食事と適度な運動で、健康的な体重を維持しましょう。
  • 正しい姿勢を意識する: 背筋を伸ばし、骨盤を立てるような正しい姿勢を保つことで、骨盤底への負担が軽減されます。
  • 長時間立ちっぱなしを避ける: 長時間立ち続けることは骨盤底に負担をかけるため、適度に休憩をとったり、座ったりしましょう。

これらの日常生活での注意点は、子宮脱だけでなく、骨盤臓器脱全般の予防や、手術後の再発予防にもつながります。

骨盤底筋を鍛えるエクササイズ

前述の骨盤底筋体操は、日常的な予防策としても非常に有効です。特に、出産経験のある方や閉経後の女性は、積極的に取り入れることをおすすめします。

骨盤底筋を鍛えることのメリット:

  • 骨盤臓器を支える力が高まる。
  • 腹圧性尿失禁の改善・予防。
  • 性交時の感度向上(個人差あり)。
  • 姿勢の安定。

体操は、特別な道具や場所を必要とせず、いつでもどこでも行うことができます。習慣化して、日常生活の一部に取り入れることが大切です。例えば、電車での移動中や、信号待ち、テレビを見ながらなど、隙間時間に行うことができます。

骨盤底筋のトレーニングは、短期間で劇的な効果が現れるものではありません。数週間から数ヶ月単位で継続することで、徐々に効果を実感できるようになります。焦らず、根気強く続けることが成功の鍵です。

子宮脱になったらどうなる?

子宮脱になっても、命に関わるような病気ではありません。しかし、放置すると症状が進行し、日常生活に様々な支障をきたす可能性があります。

  • 症状の悪化: 膣からの異物感、排尿・排便困難、歩行時の不快感などが強まります。
  • 合併症: 尿が完全に排出できなくなることで尿路感染症を繰り返したり、腎臓に負担がかかったりする可能性があります。また、外に出た粘膜が下着と擦れて傷つき、出血や炎症を起こすこともあります。
  • 生活の質の低下: 痛みや不快感、排尿・排便の悩み、性生活への影響などから、外出をためらったり、活動範囲が狭まったりするなど、生活の質が大きく低下します。

必ずしも全ての人が進行するわけではありませんが、症状がある場合は放置せずに医療機関に相談することが重要です。

子宮脱になりやすい年齢は?

子宮脱は、主に閉経後の女性に多く見られる疾患です。これは、閉経による女性ホルモン(エストロゲン)の減少が、骨盤底の組織の弱体化を招くためです。特に、50代以上の女性に多く発症しますが、出産経験のある女性であれば、年齢に関わらず発症する可能性があります。また、スポーツ選手など、若年でも慢性的に腹圧がかかる生活を送っている場合は、発症リスクが高まることがあります。

お股からピンポン玉のようなものが出てきたら?

お股からピンポン玉のような、またはそれ以上の大きさの丸いものが出てきている、あるいは触れる場合は、子宮脱やその他の骨盤臓器脱がかなり進行している可能性が高いです。この状態は、日常生活に支障をきたすだけでなく、粘膜の乾燥や傷つき、感染などのリスクも伴います。

このような症状に気づいたら、できるだけ早く婦人科または女性泌尿器科を受診してください。恥ずかしいと感じるかもしれませんが、多くの女性が悩んでいる疾患であり、適切な治療で症状を改善することができます。受診時には、いつから症状があるか、どのような時に出てくるか、どのような症状(排尿・排便の問題など)を伴うかなどを具体的に伝えられるように準備しておくと良いでしょう。

子宮脱は再発する?

子宮脱は、治療(特に手術)をしても再発する可能性がないわけではありません。再発率は術式や患者さんの状態によって異なりますが、一般的に数パーセントから数十パーセントと言われています。

再発のリスクを減らすためには、手術後も以下のような対策を継続することが重要です。

  • 腹圧を上昇させない工夫: 便秘解消、咳の治療、重いものを持つときの注意など。
  • 適正体重の維持。
  • 骨盤底筋体操の継続。
  • 定期的な検診: 術後も定期的に医療機関を受診し、骨盤底の状態をチェックしてもらうことが望ましいです。

また、初めて子宮脱の手術を受ける際に、他の臓器脱(膀胱瘤や直腸瘤)も合併している場合は、同時に治療することで将来的な再発リスクを減らすことにつながります。

どこで診てもらうべき?

子宮脱は、婦人科または女性泌尿器科で診てもらうのが一般的です。

  • 婦人科: 子宮脱は女性器の疾患であるため、多くの婦人科で診療が行われています。かかりつけの婦人科がある場合は、まずそこで相談してみるのが良いでしょう。
  • 女性泌尿器科: 子宮脱は排尿トラブル(頻尿、尿失禁、排尿困難など)を伴うことが多いため、排尿に関する専門的な知識を持つ女性泌尿器科医も専門としています。特に排尿症状が強い場合や、膀胱瘤を合併している場合は、女性泌尿器科が適していることがあります。

どちらの科を受診しても適切な診療を受けられますが、骨盤臓器脱全般(子宮脱、膀胱瘤、直腸瘤など)を専門的に扱っている施設や医師に診てもらうと、より包括的な評価と治療の選択肢について相談できます。

専門病院の探し方

子宮脱や骨盤臓器脱の診療経験が豊富な専門病院や専門医を探すには、いくつかの方法があります。

  • かかりつけ医に相談する: まずは、かかりつけの婦人科医などに相談し、専門病院への紹介状を書いてもらうのが最もスムーズな方法です。
  • 学会のホームページを参照する:
    • 日本産科婦人科学会
    • 日本女性泌尿器科学会
    • 日本泌尿器科学会
    • 日本排尿機能学会
    • 日本骨盤臓器脱手術学会

    これらの学会のホームページでは、骨盤臓器脱に関する情報提供や、専門医リスト、関連施設リストなどを公開している場合があります。

  • インターネットで検索する: 「子宮脱 専門外来」「骨盤臓器脱 病院」「女性泌尿器科 ○○市(お住まいの地域)」などのキーワードで検索し、ホームページで診療内容を確認します。骨盤臓器脱センターやウロギネコロジー外来(女性泌尿器科・婦人科連携)などを設けている病院は、専門的な診療を行っている可能性が高いです。
  • 患者会などの情報: 同じ疾患を持つ患者さんのコミュニティなどで情報交換されている場合があります。

専門病院を受診する際は、現在の症状、困っていること、希望する治療法(手術を希望するかしないか、子宮温存を希望するかなど)を整理して伝えると、スムーズに相談を進めることができます。一人で悩まず、まずは相談の一歩を踏み出すことが大切です。

子宮脱は、多くの女性が年齢とともに経験する可能性のある疾患ですが、その症状は人に言いにくく、一人で悩んでしまう方も少なくありません。「お股にピンポン玉のような違和感がある」「何かが出てきている感じがする」「排尿や排便に問題がある」といった症状は、子宮脱や骨盤臓器脱のサインかもしれません。

この疾患は、命に関わるものではありませんが、進行すると日常生活の質を著しく低下させます。しかし、適切な診断と治療によって、症状を改善し、快適な生活を取り戻すことが十分に可能です。

自分でできる対策として、骨盤底筋体操や日常生活での注意点がありますが、これはあくまで症状の緩和や予防に有効な手段であり、進行した子宮脱を完全に治すことは難しいことを理解しておく必要があります。インターネット上の情報に惑わされず、症状に気づいたら、まずは婦人科または女性泌尿器科の専門医に相談することが最も重要です。

恥ずかしがらず、一人で悩まず、勇気を出して医療機関のドアを叩いてみましょう。ご自身の状態に合った最適なケアや治療法について、専門家と一緒に考えていくことが、子宮脱による悩みから解放されるための第一歩となります。


免責事項:

本記事は、子宮脱に関する一般的な情報提供を目的として作成されており、特定の疾患の診断、治療、予防を推奨するものではありません。個々の症状や状態については、必ず医療機関を受診し、医師の判断を仰いでください。本記事の情報に基づいて行った行為によって生じたいかなる結果についても、筆者および提供者は責任を負いかねますのでご了承ください。

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