子宮筋炎かもしれないと、下腹部の痛みや発熱、いつもと違うおりものなどの症状に不安を感じていませんか?
子宮筋炎は、細菌感染などが原因で子宮に炎症が起きる病気です。
放置すると炎症が広がり、将来の妊娠に関わる問題や慢性的な痛みの原因となることもあります。
この記事では、子宮筋炎の原因や症状、診断、そして大切な治療法について詳しく解説します。
また、症状が似ていて混同されやすい子宮腺筋症や子宮筋腫との違い、放置した場合のリスクについてもご紹介します。
気になる症状がある方、子宮筋炎について正しい知識を得たい方は、ぜひ最後までお読みください。
子宮筋炎とは?定義と種類
子宮筋炎という言葉を耳にすることがありますが、これは医学的には特定の病名ではなく、広義には「子宮の筋肉層(子宮筋層)に炎症が起きている状態」を指すことが多いです。
しかし、婦人科領域で一般的に「子宮の炎症」として診断・治療されるのは、子宮の内側を覆う子宮内膜に炎症が起きる「子宮内膜炎」や、子宮の出口である子宮頸管に炎症が起きる「子宮頸管炎」など、炎症が起きている部位を特定した診断名です。
これらの炎症が進行し、子宮の筋肉層にまで波及した場合を子宮筋炎と呼ぶこともありますが、単独で子宮筋層のみに炎症が起きることは稀です。
この記事で主に解説するのは、細菌感染などを原因とする、子宮の様々な部位に起こりうる炎症、特にそれが子宮の筋肉層にまで及んだ場合や、子宮全体に炎症が及んでいる状態をイメージした「子宮の炎症性疾患」としての側面です。
子宮の炎症は、病気の進行速度によって「急性」と「慢性」に分けられます。
急性子宮筋炎(または急性子宮内膜炎など)は、比較的急激に発症し、強い症状が現れるのが特徴です。
原因菌の感染力が強かったり、体調が悪かったりする場合に起こりやすいとされます。
速やかな治療が必要です。
慢性子宮筋炎(または慢性子宮内膜炎など)は、急性期の炎症が完全に治りきらなかった場合や、弱い感染が長期間続いた場合に起こります。
症状が軽い、あるいは全くない場合もありますが、不妊や不正出血などの原因となることがあります。
子宮の炎症は、性感染症の原因菌(クラミジアや淋菌など)や、大腸菌などの常在菌が膣から子宮内へと侵入することで起こることがほとんどです。
炎症が子宮内膜にとどまらず、子宮筋層、さらにその外側や周囲の臓器(卵管、卵巣、骨盤腹膜など)に広がると、より重篤な状態となる可能性があります。
子宮筋炎の主な症状
子宮の炎症(子宮筋炎を含む)の症状は、炎症が急性のものか慢性のものか、炎症の程度、原因菌の種類、そして炎症が子宮のどの部分に起きているかによって異なります。
急性期の主な症状
急性子宮筋炎や急性子宮内膜炎では、比較的強い症状が突然現れることが多いです。
- 強い下腹部痛: 特に子宮があるお腹の下の方に、持続的または間欠的に強い痛みが現れます。
生理痛とは異なる種類の痛みと感じる方が多いです。 - 発熱: 38℃以上の高熱が出ることがあります。
悪寒(寒気)を伴うことも少なくありません。 - おりものの異常: 量が増える、色(黄色、緑色など)や臭いが変化する、膿のようなおりものが出る、といった変化が見られます。
これは原因菌の種類によって特徴が異なることがあります。 - 不正出血: 生理周期に関係なく、性器からの出血が見られることがあります。
少量の出血から、生理のような出血まで程度は様々です。 - 性交痛: 性行為の際に、子宮のあたりに強い痛みを感じることがあります。
- その他: 吐き気、嘔吐、倦怠感、排尿時の痛みなどを伴うこともあります。
これらの症状が複数同時に現れた場合は、速やかに医療機関を受診することが非常に重要です。
慢性期の主な症状
慢性子宮筋炎や慢性子宮内膜炎は、急性期ほど症状がはっきりしないことが多いです。
- 軽い下腹部痛や腰痛: 鈍い痛みや重い感じが続くことがあります。
特に生理前に症状が悪化する方もいます。 - 不正出血: 少量のダラダラとした出血が続いたり、生理期間以外に時々出血が見られたりします。
- おりものの異常: 量が多い、色がいつもと違うといった異常が見られることがあります。
- 不妊: 慢性的な炎症が子宮内膜の状態を悪化させ、受精卵が着床しにくくなるなど、不妊の原因となることがあります。
- 無症状: 慢性的な炎症があっても、全く症状がないケースも少なくありません。
特に不妊検査で初めて発見されることもあります。
症状の有無に関わらず、子宮やその周辺の炎症を放置することは、後述するような様々なリスクを伴います。
少しでも気になる症状がある場合は、自己判断せずに婦人科医に相談することが大切です。
他の病気でも似たような症状が出ることがあるため、正確な診断を受けることが適切な治療につながります。
子宮筋炎の原因
子宮の炎症(子宮筋炎を含む)のほとんどは、細菌感染が原因で起こります。
感染経路は、主に以下の2つが考えられます。
- 上行感染(じょうこうかんせん): 膣に存在する細菌が、子宮頸管を通って子宮内膜、そして子宮筋層へと上っていく経路です。
これは最も一般的な感染経路です。- 性感染症の原因菌: クラミジア・トラコマチス、淋菌、マイコプラズマ、ウレアプラズマなどが代表的です。
これらの菌は性行為によって感染し、子宮頸管炎や子宮内膜炎、さらに進行すると骨盤内炎症性疾患(PID)を引き起こすことがあります。
子宮筋炎も、これらの菌による炎症が子宮筋層に及んだ状態として起こりえます。 - 常在菌: 普段は膣に存在する大腸菌や連鎖球菌などの常在菌が、膣内の環境の変化や免疫力の低下などにより異常増殖し、子宮内に侵入して炎症を起こすこともあります。
- 性感染症の原因菌: クラミジア・トラコマチス、淋菌、マイコプラズマ、ウレアプラズマなどが代表的です。
- その他: 稀ですが、出産や流産後の処置、子宮内避妊具(IUD)の挿入・除去、子宮鏡検査、子宮内容物除去術(掻爬術)などの医療行為が原因で感染が起こることもあります。
また、腹膜炎や虫垂炎など、他の体の部位の炎症が波及して子宮に炎症が及ぶケースも非常に稀にあります。
子宮の炎症リスクを高める要因
以下のような状況は、細菌が子宮に侵入しやすくなったり、炎症が起こりやすくなったりするため、子宮の炎症(子宮筋炎を含む)のリスクを高めると考えられています。
- 複数の性的パートナーがいる、またはパートナーが変わった: 性感染症の原因菌に感染するリスクが高まります。
- 避妊具を使用していない性行為: コンドームを使用しない性行為は、性感染症のリスクを高めます。
- 過去に性感染症や骨盤内炎症性疾患にかかったことがある: 再発しやすい場合があります。
- 月経中: 月経中は子宮頸管が開き、経血とともに細菌が子宮内に入り込みやすくなります。
- 出産や流産後: 子宮内が出血や組織によって汚染されやすく、細菌感染のリスクが高まります。
特に産褥期の性行為には注意が必要です。 - 子宮内避妊具(IUD)の使用: 挿入時に菌が持ち込まれたり、IUDが原因で慢性的な炎症が起きたりする可能性があります。
特に挿入後数週間はリスクが高いとされます。 - 免疫力の低下: ストレス、過労、睡眠不足、糖尿病などの疾患がある場合、体の免疫力が低下し、感染しやすくなります。
- 膣内の環境が乱れている: 抗生剤の長期使用や過度な洗浄などにより膣内の善玉菌(乳酸菌)が減少し、悪玉菌が増殖しやすい状態になると、感染リスクが高まることがあります。
子宮の炎症の原因菌を特定し、リスク要因を把握することは、適切な治療と再発予防のために重要です。
症状がある場合は、ためらわずに医療機関を受診し、医師に正直に相談しましょう。
子宮筋炎の診断と検査
子宮の炎症(子宮筋炎を含む)を診断するためには、問診、内診、画像検査、そして原因菌を特定するための様々な検査が必要です。
- 問診:
- 症状(下腹部痛、発熱、おりものの変化、不正出血、性交痛など)について、いつから始まったか、どのくらいの強さか、どのような時に症状が悪化するかなどを詳しく聞かれます。
- 月経周期や生理の状態、過去の妊娠・出産・流産歴、性行為の状況(パートナーの数、避妊方法)、過去の性感染症や婦人科の病歴、アレルギーや現在服用している薬などについても尋ねられます。
これらの情報は、原因や考えられる疾患を絞り込む上で非常に重要です。
- 内診:
- 膣や子宮頸部の状態、おりものの性状などを目で見て確認します。
- 子宮や卵巣、卵管のあたりを触診し、痛み(圧痛)の有無、子宮の大きさや硬さ、腫れがないかなどを調べます。
炎症がある場合は、子宮や周囲の組織に触れると強い痛みを感じることが多いです。
- 超音波(エコー)検査:
- 経腟プローブまたは経腹プローブを使って、子宮や卵巣、卵管の形、大きさ、内部の状態を確認します。
- 子宮筋層の厚みや内部の均一性、子宮内膜の状態、卵管や卵巣の腫れ(膿がたまっているかなど)、骨盤内への腹水の貯留などを評価します。
炎症が強い場合、子宮筋層が厚くなっていたり、卵管が腫れていたり、骨盤内に液体が貯まっていたりする所見が見られることがあります。
- おりもの検査:
- 子宮頸部や膣からおりものを採取し、顕微鏡で白血球(炎症細胞)や細菌、真菌などを調べます。
- 培養検査を行い、どのような種類の細菌が存在するか、その細菌がどの抗生剤に効くか(薬剤感受性検査)を調べます。
これにより、原因菌に最も効果的な抗生剤を選択することができます。 - クラミジアや淋菌などの性感染症の原因菌を特定するためのPCR検査なども行います。
- 血液検査:
- 白血球数やCRP(C反応性蛋白)などの炎症反応の値を調べます。
炎症が強いほどこれらの値は高くなります。 - 必要に応じて貧血の有無(不正出血が多い場合)や、原因菌の種類によっては特定の抗体価などを調べることもあります。
- 白血球数やCRP(C反応性蛋白)などの炎症反応の値を調べます。
- 子宮内膜生検:
- 慢性子宮内膜炎の診断や原因の特定が必要な場合に、子宮内膜組織の一部を採取して病理組織検査や細菌検査を行うことがあります。
不妊の原因として慢性子宮内膜炎が疑われる場合などに行われます。
- 慢性子宮内膜炎の診断や原因の特定が必要な場合に、子宮内膜組織の一部を採取して病理組織検査や細菌検査を行うことがあります。
これらの検査結果を総合的に判断し、子宮の炎症の有無、炎症の程度、原因菌の種類、炎症がどの範囲に及んでいるかを診断します。
症状が似ていても原因が全く異なる病気(子宮腺筋症や子宮筋腫など)の可能性も考慮して診断を進めることが重要です。
子宮筋炎の治療法
子宮の炎症(子宮筋炎を含む)の治療の基本は、原因となっている細菌を排除することです。
主に抗生剤(抗菌薬)を用いた薬物療法が行われます。
- 抗生剤治療:
- 原因菌の種類や症状の程度に応じて、内服薬または点滴による抗生剤が処方されます。
- 診断時に原因菌が特定できていない場合は、複数の種類の細菌に効果がある広域抗生剤が使用されることが多いです。
おりもの検査の結果で原因菌や薬剤感受性が判明したら、より効果的な抗生剤に変更されることもあります。 - 治療期間は、通常1週間から2週間程度ですが、炎症の程度や症状の改善具合によって異なります。
医師の指示された期間、しっかりと抗生剤を服用することが非常に重要です。
途中で症状が改善したからといって自己判断で服用をやめてしまうと、原因菌が完全に死滅せず、炎症が再燃したり、慢性化したり、抗生剤が効きにくい耐性菌が出現したりするリスクがあります。 - 急性期で発熱や強い痛みが伴う場合、炎症が広範囲に及んでいる場合、経口での抗生剤服用が難しい場合などは、入院して点滴による抗生剤治療が必要となることがあります。
点滴の方が薬の血中濃度を高く維持しやすく、より早く炎症を抑える効果が期待できます。
- 対症療法:
- 強い下腹部痛がある場合は、鎮痛剤(痛み止め)が処方されます。
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)などが用いられます。 - 発熱がある場合は、解熱剤が使用されることがあります。
- 急性期には、安静を保つことも回復を助けます。
過度な運動や性行為は控えるように指導されることがあります。
- 強い下腹部痛がある場合は、鎮痛剤(痛み止め)が処方されます。
- パートナーの治療:
- 原因が性感染症(クラミジアや淋菌など)である場合は、パートナーも感染している可能性が高いため、症状の有無に関わらず一緒に検査を受け、必要であれば治療を行う必要があります。
パートナーが治療しないと、たとえ自分が治療で一度治っても、再びパートナーから感染してしまう(ピンポン感染)リスクがあるためです。
- 原因が性感染症(クラミジアや淋菌など)である場合は、パートナーも感染している可能性が高いため、症状の有無に関わらず一緒に検査を受け、必要であれば治療を行う必要があります。
- 治療効果の確認:
- 抗生剤治療開始後、数日で症状が改善してくるのが一般的です。
しかし、症状の改善だけで完治したと判断せず、医師の指示に従って治療を最後まで続けることが大切です。 - 治療終了後、必要に応じて再度おりもの検査や血液検査を行い、炎症が治まったか、原因菌が排除されたかを確認することがあります。
特に性感染症の場合は、治癒確認の検査が推奨されます。
- 抗生剤治療開始後、数日で症状が改善してくるのが一般的です。
子宮の炎症は、早期に適切な治療を開始すればほとんどの場合改善します。
しかし、診断が遅れたり、治療が不十分だったりすると、炎症が慢性化したり、周囲の臓器に広がる骨盤内炎症性疾患(PID)に進行したりするリスクが高まります。
気になる症状がある場合は、必ず医療機関を受診し、医師の指示にしっかり従うことが、子宮の健康を守る上で最も重要です。
子宮筋炎と間違えやすい疾患
子宮の炎症(子宮筋炎を含む)でみられる下腹部痛、不正出血、おりもの異常といった症状は、他の様々な婦人科疾患や泌尿器科、消化器科の病気でも起こり得ます。
特に、子宮に関連する病気で症状が似ていて混同されやすいものに「子宮腺筋症」と「子宮筋腫」があります。
これらは炎症とは異なる病態ですが、症状が似ているため、正確な診断のためには区別が必要です。
子宮腺筋症と子宮筋炎の違い
子宮腺筋症も子宮筋炎も子宮の病気ですが、その原因、病態、主な症状、治療法は全く異なります。
子宮腺筋症は、本来子宮の内側にあるべき子宮内膜組織が、子宮の筋肉の層(子宮筋層)に入り込んで増殖してしまう病気です。
この迷入した子宮内膜組織も、生理周期に合わせて増殖・出血を繰り返すため、子宮筋層内で炎症のような反応や癒着を起こし、子宮全体が硬く、大きく肥大することがあります。
一方、子宮筋炎は、主に細菌感染によって子宮に急性の炎症が起きる病気です。
両者の違いを分かりやすくまとめると以下のようになります。
項目 | 子宮腺筋症 | 子宮筋炎 |
---|---|---|
原因 | 子宮内膜組織が筋層に入り込む(原因不明) | 主に細菌感染(性感染症菌、常在菌など) |
病態 | 子宮筋層内の内膜組織の増殖・出血、子宮肥大 | 子宮組織への細菌侵入による炎症反応 |
主な症状 | 強い月経困難症(生理痛) 過多月経(生理の量が多い) 貧血 慢性的な下腹部痛・腰痛 |
急な強い下腹部痛 発熱、悪寒 おりものの異常(色、臭い、量) 不正出血 性交痛 |
治療 | ホルモン療法 手術(子宮全摘術など) 対症療法(鎮痛剤など) |
抗生剤(抗菌薬)治療 対症療法(鎮痛剤、解熱剤) 安静 |
病気の性質 | 進行性の可能性のある慢性疾患(閉経で改善) | 急性または慢性の炎症性疾患 |
このように、子宮腺筋症の主な症状は生理に関連した痛みや出血の異常であるのに対し、子宮筋炎は急な痛みや発熱、おりもの異常といった感染兆候が強いのが特徴です。
ただし、慢性化した子宮筋炎では症状が軽い場合もあり、下腹部痛や不正出血で受診した際にどちらの病気か判断が難しいケースもあります。
正確な診断には、問診や内診、超音波検査、そして特におりもの検査による細菌の特定が重要になります。
子宮筋腫と子宮筋炎の違い
子宮筋腫も子宮の病気ですが、子宮筋炎とは全く異なるものです。
子宮筋腫は、子宮の筋肉の層(子宮筋層)にできる良性の「こぶ」や「しこり」です。
腫瘍ではありますが、悪性化することは非常に稀です。
発生原因ははっきりしていませんが、女性ホルモン(エストロゲン)によって大きくなる性質があります。
子宮筋炎は細菌感染による炎症であるのに対し、子宮筋腫はあくまで子宮の筋肉の細胞が異常に増殖してできた塊です。
炎症ではありません。
両者の違いは以下のようになります。
項目 | 子宮筋腫 | 子宮筋炎 |
---|---|---|
原因 | 原因不明(女性ホルモンに影響される) | 主に細菌感染(性感染症菌、常在菌など) |
病態 | 子宮筋層にできる良性の腫瘍 | 子宮組織への細菌侵入による炎症反応 |
主な症状 | 過多月経、生理痛 貧血 頻尿、便秘(筋腫が大きい場合) 下腹部の圧迫感、膨満感 無症状の場合が多い |
急な強い下腹部痛 発熱、悪寒 おりものの異常(色、臭い、量) 不正出血 性交痛 |
治療 | 経過観察 薬物療法(GnRHアゴニストなど) 手術(筋腫核出術、子宮全摘術など) |
抗生剤(抗菌薬)治療 対症療法(鎮痛剤、解熱剤) 安静 |
病気の性質 | 良性腫瘍(閉経で縮小傾向) | 急性または慢性の炎症性疾患 |
子宮筋腫の症状は、筋腫ができた場所や大きさ、数によって大きく異なります。
小さかったり、子宮の外側に向かってできていたりする場合は、ほとんど症状が出ないこともあります。
一方、子宮の内側に向かってできたり、大きかったりする場合は、過多月経やそれに伴う貧血、生理痛、周囲臓器への圧迫症状などが現れやすくなります。
子宮筋腫による痛みが炎症による痛みと紛らわしいことがありますが、子宮筋炎のように発熱や膿性のおりものといった感染兆候は通常伴いません。
超音波検査では、子宮筋腫は筋層内の境界明瞭な腫瘤(しこり)として描出されるのに対し、炎症の場合は子宮筋層全体の浮腫(むくみ)や厚みの増加、卵管の腫れなどとして見られることが多く、鑑別が可能です。
このように、子宮筋炎と子宮腺筋症、子宮筋腫はそれぞれ原因や病態が異なる病気です。
症状だけで自己判断せず、正確な診断のために必ず婦人科医の診察を受けましょう。
子宮筋炎を放置するとどうなる?リスクについて
子宮の炎症(子宮筋炎を含む)は、早期に適切な抗生剤治療を行えば比較的容易に改善することが多い病気です。
しかし、症状を我慢して医療機関を受診しなかったり、自己判断で治療を途中でやめてしまったりすると、炎症が体の中で進行し、様々なリスクを伴うことになります。
最も懸念されるのは、炎症が子宮内にとどまらず、周囲の臓器に広がる骨盤内炎症性疾患(Pelvic Inflammatory Disease: PID)に進行することです。
PIDは、子宮内膜、子宮筋層、卵管、卵巣、さらには骨盤内の腹膜にまで炎症が及んだ状態を指します。
PIDに進行した場合、以下のような様々なリスクが発生します。
- 慢性的症状の継続: 急性期の激しい症状(強い痛み、発熱など)が治まっても、慢性的な下腹部痛や腰痛、性交痛、不正出血が続くことがあります。
これは、炎症によって骨盤内の臓器が癒着(本来離れているべき組織がくっついてしまうこと)を起こしたり、慢性の炎症が持続したりするためです。 - 不妊の原因: PIDが卵管に炎症を起こし、卵管の内側が狭くなったり、完全に閉塞してしまったりすることがあります。
卵管は卵巣から排卵された卵子を子宮へと運び、精子と受精する場所でもあるため、卵管が正常に機能しないと、精子と卵子が出会えず、受精卵が子宮にたどり着けなくなり、不妊の原因となります。
炎症による癒着が卵巣や子宮の動きを妨げ、排卵や受精卵の輸送に影響を与えることもあります。 - 異所性妊娠(子宮外妊娠)のリスク増加: 卵管の炎症や癒着によって、受精卵が卵管の中で立ち往生し、そのまま卵管内で着床・発育してしまうのが異所性妊娠です。
これは非常に危険な状態であり、卵管が破裂すると大出血を起こし、命に関わることもあります。
PIDを経験した女性は、異所性妊娠のリスクが通常よりも高くなることが知られています。 - 骨盤内膿瘍の形成: 炎症がさらに進行すると、骨盤内に膿(うみ)が溜まった塊(膿瘍)を形成することがあります。
これは強い痛みを伴い、抗生剤治療だけでは困難で、手術によって膿瘍を摘出したり、排膿したりする必要が出てくることがあります。 - 敗血症など重篤な状態: 稀ではありますが、炎症の原因菌が血流に乗って全身に広がり、多臓器不全などを引き起こす敗血症という非常に危険な状態に進展する可能性もゼロではありません。
特に、免疫力が低下している方などでは注意が必要です。
このように、子宮の炎症を放置することは、単に症状が長引くだけでなく、将来の健康状態、特に妊娠や出産に深刻な影響を及ぼす可能性があります。
また、慢性の骨盤痛は日常生活の質を著しく低下させます。
「これくらい大丈夫だろう」「忙しいからもう少し様子を見よう」と自己判断せず、下腹部の痛みや発熱、おりもの異常など、いつもと違う症状に気づいたら、できるだけ早く婦人科を受診し、適切な診断と治療を受けることが、これらのリスクを回避するために最も大切です。
早期発見・早期治療が、将来の健康を守る鍵となります。
子宮筋炎に関するよくある質問(Q&A)
子宮の炎症(子宮筋炎を含む)や、症状が似ている子宮腺筋症、子宮筋腫について、患者様からよくいただくご質問にお答えします。
子宮腺筋症を放っておくとどうなりますか?
子宮腺筋症は進行性の病気であると考えられており、閉経するまでは女性ホルモンの影響を受けて病変が大きくなる可能性があります。
放置した場合、以下のような影響が考えられます。
- 月経困難症や過多月経の悪化: 生理痛が年々ひどくなったり、生理の量が増えて貧血が進行したりする可能性があります。
重度の貧血は全身倦怠感やめまいを引き起こし、日常生活に支障をきたします。 - 子宮の肥大: 腺筋症が進行すると子宮全体が著しく大きくなり、下腹部の膨満感や圧迫症状(頻尿、便秘など)が出やすくなります。
- 不妊の原因: 子宮腺筋症があると、子宮内膜の状態が悪化したり、子宮の収縮異常が起きたりして、受精卵の着床や維持が難しくなることがあります。
また、強い生理痛や過多月経が性生活に影響し、結果的に妊娠の機会が減ることもあります。 - 慢性の骨盤痛: 生理時以外の時期にも、持続的な下腹部痛や腰痛を感じることがあります。
ただし、腺筋症の進行スピードや症状の程度には個人差が非常に大きいです。
閉経すれば症状は改善または消失することがほとんどです。
症状が軽度であれば経過観察も選択肢の一つですが、症状が辛い場合や妊娠を希望される場合は、早めに専門医に相談し、適切な管理や治療法を検討することが重要です。
子宮筋炎とは原因も治療法も異なります。
子宮筋炎の症状はどこが痛いですか?
子宮筋炎を含む子宮の炎症で最もよくみられる痛みの部位は、下腹部です。
特に子宮があるおへその下あたりに痛みを感じることが多いです。
- 急性期: 急に始まる、比較的強い痛みが特徴です。
ズキズキ、キリキリとした痛みや、お腹全体が重く張るような痛み、押すと響くような痛みなど、痛みの性質は様々です。 - 慢性期: 急性期ほどの強い痛みではなく、鈍い痛みや重い感じが持続することが多いです。
腰痛を伴うことも少なくありません。
特に疲れた時や生理前に症状が悪化することもあります。
炎症が子宮だけでなく、卵管や卵巣、骨盤内の腹膜にまで広がった(骨盤内炎症性疾患:PID)場合は、痛みの範囲が広がり、下腹部全体や腰、お尻の方まで痛みが及ぶことがあります。
また、炎症がある状態での性行為によって子宮や骨盤内の組織が刺激され、性交痛を感じることもあります。
痛みの場所や性質は、炎症の部位や程度、個人の感じ方によって異なります。
診断の際には、どのような時に、どのような種類の痛みが、どのくらいの強さであるかを医師に詳しく伝えることが重要です。
子宮筋腫はエッチ(性行為)で悪化しますか?
医学的に見て、子宮筋腫自体が性行為によって悪化するという明確な根拠は乏しいです。
子宮筋腫は良性の腫瘍であり、性行為の物理的な刺激によってその大きさや数が増えたり、性質が悪化したりすることはありません。
ただし、子宮筋腫がある場所や大きさによっては、性行為によって性交痛を感じることがあります。
特に、子宮の出口(子宮頸部)に近い場所に筋腫があったり、子宮の内側に向かって大きくなるタイプの筋腫(粘膜下筋腫)があったりする場合、性行為による子宮への刺激で痛みが生じやすいことがあります。
また、大きな筋腫があることで骨盤内の空間が狭くなり、性行為の体位によっては圧迫感や痛みを感じることもあります。
性交痛がある場合は、我慢せずに医師に相談しましょう。
筋腫が原因であるか診断し、必要であれば痛みを軽減するための治療法を検討することができます。
子宮筋炎は炎症性疾患であるため、急性期に性行為を行うと、炎症を悪化させたり、パートナーに感染させたりするリスクがあります。
医師から安静や性行為の制限を指示された場合は、必ずそれに従ってください。
子宮腺筋症は太る?お腹が出る?
子宮腺筋症が直接的な原因となって体重が大幅に増える(太る)ということは、医学的にはあまり考えられていません。
子宮腺筋症はあくまで子宮の筋肉層に内膜組織が迷入する病気であり、全身の代謝機能に直接影響を与えるものではないからです。
ただし、子宮腺筋症が進行して子宮全体が大きく肥大すると、下腹部が膨らんで見えるため、「お腹が出た」と感じることがあります。
特に子宮が妊娠数ヶ月相当の大きさになることもあり、その場合は見た目にもお腹がぽっこりすることがあります。
これは体重が増えたというより、子宮が大きくなったことによる変化です。
また、子宮腺筋症の治療のためにホルモン療法(GnRHアゴニストなど)を行うと、一時的にむくみやすくなったり、食欲が増加したりする副作用が出ることがあり、結果として体重が微増する可能性はゼロではありません。
しかし、これは治療による一時的なものであり、病気自体の特性ではありません。
子宮筋炎は感染による炎症なので、それが直接的に体重増加やお腹が出る原因になることはありません。
ただし、炎症が非常に強く、腹水が溜まるような稀なケースではお腹が張ることはあり得ますが、これは体重増加とは異なります。
子宮腺筋症の重症度について
子宮腺筋症には、子宮筋腫のように明確で統一された重症度の分類基準は今のところありません。
しかし、臨床的には以下のような要素を総合的に判断して、病気の程度や治療方針を検討します。
- 症状の程度: 月経困難症(生理痛)や過多月経(生理の量が多いこと)の痛みの強さや、それが日常生活や仕事にどの程度支障をきたしているか。
貧血の程度。
生理時以外の痛みの有無や強さ。 - 病変の広がりと子宮の大きさ: 子宮腺筋症が子宮筋層のどの範囲に広がっているか(びまん性か限局性か)、子宮全体がどの程度肥大しているかを超音波検査やMRI検査で評価します。
子宮が大きいほど、また病変が広範囲に及んでいるほど、一般的に症状が強く出やすい傾向があります。 - 合併症の有無: 子宮腺筋症に子宮内膜症や子宮筋腫を合併しているか。
- 不妊との関連: 子宮腺筋症が不妊の原因となっているか。
妊娠の希望があるかないか。
これらの要素を踏まえ、「症状が強く日常生活に支障があり、子宮の肥大も著しい」「重度の貧血を伴う」「不妊の原因となっている」といった場合に、一般的に「重症」とみなされ、薬物療法や手術療法などが積極的に検討されることになります。
子宮肥大と更年期について
子宮肥大とは、何らかの原因で子宮が通常よりも大きくなった状態を指します。
子宮肥大を引き起こす原因はいくつかあり、代表的なものとして子宮腺筋症、子宮筋腫、子宮の炎症(子宮筋炎を含む)などがあります。
また、妊娠や出産後にも一時的に子宮は大きくなります。
更年期は、女性ホルモンであるエストロゲンの分泌が急激に減少する時期です。
子宮腺筋症や子宮筋腫は、このエストロゲンの影響を受けて発育・進行する病気です。
したがって、更年期を迎えてエストロゲンの分泌が低下すると、子宮腺筋症による子宮の肥大は自然に縮小していくことがほとんどです。
子宮筋腫も同様に小さくなる傾向があります。
これにより、腺筋症や筋腫による症状(生理痛、過多月経、圧迫症状など)は改善または消失することが多いです。
一方、子宮の炎症(子宮筋炎など)による子宮肥大は、細菌感染が原因です。
炎症による浮腫や組織の肥厚が原因で一時的に子宮が大きくなることはありますが、これはホルモンの影響とは直接関係ありません。
そのため、更年期を迎えても、炎症自体が治まらない限り、子宮の肥大が自然に改善するわけではありません。
炎症を抑えるためには、抗生剤による治療が必要です。
子宮肥大の原因を正確に診断するためには、更年期であるかどうかにかかわらず、医療機関での診察と検査(特に超音波検査)を受けることが重要です。
子宮腺筋症の閉経年齢について
子宮腺筋症は、女性ホルモンであるエストロゲンの影響を受けて悪化する病気です。
したがって、エストロゲンの分泌がほぼなくなる閉経を迎えると、子宮腺筋症の病変は活動を停止し、自然に縮小していきます。
これにより、子宮腺筋症による症状(月経困難症、過多月経など)は、閉経後には改善または消失することがほとんどです。
日本人女性の平均閉経年齢は約50歳と言われています。
しかし、閉経の時期には個人差が大きく、40代前半で閉経する方もいれば、50代後半まで閉経しない方もいます。
また、閉経が近づくにつれてエストロゲンの分泌は徐々に低下していくため、閉経の数年前から症状が軽くなっていく方もいます。
子宮腺筋症の患者様にとっては、閉経は病気の改善が期待できる一つの区切りとなります。
しかし、症状が重い場合や、閉経までまだ年数がある場合は、それまでの期間の症状緩和や病気の進行抑制のために、ホルモン療法などの治療が必要になることもあります。
閉経前にどのような治療を選択するかは、年齢、症状の程度、妊娠希望の有無などを考慮して医師とよく相談して決めましょう。
子宮筋炎は感染症であり、閉経とは直接的な関連はありません。
閉経後でも性行為やその他の原因で子宮の炎症が起こる可能性はあります。
【まとめ】子宮筋炎かな?と思ったら専門医にご相談ください
子宮筋炎は、主に細菌感染が原因で子宮に炎症が起きる病気です。
下腹部痛、発熱、おりもの異常、不正出血といった症状が現れます。
これらの症状は他の病気でも起こりうるため、自己判断は危険です。
特に、症状が似ていて混同されやすい病気として、子宮腺筋症や子宮筋腫があります。
これらは子宮筋炎とは原因や病態が全く異なる病気であり、治療法も異なります。
子宮筋炎は、早期に適切な抗生剤治療を行えば、ほとんどの場合で症状の改善や完治が期待できます。
しかし、診断や治療が遅れると、炎症が慢性化したり、卵管や卵巣にまで炎症が広がる骨盤内炎症性疾患(PID)に進行したりするリスクが高まります。
PIDは、不妊や子宮外妊娠、慢性の骨盤痛の原因となるなど、将来の健康に深刻な影響を及ぼす可能性があります。
下腹部の痛み、発熱、いつもと違うおりものなど、気になる症状がある場合は、「これくらい大丈夫だろう」と放置せず、できるだけ早く婦人科を受診することが大切です。
医師による問診、内診、超音波検査、そして特に原因菌を特定するためのおりもの検査などを行い、正確な診断を受けることで、適切な治療につながります。
一人で悩まず、専門医に相談することで、不安を解消し、ご自身の体の状態に合った適切なケアを受けることができます。
免責事項
この記事は情報提供を目的としており、病気の診断や治療を推奨するものではありません。
子宮筋炎やその他の婦人科疾患に関する症状がある場合は、必ず医療機関を受診し、医師の診断と指導を受けてください。
記事内容によって生じたいかなる結果についても、当方は責任を負いかねます。
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