子宮筋腫は、女性にとって比較的よく知られた疾患の一つです。
しかし、「筋腫」という言葉を聞くと不安を感じる方も多いのではないでしょうか。子宮筋腫は子宮の筋肉にできる良性の腫瘍であり、多くの場合、適切な情報と向き合い方を知ることで、過度な心配は不要になります。この記事では、子宮筋腫の基本的な知識から、気になる症状、原因、さまざまな治療法、さらには妊娠への影響や、悪性の可能性についても、専門家の視点から分かりやすく解説します。ご自身の体のこと、子宮筋腫について正しく知りたいとお考えの方は、ぜひ最後までお読みいただき、今後の参考にしてください。
子宮筋腫の定義と発生原因
子宮筋腫とは、子宮の筋肉(平滑筋)の細胞が異常に増殖してできる良性の腫瘍です。悪性のがんとは異なり、他の臓器に転移して生命を脅かす性質のものではありません。しかし、発生する場所や大きさ、数によっては、様々な症状を引き起こし、日常生活に影響を与えることがあります。
子宮筋腫が発生するはっきりとした原因はまだ解明されていませんが、女性ホルモンであるエストロゲンが大きく関与していると考えられています。筋腫は、エストロゲンによって増殖・成長する性質があり、エストロゲンが多く分泌される成熟期(生理がある期間)の女性に多く見られます。閉経後はエストロゲンの分泌が低下するため、筋腫が自然に小さくなる傾向があります。
日本人女性では、30歳以上の約20〜30%に子宮筋腫が見つかると言われており、非常に一般的な疾患です。小さなものを含めれば、もっと多くの方に存在すると考えられています。
子宮筋腫の主な種類と発生部位
子宮筋腫は、子宮の壁のどこにできるかによって、主に以下の3つの種類に分類されます。発生した場所によって、現れる症状やその程度、治療法が異なります。
-
筋層内筋腫(きんそうないきんしゅ)
子宮の壁の筋肉の中にできる筋腫で、最も多く見られるタイプです。
小さなうちは症状が出にくいですが、大きくなると子宮全体が大きくなり、過多月経や月経痛、圧迫症状などを引き起こしやすくなります。 -
漿膜下筋腫(しょうまくかきんしゅ)
子宮の外側を覆う漿膜の下にできる筋腫です。
子宮の外側に向かって発育するため、筋腫がかなり大きくなるまで症状が出にくい傾向があります。
大きくなると、周囲の臓器(膀胱や直腸)を圧迫して頻尿や便秘などの症状が出ることがあります。また、茎(くき)のような細い部分で子宮と繋がっている場合、茎捻転(けいねんてん)を起こして急激な腹痛を伴うことがあります(稀ですが)。 -
粘膜下筋腫(ねんまくかきんしゅ)
子宮の内側、子宮腔に面した粘膜の下にできる筋腫です。
3つのタイプの中では最も少ないですが、たとえ小さくても、子宮腔に変形を起こしやすいため、強い症状(特に過多月経や不正出血)を引き起こしやすいのが特徴です。
不妊や流産の原因となることもあります。
これらの他に、子宮と卵巣や骨盤をつなぐ靱帯の中にできる「広間膜内筋腫(こうかんまくないきんしゅ)」などがありますが、これらは稀なタイプです。多くの子宮筋腫は、上記の3つのタイプのいずれか、または複数組み合わせて存在します。
どんな症状が出る?自覚症状と進行
子宮筋腫の症状は、筋腫の大きさ、数、そして最も重要な発生部位によって大きく異なります。
小さな筋腫や漿膜下筋腫のように子宮の外側に向かってできる筋腫では、無症状であることも少なくありません。健康診断や婦人科受診の際に偶然発見されることもよくあります。
しかし、筋腫が大きくなったり、粘膜下筋腫のように子宮内腔に近い場所にできると、様々な症状が現れてきます。症状の多くは月経に関連するもので、月経周期に合わせて強くなったり弱くなったりします。また、筋腫がさらに大きくなると、月経時以外にも常に感じる症状が出てくることがあります。
自覚症状がない場合でも、筋腫は閉経までは大きくなる可能性があるため、定期的な検診で経過を観察することが大切です。症状がある場合は、その程度や日常生活への影響を医師に伝え、適切な治療法を選択する必要があります。
過多月経・貧血・月経痛(月経困難症)
子宮筋腫で最も頻繁に見られる症状が、過多月経(月経の出血量が多いこと)と、それに伴う貧血、そして月経痛(月経困難症)です。特に粘膜下筋腫や、子宮内腔を圧迫するような筋層内筋腫でこれらの症状が強く出やすい傾向があります。
- 過多月経: 筋腫があると子宮の内膜が広がりやすくなったり、筋腫自体からの出血があったり、子宮がうまく収縮できず止血が遅れたりするために、月経の出血量が増加します。ナプキンを頻繁に取り替える必要がある、夜間もナプキンでは間に合わない、レバーのような大きな血の塊が出る、といった症状が見られます。過多月経が続くと、後述する貧血の原因となります。
- 貧血: 過多月経による出血量の増加が慢性的に続くと、体内の鉄分が失われ、鉄欠乏性貧血を引き起こします。貧血が進むと、顔色が悪い、疲れやすい、めまい、立ちくらみ、動悸、息切れ、爪がもろくなる、氷を食べたくなる(異食症)といった症状が現れます。重度の貧血は、日常生活の質を著しく低下させ、放置すると心臓に負担をかけることもあります。
- 月経痛(月経困難症): 筋腫によって子宮が通常より大きくなったり、子宮が筋腫を押し出そうとして過度に収縮したりすることで、強い月経痛が生じます。鎮痛剤が効きにくい、寝込んでしまうほど痛い、といった症状が見られることがあります。腰痛や吐き気、下痢などを伴うこともあります。
これらの月経に関連する症状は、日常生活や仕事、学業に深刻な影響を与えることがあります。つらい症状を我慢せず、婦人科を受診して相談することが重要です。
巨大化による圧迫症状(腰痛、頻尿、便秘など)
筋腫が大きく成長したり、多発したりして子宮全体が大きくなると、周囲の臓器を圧迫するようになります。これにより、月経に関連しない様々な症状が現れます。
- 頻尿・排尿困難: 前方にある膀胱を圧迫すると、尿が十分に溜まる前に尿意を感じやすくなり、頻尿になります。また、筋腫の位置によっては尿道を圧迫し、尿が出にくくなる(排尿困難)こともあります。
- 便秘・排便困難: 後方にある直腸を圧迫すると、便が通りにくくなり便秘になります。排便時にいきむ必要があったり、残便感を感じたりすることもあります。
- 腰痛・下腹部痛: 筋腫が大きくなることで、子宮を支える靭帯が引っ張られたり、骨盤内の神経が圧迫されたりして、腰痛や慢性的な下腹部痛が生じることがあります。
- 足のむくみ・しびれ: 大きな筋腫が骨盤内の血管や神経を圧迫すると、足の血行が悪くなり、むくみやしびれ、だるさを感じることがあります。
これらの圧迫症状は、筋腫が一定以上の大きさになった場合に現れやすい症状です。症状の程度は筋腫の大きさや位置によって個人差が大きいです。
症状の出にくい子宮筋腫について
前述のように、子宮筋腫は必ずしも症状が出るとは限りません。特に漿膜下筋腫は、子宮の外側に向かって風船のように膨らんでいくため、よほど大きくならない限り子宮内腔や周囲の臓器を強く圧迫することがなく、無症状のまま経過することが多いタイプです。
また、筋層内筋腫でも、小さいものや、子宮内腔から離れた場所にできている場合は、症状が出ないことがあります。
無症状のまま閉経を迎え、筋腫が自然に小さくなる方も少なくありません。しかし、無症状であっても、定期的に婦人科で筋腫の大きさや変化をチェックしてもらうことは重要です。特に、急速に大きくなる場合など、稀に悪性の可能性も否定できないケースがあるため、油断は禁物です。
子宮筋腫を放っておくとどうなる?放置のリスク
子宮筋腫は良性腫瘍であり、必ずしも治療が必要な病気ではありません。無症状で小さい筋腫であれば、経過観察を選択することも多いです。
しかし、症状があるにも関わらず放置したり、無症状でも急激に大きくなったりする場合は、いくつかのリスクが考えられます。
- 症状の悪化: 過多月経による貧血が進行し、全身倦怠感や息切れなどがひどくなる可能性があります。月経痛や圧迫症状も悪化し、日常生活の質が著しく低下することがあります。
- 不妊や妊娠合併症のリスク: 筋腫の位置や大きさによっては、不妊の原因になったり、妊娠中に筋腫が大きくなったり、流産や早産、帝王切開のリスクを高めたりすることがあります。
- 稀に悪性の可能性(子宮肉腫): 子宮筋腫だと思っていたものが、実は子宮肉腫という悪性腫瘍であった、あるいは筋腫の中に肉腫が含まれていたというケースが非常に稀ですがあります。子宮肉腫は進行が早いことが特徴です。急速に筋腫が大きくなる場合などは、肉腫を疑って精密検査が必要になります。
- 治療の選択肢が狭まる: 筋腫が非常に大きくなってしまうと、薬物療法での効果が限定的になったり、手術の方法が限定されたりすることがあります。例えば、腹腔鏡下手術が難しくなり開腹手術が必要になるなどです。
これらのリスクを避けるためにも、気になる症状がある場合や、定期検診で筋腫を指摘された場合は、自己判断で放置せず、一度婦人科医に相談することをお勧めします。
診断方法と画像検査(超音波検査、MRIなど)
子宮筋腫の診断は、通常、問診と内診、そして画像検査によって行われます。
-
問診:
まず、医師が月経の周期や出血量、月経痛の程度、月経時以外の症状(下腹部痛、腰痛、頻尿、便秘など)、妊娠・出産の経験、既往歴、服用中の薬などについて詳しく尋ねます。 -
内診:
医師が膣から指を入れて、子宮の大きさや硬さ、表面の凹凸などを触って確認します。筋腫がある場合、子宮が大きくなっていたり、こぶのようなものを触れたりすることがあります。同時に子宮頸部や卵巣の状態も確認します。 -
画像検査:
診断を確定し、筋腫の大きさ、数、正確な位置などを把握するために画像検査が行われます。-
超音波検査(経腟超音波検査・経腹超音波検査):
最も一般的で簡便な検査法です。膣内に細長い超音波プローブを挿入して子宮や卵巣を観察する経腟超音波検査と、お腹の上からプローブを当てる経腹超音波検査があります。筋腫の有無、大きさ、数、発生部位(筋層内、漿膜下、粘膜下)を比較的容易に確認できます。内診と組み合わせて行われることが多いです。 -
MRI検査:
より詳細な情報が必要な場合に行われます。筋腫の種類をより正確に診断したり、悪性の可能性(子宮肉腫など)を評価したり、多発筋腫の場合に一つ一つの筋腫の位置や大きさを正確に把握したりするのに非常に有用です。手術を検討する際にも、手術計画を立てるために行われることがあります。費用は超音波検査より高くなりますが、診断の精度は高い検査です。 -
CT検査:
通常、子宮筋腫の診断にはあまり用いられませんが、他の腹部疾患との鑑別や、骨盤内の全体像を把握する目的で用いられることがあります。 -
子宮鏡検査:
子宮内腔に細いスコープを入れて直接観察する検査です。特に粘膜下筋腫が疑われる場合や、不正出血の原因を調べるのに有用です。筋腫が子宮内腔にどの程度突出しているか、手術で切除可能かなどを評価できます。
-
超音波検査(経腟超音波検査・経腹超音波検査):
これらの検査結果を総合的に判断し、子宮筋腫の診断と、その後の治療方針の決定に繋がります。
治療方針の決定:年齢、症状、妊娠希望などを考慮
子宮筋腫の治療方針は、画一的なものではありません。患者さん一人ひとりの状況を総合的に評価し、最も適した方法が選択されます。治療方針を決定する際に考慮される主な要因は以下の通りです。
- 筋腫の大きさ、数、発生部位: これらの要因は、症状の程度や種類、そして治療法の選択肢に大きく影響します。
- 症状の種類と程度: 過多月経、貧血、月経痛、圧迫症状など、どのような症状があり、その程度がどのくらい日常生活に影響しているかが最も重要な判断基準となります。無症状の場合は、基本的に治療は不要で経過観察となります。
- 年齢: 閉経前か閉経後かによって、筋腫の今後の変化(閉経後は小さくなる)や、治療の目的(症状緩和か、子宮温存かなど)が異なります。
- 妊娠希望の有無: 今後妊娠を希望するかどうかは、子宮を温存するか、子宮ごと摘出するかといった手術の選択に大きく関わります。
- 全身の健康状態: 持病の有無など、全身状態によっては、選択できる治療法が限られることがあります。
- 患者さん自身の希望: 患者さんがどのような治療を希望するか、治療によるリスクやベネフィットをどのように捉えるかなども、治療方針決定において重要な要素となります。
これらの要因を医師と患者さんでよく話し合い、納得のいく治療法を選択することが大切です。
経過観察
無症状の場合や、症状が軽く日常生活にほとんど影響がない場合、また閉経が近い場合は、積極的に治療を行わず、定期的な婦人科検診で筋腫の大きさや変化を観察する「経過観察」が選択されることが一般的です。
経過観察では、通常、数ヶ月から1年ごとに超音波検査などを行い、筋腫が急速に大きくなっていないか、新たな症状が出てきていないかなどを確認します。無症状でも、稀に悪性の可能性(子宮肉腫)を否定できない場合などには、MRI検査などが追加されることがあります。
経過観察中は、特別な制限はありませんが、貧血気味の場合は鉄分の補給を心がけるなど、症状に応じたセルフケアを行うことも推奨されます。
薬による治療(GnRHアゴニスト、LEP製剤など)
薬物療法は、筋腫を直接なくすのではなく、主に症状を緩和したり、手術までの期間に筋腫を一時的に小さくしたりすることを目的とします。
-
GnRHアゴニスト製剤・GnRHアンタゴニスト製剤:
これらの薬剤は、脳の下垂体に作用して、卵巣からの女性ホルモン(エストロゲン)の分泌を強力に抑制します。体内のエストロゲンレベルが低下すると、月経が止まり、筋腫への栄養供給が減るため、筋腫を一時的に小さくすることができます。過多月経や月経痛といった症状を劇的に改善させる効果が期待できます。
しかし、エストロゲンが低下することで、更年期に似た症状(ほてり、発汗、肩こり、不眠、気分の落ち込みなど)が出たり、骨密度が低下したりする副作用があります。そのため、原則として投与期間に制限があり(通常6ヶ月以内)、長期的な使用はできません。主に、手術前に筋腫を小さくして手術を容易にする目的や、閉経までの期間を症状なく乗り切るために一時的に使用されます。 -
LEP製剤(低用量ピル/低用量・超低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬):
低用量ピルは、卵巣からのホルモン分泌を抑え、子宮内膜の増殖を抑える作用があります。これにより、月経量を減らし、月経痛を和らげる効果が期待できます。筋腫を直接小さくする効果は限定的ですが、過多月経や月経痛といった症状の緩和には有効な場合があります。また、月経周期をコントロールできるため、生理不順の改善にも役立ちます。血栓症などの副作用に注意が必要なため、医師の指示のもと服用します。 -
対症療法:
月経痛に対しては鎮痛剤、過多月経による貧血に対しては鉄剤が処方されます。これらは筋腫を治療するものではなく、あくまで症状を和らげるための治療です。 -
新しい薬:
近年、GnRHアンタゴニストとエストロゲン・プロゲスチンを組み合わせることで、症状を抑えつつ、更年期様症状や骨密度低下といった副作用を軽減した新しい経口薬(エラゴリクスなど)が登場し、選択肢が増えています。
薬物療法は、手術を避けたい場合や、症状が比較的軽い場合、閉経までの期間を乗り切りたい場合などに有効な治療法です。
手術による治療(筋腫核出術、子宮全摘術)
手術は、筋腫を根本的に治療する方法です。主に、薬物療法で効果が得られない場合や、症状が非常に重い場合、筋腫が急速に大きくなる場合、不妊の原因となっている場合などに検討されます。手術方法には、子宮を温存する筋腫核出術と、子宮全体を摘出する子宮全摘術があります。
-
筋腫核出術(きんしゅかくしゅつじゅつ):
子宮に残っている筋腫だけを取り除く手術です。子宮を温存するため、妊娠を希望する女性や、子宮を残したいという希望が強い女性に選択されます。ただし、小さな筋腫や筋層内の筋腫など、全てを取りきることが難しい場合があり、術後に新たな筋腫が発生して再発する可能性があるというデメリットがあります。手術方法には、開腹手術、腹腔鏡下手術、子宮鏡下手術があります。 -
子宮全摘術(しきゅうぜんてきじゅつ):
子宮全体を摘出する手術です。症状が非常に重い場合、多発筋腫で子宮が著しく大きくなっている場合、妊娠を希望しない場合、筋腫の再発を完全に防ぎたい場合などに選択されます。子宮を失うことに抵抗を感じる女性もいますが、症状の根本的な解決になり、筋腫が再発する心配はなくなります。手術方法には、開腹手術、腹腔鏡下手術、腟式手術(腟から子宮を摘出)があります。
手術は何センチから検討される?
子宮筋腫の手術を検討する際の「何センチから」という明確な基準は一概には言えません。手術の必要性を判断する上で、筋腫の大きさは重要な要素の一つですが、それ以上に重要なのは、症状の有無とその程度、筋腫の発生部位、そして妊娠希望の有無です。
例えば、
- 症状が非常に強い場合: たとえ筋腫が小さくても(例えば3〜5cm程度でも)、過多月経による重度の貧血や、強い月経痛、生活に支障が出る圧迫症状などがある場合は、手術が検討されることがあります。特に、粘膜下筋腫は小さくても症状が強く出やすいため、大きさに関わらず手術の適応となることが多いです。
- 筋腫が急速に大きくなる場合: 短期間のうちに筋腫が明らかに大きくなっている場合は、たとえ無症状でも、稀な子宮肉腫の可能性を考慮して手術が検討されることがあります。
- 不妊の原因となっている場合: 筋腫が子宮内腔を変形させたり、卵管を圧迫したりして不妊の原因になっていると考えられる場合、妊娠を希望するのであれば、筋腫核出術が検討されます。この場合も、筋腫の大きさだけでなく、位置が重要になります。
- 圧迫症状が強い場合: 筋腫が大きくなり(例えば10cm以上など)、膀胱や直腸を強く圧迫して頻尿や便秘などの症状が日常生活に影響している場合は、手術が検討されます。
- その他: 茎捻転を起こす可能性のある有茎性漿膜下筋腫や、診断が難しく悪性の可能性を完全に否定できない場合なども、大きさに応じて手術が考慮されます。
このように、「何センチだから手術」という単純な基準ではなく、個々の状況に合わせて総合的に判断されます。一般的には、大きさが5〜6cmを超えて、かつ症状がある場合に手術が検討されることが多いですが、症状が強ければもっと小さくても、逆に症状が全くなく閉経が近ければ、大きくても経過観察となることもあります。最終的な判断は、医師の説明をよく聞き、ご自身の状況や希望を伝えた上で、納得して行うことが大切です。
腹腔鏡下手術と開腹手術
手術方法には、大きく分けて腹腔鏡下手術と開腹手術があります。
-
腹腔鏡下手術:
お腹に数カ所、数ミリから1センチ程度の小さな穴を開け、そこから腹腔鏡(カメラ)や手術器具を入れて行う手術です。傷が小さいため、術後の痛みが少なく、入院期間が短く、回復が早いというメリットがあります。見た目にも傷跡が目立ちにくいです。
ただし、筋腫の大きさ(一般的には10cm程度まで)、数、発生部位、過去の手術による癒着の有無などによって、腹腔鏡下手術が可能かどうかが決まります。多発筋腫や巨大筋腫、複雑な位置にある筋腫などでは、腹腔鏡下手術が難しい場合があります。筋腫核出術と子宮全摘術のどちらも腹腔鏡下で行われることがあります。 -
開腹手術:
お腹を大きく切開して行う手術です。腹腔鏡下手術が難しい場合や、より広い視野で確実に手術を行う必要がある場合(例えば、多発筋腫や巨大筋腫、悪性の可能性が完全に否定できない場合など)に選択されます。腹腔鏡下手術に比べて傷が大きく、術後の痛みも強く、入院期間や回復に時間がかかりますが、より複雑な状況に対応できるというメリットがあります。こちらも筋腫核出術と子宮全摘術のどちらも行われます。 -
子宮鏡下手術:
腟から子宮内に細い子宮鏡と手術器具を挿入し、モニターを見ながら子宮内腔に突出した筋腫を切除する手術です。主に粘膜下筋腫に対する手術法で、お腹に傷がつかないというメリットがあります。日帰りまたは短期間の入院で行われることが多いです。
手術方法 | 特徴 | メリット | デメリット | 適応 |
---|---|---|---|---|
腹腔鏡下手術 | 小さな切開創(数カ所) | 傷が小さい、術後痛が少ない、回復が早い | 筋腫の大きさ・数・位置などに制限あり | 比較的大きさ・数が少ない筋腫(核出術・全摘術) |
開腹手術 | 大きな切開創(お腹) | 複雑な状況に対応可能、より確実な操作 | 傷が大きい、術後痛が強い、回復に時間かかる | 巨大筋腫、多発筋腫、複雑な位置、悪性の可能性 |
子宮鏡下手術 | 腟から器具を挿入、子宮内腔を操作 | お腹に傷がつかない、低侵襲 | 粘膜下筋腫に限定される | 子宮内腔に突出した粘膜下筋腫 |
子宮筋腫は取るべき?治療のタイミング
子宮筋腫が見つかったからといって、必ずしもすぐに「取るべき」とは限りません。子宮筋腫の治療が必要かどうか、いつ治療を開始するか(治療のタイミング)は、症状の有無と程度、筋腫の増大傾向、そして患者さんの年齢や妊娠希望の有無によって大きく異なります。
-
無症状の場合:
基本的に治療は不要で、定期的な経過観察となります。筋腫が大きくなる傾向がなく、閉経が近ければ、そのまま閉経まで様子を見ることが多いです。ただし、筋腫が非常に大きい場合や、急速に大きくなる場合は、症状がなくても手術が検討されることがあります。 -
症状がある場合:
症状(過多月経、月経痛、貧血、圧迫症状など)が日常生活に支障をきたしている場合は、治療を検討するタイミングとなります。症状の程度に応じて、まずは薬物療法で症状の緩和を目指したり、薬物療法で効果が得られない場合や症状が重い場合に手術を検討したりします。貧血が重度になる前に治療を開始することが望ましいです。 -
妊娠を希望する場合:
筋腫が不妊の原因になっていると考えられる場合(特に粘膜下筋腫や子宮内腔を圧迫する筋層内筋腫)、または妊娠中に合併症を起こすリスクが高いと考えられる場合(例えば、巨大筋腫や分娩の妨げになる位置にある筋腫)は、妊娠前に筋腫核出術が検討されることがあります。妊娠を希望するタイミングに合わせて治療計画を立てることが重要です。 -
閉経が近い場合:
閉経後はエストロゲンの分泌が低下するため、筋腫は自然に小さくなることが期待できます。そのため、閉経まであと数年という場合は、症状が軽ければ薬物療法などで症状をコントロールし、閉経を待つという選択肢がよく取られます。ただし、症状が非常に強い場合は、閉経を待たずに手術を行うこともあります。
このように、子宮筋腫の治療のタイミングは、患者さんそれぞれの状況によって異なります。「子宮筋腫は取るべきか」という問いに対する答えは、「症状や状況に応じて、最適な方法を医師と相談して決定すべき」ということになります。不安や疑問があれば、遠慮なく医師に相談し、ご自身の希望を伝えることが大切です。
子宮筋腫は、妊娠や不妊に影響を与えることがあります。影響の程度は、筋腫の大きさや数、そして何よりも発生部位によって異なります。
不妊の原因となる場合
子宮筋腫があるからといって、必ずしも不妊になるわけではありません。多くの筋腫は妊娠に影響を与えません。しかし、以下のような場合には、不妊の原因となることがあります。
- 子宮内腔の変形: 粘膜下筋腫や、子宮内腔を圧迫するような大きな筋層内筋腫は、子宮の内側の形を変形させることがあります。これにより、受精卵が子宮内膜に着床しにくくなったり、着床しても育ちにくくなったりして、不妊や流産の原因となることがあります。
- 卵管の圧迫: 子宮の近くにできた大きな筋腫が、卵子を運ぶ卵管を圧迫したり閉塞させたりして、卵子の移動を妨げることがあります。
- 子宮の収縮異常: 筋腫があることで子宮の正常な収縮が妨げられ、受精卵の輸送や着床に影響を与える可能性が指摘されています。
これらの理由から、不妊で悩んでいる女性に子宮筋腫が見つかった場合、筋腫核出術によって筋腫を取り除くことが、妊娠率の向上に繋がる可能性があります。特に粘膜下筋腫は、たとえ小さくても不妊や流産の原因となりやすいため、手術が検討されることが多いです。
妊娠中の子宮筋腫
妊娠中に子宮筋腫が見つかったり、妊娠前からあった筋腫が妊娠中に変化したりすることがあります。
- 筋腫の増大: 妊娠中は女性ホルモン(特にエストロゲン)の分泌が非常に高くなるため、筋腫が一時的に大きくなることがあります。しかし、全ての筋腫が大きくなるわけではなく、むしろ変化しないことの方が多いとも言われています。出産後には、ホルモンレベルが低下するため、多くの筋腫は妊娠前の大きさに戻るか、さらに小さくなります。
- 筋腫の変性痛: 妊娠中期頃に、急激に大きくなった筋腫の内部で血行障害などが起こり、「変性痛」と呼ばれる痛みを引き起こすことがあります。この痛みは安静や鎮痛剤で治まることが多いですが、入院が必要になる場合もあります。
- 流産・早産のリスク: 筋腫の種類や位置によっては、流産や早産のリスクを高める可能性が指摘されています(特に粘膜下筋腫など)。
-
分娩への影響:
- 筋腫が子宮の出口(子宮頸部)の近くにあったり、赤ちゃんが産道を通るのを物理的に妨げたりする位置にある場合は、帝王切開が必要になることがあります。
- 出産後、子宮の収縮が悪くなり、出血が多くなる(弛緩出血)リスクが高まることがあります。
妊娠中の筋腫は、原則として手術は行わず、安静や薬などで経過を観察します。妊娠中や分娩時の筋腫による影響は、筋腫の大きさや位置によって個人差が大きいです。妊娠前に筋腫があることが分かっている場合は、妊娠・出産について医師とよく相談しておくことが大切です。
子宮筋腫は良性腫瘍ですが、非常に稀に子宮の筋肉にできる悪性腫瘍である「子宮肉腫」であることがあります。あるいは、子宮筋腫だと思われていたものの中に、一部子宮肉腫が含まれているという場合もあります。子宮筋腫と子宮肉腫は、画像上似ていることがあり、診断が難しい場合があります。
子宮筋腫と子宮肉腫の見分け方
画像検査、特にMRI検査は、子宮筋腫と子宮肉腫を鑑別する上で非常に有用です。MRIでは、腫瘍の内部構造や血流パターンなどを詳しく調べることができ、子宮肉腫に特徴的な所見が見られることがあります。例えば、内部が均一ではなく不規則であったり、急速に造影剤を取り込んだりするようなパターンは、悪性の可能性を示唆することがあります。
しかし、画像検査だけで100%確実に鑑別することは困難です。最終的な確定診断は、手術で摘出した腫瘍組織を顕微鏡で調べる病理検査によって行われます。
診断が難しい場合、以下のような状況では子宮肉腫の可能性を考慮して、より慎重な経過観察や精密検査、あるいは手術が検討されることがあります。
- 閉経後に筋腫が大きくなる: 閉経後は通常、筋腫は小さくなる傾向があるため、閉経後に筋腫が大きくなる場合は、悪性の可能性が否定できません。
- 筋腫が急速に大きくなる: 短期間のうちに筋腫が著しく増大する場合も、子宮肉腫の可能性が疑われます。
- 画像検査で悪性を疑う所見がある: MRIなどで悪性を示唆するような特徴的な画像所見が見られる場合。
子宮筋腫が悪性(子宮肉腫)である確率は?
子宮筋腫が悪性の子宮肉腫である確率は、非常に稀です。一般的には、子宮筋腫と診断されて手術されたもののうち、実際に子宮肉腫であった割合は1000個に1個程度、あるいはそれ以下と言われています。ほとんどの子宮筋腫は良性であり、過度に心配する必要はありません。
ただし、この確率は、臨床的に子宮筋腫と診断され、手術によって摘出された検体の病理検査から得られたデータです。症状がなく、画像検査だけで経過観察されているものの中に、悪性のものがどのくらい含まれているかの正確なデータはありません。しかし、一般的に「筋腫」として見つかるものの大部分は良性と考えて良いでしょう。
悪性(子宮肉腫)の症状は?
子宮肉腫の症状は、子宮筋腫の症状と似ていることが多く、初期には区別が難しいことがあります。しかし、子宮肉腫は進行が早いのが特徴です。
一般的な症状としては、
- 急速な筋腫の増大: これが最も特徴的なサインの一つです。
- 不正出血: 月経時以外の出血が見られることがあります。
- 下腹部痛・骨盤痛: 痛みを伴うことがあります。
- お腹が張る、大きくなる: 腫瘍が大きくなるにつれてお腹の膨満感や増大を感じることがあります。
これらの症状は子宮筋腫でも見られる症状ですが、特に急速な増大や、閉経後に症状が出たり悪化したりする場合は注意が必要です。もし、子宮筋腫の経過観察中にこのような変化が見られた場合は、速やかに医療機関を受診し、精密検査を受けることが大切です。
子宮筋腫と診断された後、日常生活でどのような点に注意すれば良いか気になる方もいるでしょう。子宮筋腫は、良性腫瘍であり、多くの場合、特定の生活習慣が直接的な原因となるわけではありません。しかし、日々の生活習慣が症状に影響を与えたり、全身の健康状態に影響したりする可能性はあります。
子宮筋腫になったらやってはいけないことは?
「これをしたら子宮筋腫が悪化する」という明確な「やってはいけないこと」は、科学的に証明されているものは多くありません。しかし、一般的に推奨される健康的な生活習慣は、子宮筋腫の症状の緩和や、全身の健康維持に役立つと考えられます。
逆に、避けた方が良いと考えられることとしては、以下のような点が挙げられます。
- 過度なストレス: ストレスはホルモンバランスに影響を与える可能性があるため、心身の健康のためにストレスを溜め込まないようにすることが望ましいです。
- 体を冷やすこと: 体を冷やすと血行が悪くなり、月経痛が悪化する可能性があります。特に月経中は、お腹や腰周りを温かく保つことを心がけましょう。
- バランスの偏った食事: 極端な偏食や、高脂肪・高糖質の食事は、全身の健康状態に影響を与える可能性があります。バランスの取れた食事を心がけましょう。特定の食品が筋腫を大きくするという確固たる証拠はありませんが、大豆製品に含まれるイソフラボンなど、女性ホルモンに似た作用を持つ成分については議論がありますが、通常の食事で摂る量であれば問題ないと考えられています。
- 喫煙: 喫煙は血行を悪化させるだけでなく、様々な病気のリスクを高めます。禁煙は全身の健康にとって非常に重要です。
- 過度な飲酒: 過度なアルコール摂取も全身の健康に悪影響を及ぼす可能性があります。適量を心がけましょう。
これらは、子宮筋腫を「治す」ためのものではありませんが、症状を和らげたり、全体的な体調を整えたりする上で役立つ可能性があります。無理な制限をするのではなく、無理のない範囲で健康的な生活習慣を維持することが大切です。
子宮筋腫になりやすい性格・体質はある?
「子宮筋腫になりやすい性格」というような、性格と子宮筋腫の関連については、科学的な根拠はありません。ストレスとの関連が指摘されることがありますが、特定の性格が子宮筋腫を引き起こすというような明確な研究結果はありません。
子宮筋腫になりやすい「体質」については、いくつかの要因が関連している可能性が研究されています。
- 遺伝的要因: 母親や姉妹に子宮筋腫がある場合、自分も子宮筋腫になる確率が高くなるという報告があります。何らかの遺伝的な要因が関与している可能性が考えられます。
- 人種: 黒人女性は、白人女性やアジア人女性に比べて子宮筋腫の発生率が高いことが知られています。これも遺伝的な違いが影響していると考えられます。
- 早い初経: 初経を迎える年齢が早いほど、エストロゲンにさらされる期間が長くなるため、子宮筋腫のリスクが高まるという報告があります。
- 妊娠・出産回数: 妊娠・出産回数が少ない人や未産婦の人の方が、子宮筋腫になりやすい傾向があると言われています。妊娠・出産によって子宮の環境が変化することが影響していると考えられています。
- 肥満: 肥満、特に内臓脂肪の蓄積は、エストロゲンの生成を促進する可能性があるため、子宮筋腫のリスクを高めるという研究があります。
これらの要因は、子宮筋腫の発生リスクに関連する可能性が指摘されていますが、これらの体質だからといって必ず子宮筋腫になるわけではありません。また、これらの要因がない人でも子宮筋腫になることはあります。過度に気に病む必要はありませんが、ご自身の体質や家族歴について知っておくことは、子宮筋腫のリスクを把握する上で参考になるでしょう。
本記事は、子宮筋腫に関する信頼性の高い情報を提供するために、専門家による監修を受けています。
監修医師・医療機関情報
-
監修医師: [氏名] 医師
[所属医療機関名・役職] [医師の簡単な経歴や専門分野] 例:産婦人科専門医。〇〇大学医学部卒業後、〇〇病院にて研修。現在は〇〇クリニック院長として、女性のライフステージに合わせた包括的な診療を行っている。特に子宮筋腫や内視鏡手術を専門としている。 -
監修医療機関: [医療機関名]
[医療機関の住所]
[医療機関の電話番号]
[医療機関のウェブサイトURL]
例:〇〇クリニック
東京都〇〇区〇〇 〇-〇-〇
電話番号: 03-XXXX-XXXX
ウェブサイト: https://www.example-clinic.com
免責事項
本記事は、子宮筋腫に関する一般的な情報を提供することを目的としています。記事内の情報は、監修時点における医学的な知見に基づいておりますが、医療の進歩により情報は常に更新される可能性があります。
- 本記事の情報は、個々の診断や治療に関するアドバイスに代わるものではありません。ご自身の症状や状態に関してご心配がある場合は、必ず専門の医療機関を受診し、医師の診断と指導を受けてください。
記事内の情報に基づいてご自身で判断・治療を行った結果生じた損害について、当方および監修者は一切の責任を負いません。
【まとめ】子宮筋腫と正しく向き合うために
子宮筋腫は、多くの女性が経験する可能性のある良性疾患です。無症状で経過することも多いですが、筋腫ができる場所や大きさによっては、過多月経、貧血、月経痛、圧迫症状など、様々なつらい症状を引き起こすことがあります。
子宮筋腫が見つかっても、すぐに深刻な状況だと決めつけず、まずはご自身の症状や不安を医師に相談することが大切です。医師は、筋腫の大きさや数、発生部位、そして患者さんの年齢や妊娠希望の有無などを総合的に評価し、一人ひとりに合った最適な治療方針を提案してくれます。
治療法には、症状がない場合の経過観察、症状を和らげるための薬物療法、そして筋腫を根本的に取り除く手術(子宮温存の筋腫核出術と子宮全摘術)があります。手術方法も、身体への負担が少ない腹腔鏡下手術や子宮鏡下手術、より確実に行える開腹手術など、筋腫の状態に応じて様々な選択肢があります。
また、子宮筋腫は不妊の原因となる可能性があったり、妊娠中に影響を与えたりすることもあります。妊娠を希望する場合は、その旨を医師に伝え、治療計画を立てることが重要です。
子宮筋腫が悪性の子宮肉腫である可能性は非常に稀ですが、閉経後の増大や急速な増大が見られる場合は注意が必要です。定期的な検診を受けることで、早期に変化に気づくことができます。
子宮筋腫に関する正しい知識を持ち、ご自身の体の変化に気づくこと、そして不安があれば迷わず専門医に相談することが、子宮筋腫と上手に付き合っていくための第一歩となります。この記事が、子宮筋腫について悩んでいる方、知りたいと思っている方の一助となれば幸いです。
コメントを残す